カズミは撃たれた右胸をおさえる。弾薬は右肺を貫通している、その場に膝をついてカズミは倒れる。ここまでか……。遠のいていく意識の中でカズミは今までの自分の人生をかえりみる。
「俺、人を殺したんだ……」
ここに来るまで5人は殺した。その報いがこれだろう、今さら平和に生きようなんて高望みでしかない。仕方なかったと言えば言い訳となるだろう。しばらくすると周りの音が聞こえなくなる。肺から空気が抜けていく感覚も少しずつ無くなってきた。ああ、俺は、死ぬんだ。最後にわがままを言うなら獣人の顔が見たかった。でも、獣人は悲しんでしまうだろう。それは嫌だ。
「カズミくん! 」
獣人の声が聞こえる。……、無様に死ぬところを獣人に見せることになるんだ。彼女の記憶の中は俺が死ぬ姿がこびりつくだろうか。そんなの悲しい思いをさせるに決まっている。獣人にそんな思いさせるならさっきの魔法を受けて死ねばよかった。だが、今さら後悔するのにも遅いだろう。
「カズミくん! 」
最後になにか伝えないと……、もう意識が持たない。
カズミは声を振り絞って言った。
「俺と……一緒にいてくれてありがとう……」
カズミは意識を失った。なにかが切れてしまったように動かなくなった。
「カズミ……くん? 」
ユキノは声を漏らす。獣人がカズミを抱えてゆっくりと歩いている。カズミは胸が撃たれているようで意識がない。獣人がゆっくりとユキノの方を向く。
「ほっといてよ……」
獣人の声は疲れ切っていた。カズミを抱えてる腕は震えている。
「そんな……。そんなのイヤ! 」
ユキノは獣人に近づく。
「近づかないでよ! 」
イヤだ、そんな、カズミくんが、死ぬなんて絶対にイヤ!
「カズミくんをおろして! 」
「イヤだよ! もうほっといて! 」
違う、今さらカズミに危害を加えようなどという考えはユキノにはなかった。ユキノはいうことはただ一つ。
「私なら! カズミくんを助けられる! 」
ユキノは獣人の肩を掴む。獣人は泣きそうな顔でユキノを見つめた。
「……本当なの? 」
「本当に助けられる! だからカズミくんをおろして! 」
獣人は藁にもすがる思いでカズミを地面にそっと置いた。ユキノはカズミの脈を測る、まだかすかに動いている。これなら助けられる。ユキノは覚悟を決める。きっとカズミを助けたら自分は死ぬだろう。それでも、自分の愛する人が生きていてくれるならそれでいい。ユキノはナイフを手首に深く切りつける。痛い。血は勢いよく流れ出す。血まみれの手を強くカズミの傷口に押しつける。
『
それは使ってはならない。いや、普通に生物なら使えない。だが、サキュバスから受け取った魔力と自分の命を燃やせば一回だけは使える。細胞単位で生物を再生させる神の領域に踏み込んだ魔法だ。その生物が死ぬであろう運命を捻じ曲げてしまう。一度、死んだものに自らの命を犠牲にして命を吹き込む。サキュバスの記憶の中にあった、それは自分が最も愛する人にだけ使える魔法……。
カズミの傷口が塞がり始める。助けられる、ユキノは自分の心臓の鼓動が強くなるのを感じる。
ユキノの目の前にはカズミが立っていた。けど、これは現実じゃない。ユキノは直感した、おそらくここは人の精神の世界だ。そして、推測するにこの場所はカズミの世界。
「カズミくん! 」
幻想でもなんでもいい。今、ここで伝えるしかない。本当の自分の思いを。
「ユキノさん! 」
カズミは大きく目を見開いてユキノを見る。どうしてここにユキノがいるか驚いてるようだ。
「カズミくん、愛してる。幸せになってね」
ユキノは言い切ると満足したように事切れた、その顔は自分の使命をやり遂げたという達成感に満ちていた。
カズミは目を覚ます。自分は死んだはずだ、だが目の前には獣人がいる。そして、隣にはユキノが……。
「カズミくん! 」
獣人はカズミのことを強く抱きしめる。少し痛いくらいだ。カズミは自分の右胸を触る。傷口がない、塞がっている。
「あれ、どうして……」
自分は死んでこれは死んだ自分が見ている幻なのではないか。そう思ってしまう。
「あの子がカズミくんのことを助けてくれたの」
獣人がユキノのほうを指差す。あの時、意識を失った後ユキノに会った気がした。もしや、カズミはユキノを触る。息をしていない……、死んでいる。そのときカズミは何があったかを理解した。ユキノが身を挺して自分のことを助けたのだと。
「そんな……」
カズミは動かなくなったユキノの手を握る。そして、ポツリと呟いた。
「ありがとうございます、ユキノさん……」
カズミの目から自然と涙が滲み出た。獣人は静かにカズミのことを見つめる。その目は涙ぐんでいた。
「行きましょう」
カズミはなんとか気持ちに収拾をつけると獣人に行った。獣人はうなずく。そして、2人は歩いて行った、目的の場所へ……。
次回が最終話となります。