「カズミくん……! 」
ユキノはカズミに近づいてくる。殺される、カズミは足を動かそうとするがうまく動かない。銃は……、取る時間はない。カズミは目をつぶる。
「良かったぁ、無事で……」
カズミはユキノに抱きしめられた。ユキノはとても嬉しそうだ、カズミは戸惑ってしまう。自分とユキノは敵同士のはずだ。
「もう大丈夫だから、帰ろう……カズミくん」
耳元でささやかれる。だが、どこか不気味でしかたない。
「なに言ってるんです、ユキノさん? 」
とにかくユキノにこちらに攻撃する意思がないのなら隙をついて逃げてしまおう。それが手っ取り早い。ユキノはカズミに口づけした。
「ん……。はあ、私のカズミくん。可愛い」
カズミは激しく動揺する。どういうことだ、カズミはユキノを払いのけた。
「どういうつもりだ、ユキノさん! 」
カズミは身構える。ユキノは激昂する、カズミに払いのけられたことが気に食わないらしい。体を震わせる、すると、コウモリのような羽が背中から生えてきた。カズミはその羽に見覚えがある。あの日あったサキュバスのそれにそっくりだ。カズミは目の前にいるユキノが自分が知るユキノと違うことに気づいた。
「どうして……、どうして受け入れてくれないの! 私はこんなにもカズミくんのことが好きなのに! 」
ユキノの頭に声が響く、サキュバスの声だ。
『犯してわからせればいい』
ユキノはサキュバスの言葉に応える。
「ええ、そうね。カズミくんをぐちゃぐちゃに犯す。そしたらわかってくれるよね? 」
カズミは恐怖した。ユキノは狂っている、今すぐ彼女から離れなけらばならない。
「ああ、逃げないでカズミくん。怖くないよ? 」
走ってカズミは逃げた。ユキノの頭にはサキュバスの声が響き続ける。
『捕まえて、いたぶってから犯そう、そしたら、私のいうことを聞いてくれる』
「わかってるわ、私のカズミくん……。あともう少し」
ユキノは羽ばたいて空に向かって飛ぶ。カズミはどこかに隠れたのだろう。カズミに聞こえるであろう大きな声を出す。
「カズミくん、逃げても無駄よ。どこにいるかわかっているわ」
ユキノは詠唱する、魔法を撃つ合図だ。
『
激しい赤い閃光が当たり一面にもたらされる。雷鳴のような音が連続して木々は薙ぎ倒されていく。半径50メートルにわたる広範囲魔法、不可避の一撃。
「ーッ! 」
カズミの体には電流が走った、意識が飛びそうになる。
「だから、言ったでしょ。逃げても無駄だって」
「……ううっ」
体が痺れてうまく動けない。このままでは捕まってしまう。ユキノはゆっくりと歩き、カズミに近づいていく。
「傷ついた姿も可愛いね、カズミくん♡ 」
立て、立つんだカズミは己を鼓舞する。痺れてまともに機能しない神経に無理やり伝達させてカズミは立ち上がる。そして、殴りかかった、捨て身の一撃だ。だが、あっさりと腕を掴まれる。
「そんなに私のことが嫌なんだ……」
ユキノは悲しそうな顔をする。だが、その顔の口角はゆっくりと上がる。
「もういいや、ここで犯してあげる」
カズミは無理やり押し倒されて覆い被せられた。両腕はユキノに片手で押さえ込まれて動かせない。
「そしたら、わかってくれるよね? 私の気持ち……」
もはや、どう足掻いても助かるすべはないよう見えた。しかし、カズミは諦めない。獣人は自分と約束したのだ、絶対に死なないと、カズミも諦めるわけにはいけない。カズミはユキノの喉元に噛みついた。まさに窮鼠、猫を噛むといったところだ。
「うっ! 」
ユキノはうめき声をあげる。人間の咬力は530から710ニュートン、喉を噛みちぎるには十分だ。カズミの口の中には血液の味が広がる、ユキノの血だ。
「離れろ! 」
カズミは襟元を掴まれてユキノに投げ飛ばされた。思わず声を漏らす。だが、これで拘束は外れた。思いつきの行動だったが目的は達成だ。
「仲間の仇だ! 」
カズミの後ろから叫び声が聞こえた。カズミは振り返る、そこには自分が殺したはずの敵が……、敵はハンドガンでカズミの右胸を撃ち抜いた。