ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん 作:何かを書きたい人
――『英雄の誓い』。それは、俺がモブキャラ転生を果たしたゲーム世界のタイトルである。世界観はよくある剣と魔法なヨーロッパ的なもの。
同じ村に住む主人公が勇者に、ヒロインが聖女の力に覚醒して、世界を巡り仲間を集め。人類を滅ぼそうとする魔王やその軍勢に立ち向かっていく。
そんな王道のストーリー。ちなみに、ゲームジャンルはオーソドックスなコマンド式RPGだった。まあ、現実となったこの世界では、「ステータス・オープン!」と口に出すだけで自分の能力値が確認できる――ということはない。当たり前だが。
「……だけど、これからどうするべきかな?」
広くも、極端に狭くもない木造の我が家の自室で、俺は今後の取るべき方針について考えていた。昨日、アレンやマリーの仲睦まじい姿を見たことで、改めてこの世界で果たすべき目的を強く意識していた。
ゲームにも存在していなかった誰も欠けることないハッピーエンド。それの実現が今生の俺の目的なのだが、達成には多くの困難が予想される。
ラスボスである魔王に、幹部的なポジションの『十三大魔族』。各地のダンジョンの奥に潜む凶悪なモンスター達。
そして敵は人外の存在だけではなく、同じ種族である人間にもいる。飽くなき支配欲を持ち、徒に戦乱の火を拡大させようとする愚王や、邪神を信奉する狂信者達の集団などなど。
何か一つのボタンをかけ間違えれば、世界を滅ぼしかねない爆弾が数え切れない程に眠っている。もちろん、その全てが一斉に出てくることはゲームでもなかった。
ラスボスの魔王やその部下の『十三大魔族』は基本的にどのルートでも戦うのだが、それ以外はストーリーの分岐次第では戦わないどころか、登場しないことすらざらにある。
まあ、そこは置いておくとして。これだけ危険な世界で、公式にもお出しされることのなかった幸せな結末の実現は中々に難題である。
それに今の俺は、ただのモブキャラ。何の力もなく、アレンやマリー達の前に立ちはだかる敵を陰ながら排除することは不可能に近い。
「うーん……」
悩む、悩む。
やはり転生特典なんてない俺には、所謂『原作知識』と呼ばれるものしか頼れるものはない。この武器を活かす方法はざっと二つ程思い浮かぶ。
一つ目は、何れ訪れるであろう魔王討伐の旅に同行して、アレン達の近くで彼らの手助けをする。これならば、何かイレギュラーな事態が発生してもすぐに対応できるので、一見良い方法に思える。
しかし、俺という異物が混ざることで余計に不測な事態を招くことになりかねない上に、元々の関係性が一番だと考えている。
それを自分から壊すなんて、とんでもない。
という訳で、俺が選ぶべき方法は二つ目。物凄く心は痛むが、このままアレン達には冷たい態度を取り続けて、自然に彼らと俺の間にある関係性の消滅を狙う。
そして、物語の開始――つまりはアレン達が村を旅立つのを見届けたら、俺も裏で暗躍し死亡フラグになり得る強敵を人知れず倒していく。
うん。我ながら完璧な計画だ。
だが、それを行うには俺の実力が足りない。というか、いくらゲームの世界と言っても、何の訓練も受けておらず、才能のない十歳の少女の肉体ではそもそもスタートラインにすら立てていない。
ならば物語が始まる前で今の俺がやるべきことは、RPGではお約束のレベル上げ――この世界にそんな概念はないが――である。
と意気込んでみたものの、やはり現状の肉体では序盤の雑魚敵ですら倒せない上に、両親や他の村人達の目を掻い潜って村の外に出るのは無理難題だ。
また行き詰まってしまう。原作知識の中に、手詰まりの状況を打開する為のヒントがないと探っていると。我が家の扉を叩く音と、小さな来訪者達の声が聞こえてきた。
「クリア! 遊びに来たぞ!」
「クリアさん! いらっしゃいますよね?」
もう聞かなくとも声の主達が、誰なのか分かる。アレンとマリーの二人だ。
「はあ……」
演技とはいえ、あれだけ突き放しているのに仲良くしてこようとするコミュ力は流石としか言いようがない。
しかし、アレンが積極的に関わってこようとするのは彼の性格上理解できるが、ゲームでのマリーを知る俺には拭えない違和感が纏わり続けている。
