緑谷出久は渡我被身子を助けた、という経験から早いうちから自分のことを勘定にいれない動きをしています。
そのため渡我被身子は気が気じゃないです。
エピソード:ヒーローってなに?
前々から思ってた被身子は中学生になって口に出す。
雨の音が静かに響く部屋。
いつも通り、出久の部屋に被身子は来ていた。
いつも通り、ノートを広げてヒーロー分析。
いつも通り、被身子は出久の横顔をじっと見ている。
だけど、いつもと違うのはーー
心の奥に、ずっと引っかかっていたものを、今日はちゃんと口にしようと決めていること。
「ねぇ、出久くん」
「ん?なに?」
「私さ、出久くんがヒーローになりたい理由も、助けたいって気持ちも、ぜんぶ知ってるつもりだよ」
「う…ん?……ありがとう、嬉しいよ」
「でも、知っててもやっぱり怖いんだよね」
「え?」
被身子は、ベッドに座る出久を見下ろす位置に立ち、突然その胸に手をかけた。
小さな身体からは想像もできないほど強く押し倒す。
「ひ、被身子ちゃん!?」
「お願いだから、ちゃんと私を見て」
膝で出久の足を挟み、身を屈める。
「困ってる人を助けたいのは分かる。でも、私が困ってる時、出久くんはどこまで私を見てくれるの?」
「え、えっと、それはもちろんーー」
言いかけた出久の手を、自分の胸にそっと持っていく被身子。
「私が怖いって言ったら、助けてくれる?私が寂しいって言ったら、ちゃんとそばにいてくれる?」
「……!!」
触れた指先の感触に、出久の頭がショートしかける。けれど被身子の目は真剣で、震えている。
「私ね、ずっと分からなかった。これって何なんだろうって。でも今は分かる」
「私、出久くんのことが好き」
「ヒーローになって遠くに行っちゃう出久くんじゃなくてーー」
「私だけを見てくれる出久くんが欲しいの」
「だから……私のこと、どう思ってる?」
雨の音だけが響く。
出久は真っ赤になりながらも、逃げなかった。
「僕は……被身子ちゃんがいてくれたから、僕はヒーローを諦めずにいられてる」
出久は被身子から目を逸らさずに言葉を続ける。
「怖いって言ってくれてありがとう。寂しいって言ってくれてありがとうーー信じてくれてるんだよね」
「僕も、被身子ちゃんのことが好きだよ、ーーでも、ヒーローにもなりたいんだ」
「だから……一緒にいてほしい。僕のヒーローへの道を、隣で見ててほしい」
「……それ、ずるいよ」
「ごめんね。でも僕は、ヒーローも、被身子ちゃんも諦められない」
ぎゅっと、被身子は出久に抱きつく。
「もう、ほんとにずるい……でも、好き」
「ありがと……僕も、好きだよ」
ふわっと抱き返す出久の手が、まだ少し震えている。
それでも、お互いの温度を感じながら、二人はゆっくりと「好き」を確かめ合う。
——ヒーローと少女の、すれ違いながらも寄り添う関係。
この瞬間から、二人はもう“ただの幼馴染”ではいられなくなる。
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エピソード:思春期男子は大変でしょ?
