転生したら前世の妻が追いかけてきた 作:you are not
旦那が死んでからの日々は悲惨だった。魔族の王子を殺されたという理由で魔族の軍が襲撃に来ることが度々起きた。無論、全て返り討ちにしたし、皆殺しにして家の前で晒し首することで見せしめにした。人間も例外ではない、ここは私の土地、大切な夫が眠る大切な場所なのだ。誰であろうと私の許可なくこの土地に立ち入る者は罪人だ。しかるべき処罰をする……迷い込んできただけの相手ならば早々に立ち去るならば何もしないけれど。
正直、自分が狂っていることは理解できている。でも、許せなかった。アレスを奪った魔族が、世界が、なにより何もできなかった自分自身が。それでも私が生きられたのはたぶん……
「ママ大丈夫?顔色悪いよ?」
「大丈夫よ。ママ、リリスの為ならいくらでも頑張れるから」
娘の存在が大きかっただろう。リリスがいなかったら今頃私はこの場にいなかった。正気を失って復讐に憑りつかれていたかもしれない。あるいはアレスが死んだ直後に私も後を追って首をくくっていたかもしれない。だからできるだけの愛情を注いで育てた。時に褒めて、時に叱る。喧嘩だってするけど最後は許し合える。そんな仲睦まじい親子として生活してきた。
そんなある日、十六歳になった娘のリリスはこの土地を出て外に行ってみたいと言ってきた。私は最初は悩んだが結局許可することにした。不安や心配することはたくさんあるけれどリリスを縛り付けたくなかった。私がアレスが死んだこの土地に執着するのはいい。だけど娘にそれを強制するのはだめだ母親どころか人として失格だろう。だから自由を与えて世界を知るべきだと判断した。
「じゃあ、行ってきますお母さん」
大きくなった娘は死んだ父親そっくりな黒い髪と瞳を輝かせて雪原を歩いていく
「言ってらっしゃいリリス。辛くなったらいつでも帰ってきなさい」
手を振って娘を見送る。寂しさを感じながらも立派に成長したことに感動していた。娘の姿が見えなくなってから私は自分の体を見る。
「……」
私は三十路になったけれど二十代のころから肉体は一切衰えていなかった。きっとこれも魔女の能力なのだろう。精霊の話によると五百年は生きられるそうだ。娘も同じか知らないがこの猛烈な孤独が永遠に思えるほど続くことだけは確かなのだろう。
あぁ、辛い。家にいたはずの家族がいない。娘のはしゃぐ声がしない。アレスのはきはきとした優しい声も聞こえてこない。色彩のない空虚な明日だけが私に残ってしまった。これからどうしよう――何もすることがない。何もしたくない。
―――☆―――☆―――
数年した後に娘が帰省してきた。リリスはなんでもある王国の宮廷魔術師になれたと手紙に書いてあった。忙しいが充実した毎日を送れているらしい。幸せそうでなによりだと自然と頬が吊り上がってしまう。
「ただいまお母さん」
数年前のように三角帽子とローブに着られている姿はなく、着こなしていて垢ぬけているのが見て取れた。
「お帰りなさいリリス。寒かったでしょう?上がりなさい」
大人になった娘の様子に浮かれながらモルガナはリリスを家に上げる。その時だった。懐かしい気配に気づいたのは―――
「なんで――」
「……お母さん?」
「なんであの人の魔力があなたからするの……」
モルガナは目を見開き、リリスの両肩を鷲掴みにしながら疑問を口にする。リリスからした魔力の残滓は複数あった。その中でもとりわけ懐かしいものが一つ確かにあった。
「ねぇ、リリス。アレスとあった?」
その言葉に娘は意を逸したかのようにコクリと頷いた。
「あのねお母さん落ち着いて聞いてね―――」
娘は語った。魔術師として高い評価を得ていた自分は魔王を倒す勇者パーティーの一人として選ばれた。その勇者と言うのがとても父親、つまりアレスそっくりだったのだという。名前まで一緒だった。最初はただの偶然が複数重なっただけで他人の空似だろうと思っていたが旅を共にしていく内に既視感を覚えることが多くなり疑念がわいたそうだ。神の力を持って召喚された勇者が父親など流石にありえないと今までは思っていたが母親の言葉で確信に変わったそうだ。
娘の言った言葉はにわかには信じられなかった。だが、現に娘からはアレスのあの人の魔力がした。確かにそこにいたのだ。
「生きているのねアレスは……」
私は無意識に涙を流していた。何の感情が先行して流したかもわからなかったがただただ心が叫んでいることだけは確かだった。同時に言いようのない不快感もわいてきた。なぜ自分はここで何もせず迎えに行っていないのだ。本当ならば今すぐに会いに行くべきだ。
「お母さん?」
はっとした。そうだ。今はとりあえず娘を優先しよう。
「大丈夫よ、教えてくれてありがとうね」
娘は数日で王都へ帰るそうだ。そして私も途中まで同行することにした。
―――アレスと再会するために