何度も感じる喉に魚の骨がひかかったような違和感の正体を探る為に。目の前に迫ってきている
俺は彼らと初めて会った時のことに、意識を飛ばすことにした。
これは現実逃避ではない。決して。
■
――前世の記憶を思い出したのは、ある日突然であった。その時の年齢は三歳頃で、記憶が戻った直後は一時的に脳の処理能力を超えて、三日三晩寝込んでしまった。
前世の記憶が定着した瞬間、自分がいつの間にか死んでしまったことや『英雄の誓い』に関連した知識以外のことを思い出せないことによる気持ち悪さ。
それまでの
完全に自らの殻に閉じこもろうとしていた俺だが、その時窓の外から聞こえてきた
――そうだ。ここは大好きであったゲームの世界なのだ。主人公達を幸せにすることができれば、
そう思い込むことができた。
それから表面上は立ち直ることができて、俺は物語が開始するまでのアレンとマリーを陰ながら堪能することを生き甲斐にしようと思っていたのだが。
その目論見は、俺の視線に気づいたマリーに崩されてしまった。
『……クリアさんですよね? 母から貴女のことは聞いていたんですけど、ずっと会って話してみたかったんです!』
転生者である俺という例外を考慮しないとすると、マリーは初対面の時からとても流暢に話していた。あの黒く淀んだ目で、
親しげに声をかけてきたのだ。
好きなゲームの登場人物に直接話しかけられて嬉しい気持ちがある一方で。知識との差異を持つ少女に若干の恐怖も抱く。
それに親しくするのは、あまり望ましいことではない。あるべき形から逸脱してしまう。
そんな俺の感情を知ってか、知らずか。マリーはお淑やかそうな外見や口調に似合わず、ぐいぐいと俺に接近してくる。
『少し前に寝込んでいたと聞きましたけど、もう大丈夫ですか? もしも良かったら、私が看病してあげますけど――って、痛っ!?』
『……何やってんだよ。らしくないな、マリー。いきなり、そんな積極的に来られてもあっちも困るだろうよ。俺はアレン。こっちはマリーだ。
同じ村にいるけど、会うのは今日が初めてだな。よろしくな』
瞳孔を怖いぐらいに見開きながら近づくマリーを諌めたのは、一人の少年――アレンであった。彼は自己紹介をしつつ、呆ける俺に向かって手を差し伸ばしてきた。
ゲームの主人公、勇者の肩書きを背負うのに相応しいコミュ力を見せるアレン。
あまりの眩しさに、溶けてしまいそうになる。彼らと直接関わらずに、陰ながら見守っていこうという決意すら揺らぎそうになる。
異様な雰囲気を纏っていたマリーも、アレンの前では俺の記憶通りの彼女であった。いや、微妙に違うような気はしたが、その程度些細な問題だろう。
――あの時。俺はアレンの手を取ったっけ?
勢いに負けて手を握ったような気もするし、目的の為に手を取らずに冷たく突き放したかもしれない。
たった数年前の出来事で、
どちらにせよ、この出来事を切っ掛けに俺とアレン達の知り合い以上友人未満(?)な関係が現在に渡るまで続くことなったのだ。
■
「――さん! クリアさん!」
「っ!? ま、マリー!? ……あの、どうして私の部屋にいるの?」
「何度も声をかけてもクリアさんが出てきませんので、クリアさんのお母様に上がらせてもらいました」
「一応、俺もいるぞ。クリア」
過去に飛ばしていた意識は、あいも変わらず黒く淀んでいながらも親愛の笑顔を向けてくる少女――マリーの声によって現実へと引き戻された。
というか、いくら美少女とはいえハイライトのない目が至近距離にあるとビビる。情けない悲鳴を上げなかっただけ、褒めてほしいぐらいだ。
あ、ごめん。マリーのインパクトが強くて、アレンに気づかなかった。いや、謝ってどうするんだ。何れ完全に決別の日が来るのに。
「……変わらないよね。アレンとマリーは」
「ん? 何か言いました?」
「いいえ、別に何も」
俺が小声で呟いた言葉に、近くにいたマリーがこれまた可愛らしく首を傾ける。まあ、例に漏れず何故か泥々と粘っこい視線を向けられて、こちらは若干の鳥肌ものだが。
多少の役得だと思って、我慢するとしよう。憶測だが、彼女視点では初めての同年代の同性に少々入れ込み過ぎているだけだろう。
それに放置しておけば、勝手にアレンとくっつくはずだから。
その約束された未来を守る為にも、今日も彼らにはお帰り願おう。ないとは思うけれど俺という不純物が、公式カプを破壊する可能性を排除する為にも。