少し時間がたち、落ち着き始めた出久の話。
告白もして、想いも伝わって、気持ちは通じ合った。
安心感とドキドキが入り混じる静かな時間。
被身子は、ベッドの上でまだ真っ赤な出久の上に覆いかぶさったまま、嬉しそうに彼を見下ろしていた。
「えへへ〜、こうしてるとカップルって感じだねぇ」
「え、えぇっと、そ、そう……かも……」
「んふふ、出久くん、顔真っ赤だよ?そんなに恥ずかしい?」
「いや、そりゃ恥ずかしいというか、その…だって、すごく近いし……!」
顔を背けようとする出久の頬を両手で挟んで、被身子はふっと微笑む。
「ねぇねぇ、思春期の男の子って、いろいろ大変なんでしょ?」
「は!?な、なにその話!?」
「そういうの、雑誌とかネットで見たもん〜。好きな子とくっついてると、勝手に身体が反応しちゃうとかさぁ」
「や、やめて!その話やめてぇ!!」
「ふふっ、でも本当にそうなの?」
「ええええ!?いや、そりゃまぁ、その、ほら、男子はそういうのって……って何を言わせるの!?」
真っ赤な顔でジタバタする出久を押さえつけたまま、被身子はさらに近づいて、耳元でささやく。
「ねぇ……私、出久くんの“そういうとこ”見てみたいなぁ」
「!!!!!???」
思わず飛び上がりそうになる出久。けれど被身子は、出久の胸に頬を預けてクスクス笑っている。
「やっぱりカワイイなぁ、出久くん。真面目すぎてすぐオロオロするんだもん」
「い、意地悪しないでよぉ……!」
「意地悪じゃないもん。私、本気だよ?」
「え……?」
「好きな人の全部、知りたいし、好きになりたい。出久くんが私のことも受け入れてくれたみたいに、私も出久くんの全部、受け止めたいなって」
照れながらも真剣な表情の被身子。
からかい半分の空気から、一瞬で本気に変わるその目に、出久はドキッとして言葉を失う。
「……僕は、その……まだ全然、そういうの、分からないけど……」
「うん」
「でも、被身子ちゃんが好きだから……いつか、ちゃんと」
「ふふっ、出久くん真面目すぎ〜!」
そう言って笑いながら、ぎゅっと抱きしめる被身子。
「焦らないから、ゆっくりでいいよ。でも、これだけは覚えててね?私、ずーっと出久くんが好きだから」
耳元で囁くように続ける。
「だから、逃がさないんだから」
「ひえぇぇ……!」
ドキドキしながらも嬉しくて、幸せで、くすぐったい夜。
お互い初めての“恋人らしい夜”は、ぎこちなくて甘酸っぱくて、でも何より暖かかった。
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エピソード:血以外の満たされ方
お付き合いが始まってしばらくたったあと
「ねぇ出久くん」
被身子が布団の上でゴロゴロしながら、隣に座る出久をじっと見つめる。
さっきからずっと落ち着かない様子の出久は、気まずそうに目をそらしたり、膝を擦ったり。
「ど、どうしたの……?」
「なんかね、すごくしたいことがあるんだよね〜」
「し、したいこと!?」
「うん。でも、ちょっと恥ずかしいかも……」
「え……?その……ど、どんな?」
「んふふ。こういうの」
突然、被身子は出久の首にぴたりと顔を寄せた。
「あっ……!?」
次の瞬間ーー
”じゅっ……”と、吸い付く音。
柔らかい唇と、少し濡れた舌の感触が、じわっと首筋に染み込んでいく。
「ひぃぃぃぃ!?」
出久は悲鳴をあげてのけぞるが、被身子はそのまま離れない。
「んー、ちゃんと跡ついたかなぁ?」
「つ、ついた!?え、嘘、なんで!?なんでそんなこと……!」
「んふふ〜。マーキング♡」
「マー、マーキングって……!?それ、動物じゃん!!」
「んふふ♡」
ケラケラ笑う被身子に、真っ赤になった出久は耳まで押さえる。
「な、なんでそんなことするの……?」
「だって、出久くんは私のものだもん」
「えええええ!!??」
「好きな人にはね、他の子に取られないようにしるしつけるの。知ってるでしょ?」
「知らないよ!!そんなの知らない!!」
「ふふっ、これで学校行ったら、みんなにバレちゃうかもねぇ?」
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
「でもさ、血を吸うわけじゃなくて、こうやって好きな人に触れるの、すごく幸せ。ーー私の“好き”って、血だけじゃないんだよ?ちゃんと、普通にこういうことしたいの」
「普通に……?」
「そう。普通の女の子みたいに、好きな人に触れて、好きな人の匂い嗅いで、好きな人にしるしつけて、独り占めするのーー血なんか飲まなくても、好きって伝わるでしょ?」
「被身子ちゃん……」
被身子はニッコリ笑って、もう一度出久の首に口づける。
「でも出久くんの血も、いつかは飲みたいけどね♡」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「冗談だよ〜」
真っ赤になってうずくまる出久を見ながら、被身子は「これでいい」と思った。
血じゃなくて、こうやって“普通の恋”を知っていくことも。
出久くんが私を好きになってくれて、私も普通に好きになって、普通に触れて、普通に独り占めしてーー
それが、今いちばん幸せ。
「だから、もっといっぱい好きにさせてね?」
「……もう、ほんとに勘弁して……」
夜の静かな部屋に、ふたりの笑い声と心臓のドキドキだけが響いていた。
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エピソード:わたしにもして?
