獣人はイロハと睨み合ったままかれこれ30秒ほど静止し続けていた。その理由は明確だ、間合いに隙がない。斬りかかろうにも反撃されて死ぬ未来しか見えない。したがって、獣人は一歩もその場から動けずにいた。
「動かなければ攻撃はできませんわよ? 」
イロハは挑発する。だが、彼女自身、獣人が動けない理由を知っていた。イロハは一歩踏み出す。
「では、こちらから行かせてもらいますわ! 」
そう言った瞬間、イロハは獣人の目前にいた。大きく重たそうな大剣を軽々と振り下ろす。獣人は後ろにステップして避ける。振り下ろされた大剣は地面を激しく抉る、その威力は軽く大地が揺れるほどのものだった。軽く掠っただけでも四肢の損壊は免れないだろう。獣人は圧倒的な強さを肌をもってヒシヒシと感じた。
「ふふ、楽しいですわ! 」
今度はイロハは大剣を横向きに
「うっ」
かすり傷程度の傷だ。だが、傷口が深いようで空気が
「避けてばっかじゃ、つまらないですわ」
イロハは獣人に真っ直ぐ縦向きに大剣を振り落とした。獣人は剣でそれを受け止める。重い、とてつもなく攻撃が重たい。押しつぶされそうになり足が地面にめり込む。
「このままじゃ潰されちゃいますわよ」
獣人は剣を離して横に飛ぶ。大剣は地面に突き刺さる、それをイロハが抜こうとした瞬間を狙い顔へ向かって殴りかかる。しかし、イロハはいとも簡単に拳を受け止めた。
「ボクシングがお好みで? 」
イロハは蹴りを獣人の腹に入れた。獣人は20メートル近く吹き飛ぶ。頭を強く打ったため意識が飛びそうになったがなんとか持ちこたえる。イロハ、倒れ込む獣人にゆっくりと歩いて近づく。
「ごめんなさいね。
獣人は吐血する。おそらく、口の中が傷ついたのだろう、口いっぱいに鉄の味が広がる。イロハは剣を投げてよこした。
「さあ、続きをしましょう」
イロハは大剣を恐ろしい速さで振る、空気が切断される音が聞こえた。獣人はかろうじて避ける。そして、斬りかかった。イロハは優雅に攻撃をよける。避ける姿は蝶が空を舞うようで、とても軽やかだ。
「次は
攻撃が来る、ほぼ直角の振り下ろし、獣人は回避しようとする。その行動があとコンマ数秒早ければよかったかもしれない。大剣は獣人の皮膚を引き裂いた。剣先が獣人の肝臓があるところに触れる。もののたらずで鮮やかな赤色が獣人の腹から勢いよく吹き出した。
カズミは茂みの中で息を潜めていた。敵がいる、2人だ。装備から見て前回の襲撃してきた部隊と同じだろう。会話が聞こえる。
「獣人のほうはRAREが、俺たちはニイミカズミを見つけて殺す」
敵の目的はカズミを殺すことようだ。今は武器を持っていない、よって攻撃することは不可能だ。こうして隠れるほかない。
「俺は向こうを探す。お前はここを見張っておけ」
「イエッサー」
敵が1人離れていく。見たところ、敵はカズミがいることに気づいていない。隙を狙えば倒せる。ところがカズミは迷っていた。武器を奪うとなると人を殺すことになってしまう。しかし、カズミは前のことがフラッシュバックしてしまう。だが、この状況、殺さなけれジリ貧だ。やるしかない、カズミは息を整えて茂みから飛び出す。
「な! 」
敵に飛びかかって首を絞める。いくら訓練された敵といえども突如としたカズミの襲撃に対応できない。カズミは全力で手に力を入れる。殺す、殺すんだ、それしかない。カズミは数十秒間にわたって敵の首を絞めた。敵は泡を吹き意識を失った。カズミは急いで銃を奪う。するとゆっくりと銃口を敵の心臓あたりにに向ける、引き金を引いた。敵は一瞬ビクッと痙攣した後動かなくなった。
「う、うっ」
カズミは胃の中のものが逆流するのを感じた。必死に喉あたりまで上がって来たものを飲み込む。
「畜生! 」
そう声が聞こえる。敵が接近して来ていた、3人だ。銃をカズミに向けて撃ってくる。カズミはとっさに木の裏に隠れる。銃弾が耳元をかすめる。反撃しなければ、カズミは奪った銃を構えて木の裏から飛び出す。狙うは頭だ。
「ー! 」
カズミは声にならない声を叫びながら銃を撃つ。脳から分泌される覚醒物質はカズミの戦闘能力を最大限までに引き出す。カズミは正確に敵の頭を撃ち抜いた。残る敵は2人、どちらもカズミに照準をあわせ終わっている。何分の1秒後には鉛の球がカズミの体を貫くだろう。カズミは1秒にも満たない速度で体を捻って地面に伏せる。銃弾はカズミの右肩を貫いただけに終わった。カズミは即座に2人目の頭を撃ち抜く。
「あぁぁぁ! 」
痛みに襲われてカズミは絶叫する、痛い。だが敵はもう1人いる。銃の弾は切れた。カズミは銃を敵に投げつけると肉薄する。一か八かだ。カズミは敵を押し倒して馬乗りになる。顔を殴る、殴って殴って殴り続ける。
「……あ、ああ」
カズミは数十秒殴り続けた。敵は動かなくっても殴り続けていた。カズミの半径数メートル内には死体が4つ、すべて、カズミが殺した。カズミは涙を流す。
「う、うえぇぇえええ」
脳内物質による興奮がおさまったカズミの精神は限界を迎えた。またしても人を殺した。その現実がカズミを襲う。
「カズミくん……? 」
よく知っている声だ、カズミはゆっくりと振り向く……。そこにはユキノがいた…