原作2巻の白河清澄、並びに11話『需要と供給』について、独自解釈多めになっていますが、温かく見守ってくだされば嬉しいです。
白河清澄がカウンセリングルームの扉をノックする。ほんの少し躊躇した後、深呼吸をしてから軽くドアを押し開ける。部屋の中には、静かな空気と、整然とした家具が並んでいる。誰もがリラックスできるような、優しい雰囲気の中で、1人の男性が椅子に座っていた。
「こんにちは。」
彼は、白河が部屋に足を踏み入れた瞬間に、穏やかな笑みを浮かべて声をかけた。
「こんにちは。」
白河はぎこちなく返事をした。少し汗ばんだ手をハンドタオルで拭きながら、部屋の中央に置かれた椅子に座る。
朝井トウヤは、彼女をじっと見つめることなく、柔らかく微笑んでいた。その微笑みが、白河に対してどこか安心感を与える。
「どうぞ、リラックスしてお話しください。」
トウヤは穏やかに言い、白河にもう一つ椅子をすすめた。
「ありがとうございます。」
白河は少し戸惑いながらも、その言葉に従い椅子に座った。自分の手を軽く組みながら、静かに彼を見つめる。
しばらくの沈黙が流れる。その間、白河は自分の心の中で何を話せばいいのか、何から話し始めるべきかを考えていた。仕事のことか、上司との付き合いか、彼女自身が抱えている疲れのことか。
「今日、どんなことをお話ししたいですか?」
トウヤの静かな声が白河の思考を切り裂く。
白河は少し躊躇した後、口を開いた。
「仕事では特に不満はないんです。」
彼女は言葉を選びながら続けた。
「ただ、会社の飲み会がすごく苦手で…。でも、どうしても行かなきゃいけないって思って、毎回無理して参加しているんです。」
トウヤは静かに頷きながら、白河の話を聞いていた。
「飲み会が苦手なのですね。なぜ、参加し続ける必要があると感じてしまうのでしょうか?」
白河は、少し間を置いてから答えた。
「会社の雰囲気的に、みんな参加しているし、参加しないと、自分が浮いてしまう気がして…。それに、断ると後で何か言われるんじゃないかって気になって。」
トウヤは優しく微笑んだ。
「会社の飲み会に参加することが、白河さんにとってどんな意味を持っているのでしょうか?」
白河はしばらく考え込みながら、目を伏せて言った。
「意味があるのかどうかは、分からないんです。ただ、みんなと一緒にいないと、仕事の一環として失礼だと思うし、後で話を聞くと、どこかで自分だけが除け者になっているんじゃないかって思ってしまうんです。」
「それは、周りとの関係性を大切にしているからこその思いですね。」
トウヤは静かに言った。彼の言葉に、白河は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに頷いた。
「でも、無理して参加していると、どんどん疲れてしまうんです。会話についていけないし、気がついたら終わった後に体が重くなって、家に帰っても何もしたくなくなって。」白河はつい、その疲れを吐露した。
トウヤは静かに耳を傾けながら、白河の言葉を受け止めた。「無理して自分を合わせてしまって、結果的に疲れてしまうことは、誰でも経験することです。」トウヤの声は穏やかで、落ち着いていた。
「でも、どうしてもその場にいないと、何か問題が起きそうな気がして…。断れないんです。」白河は再び言った。その言葉に、彼女の苦しさが少し滲んでいた。
トウヤは少し間を置き、言った。「その気持ちはよく分かります。自分の居場所を確保しようとする思いが、無理に参加する原因になっているのでしょうね。でも、白河さんが無理をして参加することが、果たして周りのためになるのでしょうか?」
「え?」
白河は驚いたように目を見開いた。
トウヤは優しく続けた。
「白河さんが無理して参加することで、逆に自分を疲れさせ、結果的に周りの人に気を使い過ぎてしまうことになっている可能性もあります。」
彼は穏やかな笑顔を浮かべながら言った。
「本当の意味でみんなと楽しく過ごすためには、無理せずに自分のペースを大切にすることが一番だと思います。」
白河はしばらく黙って考えていた。トウヤの言葉が胸に響いてくる。自分がこれまでどれだけ無理していたのか、そしてそのせいでどれほど疲れていたのか、改めて実感した。
