漫画、アニメを観たり読んだりしてる内に、朝井アキラに義兄みたいな概念があったらもっと複雑な感情が見れるのではないかと思い、こんな概念を作ってしまいました。キャラクターや、原作での描写など、至らないところが多いかと思います。
ぜひ最後まで読んでくれると嬉しいです。
夜は静かだ。 昼間の喧騒が嘘みたいに、街は眠りにつき、ほんのわずかな音が遠くで響く。時計の針は午前二時を指していた。
僕はカウンセラーという仕事柄、昼の世界の人間だ。公認心理師として、カウンセラーとして、学生たちの悩みを聞き、問題があれば支援する。それが僕の役目であり、使命でもある。
けれど、夜になるとふと考えることがある。「本当に、昼だけが世界のすべてなのか?」と。 この街には、夜にしか生きられない人間がいる。学校に来ない生徒、昼の世界に馴染めない若者たち。彼らは僕のもとを訪れることもあるし、訪れないこともある。だが、僕は知っている。彼らがどこかで息をひそめながら生きていることを。
僕には義理の妹がいる。朝井アキラ。早寝早起きが習慣で、夜更かしとは無縁の生活を送る真面目な子だ。そんな彼女と違い、僕は夜が好きだ。 ──夜は、心の声が聞こえやすくなる。 昼間は見えなかったものが、暗闇の中で輪郭を持つ。昼の世界では語られない言葉が、夜にはぽつりぽつりとこぼれ落ちる。 だから、僕は夜に歩く。 いつもと違う景色を眺めながら、静かな空気を肺に満たす。
そしてある夜、一人の少年に出会った。
「先生、夜っていいですよね」 彼は笑っていた。眠たげな目で、けれど、どこか楽しそうに。その少年、夜守コウは、夜の世界に足を踏み入れた少年。昼の世界には収まりきれない理由を抱えた少年。僕は、夜に少しずつ惹かれていく自分を感じていた。僕はこの夜に、何を求めているのだろうか?
翌朝、心なしか寝れていなさそうなアキラが学校に行く準備をしている中、僕は彼女に出発するように声をかけた。
「アキラ、今日も気を付けて行っておいで」
「うん、兄さんも頑張ってね」
これが日常になっている。
アキラが学校に行った後、僕は車を走らせて職場である中学校へ向かう。 今年25歳になる僕は、公認心理師という国家資格を持って非常勤のカウンセラーとして中学校に赴任したばかりだ。
実際、この資格を取得するにはかなりの苦労があった。大学で心理学を学び、大学院で専門的な学びを深め、国家試験を受けて、合格しなければ登録されないため、最短でも6年はかかる。 公認心理師というのは、心理的支援が必要な人々をサポートするこころの専門職で、学校や病院、福祉施設など多岐にわたる領域で活動する。僕は、学校という環境の中で、学生たちの悩みに耳を傾け、必要に応じて支援を行っている。
もちろん、僕がここで果たす役割には大きな責任が伴う。公認心理師は、心理的問題に関する知識や技術を駆使して、クライエントが直面している問題を解決する手助けをすることが求められる。 例えば、不登校の問題を抱えている生徒に対しては、まず彼の心の中にある不安や疑問を取り除くことが重要だ。 それには、カウンセリングが不可欠だ。心理学の知識を活かして、生徒一人ひとりと向き合い、彼らの心の中にある答えを引き出す手助けをするのが僕の仕事だ。
僕は、生徒だけでなく教員からも相談を受け付けている。その人に適した支援が求められ、心に寄り添うためには、どんな方法が最適かを慎重に考えなければならない。特に、中学生の不安定さは、思春期を迎え始める年齢のため尚の事だった。集団生活に馴染めないことが、生徒の心にどれだけの影響を与えているのか。
僕は、その答えをまだ見つけていなかった。
職員室に到着すると、澤先生が待っていた。
「おはようございます、トウヤ先生」
「おはようございます、澤先生」
澤先生は、緊張した面持ちで話し始めた。
「実は、夜守についてのことで…」
先生は深刻な表情で語った。
「夜守は、優等生を無理してやっていたと思うんです。」
「なるほど…。彼が無理をしていたと仮定したら燃え尽き症候群のようなものでしょうかね」
「先生、大変申し訳ないですが、夜守のこと願いしてもよろしいでしょうか?」
先生の目には、僕に対する信頼と期待が込められていた。
その数日後、偶然深夜の公園で夜守くんに会った。
「久しぶりだね、夜守君。調子はどう?」
夜守くんは少し驚いた様子だったが、僕の顔を見て少しだけ安心したようだ。
「…先生、学校は嫌いじゃないんすよ。夜のほうが落ち着くんです。」
「わかるよ、夜守君。昼間は、人が多すぎるからね。」
夜守くんは静かに頷いた。
「何か理由があって不登校に?」
彼は少し黙った後、ぽつりと話し始めた。
「…僕、学校がつまらないんです。」 その一言が、僕にとっては大きな意味を持っていた。
部屋の灯りをつけると、薄暗い空間が静かに広がった。
今日は宿題をやるつもりだったのに、結局何も手につかなかった。私はカバンをソファの端に無造作に置いて、そのまま深く溜息をついた。
ずっと考えていた。
幼馴染の夜守コウのことを。
コウが学校に来なくなったのは、ほんの数日前のこと。でも、それがずいぶん長く感じる。今まで当たり前のように毎日会っていたのに、急にいなくなってしまって、どこか落ち着かない。
