不幸にも虚飾の魔女に懐かれてしまった男   作:OZ

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友達契約

「────仲直りしようぜ、レグルス」

「............はあああああ!?」

 

 今までの話の流れをぶった切る突拍子のない俺の申し出に、当然のことながらレグルスは困惑の声を上げた。そりゃあそういう反応するだろうな。

 俺だって、レグルスとの和解案をパンドラから提案された時は困惑した。

 それもこちらが勝利した上での和解。

 プライドが高いレグルスがそんな申し出を受けるはずがないなんてことはわかりきったことだからだ。

 

「き、君さぁ......自分がどんな傲慢なことを言っているか自覚はないわけ?平和的な話し合いをしにきただけの僕を魔女と共謀して、あろうことか卑劣な罠に嵌め一方的に暴力を振るっておきながら、痛みに動けない僕に和解を持ち出してくるとかどういう神経してるの?自分にとって圧倒的に優位な状況でそんな提案をするなんて、脅し同然だよね」

「......急にギア上げてくんなぁ」

 

 しかし、参ったな。

 支離滅裂な発言しかしないことでお馴染みのレグルスさんが珍しくまともなことを言っている。

 平和的な話し合いをしにきた、という一点を除けば何も言い返せないぞ......。

 立ち上がることもできないレベルでボコボコにしてから、和解しようだなんていくら何でもタチが悪すぎるよな。

 ──まあ、脅し同然って言葉に関しては言い返すどころか、むしろ全肯定してやるけどな。

 和解しようとは思わなかったけど、この状況自体は元より想定していたんだ。

 屋敷に侵攻してきたレグルスの処遇をどうするべきか。

 殺すか、生かすか。

 人殺しは絶対に避けたいという俺の常識人として当然の考えから、殺すという選択肢は自然と除外される。

 なら、消去法で生かすことになるのだが、殺しというシンプルな終着点と違って、生かすとなると事後処理を色々と考えないといけない。

 絶対条件は、レグルスを生かすことで発生する危険が俺に及ばないこと。

 わかりやすいのが、復讐だ。

 執念深いレグルスのことだ。何の善後策も講じなければ、今回の一見を深く根に持ったレグルスが俺に復讐しにやってくるのは目に見えている。

 だから、どうにかこうにかしてレグルスから牙を抜かなければならないと思っていたのだが......そこにパンドラが和解案を提示してきたのだ。

 まあ、今のレグルスの拒否感に塗れた反応を見る限り、普通に和解するってのは難しそうだけど。でも、物は試しだ。

 とりあえずやってみて、駄目そうだったら遺憾ながらロリっ子に助け船を出してもらうことにしよう。

 

「──レグルス。一つ重要なのは、そもそも俺達は争うような関係性にないってことだ。魔女教という名の一つの組織に属する仲間。そうだろ?」

「......その仲間に対して先に暴力を振るってきたのは君だろ」

「それはそうだが、元はと言えば、お前が原因だろ。平和的な話し合いとか言ってたが、お前は明確な殺意を持って、ここにきたはずだ」

「否定させてもらう。誓って、僕は話し合いをしにきただけだ。多少なりとも憤った気持ちがあったのは確かだけど、殺意なんてものは欠片もないさ。僕はただ、自分の大切な妻達を付け狙う輩を武力を介さず話をつけにきただけだよ」

「付け狙う?何の話だ?」

 

 虚飾の権能で花嫁がこの屋敷にいなかったという事実に書き換えられたことで、俺と花嫁達──もといメイド達との接点は消えるはずだ。レグルスの現在の住まいに残っているとなれば、俺との物理的距離も遠いはず。付け狙う、なんてことは不可能だ。

「惚けるな。さっきから僕達の会話を気持ちの悪い笑みを浮かべながら無言で聞いているその女から聞かされたんだ。女性教徒を囲って酒池肉林に及ぼうとしてる輩がいるってね。さらには、僕の妻達まで狙ってるときた。だから、僕は夫として妻を守る義務を果たす為に、ここまでわざわざ足を運んできたわけさ」

 

「い、いやいや......会ったこともないのに、狙うもクソもないだろ......」

 

 ......なるほどな。そういう感じに軌道修正されてるわけね。

 虚飾の権能があろうとなかろうと、どちらにせよパンドラの余計な告げ口がレグルスが屋敷を訪れる動機になったと......。

 

「酒池肉林に関しては否定しないのかい?やっぱり君は思った通りの人間みたいだ。性に奔放で欲を抑えられない堕落した存在だ。僕の妻を狙っていないという主張も疑わしいね」

「て、てめえ......」

 

 好き勝手言いやがって......