「でも…」と、彼女はゆっくりと口を開いた。「無理して参加しなくても、大丈夫だと思ってくれる人たちがいるのか、わからないんです。」
トウヤはその言葉に静かに頷き、ゆっくりと答えた。「周りの人たちは、あなたが疲れていることを気づいているかもしれません。そして、あなたが自分のペースを大切にすることを、理解してくれるはずです。」
白河は少し心が軽くなったように感じた。「そうかもしれませんね…。今まで、自分の気持ちを無視して、ただみんなに合わせることばかり考えていたから、こんなに疲れていたんだと思います。」
トウヤは微笑みながら言った。「少しずつ、自分の気持ちに正直になって、他の人との関係も大切にしていくことが、心の健康には一番良い結果をもたらすと思います。」
白河はゆっくりと頷き、目を閉じた。深呼吸をして、心が少し軽くなるのを感じた。
「ありがとうございます。少し、楽になった気がします。」白河は微笑んで言った。
トウヤは穏やかに笑い、静かに答えた。
「それが大事なことです。少しずつ、自分を大切にしてあげてください。」
白河清澄はトウヤの言葉に少し安心したような表情を浮かべ、深く息をついた。少し肩の力が抜け、無意識に背筋が伸びたように感じる。心が少し軽くなった。彼女は、どこかで自分を押し込めていた部分があったことに気づき、そのことに少し驚いていた。
「でも、正直言うと、自分がどうすればいいのか、まだよくわからないんです。」
白河は、今度は真剣な表情でトウヤに視線を向けた。
「このままじゃ、また同じことを繰り返してしまう気がして、怖いんです。」
トウヤは優しく頷きながら言った。
「それは自然なことです。新しいことを始めるときは、必ず不安がつきまといます。でも、少しずつでいいんです。小さな変化を積み重ねていけば、気づけば大きな変化が現れるものです。」
「小さな変化…」
白河はその言葉に、何度も頭の中で繰り返すようにして考えた。大きな一歩を踏み出すのが怖くて、いつもその場に留まっている自分がいる。だけど、今まで無理をし続けてきたことを考えると、少しずつ変わることに抵抗はなくなりつつあった。
「例えば、次回の飲み会に参加する前に、少しだけ自分の気持ちに問いかけてみることから始めてみてはいかがでしょうか?」トウヤは静かに提案した。「参加するべきかどうか、自分がどんな気持ちでいるのかを考えることが大切です。」
白河はその提案を聞いて、ゆっくりと頷いた。「自分の気持ちを大事にする…。それって、こんな風に考えることすら初めてかもしれません。」
「それも大切な第一歩です。」
トウヤは微笑んだ。
「無理して気を使うばかりではなく、少しでも自分のペースを守ることが、結果的にはより良い関係性を築く手助けになりますよ。」
白河は再度、静かな思索にふけるように目を閉じた。トウヤの言葉が、心の中でじわじわと温かさを広げていくような気がした。少しずつ、自分を大切にすることが自分を守るために必要だということがわかってきた気がする。無理をしていたことが、これまでの自分を疲れさせていたのだと感じる。
「少し、怖いけどやってみます。」
白河は決心したように言った。表情がほんの少し柔らかくなった。
「でも、どうしても自分の気持ちに正直になれないときがあったら、どうすればいいんでしょうか?」
トウヤは少し考えてから、ゆっくりと言った。
「自分の気持ちに正直になるのは簡単なことではありません。しかし、最初は小さな一歩から始めることが大切です。最初は上手くいかないこともあるかもしれませんが、それもまた経験の一つです。」
「小さな一歩…」
白河はその言葉に深く頷いた。
「じゃあ、まずは、自分が嫌なことを無理してやらないように心がけてみます。」
トウヤは白河を見守りながら、温かい微笑みを浮かべた。
「それが最初の一歩です。そして、その一歩が自分を守ることにもつながりますよ。最初は不安でも、続けていくことで、少しずつ自信もついていきます。」
「わかりました。」
白河は少し顔を上げ、前向きな表情を見せた。
「少しずつ、自分を大切にしながら、周りとの関係を築いていけたらいいなと思います。」
トウヤは再び微笑んだ。
