TS美少女魔法剣士は顔がいいだけで生きやすい説   作:ほうき星

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3話

 

 部屋の隅に簡易的な仕切りが置かれ、着替えスペースになっている。

 店主に案内されると、俺はそこへ入り、手にした布の服を広げた。

 

「……まあ、今のよりはマシか」

 

 着ていたのは、かなり傷んだ赤いドレス。

 生地も薄いし、露出が多くて冒険者向きではなかった。

 

 俺はそれを脱ぎ、鏡の前に立つ。

 

 ──薄く割れた鏡に、俺の姿が映り込んだ。

 

「……へぇ」

 

 光を受けて揺れる銀髪。

 癖が強く、ところどころ跳ねている。

 

 前世ではストレートだったのもあり、このクセ毛にはまだ慣れない。

 指で梳かそうとするが、すぐにハネてしまう。

 

(……ヘアピンとかで留めるしかないか)

 

 いずれ整えるとして、今は “自分がこの顔で生きる” という事実を受け入れるしかない。

 

 ──碧眼。整った顔立ち。すらりとしたシルエット。

 

 改めて見ると、驚くほどの美少女だった。

 

「……本当に、こんな顔で生きていくんだよな」

 

 鏡の中の俺は、前世の俺とはまったく違う。

 女の子らしい輪郭。華奢な体つき。

 

 俺が視線を落とせば、そこには……控えめな胸の膨らみ。

 

「…………まあ、うん」

 

 過度な期待はしていなかったので、特に何も言うまい。

 

(とはいえ、動きやすいのはいいことだよな)

 

 無駄に大きくても、戦闘時には邪魔になるだろうし。

 

 そうして着替えを進めようとしたとき── ふと、首筋に違和感を覚えた。

 

「ん?」

 

 首を軽くひねると、鏡の中に小さな傷跡が映る。

 二つの小さな穴が、均等に並んでいた。

 

「……これ、いつできたんだ?」

 

 不思議に思い、指でそっと触れてみる。

 虫にでも刺されたんだろうか? 

 

(別に痛くはない……)

 

 それに、出血の跡もない。

 それよりも、全身に散らばる痣の方がよほど痛みを伴っている。

 

(まあ、そのうち治るだろ)

 

 そう結論づけ、俺は新しい服に袖を通した。

 

 なんとか着替えを終え、俺は店主のもとへ戻る。

 

「お、来たな」

「はい、言われた通りぴったりでした」

「そりゃよかった」

 

 身に着けたのは、装飾のない シンプルな布の服 。

 色は落ち着いたグレーで、動きやすい作りになっている。

 

 装備を整えながら、俺は手持ちの小袋を取り出した。

 

「これでお願いします」

 

 コトリ とカウンターに置く。

 

 ちなみに、この世界の通貨は 1と10の単位 があり……。1の小貨は今回出番なし。

 それぞれ カッパー(C)、シルバー(S)、ゴールド(G) に分かれている。

 

 この小袋の中には 金貨が50枚 。

 ギルドで受け取った餞別のおかげで、なんとか武器と服を揃えることができた。

 

「お前さん、名前は?」

「シーラです!」

 

 ショートソードを鞘に収め、肩から下げる。

 こうしてみると本物の武器を実際に装備しているという現実味が出てくる。

 これで、見た目だけならすっかり異世界の冒険者だ。

 

「そうか。シーラ、また何かあればよろしくな」

「はい! まだ新人なので、色々お世話になります!」

 

 丁寧に店主の方へと向き直り、深々と頭を下げる。

 

 こうして──。

 俺は世界でようやくスタート地点に立てたのだ。

 

 

 

 

 店を出て、ギルドへと向かう道すがら──。

 

 なんとなく、やたらと視線を浴びている気がする。

 

(……ん? 何だ?)

 

 道ゆく人々が、ちらちらと俺のほうを見てくる。

 

(え、何? どっかおかしいのか? 服、ちゃんと着てるよな……?)

 

 ふと、近くの店の窓ガラスに映る自分をチラリと確認。

 

(……特に変なところは……)

 

 そう思った瞬間── あれ? 

 

 俺はとても美少女だ。

 

 それは分かっている。

 美少女が街を歩いていたら、そりゃ多少の視線は集まるだろう。

 

 だが、なんというか「視線の質」が違う。

 

「……?」

 

 気のせいかと思ったが、通りを歩く別の女性を見て、ようやく気づいた。

 

(あれ……? なんか違う……?)

 

 俺以外の女性たちの歩き方。

 

 スカートを揺らしながらすらりと歩く貴族風の女性。

 軽やかな足取りで市場を歩く町娘たち。

 

 そのどれもがしなやかで、自然な動きをしている。

 

(……あれ?もしかして俺──歩き方が変なのか?)

 

 改めて自分の足元に意識を向ける。

 

 ……俺は大股で歩いていた。

 

 腕を振り、ガツガツと前へ進む 男らしい歩き方 。

 無意識に前世のクセが抜けていなかった。

 

(そりゃ違和感あるわけだ……)

 

 さっきの店主や道行く人々の視線が「ん?」となっていたのは、たぶんこれが原因。

 美少女の見た目に、歩き方が合ってない。

 

(……いや、待てよ)

 

 俺は完全に「男の歩き方」をしていたわけだが──。

 そもそも男と女の歩き方って、そんなに違うのか? 

 たしか、男と女の歩き方って、意識するポイントが違うんだよな

 

 俺が今までのクセで歩いていた「男の歩き方」は──。

 

 ・歩幅が大きい。

 ・背筋を張って、重心を前に乗せる。

 ・足をまっすぐ出し、力強く踏み込む。

 

 まさに「堂々とした」歩き方だった。

 

 でも「女の子の歩き方」は──。

 

 ・歩幅は小さめ。

 ・背筋を伸ばし、重心は後ろ気味。

 ・腰の位置を意識して、足をしなやかに動かす。

 

(……なるほどな)

 

 男の歩き方は「安定性」と「力強さ」が重視される。

 対して、女の歩き方は「柔らかさ」と「バランスの取り方」が違うらしい。

 

 さっき見た町娘たちの動きを思い出しながら、俺は試しに真似してみることにした。

 

「よっと。ほっ……。こう、か?」

 

 俺は意識的に歩幅を小さめにし、背筋を伸ばしてみた。

 足を上げすぎず、肩幅の内側に収めるようにバランスを意識して歩く。

 

(……おお? なんか違うぞ)

 

 歩きづらさはあるが、妙な違和感は少しマシになった気がする。

 

「くるっ」

 

 試しに、その場でくるりと回ってみる。

 

「──っと、わっ」

 

 バランスを崩し、そのまま尻もちをついた。

 

「……ふむ」

 

 思った以上に足が絡まりやすい。

 

(そりゃそうか……前世と違って、手足の長さが全然違うしな)

 

 身長は150cm後半くらい。

 男の頃に比べると視界も低いし、手足も短い。

 

 そもそもこの体に合った動きを身につけないとダメなんだな。

 

「……まあ、慣れればどうってことないか」

 

 尻もちをついたまま、小さく息をつく。

 

 慣れないうちはバランス崩すこともあるだろ。

 

(でも、今のままの歩き方はまずいのは分かった)

 

 周囲の視線に違和感を持たれないためにも、これからは所作を意識していかないといけないな。

 

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