ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん   作:何かを書きたい人

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第六話 断章 ■■との取引/青褪めた馬の王子様

 

 

『――ねえねえ、お嬢さん。よかったら、相談に乗ってあげるわよ』

 

 

 私が故郷の家にある自室にて、引きこもっていた時。女性の声がした。

 

 

『え?』

『はーい。こんにちは。何かお困りのようだし、お姉さんに何でも話してごらんなさい』

 

 

 えっへん、と聞こえてきそう程に自信満々に話す女性。いや、そもそも誰だろう。この人は。私は見覚えがない。家族でもないし、村の人だろうか。

 私達が魔王討伐の為に、村を出発して数年。その間に全く帰っていないことはないが、他所から移住してきた人がいてもおかしいことではない。

 それだけ、各地に刻まれた魔王による爪痕は激しいものだった。

 

 

 でもだからと言って、目の前の女性が私の自室にいることの理由にはならず。自分で言うのもなんだが、今の私は到底人と話せる精神状態になく、両親やアレンが無断で人を通すようなことをするはずもない。

 

 

 ――つまりこの女性は誰の許可もなく、勇者であるアレンにも気づかれずに私の前に姿を現したということになる。

 

 

 ボロボロの精神状態ではあるが、旅の中で培った戦闘用の思考に切り替えて、女性に向かって警戒の視線を送る。それを向けられても、女性の態度はのほほんとしたものである。

 

 

 改めて、暫定不法侵入者の女性の全体像を見る。髪の色はこの辺りでは珍しい黒髪に、瞳の色も同色。容姿の方も非常に整っていて、同性の私から見ても美人と思う程。

 ただその容姿のせいで、正確な年齢は外見だけでは判別できそうにない。

 

 

『あらあら。そんなに熱い視線を送られても、困っちゃうわ』

『……いい加減に巫山戯るのはよしてください。私の前に現れた目的は? 復讐ですか?』

 

 

 女性に対して、そう問いかける。確かに私達は魔王を倒しはしたけれど、犠牲者がゼロだった訳ではない。それを恨んで、直接的な戦闘能力が一番低い私をターゲットに選んだ。

 一番高い可能性を鎌をかけるつもりで質問をし、女性の反応に注視する。目的を探る為に、また隙を突いて家にいるだろうアレンにこのことを伝える為に。

 

 

 そんな私の思惑を見抜いているかのように、女性はより一層笑みを深める。

 

 

『あら。本当に勇者君を呼ぶつもりかしら? 私は別に構わないけど』

『……!』

 

 

 否、私の考えは筒抜けらしい。そうなると不味い。女性は勇者であるアレンの存在を脅威と思っていない。そういうことになってしまう。

 

 

 女性の正体はさっぱり分からないが、それが判明する前に殺されてしまうのだろうか。

 

 

(……いや、それでもいいでしょうか。魔王は倒しましたし、もうクリアさんはどこにもいません。この世界に未練はないですしね)

 

 

 体から力を抜く。抵抗する意味や気力もなくなってしまった。私がこれからどうなるかは不明だけど、両親や村の人達のことはアレンが何とかしてくれるはず。

 相手の強さはアレンより上かもしれないが、旅の途中ではそんな戦いばっかりだった。だから、私がいなくても大丈夫。

 

 

 諦めた私の様子を見て、私の方に一歩ずつゆっくりと近づいてきながら口を開く。

 

 

『大丈夫大丈夫。安心して、お嬢さん。別に貴女を殺しに来た訳じゃないの。むしろ、その逆。貴女を助けに来たのよ。

 最初に言ったでしょう? 困っていることがあったのなら、相談に乗ってあげるって』

『私は――』

 

 

 やはり、私の精神状態は普通ではなかったらしい。さっきまで警戒していた相手に、ぽつりぽつりと話し始めていた。

 初めて貴女やアレンとあった時の話。皆んなで森に遊びに行き、帰るのが遅くなって大人達から叱られてしまった話。魔王討伐の旅に行くことを断る貴女を、私とアレンの二人がかりで説得した時の話などなど。

 他にも、いっぱいの話をした。

 

 

 全てを話し終えるのに、とても時間がかかったような気がする。しかし、女性は長話に付き合わされたというのに、嫌な顔一つすることなく。うんうんと頷いたと思ったら、こう言葉を溢した。

 

 

『――お嬢さん。そのクリアっていう子のことが好きだったのね。そんな大事な人が死んだら悲しいわよね』

 

 

 そうだ。彼女の言う通りで、私は貴女(クリア)のことが好きだった。しかも、それは友愛の類ではなく、恐らくは――。

 

 

 私のボロボロな心を惑わすように、女性は言葉を続けた。

 

