午前の陽射しが強まりはじめた頃、水族館の入り口に立希は立っていた。
待ち合わせの時間まで、まだ一時間以上ある。
「……まあ、別にいいけど」
そう呟きながらスマホを確認する。まだ午前十一時。
一晩寝て、気分は落ち着いた。愛音も一緒とはいえ、燈と休日に出かける”実績”にはなる。
せっかくなら楽しい思い出を作りたい。
そう思いながら、待ち合わせの一時間前に来たものの、思った以上に時間が経たない。ベンチに座ったり、周囲を軽く歩き回ったり、深呼吸をしたりして時間を潰す。それでも、時計の針はなかなか進まない。
やっと待ち合わせの十五分前、十一時四十五分を指した頃、向こうから軽い足取りで近づいてくる影が見えた。
「お待たせ〜! っていうか、りっきー、もう来てたの?」
「……ほんとに来たんだ」
「なにそれ、ひどくない?」
愛音は呆れたように笑いながら、腕を組む。
「もっとこう、『待ってたよ!』とか『楽しみすぎて早く来ちゃった!』とか言えばいいのに~」
「うるさい」
そんな軽口を交わしながら時間を潰していたが、約束の時間になっても燈が現れない。
「……遅いね」
愛音がスマホをいじりながら呟く。
「ともりんって、こういうの遅れるタイプ?」
「うん……」
嫌な予感がした。燈はぼーっとしていることがあるし、何かに夢中になると時間を忘れてしまうこともある。
「私、迎えに行ってくる!」
そう言って、愛音がスマホをしまい、足を踏み出す。
「私も行く」
「ダメだよ、入れ違いになったら困るし。りっきーはここで待ってて」
その言葉に、立希は喉の奥に引っかかった何かを飲み込んだ。確かに、入れ違いはまずい。でも、ただ待つのも落ち着かない。けれど、今は従うしかない。
「……わかった。お願い」
そうして、愛音が走り去る。
胸の痛み
待っている間の数分が、やけに長く感じた。何度もスマホを確認し、何度も水族館の入り口を見つめる。
そして、五分後――
「ほら、ともりん、ちゃんと手、離さないでよ!」
軽い声とともに、愛音に手を引かれた燈が姿を現した。燈は少し困ったような表情をしながら、小さく頷いている。それを見た瞬間、立希の胸がきしむように痛んだ。
「……心配したんだから」
燈がふっと立希を見た。申し訳なさそうに目を伏せようとしたその瞬間――
「ともりんね、また石見てたんだって!」
愛音が楽しそうに言う。
立希の眉が僅かに動いた。
「……おまえに聞いてない」
思わず、低い声がこぼれる。
燈が驚いたように立希を見つめる。
「あ……」
しまった、と思ったが、もう遅い。
「まあまあ、いいじゃん、結果的に見つかったんだし!」
愛音は軽く笑って流そうとするけれど、立希の胸の奥には、まだ言葉にできないモヤモヤが残っていた。