ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん   作:何かを書きたい人

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第三話 アレンから見た二人の少女/断章 救いようがない一回目①

 

 

 俺の名前はアレン。どこにでもいる農村で生まれ育った子供である。年齢は今年で十歳になるが、そこまで規模の大きくない村。俺と同年代の子供は、たったの二人しかいなかった。

 しかもその二人も少女のようで、思いっ切り遊べるような仲になれるとは微塵も考えていなかった。

 

 

 とはいえ、少ない同年代。母親からの圧が強い笑顔に押されて、その内の一人に会うことになった。今から数年前の出来事であった。

 

 

『……私の名前はマリーです。えーと、よろしくお願いします?』

『何で、疑問形? まあ、いいか。俺の名前はアレン。よろしくな』

『は、はい』

 

 

 俺が初めて出会った少女は、綺麗な金髪の持ち主だった。内気な性格なのか、彼女の母親の影に隠れながら自己紹介が行われた。

 彼女の()()()()()()の瞳が、俺を見つめてくる。そこには、俺に対する若干の興味と怯えが感じられた。

 

 

 仲良くできる気がしない。異性であるとか、性格の不一致だとか。理由は後付けであるが、直感的にそう思ってしまった。

 

 

 初めて顔を合わせて以降、碌に出会うこともなく。それまで通り、一人で村の外にある森に遊びに行った所。

 どこかで聞いたことのある少女の悲鳴が響く。慌てて声の方向に駆けつけると、そこには野犬に襲われそうになっているマリーがいた。

 

 

『グウゥ……!』

『い、嫌だよ……。誰か、助けて』

 

 

 野犬は今にもマリーに飛びかかりそうであり、大人達を呼びに行っている時間はない。

 

 

『ああ、もう!』

 

 

 片手で頭を掻きむしるが、すぐに俺の体は飛び出していた。突然の乱入者の出現に、マリーは驚いた表情を浮かべている。野犬も吃驚してしまい、一目散に逃げていった。

 危機は去ったのだ。

 

 

『あ、アレン君? どうして、ここに!?』

『お前こそ、一体何で――』

 

 

 そう言いかけた俺の言葉が、マリーの右手にある一輪の花に気づいたことで止まった。彼女は気不味いのか沈黙を貫くが、大体の理由は予想がついた。

 大方、家族や誰かに渡す為に一人で森に来たのだろう。危機感のない奴だ。

 

 

『なあ、俺が偶然通りかかったから良かったものの、後の一歩の所で死んでたんたぞ』

 

 

 無意識の内に、説教紛いの言葉が口から出ていた。言い方がきつかったのか、緊張が緩んだのか。マリーは泣き出してしまった。

 

 

『う、うえーん!』

『ど、どうしたんだ!? どこか傷でもあるのかっ!?』

 

 

 しかし、同年代や異性との交友関係の少なさが仇となり、当時の俺にはマリーが泣いた原因が分からず、オロオロとすることしかできなかった。

 

 

 その後泣きじゃくるマリーの手を引いて帰ったり、俺の両親に勘違いをされて拳骨を食らったり。散々な目に合ってしまった。

 だが、このことを切っ掛けにマリーと友達となっており、今では一番の親友と豪語できる程に彼女の存在は大きくなっていた。

 気恥ずかしくて、直接言うことはないが。

 

 

 いや、俺は一つの嘘を吐いた。マリーの他にも、俺には大切な友人がいる。それは、もう一人の少女――クリアのことだ。

 

 

 マリーとは正反対のような髪色の銀髪は神秘的に感じられ、初めて会った時に思わず見惚れてしまった。クリア本人には気づかれなかったが、隣にいたマリーにはバレていて、クリアと別れてから何故か足を強く踏まれて。

 情けない声を出してしまった苦い記憶がある。その理由が分からず、後でマリーに直接尋ねても知らんぷりで、両親に聞いてみても笑って誤魔化すだけ。

 

 

 このことに関しては、いつの間にか触れてはならない話題の一つになっていた。

 

 

 話は逸れたが、クリアについて。彼女は彼女で癖のある人物だった。マリーと仲良くなった後、これまた両親の紹介で会うことになったのだが、まるで迷子のような目をしていた。

 ほっとけなく思い、名前を言いながら俺は手を差し出した。

 

 

 この日を境にクリアとも友達になった。少なくとも、俺やマリーの視点に限った話だが。

 

 

 毎日こちらから話しかけても、クリアは冷たい反応で返してくる。普段から関わってほしくないオーラを纏っているが、マリーに言わせると照れ隠しらしい。

 確かにクリアの発言や動きを注意深く見てみると、どことなく無理に俺達を突き放そうとしているようにも見えた。

 

 

 と言っても、数年が経過した今も。クリアの態度は相変わらず冷たいが、距離感は徐々に近づいている手応えはある。

 いつかはクリアも交えて、冒険にも行ってみたいものだ。

 

 

 ――だけど、クリアと会う前後ぐらいから。マリーの様子が少し変わったように感じるのは、俺の気のせいだろうか?

