ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん   作:何かを書きたい人

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第十話 内緒話/断章 悪い笑顔

 

 

「――クリア(さん)。一緒に旅に行かないか(行きませんか)?」

 

 

 出発前夜。自室で眠ろうと声をかけてくれたアレンとマリーの二人。彼らとの友人関係は明日限りで終わりかと覚悟していたのだが、そうはならなかったらしい。

 俺は一瞬の迷いもなく、その誘いに頷いてしまった。

 

 

 あれほど自分に対して、原作の流れを壊すべきではないと決めていたはずなのに。その為にアレンやマリーの仲に異物()がなるべく深入りしないようにしていたのに。

 ここ数年は怪しかったけど、結局は魔王討伐の旅に同行することになってしまった。

 

 

 だって、断れる雰囲気ではないだろう。なし崩し的とはいえ、大切な友達と言える程になった二人がの行く末を身近で見守り、助けることができるとなれば。

 一人の人間として。一人のファンとして。これほどまでに喜ばしいことはない。我ながらチョロいこと、この上ない。

 まあ、未だに直接的な戦闘能力は皆無だけど。

 

 

 またその件も含めて、王都からの使者にはあまり良い顔はされなかった。そりゃあ、いくら勇者や聖女の肩書きを背負うことになる人物だとしても、その旅に何の力もなさそうな小娘の同行を認めさせろという我儘だ。

 意味があるとは思えない上に、旅立つ前に渡される旅費は国民からの血税で支給されるので、役立たずが一人増えた分だけ無駄な出費が増える。

 そう思われているに違いない。

 

 

 現に俺も同行したいという話をした時には、代表の使者はなるべく言葉をオブラートに包んでいたが、無理だと言ってきた。それは、アレンやマリーから持ちかけても変わらない。

 このままごねたとしても使者が首を縦に振ることはないと判断して、俺は切り札を使った。

 今まで友人二人以外には、秘匿していない『再生能力』のことを使者側に伝えた。と言っても馬鹿正直に全部を話すことはなく、あくまでも治癒できる対象は自分のみと誤った情報を伝えることは忘れない。

 『再生能力』の全容を伝えれば、いつかのマリーの懸念通りに俺は権力者達の道具に身を落とすことになってしまう恐れがある。

 そんな最悪の事態は避けなければならない。だって、俺の役割は当初とは結構変わってしまったが、アレンやマリ

ーを幸せな未来にまで送り届けることなのだから。

 

 

 それはともかく。俺の『再生能力』のことを伝えると、先ほどとは打って変わって笑顔を浮かべ、俺の同行を許可してくれた。

 大方、アレンやマリー達の肉盾としての役割を期待されたのだろう。少々不快ではあるけど、元よりそのつもりなので問題はない。剣や魔法による攻撃手段がない俺には、『回復能力』によるサポートや肉盾に徹することしかできないだろうから。

 

 

 

 

 ここは王都からの使者達に貸し与えられた村長宅。彼らの身分、普段利用している住居に比べれば雲泥の差に等しいボロ屋。と言っても、この村で一番立派な建物であるので文句があっても最低一晩はここで寝泊まりをする必要はあるのだが。

 

 

 時間帯は既に夜。部外者には聞かせられない秘密のお話をするのには、最適な時間。村長宅の中でも最も防音性が高いであろう部屋――どこの部屋も大差はないが――で、使者達は集まっていた。

 その中の一人が話を切り出す。

 

 

「……本当にあの少女を連れていくつもりなのでしょうか? いくら今代の勇者や聖女の資格を持つ者達とはいえ、今の彼らはただの子供。友人と離れたくないから我儘を言っているだけでは?」

 

 

 話題は、女神様の神託によって見出された勇者と聖女の資格を持つ少年少女について――ではなく、彼らの友人である一人の少女のことであった。

 

 

「そのことに関しては、既に結論が出ているだろう。あの少女は勇者達の旅に同行させる。初級魔法すら碌に使えないようだが、自己を対象とした『回復能力』。魔王を倒す為の旅は過酷なものだ。その時には、勇者や聖女の壁くらいにはなるだろう。

 それに旅に同行できる程の力がなく、置いていくという選択肢はこちらとしては好都合だ。勇者や聖女はまだ子供ではあるが、その子供が何れは我々や並の騎士では太刀打ちできないような実力者(怪物)になる。それは確定事項だ。奴らがその気になれば、富や名声は思いのまま。それらや恩などという曖昧なものだけで、魔王討伐後もこちらの――国の言うことを聞く保証はない。最悪の場合、国王様に楯突く恐れもあるが

 だったら、未来の勇者や聖女(怪物)共を操る為の首輪の一つぐらいは用意しておくのは当然だろう? それが今回あの少女を連れていく理由だ」

 

 

 部下の質問に、代表の男は意地の悪い笑みを浮かべる。その後も腹の中が真っ黒な大人達は話を続けた。自分達が意のままに操ろうとしている者の一人が、たった一人の少女の為に死ぬ気で何度も地獄を繰り返してきた(・・・・・・・・・・・・・)文字通りの怪物であることを知らずに。

 

 

 自分達が、どれだけその怪物に恨まれている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のも知らずに。子供達には聞かせられないお話は夜遅くまで続けられた。

