TS美少女魔法剣士は顔がいいだけで生きやすい説 作:ほうき星
目覚めれば見知らぬ土地だった。
そんなのは物語——特に転生ものならお約束だ。
まさか自分がリアルに体験するとは思わなかったけどね。
そう、俺は転生したらしい。たぶん。いや、たぶんどころか、おそらく確実に。
ただ、よくある転生ものと違って、前世の記憶が全部あるわけじゃないんだよな。
日本語を使っていた記憶があるから、たぶん日本人。
学校で勉強していた光景もぼんやり浮かぶし、普通の男子だったはず。
……それが今や、転生した結果、女の子になってました。
ただし、赤ちゃんからやり直しスタートではないようだ。
「……これが、俺……?」
とりあえず、言ってみる。
転生TSモノのセオリーってそういうもんだろ?
俺が目覚めたのは、森の中にある湖のほとりだった。
視界は開けていて、天気は快晴。
湖面に映る自分の顔を覗き込むと、そこには——
とんでもない美少女がいた。
少し童顔気味の顔立ちは、道を歩けば誰もが振り返るレベル。
前世日本人の俺の感性でも、これはガチで美少女認定。
アニメに出てきそうな銀髪に碧眼。年齢は……10代半ばくらいか?
んで、美少女になったのは確認した。
じゃあ次にやることは……なんだ?
そう! 体の確認だね! 正解!
何が起こったのかは分からないが、俺は全裸だった。
体型はスレンダー。
視線を落とせば、慎ましやかな膨らみがある。
ただ、それよりも気になるのは——
この身体、ボロボロじゃね?
擦り傷や痣だらけ。幸い痛みはないけれど、なんだか不穏だ。
そもそも、俺はなんで転生したんだ?
なんでこの身体に?
この身体の本来の持ち主の意識はどこへ?
——いや、何も身に付けていないと思ったが、一つだけあった。
左手の薬指に黒い石がはめ込まれた指輪。
縁には微かに何かが彫られているが、判別はできない。
「……何これ?」
疑問は浮かぶばかり。
全裸、傷だらけ、見知らぬ異世界。
しかも異世界って魔物とかいるし、もし襲われていたなら……。
いや、待てよ? それならわざわざ全裸にする必要はないし、変な痕跡もない。
無いよな?
…………よし! 負傷なし! 純血です!
……と、最低な確認は置いておこう。
とりあえず、この身体に残っている記憶を探ってみる。
他人の記憶を覗くって、妙な気分だけど。
「むむ? むむむむむ……!」
繊細な雪のような声で唸る俺。
しかし、いくら記憶を手繰ろうとしても——
何も出てこない。
まるで、ぽっかりと白紙にされたかのように。
(えっ、もしかして俺のせい? 俺、何かやっちゃいました?)
転生ものの中には、途中で人格が上書きされちゃう系の話もある。
もしそうなら、俺……ヤバいことしてない?
……いや、待て。何か——
湖面に映る美少女の顔が、ふと難しい表情を浮かべる。
そして、白紙の記憶の中で、たった一つだけぽつんと浮かんだ。
「——シーラ……?」
それは、この身体の名前だった。
つまり、俺の今の名前はシーラらしい。
……かわいい名前だな。美少女に似合ってる。
でも、それ以外の情報は一切なし。
「……このまま美少女を眺めてても、事態が動くとは思えないし」
移動するか。
全裸だけど。
◆
しばらく歩くと、ボロボロの小屋が見えてきた。
屋根は崩れ落ち、扉も抜け落ちている。まるで廃墟だ。
けど、この世界に来て初めての人工物 だよ!?
これはもう、物色するしかないでしょ!
「これは……何かあるかも」
中へ入ると、少し大きめの箱が目についた。
ガタッと蓋を開けると、中には……朽ちた写真?
二人の男女が無造作に立っているが、もうほとんど判別できない。
ここの家主だったのだろうか?
それと、ペンダントと……。
「おっ、服だ!」
ガサゴソと漁って、それを手に取る。
「……これ、着るのか?」
それは赤いドレスのような衣服だった。
生地が薄暗く、光の加減によっては透けて見えそうなくらい薄い。
……けど、全裸よりはマシ。
たぶん、普通の服じゃないんだろうけど……。
うん、ありがたく頂こう。
ちょうど半壊した鏡があったので、着替えた姿を確認する。
「……やっぱり、サイズは合わないか」
裾は引きずるし、肩もガバッと露出している。
このままだと動きづらいので、落ちていた鏡の破片を慎重に拾い、ビリビリと裾を引き裂く。
適当に俺のサイズに調整して、とりあえず……これでよし。
「ふぅ、とりあえず人前に出ても大丈夫……かな?」
とりあえず隠せてる、はず。
とはいえ、靴もないし、この格好で町に入れるのかは謎だけど。
ま、今は仕方ないか。
そんなこんなで小屋を後にし、俺——シーラ はまた歩き始めた。
裸足で長時間歩けば、さすがに疲れてくると思ったけど——。
「……おや?」
意外と平気だ。
見た目は細くて華奢だけど、裸足のまま数時間歩いても疲労の気配はない。
見た目に反して、この子(俺)はタフらしい。
やがて、木々がまばらになり、視界が開けていく。
そして、ようやく目の前に広がる——。
草原!