情調が爆発している出久に追い打ちをかける
「ふふ、出久くんの首、私のしるしバッチリだね〜」
被身子は満足そうに出久の首筋をツンツン。
「はぁ…はぁ…もう勘弁して……」
出久は顔真っ赤でベッドに突っ伏している。
「ねぇ」
「……なに?」
「私にも、して?」
「へ?」
「ほら、私も出久くんのものって分かるように、しるしつけて?」
そう言って、被身子は自分の襟をスルリと引き下げる。白い首筋が目の前に現れる。出久の喉が、ゴクリと鳴った。
「いやいやいや!!そんなの無理だよ!!」
「なんで?」
「女の子にそんなこと……!」
「私だけがつけるんじゃずるいでしょ?」
「でも……!」
「でも、じゃないの」と被身子はベッドに座る出久の両膝に跨って、首を少し傾ける。
「私も、出久くんに“好き”ってされたい…だから……ね?」
わざと首元を押さえ、鎖骨まで見えるように開ける。出久の視線が、そこに釘付けになる。
「ほら、出久くんがしてくれたら、きっとすっごくドキドキすると思うんだよね」
「そ、そんな……!」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……恥ずかしい……」
「私も恥ずかしいけど、好きだからしてるの…だから、出久くんも、して?」
泣きそうな上目遣い。耳まで真っ赤にしながら、震える出久は、ゆっくりと被身子の肩に手を置く。
「……本当に、いいの?」
「うん。だって、好きだもん」
出久は震える手で、そっと被身子の首筋に唇を近づける。
「うぅ……ほんとにこんなの、どこで覚えたの……」
「秘密♡」
そして——
”じゅ……”
優しく、吸い付く。
「んっ……♡」 被身子の小さな吐息。
びくっと身体が跳ねる。
「ご、ごめん!痛かった!?」
「んーん、嬉しい……♡」
唇を離した首筋には、ほんのり赤い跡。
「出久くん、やっと私にも“しるし”くれたね」
「なんか……すっごくドキドキする……」
「私もだよ♡」
「こんなの、もう……彼女ってレベル超えてるよぉ……」
「え?違うの?私はもう“出久くんのお嫁さん”くらいの気持ちだけど?」
「えぇぇぇぇ!?」
「んふふ、でもさ、これでお揃いだね♡」
出久の首には被身子のしるし。
被身子の首には出久のしるし。
思春期まっただ中の恋人たちの、ちょっぴり危うくて、でも確かな「好き」の証。
「ねぇ、こうやってずっと、出久くんだけの女の子でいたいな」
「……もう少し刺激弱めでお願いします。」
甘くて苦くて、ちょっと背伸びした夜。
こうして二人の「好き」は、確かな形になっていく。
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エピソード:普通をくれた人
緊張やいろいろからの疲れで寝始めた出久を見ている被身子
隣で寝息を立てる出久。
いつもは慌ただしく、オロオロして、笑ったり、怒ったり、泣いたり。だけど今は、すごく穏やかで優しい顔をしてる。
「ふふ、可愛い寝顔」
そっと、出久の髪を撫でる。
こうして触れるだけで、胸の奥があったかくなる。
——あたし、変わったなぁ。
血を見るたびにゾクゾクして、それが“好き”だと思ってた。誰かの傷からにじむ赤い液体が、たまらなく愛おしかった。それが普通だって思ってたのに。
でも今、あたしをこんなに満たしてくれるのはーー血じゃなくて、この寝顔だ。
「出久くん、ありがとうね」
初めて会ったあの日から、ずっとあたしを見捨てずにいてくれた。
“普通の女の子”として、好きになってくれた。
“普通の恋人”として、触れてくれた。
血を飲まなくても、こうやって好きな人に触れるだけで、こんなに幸せなんだって、出久くんが教えてくれた。
「これが、普通の恋なんだね」
被身子は自分の首に残る赤い跡にそっと触れる。
じんわりとした痛みが、愛しくてたまらない。
“ヒミコ”として生きてきたあたしが、“普通の女の子”になれた証。
「ほんとにずるいよ、出久くんは」
あたしはきっと、これからも少しおかしいままだけど。
それでも、この人の隣にいると決めた。
血じゃなく、愛で満たしてくれるこの人を、絶対に守るって決めた。
「どんなヒーローより、あたしが一番に出久くんを助けてみせる」
だって、あたしのヒーローは、世界で一番弱くて優しい人だから。
「おやすみ、出久くん」
唇をそっと額に押し当てる。そして、被身子もまた、安心したように目を閉じた。
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エピソード:先にヒーローになるから、早く来てね!待ってるからね!