 せっかくこっちが和解という最も平和的な解決策を提示してやってるってのに、この態度。

 物理的な暴力が不可能だからって、言葉での口撃に切り替えてきやがった。

 穏便に会話を進めてやろうと思ったが、どうやら間違いだったらしい。

 強気に出ないと、こいつはますます調子づくことだろう。

 

「ははは。やっぱり否定できないみたいだね。ほんと君って──」

「うるせー!美女とあらば、見境なく自分の妻にしようとする変態野郎がっ。異世界ハーレムなんてくだらない妄想は、てめえの頭の中だけで済ませろ!男なら一人の女を愛せよ!」

「い、異世界?はーれむ?反論できないからって、よくわからない言葉を使って煙に巻こうとするなんて愚かだね」

 俺の剣幕に若干レグルスがたじろぐが、小生意気な口が止まることはなかった。

「一人の女を愛せ、という言葉は大いに同意するところではありますが、あなたもはーれむがどうとか常日頃から口にしていませんでした?」

 

 ずっと黙っていたパンドラまで口を挟んでくる始末。

 こいつ、俺達に和解してほしいなら、余計なこと言ってくんなよ......。

 というか、和解なんて無理なんじゃないか?

 早々に俺は諦めムードに入りつつあった。

 プライドの高いレグルスが素直に和解に応じるとは考えにくし、パンドラは和解策を提示するだけで協力の一つもしないし。

 

「はぁ......魔女教徒ってやつは頭おかしい奴しかいないのかよ」

 

 今は亡き、狂人界の常識人ことペテルギウス・ロマネコンティを恋しく思ってしまう。

 あの人なら、「和解!それ即ち愛デス!」とか言ってとんとん拍子でことは進んでいたはずだ。

 なのに、こいつらときたら......。

 

「あなたも魔女教徒では?」

「自分が狂ってることを理解できないことほど哀れなことはないよね」

 

 同じ狂人同士、波長が合うのか、なぜか結託したような形で反論してくる。

 常識人が一人、狂人が二人、少数派である俺の意見は通らないらしい。

 ──駄目だ。話し合いで後腐れの無い和解なんて夢物語だ。

 レグルスという脅威を招いたものの、その脅威の打倒に力添えしてくれたこともあって、多少は意を汲んでやろうと考えていたが、やめだ。

 そう結論付けると、俺から不穏な空気を感じ取ったのか、レグルスが少し慌てたような様子を見せる。

 

「ど、どうしたんだい?急に黙りこくって。ほら、和解についての話し合いをするんじゃなかったのかい?」

「......ああ、そのつもりだったんだが、たった今思い直した。和解なんて生温いってな」

「ちょ、ちょっと落ち着こうよ。その判断は流石に早計過ぎない?僕達にはまだ語り合いの時間が足りない。胸襟を開いて、互いが歩み寄りの心を持つ。そうした心掛けが大事だと僕は思うんだ」

「へー、歩み寄り。ねえ」

 

 強気になるやいなや、急に日和った態度を見せてきたな、こいつ。

 原作でも、エミリアの手で花嫁全員が氷漬けにされたことで強欲の権能が機能しなくなった時は、こうして豹変していたっけな。

 けど、そんな猿芝居が通じるやつは残念ながらいないぞ、レグルス。

 

「同じ魔女教徒のよしみだ。最初は穏便に済ませようと思っていたが、こうなっては最終手段を使うしかないな」

「さ、最終手段......?ま、まさか、君......」

 俺の言葉から恐ろしい結末を想像したのか、レグルスの顔がみるみるうちに青くなっていく。

「最後に言い残す言葉はあるか?」

「ま、待ってくれ!さっき君は僕を仲間だと言っただろ!?仲間の言うことにもう少し耳を貸してみる気はないかい......っ!?」

「今から三十秒後に俺のドーナが炸裂します。いーち......にーい......」

「なっ......!?お、おい!虚飾の魔女!君は彼の随分深い仲のようだ。今すぐに彼を説得してくれっ!!」

「コ、コルニアス司教......随分深い仲とはどういう意味でしょうか?傍から見れば、やはり私達は恋人関係に見えてしまうのでしょうか?ふふ......少し恥ずかしいですね」

