ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん   作:何かを書きたい人

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第八話 断章 間違った選択/運命の時、迫る

 

 

『――ねえ、お嬢さん。もしも全部をやり直して、最愛の人を助けられるなら。貴女は■■()に魂を売る覚悟はあるかしら?』

 

 

 貴女がいないことで、失意のどん底にいた私の目の前に現れた不審な黒髪の女性。彼女は私にとても甘く、魅力的な提案を持ちかけてきた。

 心が弱っていた私は一瞬の迷いもなく首を縦に振ろうとしたけれど。それよりも先に、大きな音を立てて扉が叩かれる。

 

 

『――リー!? マリー!? どうしたんだ!? 急に魔力を荒げて!? 何か、あったのか?』

『あ、アレン……?』

 

 

 扉の向こう側から聞こえてきたのは、アレンの声であった。彼の声により、私の意識はそっちの方に逸れてしまう。

 あ、そうだ。アレンにも教えてあげなくちゃ。さっきね、親切な女性の方がクリアさんに会えるチャンスをくれるみたいなんです。良かったら、アレンも一緒にその誘いを受けてみませんか?

 

 

『――い!? おい! しっかりしろ!?』

『アレンの方こそ、何を言っているんですか。私は至って正気ですよ。アレンだって、クリアさんに会いたいでしょう? もう一度言いますけど、そこにいる方が……あれ?』

 

 

 私の両肩に手を置き、強く揺さぶるアレンに向かって。聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように話しながら、私は視線を女性がいた場所に戻す。

 しかし、そこには誰もいなかった。まるで始めから、存在しなかったと言わんばかりに。せっかく目の前にぶら下げられた希望が、無惨に奪われてしまった。

 

 

 ――いったい、誰に?

 

 

 ――私から希望を奪った泥棒(アレン)が、何かを言っている。いや、聞く必要はない。どうせ雑音だ。それよりもさっきの女性を探して、もう一回お願いしに行かないと――。

 

 

『……ここにいたのはお前だけだ。クリアを失って辛いのは分かる。それは俺も同じだからだ。だけど、少しだけでいい。その現実を受け入れてくれ。

 クリアだって、今のお前の姿は見たくないはずだ』

『……うるさいです。私のことは放っておいてください。それにさっきの人は、絶対に見間違えではありません。私は諦めませんから。クリアさんを取り戻すことを。だって、そうしないと私は――』

『……俺やこの村の人達は全員、お前の味方だ。いつでも頼ってくれ』

 

 

 アレンは私に言いたいことが終わったのか、部屋を出ようとした。だが、その直前で。

 

 

『扉の前に置いておいた食事は冷めていたから、新しいのに変えておいたぞ』

 

 

 その言葉を残して、アレンは今度こそ部屋を出ていった。ここにいるのは、私だけ。

 

 

『……これだけ辛く当たっているのに、私を見捨てないなんて。優しすぎますよ、アレンは。

 クリアさんの為なら、他のものは全部投げ捨ててもいいと。さっきまでは思えていましたのに。これでは、あんな選択肢を取れないですよ……』

 

 

 言っていることが、自分でも分かっているけれど二転三転している。元から自他ともに認める内気な性格で、他人の意見に流され易かったが、ここまで自分の考えが移ろいそうになったことは今まで一度もない。

 それだけ、私の中で貴女のことが占める割合が大きかったのだろう。

 

 

(……確かにアレンの言う通りです。今の私ではクリアさんに合わせる顔がないですね)

 

 

 そうやって心の中で反省していると、いつの間にか■■(女性)がまた現れていた。やっぱり私の幻覚ではなかったようだ。

 

 

『はーい。お嬢さん。さっきぶりね。ちょっと邪魔が入ったけど、契約の続きでもしましょう』

『……すいません。そのお話ですけど、今更ですがお断りは可能でしょうか?』

『え? それは本気で言っているの? お嬢さんの最愛の人に会えるチャンスがなくなっちゃうのよ?』

『良くはないですが、アレンの――友人の言葉のお陰で。もう少しだけ頑張ってみようかなと。それに貴女が私に提示していた方法は、やり直し(・・・・)ですよね? 

 それが可能かどうかはこの際置いておくとして。その方法では、今まで私がクリアさんと過ごしてきた思い出の全てがなかったことになってしまいます。もちろんアレンも含めて、他の人達もです。

 辛いことはありましたがあの輝かしい日々の全部を、私は否定したくないんです。アレンの言葉で、そのことに気づけました』

『ふーん』

 

 

 私の明確な拒絶の言葉に、女性は面白くなさそうな反応を示す。

 

 

『本当にそれでいいのかしら?』

『はい。もう後悔はしません』

『本当に、本当?』

『くどいです。むしろ貴女をアレンと一緒に倒してもいいんですよ』

 

 

 私がそう宣言すると、女性は最後にこう言い残した。

 

 

『――そうですか、そうですか。実につまらない選択をするのね。だけど、私は優しいから今のは聞かなかったことにして、返事について保留にしてあげる。

 もしも、本当に私との契約が必要だと思ったら呼びなさい。いつでも答えてあげるわ。お嬢さんは私の新しい玩具(・・)候補だからね。

 それに私の勘だけど、そう遠くない内にまた会うことになると思うし、その時に貴女が同じような顔ができるか楽しみにしておくわぁ』

 

