ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん   作:何かを書きたい人

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第十一話 断章 こうして怪物は生まれましたとさ

 

 

『……ここはどこでしょうか?』

 

 

 意識を取り戻した後、私がいたのは貴族が住んでいる屋敷にあるような一室にいた。いくら私が魔王討伐のパーティーにいた聖女であったとしても、ここ最近は療養の為に故郷の村で暮らしていた。

 だから、こんな見覚えのない場所にいるはずはないのだが。

 

 

 異変はそれだけに留まらない。服装はこれまた持ち物ではない高級そうなネグリジェに着替えさせられて、首には無骨な首輪が嵌められていた。

 

 

 ――『魔封じの枷』。魔法使いの犯罪者等を無力化する為に用いられる物。それが私の首で大きな存在感を主張している。

 それだけではなく、両手両足にも鉄製の枷で拘束されていた。

 

 

 意味が分からず、混乱していたけれど意識を失う前の記憶が蘇ると同時に、扉が開けられてある人物が入室してきた。

 わざわざ田舎の村に私を尋ねに来た元使者の男性であった。意図は不明だけど、どうやら彼の手によって私は無理やりここに連れて来られたらしい。

 

 

(……まさか、私の体が目的? いや、そんな単純な話じゃなさそうですね。今は情報を集めませんと)

 

 

 理由を尋ねるべく、私は唯一自由な口を開く。

 

 

『……何の為に、こんな真似を? バレたら、貴方もただではすまないと思いますが?』

『ははっ、随分と強気だな。聖女マリーよ。この私が何の準備もなしに、このようなことをするはずがないだろう。国王様や他の貴族、それに教会の連中の賛同も得ている』

 

 

 元使者の男性は自信満々にそう言う。

 

 

(……全部を鵜呑みにする訳じゃありませんが、言っていることが本当でしたら助けは期待できそうにないですね。しかし、何が目的でしょうか?)

 

 

 そんな私の心中を察したのか、元使者の男性は理由を語る。

 

 

『何故こんな太祖れたことをしたのか、教えてほしそうだな。くくっ、いいだろう。教えてやる。本当の目的は勇者だ。お前は勇者を釣る為の餌に過ぎん』

『……アレンにいったい何をするつもりでしょうか?』

『簡単なことだ。勇者の力は個人が持つには大き過ぎる。ほんの前までは、その力の矛先は魔王や魔族共に向けられていたが、魔王は既に倒れ魔族共の残党は数を減らしつつある。

 皆んな不安なんだよ。あれほどの暴力がいつ自分達に向けられることにな。だが、お前の身柄をこちらで確保しておけば、あの勇者も言いなりになるしかない』

『そんな……! アレンがそのようなことをするはずがありませんっ!』

 

 

 目の前の男が言う内容は、あまりにも私の理解を超えていた。反射的に否定する。

 アレンの人柄は私はよく知っている。勇者だからではなく、元から優しい――悪く言えばお人好しの彼がそんな凶行に走る訳がない。断言できる。

 

 

 しかし、男は私の反論を一笑に付す。

 

 

『もちろんお前と同じように思う人間もいるだろう。だが、人の心は時間とともに移ろいゆく。勇者が第二の魔王にならない保証はどこにもない』

『そんなのただの詭弁じゃないですか……!』

『何とでも言うがいい。これでも私は人類の未来を憂いて上での行動だ。本音を言えば、お前以外にも人質は確保できたらよかったんだがな。

 お前達と一緒に魔王討伐の旅に出ていた少女。死んでいなければ、安心感が段違いのはずだったが仕方ない。お前には、しっかりと勇者の手綱を握る為の役割を果たしてもらうぞ』

 

 

 恐ろしいことを平然と言う男に対して、いつの間にか同じ人間とは思う気持ちは失せていた。だが、こんなことで動揺している暇はない。

 ただでさえ貴女を失って傷付いているアレンに、これ以上の迷惑をかけない為にも、彼を縛る枷にならない為にも。私は今すぐにでも命を絶たないと。

 

 

 死ぬのは怖い上に、アレンにまだ感謝の言葉を伝え切れていないけれど。覚悟は■■の女性に契約を持ちかけられた時点で済んでいる。心残りは大いにあるが、問題はない。

 

 

(……天国に行けましたら、クリアさんに会えるでしょうか?)

