TS美少女魔法剣士は顔がいいだけで生きやすい説   作:ほうき星

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2話

「らっしゃい。……おや、これはこれは。可愛い新人がきたもんだ」

「えっと、今日、冒険者登録をしたばかりで……」

 

 対応してくれたのは、背の高い貫禄ある店主だった。

 おっさんと言うほどでもなく、かといって若いとも言いにくい。

 異世界の年齢感覚がまだよく分からない俺には、渋い兄貴分くらいの印象だ。

 

 ここは冒険者御用達の武具屋。

 

 見渡す限り、剣やナイフ、ボウガンなど、さまざまな武器がズラリと並んでいる。

 リアルではまずお目にかかれない光景に、俺は目を輝かせていた。

 

 そんな様子を見た店主は、俺に必要そうなものを並べてくれる。

 

「何人も冒険者を見てきたから、そのビクビクした態度で分かるんだ」

「受付の方に、装備を整えるよう言われまして……」

 

 あはは、と苦笑いしながら答える。

 いかつい見た目の店主に見下ろされていると、少し緊張する。

 すると、そのキリッとした眉がぐっと寄るとこちらの服装に注目してきた。

 

「……何か訳ありな様子だな」

「実は──」

 

 俺は事前に用意した『記憶喪失の少女・シーラ』の設定を語る。

 道中、魔物に襲われ記憶喪失になり、持ち物も満足になく、行く宛てもない——。

 

 お先真っ暗な少女、シーラ。

 

 それが、俺の考えた 「カバーストーリー」 だ。

 

「そんな大変な目に遭ったのか……若ェのに苦労してんな」

「あはは……ですが、まずはお金を工面しなければなりませんので」

 

 簡単な依頼もあると受付から聞いている。

 戦闘の必要がないものもあるが、報酬はそれなりに低い。

 どの世界でも、簡単な仕事は低報酬なのだ。

 

「扱える武器は、とりあえず剣を……」

 

 ギルドで手に馴染む武器を確認しておいてよかった。

 

「お前さんには、こいつがいいと思うな。軽くて扱いやすい。だがナマクラでもねェ」

「ショートソード、ですか」

 

 店主曰く、シンプルな造りだが初心者向きの武器らしい。

 俺は武器の知識がないので、ここはプロの意見に従うことにする。

 

 手持ちは500G。ショートソードは300G。

 陳列された防具を流し見で値札を確認していくが、防具は思ったよりも高かった。

 

(さすがに、足りない……か?)

 

 俺が唯一身に着けているのは、左手の薬指にある地味な指輪だけだ。

 これを売れば資金は増えるが……。

 

 なぜか、それは絶対にしてはいけない気がした。

 そもそも売れるかもわからない。

 キレイな宝石なんかが付いていたら変わっただろうけど。

 

「お前さん、今の格好……服はそのままなのか?」

「うぐっ……」

「……あのなぁ」

 

 店主は、ため息混じりに頭を掻いた。

 

「防具は後回しでもいいかもしれんが、その格好のままってのはどうなんだ? うちには鎧しかねぇが……そうだな、布の服なら一着あるぞ」

 

 そう言って、店主が取り出したのは簡素な布製のチュニックだった。

 

「質は良くねぇが、下に着る用の服だ。お前さんの服よりはマシだろ」

「……いくらでしょうか?」

「50Gでいい」

 

 安い……! これなら買える! 

 

「では、それもお願いします!」

 

 とりあえず服は着れればいい。

 少なくとも今の際どいままよりはいい。

 

「……でも、サイズは大丈夫か?」

 

 店主の言葉に、俺は「はっ」となった。

 ……そういえば、俺ってこの体のサイズ知らないんだよな。

 

「えっと……たぶん、大丈夫……だと思います?」

 

「たぶん、じゃ困るんだよ」

 

 店主は呆れたようにため息をつく。

 

「普段ならうちの嫁が採寸してくれるんだが、今はあいにく病院に行っててな。帰りは遅くなるらしい」

「えっ……」

 

「……待つか?」

「いえ、そんなに待っていられません。お願いできますか?」

 

「……マジかよ」

 

 店主がわずかに顔をしかめる。

 

 俺としては、サイズを測るだけ なんだから特に気にすることはないと思うんだけど——。

 

