不幸にも虚飾の魔女に懐かれてしまった男 作:OZ
『幸運の仮面』を入手した俺は、続いて認識阻害ローブを求めて魔法器店へと赴いた。
残念なことにローブは売っていなかったが、代わりに役立ちそうなモノをいくつか購入しておいた。
貴族などの上流階級の人間が出入りするような高級店なので、全部合わせると結構な値段がしたのだが、支払いをするのは俺じゃないし、まぁいいだろう。
「一応感謝しておくぜ、パンドラ。この6つのアイテムがあれば、どんな状況にも対応できそうだ」
「『幸運の仮面』を含めると、『傲慢の7つ道具』というわけですね。流石はカガリくんです」
「おい、パンドラ。『傲慢邸』と言い、何でもかんでも傲慢と結びつけようとするなよ。あと、本名で呼ぶな。この街では、俺のことはアロガンツ様と呼べっつったろ。ひっぱたくぞ」
そう強い口調で言って、パンドラを睨みつける。
しかし、コイツときたら嬉しそうに頬を赤らめるだけで、全く俺の言葉が響いてない模様。
「わかりました、カガリくん──あっ、また間違えてしまいました。これはいけません......ひっぱたかれてしまいます......」
わざとらしく間違えて、爛々と期待の目を向けてくるが、俺はそれを当然無視する。
......本当に扱いにくい魔女だ。
何とかしてコイツの弱みなんかを握れないものだろうか。それを盾にすることができれば、この奇特な魔女をいくらか制御できるかもしれないが......今のところ、そんなものは1つも見当たらない。
「カガ──アロガンツ様。お買い物は済んだということなので、そろそろ宿に向かうのはどうでしょうか?」
「そうだな。なんて名前の宿なんだ?」
「ここから少し歩いたところにある、『水の羽衣亭』という宿です」
「『水の羽衣亭』?どこかで聞いたことがある名前だな」
「プリステラ随一のワフー建築の高級宿ですから。どこかで耳にしたことがあるのかもしれません」
「......そうかもな。でも、なんか引っかかるんだよな。ワフー建築で結構グレードの高い宿で......まぁ、いいか。予約はもう済ませてあるんだよな?」
「もちろんです。一番上等な部屋をお取りしていますので、きっとカガ──アロガンツ様もお気に召すかと」
「よし。荷物も整理したいことだし、行ってみるか」
そうして、俺達は『水の羽衣亭』へと向かった。
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「やっぱり良いな、ワフー建築ってのは......カララギでもたくさん目にしたが、ノスタルジックな気分に浸れるというか。日本人としての俺の感性に合っている」
ただ、洋風建築の建物が立ち並ぶプリステラの街並みの中にワフー建築が紛れているのは、違和感しかなく、明らかに浮いている。
まぁ、それもまた風情と捉えることができるのかもしれないが。
「気に入っていただけたようで何よりです。さあ、中に入りましょうか」
そう促されて、木戸を開け、『水の羽衣亭』に入る。
受付はすべてパンドラに任せて、ぼーっとしているとすぐに部屋へと案内される流れになった。
「......かなり広いな」
床一面に畳が敷かれた和室には、予め2人分の寝具が用意されていた。
予想はついていたが、当然のように2人部屋......か。
わかりきっていたことなので、もはや何も言うまい。
俺は黙って座布団に腰を下ろし、魔法器店で購入したアイテムを整理することにした。
まず、最初に手に取ったのは、『闇夜の外套』と呼ばれる代物だ。
一見、ただの黒いローブに見えるが、とある条件において高い効果を発揮する優れものだ。
「素敵なローブですね。これにはどんな魔法が込められているのでしょうか?」
「悪いな、パンドラ。残念ながら、秘密だ」
はっ......教えてたまるかよ。
なんたってこれは、今夜、予定している作戦の成功に必要不可欠な代物だからな。
パンドラに教えてしまえば、絶対に作戦を阻止しようとするだろう。
作戦名、『プリステラ脱出大作戦』。
今夜、パンドラが眠っている間に、俺はこの街を──水門都市、プリステラを脱出する。
このままいくと、大罪司教の連中が街で暴れ出して、この街は戦場と化す。
そして、それに対抗して、王戦候補者率いる各陣営も出陣することになる。
その中には──ナツキスバルやラインハルトといった、出会った時点でゲームオーバーな面子も出揃っているため、万が一にも俺が魔女教関係者だと悟られれば、一巻の終わりだ。
パンドラは俺を守ると豪語しているが、完全に信用するのは危険だ。
コイツはあくまでも魔女。いつ気が変わって、寝首を掻かれないとも限らない。
「まぁ、時が来たら教えてやるよ」
「はい、楽しみにしていますね」
その余裕をかました面が崩れる様を、この目で見られないのは残念だ。
明日の朝、俺が部屋から姿を消していることで、ようやくパンドラは真実を知るのだ。
この『傲慢の7つ道具』──否、『希望の7つ道具』が俺の『プリステラ脱出大作戦』を成功させるための布石だったとな......!