「その気持ちがあれば、きっと大丈夫です。自分を大切にすることができると、他の人にも優しく接することができるようになりますから。」
白河は穏やかに頷いた。少しだけ心の重荷が軽くなったように感じ、ほんの少しだけ前を向いて歩き出せる気がした。
「ありがとうございます。すごく助かりました。」
白河は感謝の気持ちを込めて言った。
「どういたしまして。」トウヤは優しく答え、ゆっくりと立ち上がった。
「何か困ったことがあれば、いつでもお話しに来てくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
白河も立ち上がり、部屋を出る前に一度振り返った。少しずつ変わっていく自分を楽しみにしながら。
カウンセリングルームの扉を開けて、白河は静かにその部屋を後にした。その背中には、少しだけ以前よりも軽やかな歩みが感じられた。
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白河清澄は帰り道を歩きながら、カウンセリングのことを思い返していた。トウヤの言葉が心の中に響いている。自分を大切にすること、無理をしないこと、その大切さを改めて実感していた。
街の灯りがぼんやりと照らす中で、白河はゆっくりと歩いていた。気づけば、前に進むための第一歩を踏み出していたことに気づき、心の中で少し微笑んだ。
その夜、白河は自分を少し大切にして、ゆっくりと過ごした。次の日から、少しずつ、無理せず自分を守ることを心がけることにした。そして、彼女はその歩みを、少しずつ確実に進めていった。
数日後の早朝4時、ひょんなことから会って話をするようになった夜守コウに誘われ、吸血鬼である七草ナズナの家で3人でビデオゲームに興じていた。しかし、雨が降ってきたため、3人で一緒に寝ることになった朝井アキラは、彼女の義理の兄である朝井トウヤに連絡をしていた。元々仕事柄遅い時間に帰ってくることの多い彼だが、いつも朝飯の準備をしてくれるのだ。無論、早く起きて家に帰るのがベストではあるのだが。
「とりあえずこれで良し、と……」
トウヤへラインを送信したアキラは、一息つくと
「あの………」
「ん〜?どうしたの朝井ちゃん」
「やっぱ狭くないですか!?」
「うわ声デッカ」
「アキラ、近所迷惑になるよ…」
「あっ、ゴメン夜守…。じゃなくて!」
「まーまーかてーことは言わずに。」
「あ〜もう…。帰ったら兄さんになんて言い訳しよう」
「「兄さん?」」
「朝井ちゃん、お兄ちゃん居たの?」
「ええ、まぁ、そう、ですけど………?」
「スゴくナズナちゃんを怪しんでるじゃん。」
「それは、だって、その、こんな痴女みたいなカッコしてる人?だし……。変な影響を与えないか心配で……。」
「母親の思考になってるけど!?」
「だあーッ!朝井ちゃんの兄ちゃんってどんなヤツ?コウくんみたいな性格してんのか?」
「ナズナちゃん!?」
「えぇ!?えーーっと、その、頼りになる、優しい人…です」
(質問にはちゃんと答えるんだ…………)
夜は更けていく。その頃、深夜に散歩に出かけてくると連絡が来たきり、四時間ほどなんにも連絡がなかったことから何か巻き込まれているのではないかと心配していたトウヤ。アキラから『知り合いの女性の家に泊まらせて貰います』というラインが送られてくると、安堵して2時間の眠りに付いた。
ちなみにアキラが起床したのは朝8時。学校が終わり帰宅した後、トウヤからやんわりと心配したこと、きちんと連絡を心がけることを言われ、アキラは少しヘコんだ。しかし、学校に向かう直前、ナズナに言われたように一日に満足をして、その日は眠りに付くことができた。
朝井トウヤ…深夜に義妹が散歩に行ったきり連絡がなかったのでガチで心配した人。学校は余裕で着いた。非常勤カウンセラーなので、外部機関からのカウンセリングの依頼も来るのではないかと思い、最初の場面の描写を入れた。数日後に白河さんは七草ナズナのマッサージを受けに行き、夜守コウに会う原作2巻の話に繋がるようにした。
朝井アキラ…朝帰り()した女子中学生。義兄トウヤについて聞かれたらしどろもどろになるひと。原作ではしどろもどろになる描写はなかったはずだけどまあええやろの精神で付け加えた独自設定。