「……しゃあねぇな」

 

 店主は小さく息をついて、巻尺を手に取った。

 だが、その指先はほんのわずかに緊張しているように見えた。

 

 ~店の奥の採寸スペース~

 

 小さな個室のようになっていて、棚の上には巻尺や布地が並んでいる。

 俺は指示通りに立ち、店主に背を向けた。

 

「じゃあ、測るぞ。もし何か不快な気分になったら言ってくれ」

「はい、よろしくお願いします」

 

 俺は素直に頷いたが——。

 

 俺は全く気にしていなかった。

 だが、店主の手が俺の肩に触れた瞬間——。

 

「……っ」

 

 指先が一瞬ピクリと震えたのが分かった。

 

(……? なんか、緊張してる?)

 

 俺は特に気にせず、ただじっとしている。

 しかし、店主の動きがどこかぎこちない。

 

「お、おい。変な反応すんなよ」

「えっ? すみません、少しくすぐったくて……」

「……」

 

 店主はため息をつきつつ、ゆっくりと巻尺を俺の肩から腕に沿わせていく。

 肌に巻尺が沿う感触があるが、特に何とも思わない。

 

(んー、測られるのって思ったより時間かかるんだな)

 

 だが、店主の表情は硬いままだった。

 

(……なんか、この人すごく集中してる?)

 

「次、腕な」

 

 店主が俺の右腕を取り、肘を軽く曲げさせる。

 指先がすべるように動き、二の腕を確かめるように触れてきた。

 

「……随分、華奢だな」

「そうでしょうか?」

「……ま、見た目通りっちゃそうだが」

 

 店主がぼそりと呟く。

 

 ……まぁ、そりゃそうだよな。今の俺、美少女だし。

 

 俺自身は何も気にしていない。

 だが、店主の視線が時折、微妙に迷っているのが分かる。

 

「次、腰まわりな」

「はい」

 

 俺は無防備に手を上げ、店主が巻尺を回しやすいようにする。

 

 が——。

 

「……っ」

 

 店主の手が、ほんの少しだけ腰に触れた。

 

 指先がそっと滑るように、くびれの部分を測っていく。

 

(……なんか、くすぐったいような……)

 

「……」

 

 店主が、わずかに息を詰める音が聞こえた。

 

「ど、どうかしました?」

 

「……いや。なんでもねぇ」

 

(いや、絶対なんでもなくないよな……?)

 

 つい先程まで無愛想な店主が、なんだかそわそわしている気がする。

 視線もどこか迷っていて、明らかに「意識しないようにしている」感じだ。

 

 でも、俺としては『ただサイズを測ってもらっているだけ』だし……。

 

「次……胸囲な」

「はい、お願いします」

 

 俺はあまり意識せず、すっと背筋を伸ばす。

 

「っ……」

 

 店主の手が、ほんの一瞬だけ『躊躇』したのが分かった。

 

「……すぐ済ませるぞ」

 

 声がやけに低く、硬い。

 

(え、何? もしかして俺、今ちょっと気まずい状況なのか?)

 

 あぁ、そうか……。

 考えてみれば、普通はこういうの、女性が図るもんだよな……。

 

 店主の手が、巻尺を俺の胸元に回す。

 

「……」

 

(……あれ、意外と……これ、距離近いな?)

 

 とはいえ、別に恥ずかしいっていうよりもただ「店主、すごく頑張ってるなぁ」という印象のほうが強い。

 

「んっ」

「……っ!?」

 

 店主の手が、微妙に震えている気がするのは気のせいだろうか。

 

「……終わったぞ」

 

 数秒後、店主が俺からさっと距離を取った。

 

「ふぅ……なんか変な汗かいたぜ」

 

「そうですか? 測ってもらうだけなのに」

 

 俺が首を傾げると、店主は微妙に眉を寄せた。

 

「……お前さん、もうちょっと自分の状況ってもんを自覚しろよな」

「?」

 

 店主は額を押さえ、小さくため息をつく。

 

「ったく……こっちは、嫁さんがいるってのに」

「えっ?」

 

「……いや、なんでもねぇ。これでサイズは分かったな」

 

 なんだかよく分からないけど、採寸は無事に終了したらしい。

 

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