ハッピーエンド至上主義TS転生者のモブキャラVS実は百万回周回中のヒロインさん 作:何かを書きたい人
――人間達が暮らす世界、所謂『人間界』。そことは異なる、魑魅魍魎と評される人外である魔族達が跋扈する世界、『魔界』。
そんな光なき暗闇に満ちた魔界の最奥に位置する荒地に建つのは、一つの巨城。その名も魔王城。
主である魔王は、現在は不在。数百年前に、人間界に対して戦争を仕掛けていた魔王は、当時の人類最強の力を持つ存在――勇者との戦いで尋常ではない傷を負うことになり、魔王城の奥深くにて今もなお眠りについている。
現在の魔王城を管理整備しているのは、魔族の中でも特に強大な力を有し忠誠心が強い、『十三大魔族』と呼ばれる者達である。
彼らが課せられている義務はただ一つ。一日に規定量の魔力を、休眠状態の魔王に捧げることだ。もちろん、その目的は仕えるべき主の魔王復活の為に。
数百年。人間とは比較にならない時を生きる魔族にとっても、決して短くはない年月。その間、『十三大魔族』達は毎日欠かすことなく、己の血肉同然の魔力を捧げ続けた。
そして、ある日。魔族にとっては喜ばしいことが。人間にとっては歓迎できないことが起きる。魔王の玉体が収められた棺が一瞬だけ禍々しく光を放つ。棺の扉がゆっくりと開けられて、中にいた人物は数百年振りの空気にその身を晒す。
傍にいた数名の『十三大魔族』は、夢見ていた光景に歓喜の雄叫びを上げる。
――魔王が復活した。本格的に奴らが動き出すのは、もうしばらく時間を要するだろう。
しかし、今代の勇者となる者よ。警戒を怠るな。今は力の研鑽に尽力し。聖女とともに、魔王を打ち倒すのがお前達の使命だ。
■
――というのが、ゲーム『英雄の誓い』におけるオープニングの内容である。暗がりの場所で、ラスボスの姿をチラ見せ。意味深な台詞で、
RPGのお手本のようなオープニングであるが、ゲームでは先ほどの内容をアレンが夢という形で見ることになる。つまり、アレンの反応を観察することでストーリーの開始の時期が判明するのだ。
ゲームでは、アレンが十五歳の時にこの夢を見る。ということ以上の情報がないので、正確な時期までは分からない。
こんな不気味な夢を見たアレンは、目に見えて寝不足気味な感じで、昼間に俺やマリーと話している時でも時折ぼうっとしている。
あの様子だと毎日に見ていそうだ。ゲームでも精神的にきつそうな描写がされていたが、リアルで見ると疲労具合はその比ではない。
記憶にある展開によれば、この状態は魔王復活の情報を察知した王国から使者が村にやって来て、アレンが勇者の資格を有する者であると告げられるまで続く。
新手の精神的な拷問かな?
