転生したら前世の妻が追いかけてきた 作:you are not
勇者が目を覚ました時。最初に目にしたのは懐かしい天井だった。
「おはようアレス相変わらず目覚めるのが速いわね」
あぁそうか帰ってきたのか……モルガナの家に。
「おはようモルガナ。この家は特に変わってないね」
「えぇ、貴方が死んでから内装以外特に変化してないわよ」
言われてみれば家の中にはちらほらと覚えの内家具が見受けられた。あっ!あそこのタンスは俺が作ったものだ。
「あなたが作ってくれたものだもの捨てるわけないわ」
口に手を当てて何をバカなことを言いたげな顔でモルガナはそう言ってきた。
「そ、そっか」
アレスはモルガナの重い愛情に対してたじたじになってしまう。
「?」
なぜ自分はモルガナに対して奥手気味なのだろうという疑念がわきすぐに消えていった。はて、何か忘れているような気がする?
「……まぁいいか」
「どうかしたのかしら?」
「何でもないよ」
誤魔化の言葉を投げながらアレスはベットから起き上がり、朝食を作ろうと台所に向かおうとするが、
「モルガナ?」
すぐにモルガナに両肩を掴まれて再びベットに座らされてしまう。
「どうせお腹が空いたから食事を作ろうとしたのでしょ、私の分まで」
「そうだけど……」
「あなたは休んでなさい。疲労が顔に出てるのだから私が作ってあげる」
そう言われてしまい渋々アレスはくテーブルに座って大人しく待つことになってしまった。実際ここ数日は王国から仕事ばかりさせられ碌に休んでいなかった。別に自分がいなくとも騎士団が優秀なので問題ないはずなのにだ。
「ほら、いただきましょう?」
出されたのは四角く切ったパンの上に目玉焼きを乗せた簡単な朝食。
「うん、いただきます」
最初に乗っている目玉焼きを少しかじる。口の中にコショウとバジルの塩味と少しの辛味を楽しみながらカリカリのパンを食す。うん、これだけで一日頑張れる気がする。
「おいしい」
「よかった。簡単なものでもあなたに不評だったらどうしましょうって不安だったわ」
「まさか、君の作ったものを悪く言う訳ないよ。それにいつかよりずっとおいしくなってる」
二人の夫婦の日々が舞い戻ってきた。
――☆―――☆―――
長い長い回想を終えてアレスは再び思考を現在に戻す。そこには勇者の婚約者となったアテナと自分の妻モルガナが一騎打ちの決闘をしている。
モルガナとの日々を取り戻して思うことがあった。いや、ずっと前から疑念はあったはずだ。なぜ今まで自分は忘れていたのだろう。
―――俺はモルガナを愛している。
ずっとそうだった。これまで感じてきたはずの愛情が恋慕が薄れている。まるで何かに蓋をされているかのように……
自分の頭の中に扉があった。そこは夢の中あるいは精神世界と言っていい。そこには幾重にも鎖と南京錠で鍵がされており、決して開けてはならないとでも言いたげに鎮座していた。俺はその扉に近づく、すでにボロボロになっていた鎖と鍵を蜘蛛の巣を払うように引きちぎる。何度も何度も……
「そこまでじゃ――」
背後から声がかけられる。
「その封印は解いてはならない勇者アレスよ」
振り返れば神がいた。あの時、自分が死んだあと転生しないかと話しかけてきた存在が自身の精神世界に立っていた。
「……どうゆうつもり」
「どうもこうもない。お前は神わたしに選ばれた勇者奴隷、魔女ガラクタの夫などと言うつまらないものになるな、人類の為、私の為、永遠に付き従え。お前の力、お前の意思、お前の血族、全てを人類守護のために使うのだ」
あぁ、そうか。なんとなくだけど、理解できた。つまりこいつはモルガナに対する気持ちを忘れるよう封印したんだ。俺の命と同じくらい大切な家族に対する愛を、こいつは自分のエゴで踏みにじった。
―――ふざけるな
「理解したか?ならば――がぁ!?」
神は一つ過ちを犯していた。確かに人は神には届かない。だが、それを凌駕する存在がここにいる。肉体の限界を幾度も超え、その精神の底はいまだ見えない。そう、アレスと言う人間の精神力は神でさえ制御しきれない。例え一時は制御できても今のように少しの切っ掛けで破られてしまうのだ。
「馬鹿な……私は神だぞ!?」
神は首を絞められながら驚きの声を上げる。
「だからどうした。俺と家族の邪魔をするなら死ね」
やがて神は自身の命の危機を感じ急いでアレスの精神世界から出て行ってしまう。そしてアレスは邪魔者はいなくなったと封印された感情を完全に解き放ってしまう。
ここに勇者アレスはいない。そこにいるのは魔女の夫アレスだ。