 彼女の綺麗な翡翠色の瞳が、黒く染まっているように感じるのは俺の勘違いだろうか?

 

 

 

 

『初めまして。私の名前はクリアよ。よろしくね!』

 

 

 そう初めて声をかけてくれた貴女の声を覚えている。

 

 

『ねえねえ、マリー。アレンとはどこまで進んだの? ……えー、まだキスもしてないの? もうちょっと、積極的に行きなさいな。

 ……もしかして、他に好きな人でもいるの? いや、冗談冗談。え、どうして顔が赤いの? マリー』

 

 

 友人として交わした貴女の声を覚えている。

 

 

『……確かあのモンスターの弱点は――』

 

 

 どんな強敵と相対しても、冷静に状況分析をして弱点を暴き出して、それを告げる貴女の声を覚えている。

 

 

『魔王は何とか倒したけど、最高にくそったれな置き土産を残してくれたわね……!』

 

 

 世界の平和を乱そうとする元凶――魔王を倒して、一息吐こうとした瞬間に発した、鬼気迫った貴女の声を覚えている。

 

 

『うーん。これしか方法がないみたい。凄く嫌だけど、元々そのつもりだったしね』

『……クリア。本当に他の方法はないのか? もしもないのなら、俺が代わりに――』

『はい、ストップ。笑えない冗談はよしなさい、アレン。というか、そもそもあんたじゃ、アレ(・・)は処理できない。私がやるわよ。

 あんたはマリーのことを守ってやりなさい。今も、これからもずっとね。頼んだわよ』

『……ああ、分かった』

 

 

 魔王が自身の死をトリガーに発動する魔法。それは、この世界を一撃で滅ぼす『何か』を空の彼方より呼び寄せる魔法。

 その『何か』に対処する為の相談をしていたアレンや貴女の声を覚えている。

 

 

 思い出したくない一場面が再生される。魔王との戦いで限界を超えて回復魔法や補助魔法を行使したせいで、魔力不足に陥り一時的な行動不能状態になっていた私。役立たずな私。

 

 

 そんな私のことを、アレンは優しく抱きかかえる。いくら私が女性とはいえ、あまりにも簡単に私を持ち上げる彼の力強さに対して。場違いにも、時間の流れの早さや幼馴染みの成長ぶりを感じていた。

 眼前の現実から、目を背ける為に。

 

 

 もう分かっているはずなのに、私はアレンに尋ねる。

 

 

『ねえ、アレン。クリアさんは一緒に逃げないのですか?』

『……すまない、マリー。俺にもっと力があれば……』

『そんなことは聞いていないんです! クリアさんは――っ!?』

 

 

 私の質問にアレンは見当違いな返答する。それに苛立ちをぶつけようとした瞬間。アレンの手刀が私の首元に叩き込まれる。

 意識が闇に染まろうするまでの間に。黒色のローブを着た貴女はゆっくりと振り返り、笑顔を向けてくる。まるで、これが最後だと言わんばかりに。

 

 

『――――』

 

 

 貴女の口が、ぱくぱくと動いているのを見た。しかし距離が遠かったせいか、私の意識が落ちようとしていたせいか。その言葉を聞き届けることはできなかった。

 

 

 嫌だ。行かないでほしい。いつも助けてくれた貴女がいないと、私は――。

 

 

 それを言葉にすることはできず、私の伸ばしかけた右手は何も掴むことはなく。完全に私は意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。意識を取り戻した私の傍に、大切な貴女の姿はなかった。

 

 

「ああああああああああああああああ!?」

 

 

 誰もいない部屋に、自分の絶叫だけが虚しく響く。

 

 

 ――思い出したくもない、一回目(・・・)の光景。だけど、私にとって。これは地獄の入り口に過ぎなかった。




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