ちなみに勇者を近くで支え、ともに魔王討伐の使命を帯びることになる聖女。その力に覚醒する予定のマリーも、似たような内容の夢を見ているはずなのだが。
普段と様子が違う感じもない。
マリーが俺の知っている知識と齟齬があるのは、今に始まったことではないが、やっぱり相違点が多いような気もする。
だからと言って、それこそどうしようもないのだが。「まあ、マリーは強いよね!」というお話である。
マリーのことは一旦置いておくとして、アレンのメンタルが大丈夫だろうか。現在見ている夢に関しては、この世界で一番信仰を集めている女神様が見させているものなので、別に呪いの類という訳ではない。
また少しだけ話はズレるが、勇者や聖女の力を授けるのも女神様だったりする。
要するに、このまま放っておいてもアレンに害はほぼなく、夢も何れ見なくなるので時間が解決するので俺が何かする必要はないに等しい。どうにかできる手段もない。
しかし、友人の一人が苦しんでいる――女神様に知られたら罰当たりのような気もするが――いて、その理由を知っている上で何もしないのは良心が少し痛む。
だけど、どうすることもできずに悩んでいた。だが、ある日。いつもと同じように、一緒に歩きながら話をしていた時。アレンが夢による寝不足で転びそうになってしまう。それを俺は何とか受け止めることはできたが、思った以上にアレンは消耗していたらしい。
前言撤回。女神様が見せている夢だから害はないと言ったが、放置しておけば健康に悪影響が出てしまう。とりあえず、今のアレンには安眠が必要だ。
アレンを引っ張って、適当な木陰に連れていき座らせる。俺もアレンの隣に腰かける。
「わ、悪いな……クリア。って、こんな所に来て何かあるのか?」
「まあまあ、いいからいいから。アレン。あなた、ほとんど眠れてないでしょ?」
「……やっぱり分かるものか?」
「むしろ、あんな状態で隠せていると思ってたの? それこそ、気づいていない人間なんて、アレン一人よ」
「マジか……」
そんなやり取りの後、アレンは露骨に肩を落とす。大きくなったとはいえ、中身は初めて会った時からそんなに変わっていないようだ。
少しおかしくなり、笑ってしまう。
「……別に笑うことはないだろ」
「笑ってないよ」
「いや、絶対に笑っただろ」
「笑ってない。……それよりも眠れてないんだったら、ここでひと休みしたら? 今日は仕事が忙しい訳じゃないんだし、良かったら私が膝枕してあげるよ?」
「……」
アレンに安眠を提供できる方法は一つ。それは、全国の青少年が憧れる異性からの膝枕。まさか、される側じゃなくてする側に回るとは思っていなかった。
流石に十年以上も生きると、肉体的な差異や女性的な口調、習慣にも慣れてしまった。
全く羞恥心がない訳ではないが、アレンには世界を救ってもらわないといけない。このぐらいは許容範囲である。
(……こういうのは、ヒロインのマリーの役割だと思うんだけどなぁ)
そんなことを考えてしまうが、今この場にいない人間のことを言っても仕方がない。
結局最初は何とか断ろうとしていたアレンであったが、疲れていたこともあり、俺の膝枕で昼寝をすることになった。
(って、あれだけ言ってたのに寝るのは一瞬か。それだけ寝れてなかったってことなのかな)
意味があるか分からないけれど、アレンの寝顔を見てみればとりあえずは夢に魘されることなく練れているみたいで結構結構。
アレンの頭を軽く撫でながら、彼が起きるのを俺は気長に待つことにした。
――なんか、さっきから殺気を含んだ視線を感じるけど、気の所為だよね?
■
――そんなこんなで、アレンの為の
高そうな生地がふんだんに使われて、無駄とも思えるぐらいに細工の入った服を着た連中だった。彼らの目的は、
女神様の神託で勇者や聖女の資格を有するとされた者達――アレンとマリーの保護だと言う。
王都から来たというのは、彼らが提示してきた書類やら何やらで証明されて、明朝には村を発つ予定のようだ。随分と急に感じるが、魔王復活という人類存亡の危機。こうなるのも仕方ない。
ついに、この時が来てしまった。これからアレンやマリーが魔王討伐の旅に赴く、『英雄の誓い』の物語が幕を開けるのだ。
俺も一人で旅に出るとしよう。『再生能力』一つだけでどう立ち回ればいいのか、さっぱり見当がつかない。
だけど、アレンとマリーを
別れの挨拶は出立の直前にするとしよう。そう思い、今日は早く寝ようと寝巻きに着替えて、寝ようとしていた時に。俺の部屋の窓を叩く音がした。
窓の方に視線を向けると、外にいたのはアレンとマリーであった。
ん?
あれれ? ゲームの時では、出発前夜は突然告げられた衝撃の事実――自分や幼馴染が魔王を倒すべき使命を背負う勇者と聖女であること――に困惑しつつも、二人で支え合い頑張っていこうと絆をより深めていくイベントのはずだが。
間違っても、モブキャラがその間に割り込むような展開はなかった。
混乱している俺に向かって、窓越しに二人はこう言った。
「――クリア(さん)。一緒に旅に行かないか(行きませんか)?」
――心のどこかで、望んでいた言葉を聞いたような気がした。
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