 

『――ねえ、お嬢さん。もしも全部をやり直して、最愛の人を助けられるなら。貴女は■■()に魂を売る覚悟はあるかしら?』

 

 

 その甘い誘惑に、私は――。

 

 

 

 

 ――俺は、もう何度目になるか分からない復活劇を、あの女性によって押しつけられた(呪い)の詳細も分からずに、俺は生と死の境界の反復横跳びを文字通りに繰り返していた。

 

 

 ゴブリンに手足の骨が折られる。痛い。棍棒によって何度も殴打され、最終的に頭部を潰される。痛い。

 

 

 

 ――痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い許して許して許して許して許して痛い痛い痛い痛い。

 

 

 そんな俺の懇願も、獣よりも低い知性しか持ち合わせないゴブリンに届くことなく。俺は殺され続けた。度重なる死の連続により、思考は麻痺してゴブリン達を倒そうと思い上がりは完全に消え失せていた。

 死にたいと考える余裕すらなかった。

 

 

 しかし、流石のゴブリン達も反応がない人形をなぶるのは飽きてきたのだろう。悲鳴すら上げなくなった俺の体を押さえつけて、サンドバッグから別の用途(・・・・)に切り替えようとしていた。

 その光景をどこか他人事のように眺めていると、俺の正面でスタンバっていたゴブリンの首が宙を舞った。

 

 

「ギ?」

「ギャギャ?」

 

 

 俺や他のゴブリン達、そして当事者である首だけとなったゴブリンにも突然の事態の変化についていけてなかった。

 

 

「――ギ」

 

 

 宙を舞っていた首が、地面に鈍い音を立てて落ちる。司令塔を失った胴体部分が、切断面から血を噴水のように撒き散らしながら倒れる。

 

 

 前世であれば、グロ方面での十八禁不可避な光景。そんな犯行現場を作り出した下手人は、そこにいた。

 

 

 暗い森の中であっても太陽のように輝く金髪。それと真反対をいく、夜空よりも深い闇を湛えた元が翡翠色であることが辛うじて分かる瞳。

 それらの特徴を有した少女――マリーは、感情を感じさせない冷たい表情で、汚物を晒す四体のゴブリンと碌な反応を見せない俺の姿を交互に見る。そして一言。

 

 

「――殺します」

 

 

 俺が知っている彼女であれば、絶対に言わないであろう物騒な言葉。今の彼女には、それをすぐに有言実行する気迫があった。

 

 

 突然の乱入者や仲間の死をようやく理解できたゴブリン達が、マリーの方に向き直り棍棒を向ける。と言っても、今の段階では新しい玩具が自分からやって来た。という程度にしか考えていないだろうが。

 けれど、その考えがどれだけ愚かで浅はかなものであるのかを、ゴブリン達は思い知ることになる。

 

 

 マリーに近寄った一体のゴブリンの四肢がばらばらになる。獲物に舐めた態度を取られて苛ついた一体のゴブリンが、マリーに飛びかかる。そのゴブリンの上半身と下半身が泣き別れした。

 遅まきながらマリーの異常性を察知した一体のゴブリンが、背を向けて全力で逃走を図る。そのゴブリンの両足が潰れたと思ったら、頭もぺしゃんこになる。

 最後に残ったゴブリンは、スッカスカの脳みそで導き出した俺を人質にすれば生き残れるという素晴らしい考えを実行する間もなく、心臓を拳によって抉り取られて絶命した。

 

 

 その間、僅か五秒。たったそれだけの時間で、ゴブリン達は全滅し、俺は生き地獄(・・・・)から解放された。

 

 

 ゴブリン達を殺したというのに、一滴の返り血すらついていないマリーの姿は恐ろしいはずなのに。数え切れない死の連続によって精神がボロボロな今の俺にとって、彼女は白馬の王子様に等しい存在と錯覚してしまった。

 

 

 マリーは上手く地面に転がる血だまりや臓物を避けながら、放心状態の俺に近づいてくと。ゆっくりと安心させるように、壊れ物を扱うかのように、優しく抱き締めてくる。

 彼女の体温が荒んだ心に染み渡る。心地いい。俺によく分からない(呪い)を押しつけてきたあの女性との接吻よりも、こちらの方が好きだ。

 

 

 マリーの温もりや香りに包まれて、安心して俺の意識が眠りの世界に誘われようとする直前。彼女はいつもと同じ調子でこう言った。

 

 

「――また私の知らない所で頑張ろうとしていたんですね。今夜のことは悪い夢として忘れて、ゆっくりとお休みください。クリアさん」

 

 

 ――その言葉を聞き届けると、俺は今度こそ眠りについた。

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