 

 ――私の精一杯の強がりと■■(女性)の予言めいた言葉。どっちが正しかったのか。その答えは、最悪な形で突きつけられることになってしまうことを、当時の私には知る由もなかった。

 

 

 

 

 ――俺が仮称『再生能力』に目覚めてから、約五年の時が経過した。そう、ついに『英雄の誓い』の物語が幕を開けようとしているのだ。

 

 

 この五年間であの『再生能力』以外にも力が覚醒して、孤独にゲームに登場する厄介事の種を事前に摘んでおくという、陰の実力者ムーブに勤しんでいる――ことはなかった。

 今も『始まりの村』暮らしである。

 

 

 この世界では、どれだけ才能がない人間でも血の滲むような努力を重ねれば、中級程度の魔法を扱えるようになるはずだが。俺には下級魔法よりもさらに難易度が低い初級魔法ですら使えることはなかった。

 将来的に前衛能力に全振りしたようなステータスになるアレンですら、いくつか初級魔法が使用できるというのに。

 解せぬ。

 

 

 ならば素の身体能力を上げようと秘密裏に特訓しようとしても、その度に都合良くその場に現れるマリーによって断念していた。

 お陰で、年齢による成長を考慮しても肉体相応の体力と身体能力しかない。何なら、前世の方が今の肉体を上回っていた。

 もう俺のプライドはボロボロだ。

 

 

 だが良いこともある。現状の俺の唯一の武器にして生命線の仮称『再生能力』。自分以外にも治癒を施したり、腕や足を吹っ飛ばしても元通りになるという優れもの。

 しかも、発動に際して魔力を消費している様子も確認できないので、魔法の一種でもないようだ。

 何だ、このチート。ヒーラーとしては破格の能力だ。

 

 

 ちなみに仮称としているのかについては、ただの気分である。もっとかっこいいというか、それらしい名称を思いついたら変更するつもりだ。

 

 

 現状、俺の『再生能力』のことを知っているのはアレンとマリーだけ。本当であれば、彼らにも隠していたかったが、陰でこそこそ『再生能力』の効果の検証をしている時にお約束のようにアレンを引き連れたマリーに見つかって、バレてしまった。

 

 

 でも二人は他の村人達に言うようなことはしなかった。アレンに関しては俺の『再生能力』を年頃の少年らしく「凄い! 凄い!」と褒めてくれたのだが、大人達に自慢(?)しようとしていたが、それはマリーが止めてくれた。

 その時に、彼女はこう言った。

 

 

『クリアさんのその力は確かに人助けにも使える素晴らしいものですが、大人達がそれを知ってどういうことを考えると思いますか?

 クリアさんを金儲けの道具にすることです。別に村の人達が全員そうだと言っている訳ではありません。けれど、人間の――特に大人の欲望というものには限度はあってないようなものです。

 そんな人間達にクリアさんの力のことが知られれば、良くて飼い殺しです。アレンは、クリアさんがそんな扱いを受けることになってもいいんですか?』

 

 

 厳しい言い方ではあるが、俺のことを思っての発言。アレンも現実味のある話を理解して、俺やマリーに謝罪することでこの件は決着した。

 

 

 しかし、あの時のマリーは普段以上に大人びて見えた。もしかして、彼女も実は転生者だったというオチの可能性を考えて探りを入れてみたこともあるが、その際の反応で違うと判断した。

 だって、同じ境遇の俺に秘匿する理由もないからだ。

 

 

 長々とここまで語っただが、俺の知識通りであれば物語の開始間近――魔王が復活しようとしているのに、『回復能力』以外は突出したものを持っていないという、割と不味い状態である。

 いったい、どうしたものか。

 

 

 ここ最近はずっとそのことで悩んでいる。今日も俺は与えられた仕事をする傍ら、何か良い方法がないかと考えごとに耽っていた。

 そんな時。俺を呼ぶ騒がしい声が二つ聞こえてきた。

 

 

「おーい、クリア! 仕事はもう終わったのか?」

「クリアさん! 終わっていないのでしたら、そろそろ時間も丁度いいので一緒にお昼ご飯でも食べませんか?」

 

 

 アレンとマリーの二人であった。両者ともに、この五年間で俺の記憶にある姿とほぼ同じ外見に成長していた。性格も年相応に――いや、マリーの方は相変わらず目は淀んでいるし、ちょっと怖い。美少女ではあるのだけれども。

 

 

 彼らとは結局の所、友人の関係に落ち着いてしまった。どれだけ冷たく突き放そうとしても、効果はなかったのだ。もうこの件については諦めている。

 

 

 ただ原作カプである「アレン✕マリー」を壊さないように、慎重に立ち回っていかないと。

 問題もそれだけではない。魔王討伐の旅に同行するか、しないか。したとしても、『回復能力』しか取り柄のない俺が役に立てるかどうか。挙げれば切がない。

 選択の時は迫っている。だけど、今の平穏なひと時を友人とゆっくりと過ごしても罰は当たらないだろう。

 

 

「――今行くので、待ってて。アレン! マリー!」

 

 

 ――願わくば、俺の友人達(アレンやマリー)が幸せになれますように。




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