遠くまでずっと広がる緑の大地。
その中央には、明らかに人の手で舗装された道が通っていた。
「これ……どこかへ続いてるってことだよな!?」
つまり、人がいる場所に行けるってことじゃん!
とりあえず、道に出る。
右か、左か——。
「……右でいっか!」
目的地は分からないけど、人がいるならそっちに向かうしかない。
日が落ちる前に、なんとか辿り着きたいところだが……。
◆
歩くこと体感1時間強。
舗装された道沿いに、ぽつぽつと街灯らしきものが見え始め、人の往来も増えてきた。
遠くには、大きな建物がそびえている。
「……街、か?」
ついに文明圏へと到達したらしい。
~街の門前~
門の前には兵士が立ち、検問を行っていた。
そして、そこで俺は気がつく——。
あ、俺、身分証とか一切持ってねぇ……!
「そこの娘、止まれ」
「あっ、やべぇ。どうしよう」
とっさに逃げる選択肢も浮かんだけど、それこそ怪しまれるだけ。
仕方なく、大人しく足を止める。
「身分を示すものか、通行許可証を見せろ」
「……」
「どうした? 出せないのか?」
兵士の目が険しくなり、警戒心を露わにする。
ひ、ひぇぇ〜! 子供目線の大人って威圧感やばい……!
ここは下手に動かず、誠実ムーブで行くしかない。
「あ、あの……お──わ、私は道中で魔物に襲われてしまい……。持ち物やお金も、それに記憶も失って、名前しかわからないんです。どうか、街に入れてくれないでしょうか……?」
出来るだけ謙虚に、庇護欲を刺激するモード 発動。
『俺』と言いかけたが、ここはボロを出さないよう慎重に。
そもそも、自分のこの声にもまだ慣れないんだからな……。
記憶喪失なのは事実だし、獣に襲われたのも誇張ではあるが、体の傷を見れば十分説得力はあるはずだ。
さあ、どうだ……!?
「……こんな街の近くで魔物なんて出るわけがない! 貴様、怪しい者だな!?」
槍を構える兵士。
だめでしたー!!
そう都合よく通してくれるわけがないよな!?
異世界転生のお決まりパターンは発動せず!!
「まあ、待て」
「先輩……!」
奥から別の兵士がやってくる。
俺を一瞥した彼は、槍を構える兵士を軽く制して言った。
「このご時世だ。助け合いは大切だろう?」
「はぁ……。先輩がいいと言うなら……」
「通っても……いいんですか……?」
「ああ。記憶喪失らしいが、災難だったな。——ようこそ、テレジモアの街へ」
——あっさり通れた。
同情してくれたのか、それとも単なる気まぐれか。
異世界人の感覚はよく分からない。
ともあれ、俺はついに街へと入ることができた。
テレジモア。
それがこの街の名前らしい。
さっきの親切な兵士が地図を渡してくれたので、さっそく確認。
不思議と文字は読めるし、話せる。
記憶はないのに、言語は問題ない……。
この辺も異世界転生あるあるってやつか?
さて、次にやることは……
「ギルド登録だ!」
そう、あの兵士は冒険者ギルドを勧めてくれた。
きた……! 冒険者ギルド! 異世界転生の定番イベント!!
地図を頼りに街を歩き、ようやく目的地に到着。
慎重に扉を開くと——
「うわぁ……! これぞ冒険者ギルドっぽい雰囲気……!」
テンプレを踏襲した、まさに王道ギルド。
受付カウンター、掲示板、にぎやかに酒をあおる屈強な男たち——
完璧なまでに想像通り!
リアルで目の当たりにすると、想像以上の迫力があるな……。
「あ、あの……登録をしたいのですが」
「はい、ご新規の方ですね!」
受付には、美人な女性が座っていた。
彼女は俺に紙とペンを差し出す。
「こちらにご記入ください。えっと、読み書きは……できますか? もしご希望なら代筆しますが」
「ん……大丈夫、みたいです」
ペンを持ち、さらさらと記入していく。
この文字、感覚的には地球の楔形文字に似ている……気がする。
けど、不思議と普通に読めるし書ける。
転生補正、優秀だな!
書く内容はシンプルで、名前・性別・年齢・戦闘スタイル など。
年齢は不明なので、とりあえず 「16歳」 くらいにしておく。
「まあ! 記憶喪失、ですか?」
「はい……。なので名前とか年齢以外わからなくて……」
「それは大変ですね……。では、武器や魔法の扱いについては?」
「……分からないです」
そう、俺は自分に戦える力があるのかどうかすら分からない。
この世界に魔法が存在することは確定しているが、俺が使えるかは未知数。
それを伝えると、受付の女性は俺を裏口へと案内した。
「それなら、こちらで試されてはどうですか?」
案内されたのは、広々とした訓練場。
そこには、木人が数体並んでいる。
「まずは、こちらから武器を選んでください」
目の前には、ズラリと並ぶ木製武器の数々。
「うーん、冒険者といえば……?」
やっぱり剣だよな!?
