昨晩、夕焼けを見て獣人が使ってる家に帰ってきた。そのあとは特になにもされなかった。獣人が作った晩御飯を食べてシャワーを浴びて寝ただけだ。ただ、それだけ、なのになぜか落ち着けない。犯されなかった。それはきっといいことなのだろうがそのことがカズミの心のどこかに引っかかる。なにかそれを望んでいるようなそんな感じだ。
「おはよー」
獣人はカズミの閉じ込められている部屋に入ってくる。鎖をつけられて逃げられないようされてることにももう慣れた。昨日から獣人に対する恐怖がない。捕まってすぐはボロボロにアザができるまで殴られたり蹴られたり、首を絞められながら犯されたりしたが、それによる恐怖もなぜか薄れていた。獣人の声を聞くだけで怯えていたが今はどこか安心する。してしまう。
「朝ごはん食べようか」
机の上にはきつね色に焼かれたトースト、目玉焼きにベーコン、レタスかなにかのサラダが並べられてあった。
「座っておいて、コーヒーも淹れるね! 」
コーヒーの香ばしい匂いがキッチンから流れてくる。落ち着く匂いだ。
「はい、いただきます」
「……いただきます」
食パンをかじる。バターがたっぷり塗られているのか若干塩気が強く感じる。目玉焼きの黄身を箸で潰す、半熟だったのか黄身がトロリと流れ出る。ちぎった食パンを目玉焼きの黄身につけて食べる。黄身で塩気がやわらいでちょうどいい。目玉焼きは塩胡椒がかかっていて何もかけずに食べられる。食パンをかじりながら獣人のほうチラリと見る。獣人はコーヒーにたくさん砂糖を入れたあとミルクも混ぜていた。見られてるのに気づいたのか獣人は苦笑しながら言う。
「僕、苦いの苦手なんだ、アハハ」
笑った顔はとても可愛い。カズミもつられて笑ってしまう。
「俺も……苦いの苦手です」
「そうなの? お揃いだね! 」
獣人は嬉しそうに小さく笑った。カズミもコーヒーに少し砂糖を混ぜる。ブラックでも飲めるは飲めるのだが甘い方が好きなのだ。
「今日は学校に行こっか! 」
獣人がそういった。学校、誰もいない学校、少し惹かれる。
「わかった」
朝ごはんを食べ終わり、カズミは皿洗いをしたあと出かける準備をする。2日も連続で逃げれるチャンスが来るとは、けど、カズミに逃げる気は
獣人の家から出て少し歩くと高校があった。獣人ははしゃぎながら門を開ける。
「わーすごい、漫画で見たのとおんなじだー! 」
獣人は子どもみたいに無邪気に喜ぶ。獣人にとっては新鮮な体験なのだろう。
「ここが教室かー。教科書置きっぱなしされてるよー」
教科書や体育館シューズ、上履きが置かれたままの学校はかつて生徒がいたことを語らずとも伝えている。一体何人の生徒が通っていたのだろうか。
「カズミくーん、授業してよー」
獣人がカズミに無茶を振る。カズミはクスリと笑いながら。教科書ょを手に取り教壇に立つ。
「えーそれでは授業を始めます。今日は余弦定理を教えまーす」
カズミは高校の頃嫌いだった数学教師の真似をした。それを見て獣人は大笑いをした。どうやら好評らしい。二人で学校の隅々まで探索して笑い合った。獣人は図書室が気に入ったようだ。
「こんなにたくさんの本、一生かかっても読めないんじゃないかな」
そう言った獣人は寂しそうな顔をしていた。獣人にそんな顔をされるとカズミ少し不安になる。
「二人なら読み切れますよ」
ポツリとそう呟く。それを聞いたのか獣人は耳をピンとたててカズミに擦り寄る。
「そうだね、二人なら読み切れるかも……」
獣人はカズミの手をとる。
「本どれか持って帰ろっか?」
「そうですね」
獣人が手に取ったのは『君がいない世界で、僕は一人』という恋愛小説だった。昔、どこかで読んだそれは切ない話だったと覚えている。
学校を探索し終わり家に帰る。獣人は晩御飯を作っていた。カズミは考えてることがあった。朝から抱えてる違和感だ。カズミは違和感の正体が分からずにいた。晩御飯を食べたらシャワーを浴びて寝る。ただそれだけだ、それだけなのに……。
「じゃあ僕寝るから、おやすみ」
獣人がシャワーを浴び終わり寝ようとしている。獣人とカズミが寝室は別々だ。カズミはハッとする。きっと自分は獣人の近くにいたいのだと。カズミは寝室に入ろうとする獣人の服のスソを掴む。
「あ、あの……。一緒に寝てくれませんか? 」
獣人は驚いたのか口を開きっぱなしにしたあと笑顔になる。
「カズミくんが甘えてくれるなんて嬉しいな、もちろんいいよ」
カズミは顔をひどく赤くする。無意識のうちに自身が獣人のことを求めているのに気づいたからだ。カズミはすっと獣人にお姫様だっこされた。そのまま獣人の部屋に連れていかれる。
「甘えん坊だなぁ。カズミくんは」
ベッドの上にそっとおかれる。そして毛布がかけられる。カズミの横に獣人が入ってくる。すると獣人はカズミのことを手繰り寄せてから抱きしめる。
「う、うあ」
獣人のむせるくらい甘い匂いがカズミの肺に充満する。
「ふふっ、いい子だねカズミくん」
頭を撫でられる。耳元で囁かれる言葉が鼓膜を震わせる。気がどうにかなってしまいそうだ。
「幸せだね? 」
「……はい」
カズミは獣人を抱きしめ返しながらゆっくりと眠りに落ちていった。