転生したら前世の妻が追いかけてきた 作:you are not
視界が赤く白く濁っていく。握っている武器の感覚も薄らぎ、自分が上を向いているのか下を向いているのかさえ分からない。
「……ァ!パパ!」
「待って逝かないで!お願い!」
声が……聞こえる。大切な人たちの声……そうか、俺は守りきれたのか……よかった。これで悔いを残して死ぬこともない。本当はもっと家族と一緒にいたかった。娘の成長した姿を見たかった。妻と歳をとってすっかり年寄りだねって笑い合っていたかった。でも、二人の命を守った結果がこれならまぁ上出来かな?
「モルグナ、リリス……愛してる」
最後にそう言い残して俺は意識を手放す。
―――☆―――☆―――
その後、俺は神を名乗る存在と出会った。長い髭を蓄えて禿……光沢のある頭を持つその存在は俺に記憶を持ったまま転生して欲しいと言ってきた。曰く、俺の魂は他人よりも強くて別の魂になれないらしい。そこでもう一度同じ世界で生きて欲しいとのことだった。転生というより転移に近いらしいが転生の意味が最近は変わって来てるからまぁいいらしい。いいのか神様そんなゆるくて……まぁ、何はともあれそうして俺は二度目の人生を得ることができた。
「ようこそ!勇者様!どうか世界をお救い下さい!」
条件付きなのだが……
元の肉体に魂を戻してもゾンビくらいにしかなれず、別の人物としての転生は満員らしく無理。そのため本来は異世界の人間を召喚させるものをこうして勇者として異世界転移の形に添って蘇らせたらしい。勇者と言う立場が俺にできるのか不安だが二度目の人生を得るための代償と思えば渋々受け入れるしかなかった。
その後の魔王討伐までの旅路は順調だった。敵は強いが倒せないほどでもなく、心強い仲間たちと共に乗り越えることが出来た。勇者パーティ―の中に前世の娘リリスが来た時は驚き過ぎて声を上げそうになるなど、色々な苦労はあったが楽しい旅だったと思う。そうした苦楽を乗り越えて俺は魔王を倒すことができた。
神様に押し付けれられた役割を果たして俺は自由の身で後はモルガナと再会して失った夫婦としての失った時間を取り戻したいなんて当時は理想に夢を膨らませていた。
だが、魔王を倒した俺に待っていたのは英雄としての人生だった。東に魔物あれば駆逐し、西に盗賊あれば討伐する。普通の人達はそうゆう脅威に対して抵抗できるほど強くはなくてそんな弱者など知らないと割り切れるほど俺は冷たくなれなかった。だから、できる限り人を助けてきた。自分のやりたいこととやらなければならないことの板挟みにあって俺は日に日に疲弊してしまっていた。
「勇者アレスよ、お主は王国にこれ以上なく貢献した。よって褒美として我が娘アテナとの婚姻を赦す」
さらに追い打ちをかけるように王は勇者パーティーにいたというだけで第三王女にして近衛騎士であるアテナとの婚約を言い渡した。俺を王国に縛り付けるための政略結婚なのが見え透いていた。
「…………」
反対したかったがそんなことをすれば王家の誇りに泥を塗る行為であり王の意に逆らって国家反逆罪に問われかねないと思い俺は何の返事もすることができなかった。
―――☆―――☆―――
建国祭の日、国中がお祭り騒ぎに賑わうこの日俺はアテナにひれられて逢引きまがいのことをしていた。実際、アテナ本人はデートのつもりなのだろう。
「アレスアレス!あれを見ろ!パレードだ!」
アテナに袖を引っ張られ俺は行列の最前列に立たされ、アテナが指さす方向を見る。
「今年は一段と豪華だね」
「あぁ、建国百周年だからな。それと陛下が私たちを祝してだそうだ」
顔を赤くしてそういうアテナを横の俺は複雑な感情が渦巻く。アテナの向けている感情は男として嬉しく思わないでもないが何人も愛せるほど俺は器用ではなく結局は友愛の域を出なかった。
「ん、そうかわかった」
そんな風に考えている内に近衛兵の一人がアテナに耳打ちをしていたどうやら仕事が入ってしまったようである。
「すまないアレス。急用ができてしまったまた後で埋め合わせしよう」
そういうや否やアテナは走って何処かへ行ってしまった。俺はと言えば久方ぶりの自由時間にどうしようかと思い悩んで、結局宿に戻ってゆっくり寝ることにした。
―――☆―――☆―――
「久しぶりねアレス」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。宿のベットで寝ていたら、かつての最愛の人が扉をノックして入ってきたのだから。
「モルガナ?」
「えぇ、えぇ、そうよ。よかった忘れられてたらどうしようかと思ってたわ」
モルガナは安心したようにほっとした息を吐いて、俺の方へと近づいてくる。
「忘れれるわけないだろう君のことを……」
「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるわね」
ふと、ここでなぜ彼女がここにいるのかと気づく。
「そういえばなんでこk」
「ねぇ、アレス」
遮るように彼女は言葉を口にする。
「さっき一緒に歩いてた子誰かしら?恋人なわけないわよね?」
白銀の魔女の異名の通り、全てを凍らせる眼がこちらを睨む。その目は何も移さず、あるのは濁りと闇ばかり。