転生したら前世の妻が追いかけてきた 作:you are not
アレスと出会ってからの私の人生は劇的に変わった。毎日が色付いているとでもいえばいいのか、
春にアレスと一緒に駆けた黄色い麦畑。
夏にアレスと一緒に泳いだ青い川。
秋にアレスと一緒に眺めた赤い夕陽。
冬にアレスと一緒に遊んだ白い雪。
今まで何度も同じ光景を目にしてきたはずなのにアレスと一緒にいるというだけでそれらすべてが新しく綺麗なものになっているようだった。アレスと一緒にいる時間は夢と見まがうほどに美しかった。ただの孤独が待ち遠しい時間になり、一ミリ秒でも早くアレスと同じ空間にいたいと思えた。
ある時、アレスは十二本のバラの花束をモルガナに差し出す。先ほどまでモルガナはアレスに花言葉を教えて遊んでいた。その中でバラは送る本数によって送る意味合いが変わるのだと話し、無意識ながらも教えてしまったのだ十二本のバラを送ることは『私の妻になってください』と言う意味なのだと。
「アレス……本気なの?」
「…………」
アレスの力強い眼差しにモルガナは本気なのだと理解する。思えばもう自分たちは十四歳、互いを異性として認識するには十分な年齢であった。
「私、魔女よ?あなたは特別でも他の人を傷つけかねないのよ?」
「それでも俺はモルガナが好きなんだ結婚して欲しい」
アレスの手の中でバラの花束たちはモルガナに差し出されたまま静かに揺れていた。
「本当にいいの?……受け取ったら離さないわよ?」
震える指で花束に手を伸ばす。やがて花束に手は届き、割れ物を扱うように繊細で、それでいて自らの手から滑り落ちないように力強く握られたバラの花束たちは少女の胸でポロリポロリと落ちる水滴を受け止めようと濡れている。
――――その顔には魔女と罵られる少女はおらず、幸せを享受する乙女がいた。
―――☆―――☆―――
それからのモルガナは彼の隣にいられるようになるために私はできる限り変わる努力をした。料理洗濯などの家事、食事や冠婚葬祭でのマナー、そして何より大切なのは魔女の力を制御すること。
いままで制御できないと思われていた力は技術次第で何とか出来るとある時さすらいの物知りな精霊が教えてくれた。ただ、それはある程度熟練した魔法使いでなければならなかった。
それでもと、モルガナは魔女の魔力を制御する魔法の研究に没頭することにした。一重に祝福されたかったのだ。他の誰かに、アレスの両親に家族として迎え入れて欲しかった。そんな乙女の当たり前の願いを糧にモルガンは頑張り続け、理論上成功と言っていい魔法が完成した。
しかしながら、その努力を嘲笑うような出来事が起きてしまった。
「親が反対してる?」
「そうなんだ。父さんと母さんにモルガナのことを言ったら余所者はやめておきなさいって言われちゃって」
「そっか……」
悲しみが胸をざわめかす。
「だからさ、一緒に説得しよう」
「……うん」
アレスの言葉に少しだけ気持ちを上向くが言いようのない不安があった。
結論から言ってアレスの両親の説得はできなかった。それどころかモルガナが森に住んでいると聞けば途端に野蛮だ下品だと好き放題罵倒してくるしまつだった。
モルガナは激怒した。必ずや、かの非道なもの達を排除せねばならないと。モルガナは自分が罵倒される分にはいくらでも耐えらえれた。だが、だがだ、アレスと自分との愛を否定されるのだけはどうしても譲れず許せなかった。魔導書を呼んで必要な呪いを暗記し、大釜で毒となる魔法薬を煮込んで用意する。後は愛用の杖を持って、暗い森をほうきで抜けてアレスの両親を殺すだけであった。
「…………?」
出来る限りの準備を終わらせ後は実行に移すだけであるという時、モルガナは違和感に気づく。目的の場所が仄かに橙色の光は放っていたのだ。
「もしかして燃えてるの?」
近づけばそれはより鮮明に理解できた。空からはすすけた色の煙が月夜に照らされていて、先ほど見た橙色の光は燃えている輝きだった。そう、アレスの両親の家が放火されているのである。
「一体だれが……」
自分はまだ何もしていない。では一体だれが?そう思っていると燃えている家を眺める人影が一つあるのを見つける。影の形からアレスであるとすぐにわかった。モルガナはその近くに着地しすぐにアレスに駆け寄った。
「あぁ、モルガナ来てたんだ」
「アレス一体何が……」
「父さん母さん、そして姉兄弟たちはみんな死んだ」
それだけだった。その一言で言いたいこと全てが分かってしまった。結局、自分たちは似た者同士なのだ。あぁ、あぁ、なんて……
―――素敵なことなんだろう。
「……帰ろうモルガナ。僕らの家に」
「えぇ帰りましょうあなた」
そうして魔女とその婿は暗い森の中に消えていった。