一足先にヒーローへの道へ足を踏み出した被身子
ある日の帰り道。
中学卒業が近づき、被身子はひと足先に雄英への推薦が決まった。
「すごいよ、被身子ちゃん!本当にヒーローになるんだね!」
「んふふ、まぁ当然でしょ?あたし、しっかりとヒーローになる理由があるんだから!」
そう言って、満面の笑顔を向ける。
「あたしを助けてくれた出久くんと、家族にしてくれた緑谷家のみんなの優しさーーそれを、あたしがヒーローになって、世界中に広めるんだもん!」
「世界中に?」
「そう!あたしみたいに“普通じゃない”って言われて、家にも居場所がなくて、血が好きってだけで化け物扱いされる子が、世界にはまだいっぱいいると思う。ーーだからね、あたしがヒーローになって、その子たちに言うの。“あたしは君を見捨てない。最後まで隣にいるよ”って。助けたその後まで見捨てない、それがあたしのヒーローだから!」
出久は息を飲んだ。その言葉は、まるで出久自身が被身子に言った言葉の先みたいに感じた。
「ヒーローは、敵を倒して目立つためにいるんじゃない。困ってる人が“笑って生きられる日”がくるまで、一緒にいるためにいるんだよ。それをあたしに教えてくれたのはーー出久くん、あなたなんだから!」
「……僕?」
「そーだよ!だから、出久くんも必ずヒーローになるんだから!」
そう言って、くるりと振り向き、真っ直ぐな瞳で言い切る。
「私が先に雄英でヒーローになるから!ちゃんとヒーロー科に受かって、絶対に後から来るんだよ!独りにしないって、約束したもんね?」
「う、うん!」
「よーし、約束ね♡」
被身子が差し出した手。
出久は、その手をぎゅっと握る。
幼い頃、出久が差し伸べた手を、今度は被身子が差し出してくれた。
「僕……必ず行く!被身子ちゃんが待ってるから、僕も絶対ヒーローになる!」
<渡我被身子のヒーロー感>
最初の手助け(一番最初に出久が差し伸べてくれた手)だけではなく、その後についても寄り添えるのが真のヒーローであるという考えをもつ。
(出久の母が家族として迎えてくれて、それを当たり前に受け入れて増えた家族の分も頑張って働こうとする出久の父を見て、緑谷家そのものがヒーローのような存在。もちろん一番最初のきっかけをくれた出久が一番のヒーロー。)
・出久は“最初のヒーロー”。
・引子は“受け入れるヒーロー”。
・父は“支えるヒーロー”。
被身子は「家族全員がヒーローとして自分を救ってくれた」と感じている。
そのためただ「倒した数」とか「救助人数」とか「ランキング」で語られるだけの注目を浴びているヒーローに対しては力だけを保持し、たまたま体制側に属しているだけなのでは?という考えがどこかある。
こんな感じで細々と投稿するのでよろしければお付き合いいただければ。