ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん   作:何かを書きたい人

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※『NTR要素微あり』のタグを追加しました。苦手な方はご注意ください。


第四話 野生の■■■■が現れた!/断章 救いがない一回目②

 

 

 今日も毎日の恒例となっているアレンやマリーの押しかけを撒く。しかし、あの二人も飽きないものだ。彼らの人の良さに、こっちの良心が音を上げてしまいそうである。

 

 

 いや、一つ嘘を吐いた。マリーに関しては、相変わらず怖さの方が勝ってしまう。俺達のメインヒロインであったお淑やかなマリーは一体どこへ……?

 まあ、完全な一ファンの視点で見れば、ヒロインの闇堕ちみたいでアリよりのアリ。と言ってしまう自分の性癖も度し難い。

 

 

 早く、俺という不純物のないアレン✕マリーを拝みたいものである。

 

 

 と、個人的な欲望は横に置いておくとして。物語の開始は、アレン達が十五歳になった時に始まる。つまり現在の俺達の年齢が十歳であるので、遅くとも五年後には全てが始まるのだ。

 

 

 俺やマリーの件があるので、何もかもが俺の知識通りに動くとは限らないので、あくまでも参考程度に留めるとしよう。

 それでも、数年間の猶予はある。それを利用して、自分の実力をつけることが目下最優先課題だ。

 

 

 けれど、何から手をつけたらいいのか。そんなことを考えながら、俺は一人で森の中を歩いていた。本当であれば、自宅で色々と考えたいのだがマリー達の追撃を恐れての苦肉の対処法。

 あれだけ突き放した態度をとっているのに、彼らの対応が全く変わらないことに喜んでいいのか、努力が実らないことに嘆けばいいのか。

 

 

「まあ、せっかく確保できた自由時間だし。ゆっくりと考えるとしますか!」

 

 

 気持ちを切り替える為に、大きく独り言を叫ぶ。それに反応するものはなし。ただ風に揺られて、葉が擦れる音が聞こえるだけ。

 現代人が徐々に忘れつつあった、人の手が入らない自然のあるがままの姿。

 

 

 それに最近擦り減っていた精神が癒されているのを実感し、より日当たりの良い所を探し歩こうと思った時。

 がさり、と。背後にある草木が音を立てた。

 

 

(……あれ、もしかしてヤバいパターン?)

 

 

 冷や汗が頬を伝う。正直に言って、何がいるかを確認したくない。野犬や肉食動物の類であったら、その時点で俺の第二の人生はジ・エンド。

 そうならないことを祈りつつ、俺はゆっくりと振り返る前に。声をかけられた。

 

 

「――あらあら。可愛らしいお嬢さん。こんな場所に一人で何をしているのかしら?」

 

 

 森に似つかわしくない女性の声がした。恐る恐る振り返ると、そこには大きくゆったりとした黒色のローブに身を包む女性が、不気味に思えるぐらいな笑顔を浮かべていた。

 

 

 最悪の想像が裏切られたことで、安堵の息を吐く――気にはならなかった。この女性の正体が分からないからだ。俺が暮らす村に、彼女のような怪しさMAXな人物を見た記憶がない。

 通りすがりの旅人――服装から冒険者の類だったりするだろうか。それか、ゲームの登場人物の誰かか。

 いや、俺が覚えている限りは該当する人物はいない。本当に何者だろう?

 

 

 無意識の内に体が強張る。目の前の女性に対して、気を許してはならない。本能がそう警鐘を鳴らす。

 

 

 そんな俺の警戒を知ってか知らずか。女性は笑顔をそのままに、口を開く。

 

 

「怖がらなくてもいいのよ。私はお嬢さんの悩み事を解決する為に現れたようなものだから」

「……それはどういう意味でしょうか?」

 

 

 女性の発言の意図が分からずに、聞き返す。

 

 

「あら、本当に分からないの? お嬢さんは強く成りたいんでしょう? それとも、私の勘違いかしら。直接話すのは初めてだけど、偶にお嬢さんのことは見てきたつもりよ」

「……? そうだったとして、貴女に何か関係ありますか? 両親からも、知らない人とあまり関わるようには言われていませんので。この辺りで失礼します」

 

 

 相変わらず訳の分からないことを喋る女性をあまり刺激しないように、なるべくこの場から立ち去ろうとし、彼女の横を通り過ぎようとした。

 

 

 しかし、それは叶わず。女性の近くを横切ろうとした時に、俺は右手を掴まれてしまう。

 

 

「……あの、離してもらえませんか? 大声で叫んでもいいんですよ。こっちは」

「つれないことを言わないで。お姉さんと、もっとお話しましょう? ……でも、無駄に大声を出されても面倒ね」

 

 

 そう言うと、俺の手を引いてぐっと女性は顔を近づけた。美人と言っても過言ではない女性の顔が目と鼻の先にある。俺が少しでもバランスを崩してしまえば、それこそ事故(・・)が起きてしまいかねないぐらいには。

 

 

 マリーのような幼い少女とは違う、大人として熟成された前世の男であった部分を刺激する甘ったるい香り。

 それが鼻腔から脳髄を麻痺させてくる。

 

 