 

 

 

 

 ――■■を名乗る女性からの契約を断り、私は何とか元の日常に。貴女がいない生活に慣れようとしていた。

 アレンや両親達の助けもあり、人前では多少は明るく振る舞えようになった。とは言っても、一人の時は貴女がいない喪失感で胸がいっぱいになり、泣かない日はなかった。

 

 

 見せかけ、張りぼて上等。■■を相手に、あれだけの啖呵を切ったのだ。一歩ずつでも、貴女のいない事実や世界を受け止めて、天国にいる貴女にいっぱいのお土産話を持っていけるように生きていく。

 少しばかり後ろ向きかもしれないけど、それが今の私の生きる理由だった。

 

 

 だけど、この世界は思った以上に残酷であったらしい。いや、ただ私は能天気にも忘れていただけなのか。私から貴女を奪った世界が、優しい訳がないことは分かっていたはずなのに。

 

 

 ――その日の始まりはいつもと変わることはなかった。一つ違うことを挙げるならば、村にアレンがいないことだろうか。

 確か朝食の席で両親から聞いた話では、少し離れた街からモンスターの討伐依頼が急遽入り、日が昇る前にこの村を出発したらしい。

 

 

 こういうこと自体は、別に珍しい話ではない。魔王がいなくなったと言っても、世界に完全な平和が訪れた訳ではない。

 魔王の配下であった『十三大魔族』を全員を倒し切ることはできずに、その一部が下級の魔族やモンスターを率いて他国で暴れているということもあった。

 もちろん、そんな表立って活動していた魔族はアレンによって討伐されている。

 

 

 アレンは魔王を討伐した正真正銘の勇者である。その旅の道中でも、大勢の人達を救ってきた。そんな英雄が一仕事を終えただけで、世間が放っておくはずがない。

 先ほど挙げた魔族の一件のように、アレンには私達が住む王国を始めとした周辺国家から度々討伐依頼が来ている。

 

 

 本当であれば、聖女である私もアレンと同じく国からの依頼を受けるべき立場なのだが、今の私の精神状態ではまともに務まるはずがない。

 私が故郷の村で療養するのにも、勇者のアレンが多方面に頭を下げることで成り立っている。本当に、アレンには頭が上がらない。

 この前――■■からの魅力的(・・・)な誘いも、途中でやって来たアレンの言葉によって思いとどまることができた。本人は気づいていないけれど。

 

 

 初めて出会った頃に、森で野良犬に襲われそうになった時。私と貴女とアレンの三人で森に出かけて、夜遅く帰ってしまい、それぞれの両親だけではなく村の大人達全員から叱られそうになった時。旅の道中でモンスターとの戦いでは、サポート役や後衛職の貴女を守るようにいつも前衛で戦ってくれた。他には――。

 

 

 数え切れない程に、アレンには恩があった。貴女と同じくらいにアレンのことが大好きだ。もちろん、友愛として。私の初恋は貴女だから。

 

 

 それはともかく。アレンはお飾りの聖女でしかなかった私と違って、間違いなく本物の勇者。時々依頼で村の外に行っているとはいえ、私なんかに縛られてこの村で遊ばせていい人材ではない。

 私という枷がなければ、アレンはもっと多くの人が救えるだろう。私にとっての貴女みたいに、大事な人を失わずに済む人が増えるだろう。

 

 

『……今回の依頼が終わって戻ってきたら、アレンに話をしないといけませんね。これからのことについて』

 

 

 家の自室にて、ベッドに腰かけながらそう独りごちる。

 これからについて。アレンには告げるつもりだ。

 もう私は大丈夫だって。貴方の助けを待っている人はたくさんいるって。

 でも、ずっと会えないのは寂しいから偶にはこの村に帰ってきてほしい。もう少し感情に整理をつけることができたら、私も依頼に連れて行ってほしい。

 

 

 そんなことを考えて時間を潰していると、自宅の扉が叩かれる。仕事に出かけていた両親が帰ってきたのだろうか。それとも、他の村人達が訪ねてきたのだろうか。

 家にいるのは療養している私だけ。なら、私が出るしかない。

 そう結論を出して、私は玄関に向かう。

 

 

『はい。何かご用でしょう……貴方は!?』

『――久しぶりだな。聖女マリーよ』

 

 

 扉を開けた先には、私達の運命を根本的に変えた一因でもある人物――アレンや私に女神様の啓示を伝えにきた使者の一人であった。

 あの時と変わらない、どこか作ったような笑みを張り付けた使者に生理的な嫌悪を抱きつつも。それを何とか隠してこちらも笑顔で用件を尋ねようとした時。

 

 

『あの……私に何か――っ!?』

 

 

 使者の横から出てきた人物によって、いきなり何かの魔法が行使された。それと同時に、意識が朦朧とし始める。

 

 

(これ――は――睡眠魔法――)

 

 

 使われ魔法の種類は分かったものの、不意打ちかつ精神的に本調子に及ばない私ではそれに抵抗することもできず。

 意識が完全に闇に落ちる直前。崩れ落ちる私を見下ろす使者の顔には、作り物ではなく本心からの悪い笑顔が浮かべていた。




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