浅倉さくらがコウのことを好きだったと知ったのは、ほんの少し前のことだった。
私はさくらちゃんと特別親しいわけではない。でも、さくらちゃんがコウのことで私に聞いてきて、その流れで彼女の気持ちを知った。
さくらちゃんは、コウのことが好きだった。
それを聞いたとき、私は何を思ったんだろう。驚いた? いや、それよりも――少しだけ、安心してしまった自分がいた。
コウがさくらを選ばなかったことに、私はどこかホッとしてしまった。
でも、それって、ひどく身勝手な感情じゃないだろうか。
そして、数日後に聞いたのが、あの話だった。
さくらの友人の二人が、コウを責めた。コウがさくらの気持ちに応えなかったことに腹を立てたのか、それとも別の理由があったのかはわからない。でも、彼女たちはコウに向かって、『なんで?』『酷くない?』と問い詰めたのだ。
コウはその後、ただ小さく呟いた。
『俺が変なのかな……』
責め返すこともせず、怒ることもせず、ただ静かに。
その言葉が、ずっと頭の中に残っている。
私は、何も知らなかった。
いや、知ろうとしなかったのかもしれない。
コウがどんな気持ちでいたのか、本当のところを何も知らなかった。
私、退屈しのぎで人を傷つけてしまったのかもしれない。
「……………ッ」
胸がぎゅっと締めつけられて、考えるのが嫌になった。
何か気を紛らわせたくて、部屋を出る。
リビングに行くと、義兄のトウヤがソファに腰掛けていた。仕事から帰ってきたばかりなのか、ワイシャツの袖をまくり、疲れたようにテレビをぼんやりと眺めている。でも、私が来たことにすぐ気づいて、優しい目を向けた。
「どうしたの?」
私は少し迷ったあと、彼の向かいに座る。
「ねえ、兄さんってさ……誰かに謝りたいけど、謝るのが迷惑かもしれないって思ったことある?」
兄さんは驚いたようにまばたきをした。
「……どうしたの、急に?」
「……ちょっと、聞いてみたくなっただけ」
兄さんは少し考えるように視線を落としたあと、「うん、あるよ」と静かに言った。
「そうなの?」
「うん。たぶん、誰にでもあると思う。謝りたいけど、それが相手にとってどうなんだろうって考えること」
私は少し黙って、それから思い切って口を開いた。
「……幼馴染が、不登校になったの」
彼の表情がわずかに柔らいだ。
「そっか……」
それだけの言葉だった。でも、その声が優しくて、私は少しだけ安心した。
「その子、夜守コウっていうんだけど……ちょっと前に、女の子に責められて……。私はその近くで偶然聞いちゃって……」
話しながら、胸の奥がずきずきと痛む。
「コウが『俺が変なのかな』って呟いて……。それを聞いて、なんかすごく気になって……。私はコウのことを知ってるつもりだったけど、本当は全然わかってなかったのかもしれない」
兄さんはじっと私の話を聞いていた。そして、少し考えてから静かに口を開く。
「夜守くんは、きっとすごく真剣に考えたんだと思うよ」
「考えた……?」
「うん。誰かの気持ちに応えないって、簡単なことじゃない。傷つけたくないけど、嘘をつくこともできない。その狭間で、夜守くんはちゃんと自分の答えを出したんだと思う」
私は唇を噛んだ。
「……私は、さくらちゃんの気持ちを知って、少しだけ安心しちゃった。……これ、悪いことだよね……?」
「そっか。でも、それは悪いことじゃないよ」
「……そうなの?」
「うん。誰かを好きになったり、誰かに選ばれたくなったりするのって、ごく自然なことだから。自分の気持ちを責めなくていい」
私は兄の言葉を飲み込むように聞いていた。
「アキラは、夜守くんに謝りたいの?」
私は迷った。でも、正直な気持ちを口にする。
「……わかんない」
兄さんは少しだけ考え込むような顔をしたあと、穏やかに微笑んだ。
「謝ることってね、相手のためでもあるけど、自分のためでもあるんだよ」
「自分の……ため?」
「うん。本当に謝りたいと思うなら、謝ったほうがいい。でも、謝ることで相手がどう感じるかは、アキラが決めることじゃない」
私はその言葉を噛みしめた。
「彼が話をしたいと思ってくれるなら、話をすればいい。でも、今の彼にとってアキラが必要かどうかは、彼自身が決めることだよ」
「……そうだね」
「でもね、アキラ」
「………なに?」
「アキラが今こうして悩んでるってことは、それだけコウのことを大事に思ってる証拠だよ。だから、最低なんかじゃない」
私はハッとして義兄の顔を見た。
「……私、最低じゃない?」
「うん。アキラは優しいよ」
頼りになる義兄の言葉に、私は少しだけ肩の力を抜いた。
「ありがとう、兄さん」
「うん。いつでも話してね」
夜の静けさの中、私はもう一度深呼吸をした。
朝井冬弥(トウヤ)……アキラの義兄。180位で天然パーマを持つカウンセラー。スーツで職場の中学校へ行っている。
作中の公認心理師という資格は実在するもの。詳しくは「厚労省 公認心理師」で検索
朝井アキラ……作者の推し。後半のアキラ視点内容原作漫画四巻の『最低だろうか』から。こんな複雑なことを頼れる誰かに言わないと色んな感情で絶対潰れるだろと考え、少し複雑な考え方をスッキリさせようとしました…上手く描写できてるかなぁ?