 ――頭がくらくらしてきた。このまま自分の全てをこの女性に身を任してしまいたい衝動に駆られる。

 

 

「うふふ。良い子、良い子。ここで会ったのも何かの縁でしょうから、お姉さんご褒美をあげちゃう」

 

 

 ちゅ。そんな水っぽい音が鼓膜をくすぐると同時に、俺の唇に温かく柔らかい感触がした。体中に電気が走る。

 器に元々入っていた『物』を押しのけて、『異物』が注がれるような感覚が襲ってくる。

 

 

 女性が顔を離すと、彼女と俺の間に透明な細い橋がかかり、それがすぐに途切れる。女性が唇を舌で舐める仕草すら艶めかしく感じてしまう。足腰から力が抜けて、女性の豊満な肢体にもたれかかってしまう。

 

 

今までの(・・・・)お嬢さんとは違って、イカした『加護』を預けてあげたわ。それがあれば、今回こそはあの子(・・・)の望む未来に――」

 

 

 女性の言葉を最後まで聞き届ける前に、俺の意識は暗転してしまった。

 

 

 

 

「――あらら。ちょっと刺激が強すぎたみたい。でも、申し訳ないわ。無断でこの子の初めてを奪っちゃって。

 だけど、このことを知ったら、あの子(・・・)はどんな顔をするのかしら? うふふ。想像するだけで興奮しちゃうわ。流石に同じ展開ばっかりじゃ、飽きが来ちゃうからね」

 

 

 

 

 ――魔王は倒されて、世界は平和になってしまいました。めでたし、めでたし。

 

 

 ぱちぱち。

 

 

 これが演劇であれば、拍手喝采が聞こえてきそうな程に王道な幕引きであった。

 

 

 ぱちぱち。

 

 

 貴女が死んだ結末を讃える拍手の音(本来聞こえないはずの幻聴)が、貴女を失って摩耗している私の精神をより追い詰めていく。

 

 

 ぱちぱち。

 

 

 聞きたくない、聞きたくないっ!? うるさい、黙れ黙れっ!?

 

 

 両手で耳を塞ぎ、一切の音が入ってこないように遮断する。それでも、そんな私の抵抗を嘲笑うかのように幻聴は聞こえ続けた。

 

 

 ――魔王が倒されてから、既に数ヶ月の時が経過していた。その間のことは、よく覚えていない。覚える気力すら湧かない。だって、貴女はもうこの世界のどこにもいないのだから。

 

 

 魔王討伐という当初の目的が達成された後。何やかんやがあり、生き残ってしまった私とアレンは故郷の村に戻ってきていた。私の療養の為らしい。

 偉い人から難しそうな話がいっぱい来ていたが、アレンは私の精神状態を考慮して。それら全てを後回し、ないし断ってくれた。

 本当に頼りになる勇者様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……なあ、マリー。部屋の前に、昼飯置いておくぞ。もう何日も何も食べてないだろ。いい加減に、少しでもいいから食べたら――』

『――うるさい、黙れ黙れっ!? 私に話しかけないでくださいっ! 何が勇者ですかっ!? クリアさん一人も助けられない役立たずは!? 苛々するだけです! 早く失せてくださいっ!』

『……すまなかった。食べるのは、気が向いたらでいい』

 

 

 そう言い残して、アレンは部屋の前から去っていった。後に残ったのは、耳が痛くなる程の静寂(幻聴)だけ。

 

 

『ごめんなさい』

 

 

 時間が少し経ってから、私は謝罪の言葉を口にする。それは誰に対してか。もういない貴女の為か。それとも、アレンの為だろうか。

 

 

『ごめんなさい』

 

 

 よく分からないけれど、今の私はアレンに謝っている。そんな気がする。多分。

 

 

 確かにアレンは将来の夢が冒険者で、私達と一緒に旅がしたいと言っていた。皆んなにずっと語られる英雄譚の主人公のようになってみたい。そのような子供らしい夢を話してくれたこともある。

 

 

 そんなアレンにとって、勇者の肩書きを押しつけられた魔王討伐の旅は本当に望んだものであったと言えるだろうか。

 いや、そんな訳がない。

 

 

 もっとキラキラした、夢や希望に満ち溢れた旅路やその終わりを、アレンは思い描いていたはず。それは私や貴女も例外ではない。

 だけど、貴女は死んでしまった。もちろん私は傷ついた。物凄く。

 

 

 だが、それはアレンも同じなのに。それでも勇者という肩書きに嘘を吐かないように、気丈に振る舞い。私を支えようとしてくれる彼に向かって、あんな筋違いな罵詈雑言を浴びせるなんて。

 

 

『……本当の役立たずはどっちですか!』

 

 

 貴女とアレンが、魔王の置き土産である魔法に対処しようとしていた時。私は何をしていた。ただ無意味に、床で突っ伏していただけではないか。

 そんな私に、アレンに――他人を責める権利なんて始めから存在しない。

 

 

『もう……嫌だよぉ……助けてよ。クリアさん』

 

 

 私の慟哭は誰にも届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ねえねえ、お嬢さん。よかったら、相談に乗ってあげるわよ』

 

 

 ――私の助けを求める声は、一人の『■■』に届いてしまった。

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