「照れるなっ!それは本題じゃない。今、僕が君にわざわざこうして頭を下げてまでお願いしているのは、彼の説得だ!」

 

 レグルスが必死に懇願するものの、パンドラは見当違いな答えを返すだけ。

 十秒が経過。もう三分の一だ。

 残念だったな、レグルス。

 そいつは会話が通じないんだ。

 

「クソッ......ほんとに使えない女だ。僕がこんな状況になったのも、元はと言えばこの女のせいだ。僕とこの男を引き合わせたのもこいつだ。そう、僕は嵌められたんだ。なんでだよ。誰にも迷惑をかけることなく、常に自分という存在に満足感を感じ、無欲で慎ましい生活を送っていただけの僕がなんでこんな災難に見舞われなくちゃならないんだ」

 

 ガシガシと白髪をかきむしり始めるレグルスが地面に顔を伏したまま、滔々と呪詛を吐いていた。

 しまいには、恒例の「僕は悪くない」連呼をしはじめる始末。

 

「僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない」

「深い仲......やはり良い響きですね」

 

 文字や画面越しであれば笑えるシーンだったんだけど、こうして現実でこの情けない有様を中々苦しいものがある。

 そして、そこのロリっ子。お前はいつまで照れてんだ。

 

「僕は......悪くない。なんで、僕がこんな目に遭うんだ」

「魂の契約が関係しているのでしょうか。お互いの魂に絶対遵守の約束を刻み込む。それはもはや愛の契約と言っても差し支えないのかもしれませんね」

「にじゅうごー......はぁ、数えるのもちょっと飽きてきたな。やめだ、やめ」

「僕は悪く......え......い、今やめだって言ったのかい!?は、はは......ほんとによかったよ。やっぱり君は話せばわかるやつだと僕は最初からわかっていたよ。そう、殺すことでしか解決できない問題なんてないんだ。やっぱり人間、話し合いが大切だよね」

 

 俺がカウントを取りやめると、さっきまでこの世の終わりみたいな表情を浮かべていたレグルスは一気に目に光を取り戻し、馴れ馴れしく話しかけてくる。

 変わり身が早すぎてちょっとうざいな。カウント再開してやろうか?

 ──まあ、こんくらいで勘弁してやるか。

 これでレグルスには十分な精神的恐怖を与えられたはずだ。

 しばらくの間は、保身の為に下手に出てくるはずだ。

 これでやっと、俺が望んだ形での和解ができる。

 俺が上で、レグルスが下の、完全な従属関係を形成した上での和解案。

 パンドラがさっき名前を挙げていた、『魂の契約』を行う準備は整った。

 

「レグルス。俺は思い直したよ。殺すことでしか解決できない問題はない。お前の言葉が心に沁みたよ」

「だ、だよね!?うん、話し合いを前提とした平和的な解決。僕達に必要なのはそれだけだったんだ」

「......それなのに、俺は冷静に話し合いをしようとしてくれたお前を一方的な暴力に晒してしまって......すげえ後悔してるよ」

「その気持ちだけで十分さ。僕は君を許そう。同じ魔女教の仲間だからね」

「......ありがとな。でさ、そんな優しいレグルスに提案なんだけどさ......俺と仲直りしてくれないか?」

「もちろんだとも。いや、もう既に僕達の間にはわだかまりなんて無くて、仲直りは完了している。そうは思わないかい?」

「お、おおおお......!!確かにお前の言うとおりだ」

 

 違和感ありまくりのレグルスの言葉に、大きく同意する。

 目を伏せ、声を震わせ、目元をごしごしと片腕で擦りあげる。

 そうだ。これが俺の望んだ和解。

 和を以て貴しとなす。昔の偉い人はとんだ金言を残したものだ。

 

「──けどさ」

 

 ぼそりと俺は呟いた。

 レグルスは上手く俺を懐柔できたと思っているのか、嫌に微笑ましい笑みを浮かべて、俺の次の言葉を待っている。パンドラは──こいつ、わかってやがんな。薄笑いを浮かべて、無邪気にはしゃいだ様子を見せるレグルスを面白そうに見下ろしていた。