実は前からちょっと振り回してみたかったんだよね。
男子って傘で戦ったり、ビームソード的なの好きじゃん?
「……ふっ!」
片手剣を手に取り、木人に向かってカッコつけながら振り下ろす。
木製とはいえ、しっかりとした重量感がある。
おお……! これが本物の剣……!
「それでは、こちらのターゲットを落としてみてください!」
「えっ……? あっ、わあっ!」
——と、次の瞬間。
受付の人が、突然何かを投げつけてきた。
お、おい!? いきなり!?
「いいですね! それではどんどんいきます~」
「えっ、ちょっ、待っ……!」
間髪を入れずに、次々と投げられるターゲット。
まるで俺の反応を試しているような……。
「うっ……! くっ……!」
バスン、バスン!
——だが、俺の身体は勝手に動き、すべて叩き落としていた。
……え、ちょっと待って。
俺、剣なんて扱ったことないよね??
もしかして、この身体のスペック……すごくない!?
「わぁ……すごいですね。すべて落とすなんて……」
「あ、はは……自分でも驚きです」
「では、剣の腕前は問題なさそうですね」
そう言われ、次に案内されたのは木人の前だった。
「それでは、何か魔法を使ってみてください」
「魔法……ですか?」
言われても、どうすればいいのか分からない。
こう、手を構えたり……?
お、おお……?
手を木人に向けた瞬間、まるで知っていたかのように動作が流れ込んできた。
「“紅蓮の焔よ、我が敵を貫け……”」
手の先に小さな魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間、火炎弾が一直線に飛び、木人を炎上させた。
本当に使えちゃったわ!
すごい……! マジモンの魔法だ……!
しかも俺が使ったんだぜ!?
テンション爆上がりしていると、受付の人が冷静にメモを取る。
「ふふっ、素晴らしいですね。炎魔法が使えるっと……」
俺のことを書いているのか、分厚い本にペンを走らせる。
「他にも試してみますか?」
「……そうですね、やってみます」
一度使えたんだ。他にもいけるか?
今の感覚を頼りに、もう一度魔法を意識する。
「“蒼天より走る雷よ、我が敵を貫け……”」
魔法陣が再び浮かび、雷撃が放たれる。
一直線に木人へ——行くはずだった。
しかし、雷はまるで意志を持っているかのように枝分かれし、背後の壁へと炸裂した。
ドシャァァァ!!
轟音とともに、壁が一部吹き飛ぶ。
「えええええええ!?」
「……雷魔法、使えるけど制御はできないっと」
いやいや、壊したことには無反応なの!?
こうして判明したのは、俺が使える魔法の種類だ。
炎、雷、氷——。
チートきた!?
そう思ったけど、どうやらこの世界では複数属性の魔法を扱えるのは普通らしい。
チートじゃなかった。
仕方ない、これは現実だもの。
その後、簡単なギルドの説明を受け、俺は念願のギルド証明書を発行してもらった。
ちなみに、壊した壁のことは「まぁ、よくあることですね〜」と流された。
……いいのか?
「ふう。とりあえずは依頼を受けて、なんとか稼ごう……」
現状、俺は泊まる宿代すらないんだからな。
そう思い、掲示板の依頼を見に行こうとしたその時——。
「その前に、準備をされたほうがよろしいかと」
受付の人がそう提案してきた。
「準備、ですか?」
「はい。というのも……」
受付の視線が、俺の格好をじっと見つめる。
……はっ!?
赤い薄着のネグリジェみたいな服装に裸足。
今更ながら自覚したが、これ完全に際どい格好じゃね!?
「……っ!」
気づいた瞬間、俺は周囲を見渡した。
思えば、ギルド内の男たちの視線がチクチク刺さっていた。
そりゃ、こんな格好の美少女がいたら見ちゃうよな……!!
というわけで、俺は装備を整えるために武具屋へ向かうことになった。
「……ですが、私、お金を持っていなくて……」
「ですよねー!!!」
そう、俺は金がない。
当然、装備を買う余裕もない。
「ならば……」
受付の人はしばし考え、俺に小袋を手渡した。
「装備を揃えるための餞別として、お受け取りください」
「えっ……? そんな、申し訳ないです……」
見ず知らずの子供に普通、ホイホイ金を渡す!?
俺が戸惑っていると、周囲のギルドの人々も頷いてきた。
「受け取ってやってくれ」
「頼む、今すぐ服を買ってくれ」
「その格好で歩かれると、理性が保たん……!」
なるほど、そういうことか!!
「……では、ありがたくもらいますね」
こうして、次の目的地が決まった。
——冒険者御用達の武具屋へ!