水族館の出口近く、小さな売店の前に三人は並んでいた。
ソフトクリームの甘い香りが漂う。
カップを手にした愛音が「え~、やっぱコーンでしょ!」と不満げに呟きながら、立希のアイスをじっと見つめた。
燈はバニラ、立希はミックス、そして愛音はカラフルなトッピングが散りばめられた派手なものを選んでいた。
「ともりん、何味?」
愛音が覗き込むと、燈は少し間を置いて「……バニラ」と静かに答える。
それを聞いた愛音が「だよね~!」と満足げに頷く横で、立希は自分のアイスを一口かじった。
ふと視線を向けると、燈の頬に小さく白いクリームがついているのが目に入った。
無意識に手を伸ばし、指でそっと拭う。
「べ、べつに……ついてたから」
そう言いながら、誤魔化すようにそっぽを向く立希。
燈は一瞬驚いたように目を瞬かせたが、何も言わずに立希の手を見つめる。
そして、静かに微笑んだ。
「りっきー、まるで彼氏みたい~!」
愛音が楽しげにからかうと、立希は「はっ?」と不機嫌そうに睨みつける。燈は変わらず穏やかな笑みを浮かべ、何も言わない。
その笑顔が、また立希の胸の奥に小さな棘のように刺さった。
あの微笑みは、どういう意味なのか。
自分は燈にとって何なのか。
その問いが喉元までせり上がる。
けれど、立希はそれを飲み込む。
――言ってしまえば、取り返しがつかなくなる気がした。
夜風が少し冷たくなり始めた頃、水族館を後にした。 愛音は用事を忘れていたらしく、「うわ遅刻~怒られる」などと騒ぎながら帰っていった。
街灯がぽつぽつと灯り、道を照らしている。
「送るよ」
結局、問いの代わりに口をついて出たのは、その一言だった。
燈は「うん」とだけ言い、立希と並んで歩く。
いつものことだった。
いつも、それで終わる。
燈のマンションの前、歩道橋の上。静かな夜の風が吹き抜ける。
「立希ちゃん、ありがとう」
ふと燈が立ち止まり、小さな声で礼を言う。
「……別に、このくらい」
そう言いかけると、燈はゆるりと首を振った。
「ライブ、来てくれて」
その言葉に、立希の胸がきゅっと締めつけられる。
燈のためなら、そんなの当たり前なのに。
「当たり前でしょ、むしろごめん。一番に行けなくて」
言葉はいつものようにぶっきらぼうだったけれど、それでも立希はどこか報われた気持ちになった。
それでも。
それでも――。
「また明日!」
振り向かずに歩き出す。
燈がどんな顔をしているのか、怖くて振り返れなかった。
夜の街灯が、ふたりの影を伸ばしていた。