 

「どうせなら、仲直りの証が俺は欲しいんだよ。今の言葉もやり取りでもお前との絆を感じられたけどさ、もっと俺は疑いようがまるでないような、清廉で潔白な完全な仲直りがしたいんだ」

「......あ、ああ!それは勿論歓迎さ!僕もちょうど君と同じことを考えていたんだ」

 今、一瞬面倒くさそうな表情を浮かべたのを俺は見逃してないぞ、レグルス。

 薄ら寒いうわべだけの言葉のやり取りだけでこの場をやり過ごせると思ったら、大間違いだ。

「はは、お前ならそう言ってくれると思ってたよ。なあ、そこで提案なんだけどさ。『魂の契約』なんてのはどうだ?この世でもっとも確かな信頼の形だと俺は思ってるんだ」

「......た、魂の契約だって?」

 

 俺の言葉にレグルスの目がぎょっとした。

 伊達に数百年も生きていないはずだ。『魂の契約』がどんなものであるか。

 長寿のレグルスなら、きっと知っている。

 知っているからこそ、そんな顔をしてるんだろ?

 

「そんな嫌そうな顔するなよ。ただの仲直りにしては大仰かもしれないけどさ」

「べ、別に嫌そうな顔なんてしていないさ!ま、まあ驚きはしたけどさ!?うん、僕は君のその案、すごく良いと思うよ」

 

 顔中に汗をぶあっと流しながら、レグルスが引きつった笑顔を浮かべる。

 これまでの長い人生、人を嘲るような笑みしか浮かべてこなかっただろうから、今みたいな媚びた笑みを浮かべるのは苦痛だろうな。

 でも、これからの人生は更に苦痛に塗れたものになるだろうぜ。これから俺が提示する約束事によってな。

 

「仲直りをするにあたって、俺はいくつかお前に約束してほしいことがある」

「や、約束......ね。はは、それは一体どんなものなのかな......」

「なに、別にこれといって難しいもんじゃない。暴力を振るわないとか、人のモノを勝手に盗らないとか、友達の間では当たり前の決まり事だけだ」

「う、うん。それなら、簡単だよね。でも、それってわざわざ『魂の契約』までして、定めなきゃいけないことかな?友達なんだ。暗黙の了解程度に留めておくのがいいと、僕は思うんだけど......」

 

 はっ。必死だなぁ、レグルス。

 そんなに俺に復讐したいかよ。

 今でも表面上は媚びたように振舞って、腹の底では俺への怒りを燃え滾らせてるんだろ?

 そんなお前の浅はかな考えを見透かしているからこそ、俺はお前に絶対に外れることのない首輪をつけてやる。

 

「友達ルール1。レグルス・コルニアスは友達に対し危害を加えることはできない。直接的な危害はもちろん、他人を使って間接的に危害を加えるのも禁止だ。あと、友達っていうのはもちろん俺のことだ」

「ちょ、ちょっと急に何を言い始めてるんだ。友達ルール?友達にルールが必要だと僕は思わないよ」

 レグルスが顔を真っ青にして抗議してるが、無視無視。

「友達ルール2。レグルス・コルニアスは友達が危険な目に遭った時、必ず助けに入ること。虐められてる友達を助けるのは当たり前のことだよな。よし、次」

「ま、待っ──」

 

 *****

 

 レグルスの制止の言葉に耳を傾けることなく、俺は次々と友達ルールを展開していった。

 

「次で最後だ。友達ルール50。奥さんは大切にすること。ちなみに今までの前科があるから、これからはレグルスからの能動的な接触は禁止な。あと、新しく花嫁を増やすのも禁止だ」

「な......な......あああ......」

 

 ルール30あたりから、レグルスはずっとこの調子だ。

 ったく。友達の話にはちゃんと耳を傾けろよな。

「やっぱり、カガリ君は鬼畜ですね」

 恍惚とした表情でそんなことを言ってくるパンドラを無視して、俺はレグルスの元にしゃがみ込む。

「............」

 虚ろな瞳で見上げられる。

「これからよろしくな。ルールを守って、これからは仲良くやろうぜ」

「は、はははは......はははははははは......」

 こうして俺とレグルスは友達同士の約束──もとい『魂の契約』を結んだ。

 

 

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