 

 

 自決する勇気はないけれど、その僅かな希望が心の支えになっている。

 

 

 『魔封じの枷』のせいで魔法を使うことはできないが、舌を噛み切ることぐらいは可能である。直後に訪れるであろう痛みに備えようとする前に、男が悪意に満ちた言葉を吐く。

 

 

『――ああ、そうだ。人質の聖女殿に死なれると我々も困るからな。当たり前だが、舌を噛み切られても困りますからな』

『な、止めてくださ――んぐっ!?』

 

 

 男はそう言うと、背後に控えていたメイドに命令を下すと私の口に布で猿轡を噛ませてきた。これで口の自由すらも奪われて、私は言葉で抗議することや自決する術すら失ってしまった。

 

 

 そこからの日々は実に苦痛で、空虚なものであった。どことも分からない屋敷の一室で監禁されたまま、私には一切の自由を与えられることなく、ただアレン(勇者)をこの国が言いなりに扱う為の道具としてあることを求められた。

 

 

 初日に顔を合わせた以降、男の顔を見ることはなかったが、私に死なれると困るのか世話だけはメイド達によって充分にされていた。と言っても拘束が解かれることなく、その扱いはとても人間に対するものとは思えなかった。

 

 

 さらにそれだけではなく、毎日長時間に渡って私の耳元でメイド達が延々とあることを囁き続けるのだ。(人質)のせいで、アレン(勇者)がどのようなことをやらされているのかを。

 

 

 その内容が、魔族の残党狩りのようなものだけであれば良かった。しかしアレン(勇者)という兵器を用いて行うことが、それだけであるはずがない。

 

 

 王国の敵対国に投入されて、兵士や無辜の民の区別なく死体の山を築き上げた。現状の王国の在り方に疑念を抱き、囚われた私を解放しようとしていたとある村(・・・・)が、一人の生存者もなく滅ぼされた。他にも、他にも――。

 

 

『――全部、貴女のせいですよ。聖女様』

 

 

 今日も、メイドによる勇者の英雄譚の読み聞かせ(精神的拷問)が行われた。

 

 

 耳を塞ぎたかった。聞きたくなかった。泣いて許しを請いたかった。私が聞きたくないことを喋るメイド達をボコボコにして、口を閉じさせてやりたかった。

 

 

 だけど所詮鳥籠に囚われの身である私には何もできず、また一日一日と時間だけが無情に過ぎていった。

 

 

 そんな地獄のような日々が続く中、その日は違った。

 

 

『――今日はいいものが見れると思いますから、久しぶりに外にお出かけしましょうか。聖女様』

 

 

 体に施された戒めはそのままに、数人のメイド達によって周囲を固められて私は外に連れ出された。その先で私が見せつけられたのは、今まさに処刑されようとしているアレン(勇者)の姿であった。

 

 

(――え? 何で彼が――)

 

 

 私の様子からそんな疑問を読み取ったメイドの一人が、淡々としかし嗜虐的な笑みを浮かべながら教えてくれた。

 

 

『勇者様を使ってやりたいことは大体済まれたようでして、いつまでも保持をしておく理由がないということで処刑が決まったそうです。

 あ、聖女様は勇者様が死んでも別のお役目があるので、殺すことはありません。心配しないでください。お世話に関しては引き続き、私達が担当させていただきます』

 

 

 横にいるメイドのその言葉を耳に入らない。目を逸らそうとしても、別のメイドに背後から肩を掴まれて、視線だけはギロチン台に固定されたアレン(勇者)から離すことは許されなかった。

 

 

『――さあ、勇者様の処刑がもう間もなく行われますよ。しっかりと見届けてあげてください』

 

 

 メイドの言葉と同時に、ギロチンが落とされて。遠くのアレンと私の視線が交わる――ようなことはなく、彼の首は宙に舞い地面に転がった。

 そこでようやく、伽藍堂な瞳が私を射抜く。そのタイミングで、私の心が完全に折れてしまった。

 

 

(――あはは、私のせいでクリアさんだけじゃなくて、アレンや村の皆さんも殺されてしまいました)

 

 

 ――そこで■■を名乗った女性の存在を、彼女が持ちかけてきた契約の内容を思い出す。

 

 

(――確か『もしも全部をやり直して、最愛の人(クリアさん)を助けられるのなら。■■に魂を売り飛ばす覚悟はあるかどうか』でしたでしょうか?)

 

 

 脳裏には、かつて断った契約内容が蘇る。アレンも死んだ。全部を失った。■■の誘いを断る理由もなくなった。

叶うのであれば、もう一度貴女に会いたい。

 

 

 そんな思いが、願いが。人ならざる者(■■)に届いたのか。私を中心にして、世界のあらゆる光景が巻き戻っていく。世界が巻き戻っていく。

 

 

 ――そうして、その異変が収まった後に。私の目の前にいたのは、初めて出会った時の幼い貴女(クリアさん)の姿があった。

 私は■■との契約により、『世界の時間を巻き戻す』力を手に入れたのだ。

 

 

 ――ありがとうございます。■■様。今度こそは、クリアさんを救ってみせます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ではでは、聖女ちゃんによるハッピーエンドを目指す攻略。開始するわ。精々、■■()を楽しませてちょうだいね?』




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