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部屋で休息を取った後、夕食と入浴を済ませた俺は、早い足取りで部屋へと向かっていた。
「ほら、早く寝るぞ。きびきび歩け」
「ふふ、カガリくんは本当に強引ですね。そんなに焦っても私は逃げませんよ......ああ、今夜、私はカガリくんにめちゃくちゃにされてしまうのですね」
パンドラの戯言には一切耳を貸さず、板張りの廊下をまっすぐに進む。
そうして、次の角を曲がった時だった。
「なっ......」
短い驚嘆の声とともに、着替えを入れていた手提げ袋を取り落としてしまう。
視線の先には、2人の獣人がいた。
男女のペアだ。男の方は金髪の髪を逆立てた勝気そうな少年で、女の方は背丈がかなり低く、橙色の髪のおさげが特徴的な少女。
──あまりに酷似している。文章で、イラストで、アニメーションで表現されたとおりの姿がそこにはあった。
元聖域の守護者にしてエミリア陣営の一番槍であるガーフィール、そして、名前は忘れたが、『なんとかの牙』とかいう傭兵団の副団長にして、アナスタシア陣営のマスコットとも言えるミミ。
他人の空似と思いたい。けれど、俺の直感が告げていた。
仲睦まじげに小突き合いながらこちらに歩いてくる2人は紛れもなく、ガーフィールとミミなのだろうと。
あまりの衝撃に俺は固まってしまい、それから叫びにならない嗚咽を漏らしていた。
「あっ......あぁっ......あ............っ」
「どうかしましたか?カガリくん」
苦しそうに胸を抑えつけ、激しく動揺する俺の姿に、パンドラが不思議そうに首を傾げる。
「......い、いいか、パンドラ。俺が良いっていうまで、絶対に口を開くんじゃねえぞ。あと、本名で呼ぶなっつったろ......」
「はて、それはどういう──あっ」
抗議しようとするパンドラの肩を掴み、身体の側面に抱き寄せる。
──落ち着け。深呼吸しろ。ここが正念場だ。
俺はただの一般宿泊客。この世界におけるモブAとしよう。
そして、隣で頬を赤らめているのは、モブB。
俺はガーフィールと絶対に目線を合わせないように、正面だけを見てまっすぐに歩く。
このまま何も起きることなく、自室へと生還できれば、俺の平穏は保たれる。
(俺は空気......俺はモブ......)
心の中で一心不乱に念じながら、素知らぬ顔で2人とすれ違う。
......頼む。絶対に俺に話かけてくれるなよ。
すれ違う瞬間──ガーフィールとミミが不思議そうな顔で俺に視線を送ったのがわかった。
一瞬にして、身体中から滝のように汗が流れた。
しかし、2人はすぐに正面に視線を切り替え──絶望的な瞬間は終わりを告げた。
ま、まぁそうだよな......あの2人は常識はずれなところがあるが、面識のない人間にいきなり話しかけたりはしないか。
はは......九死に一生を得るとはこのことだな。
──そう、安堵した瞬間だった。
「ねーねー、ガーフ!今すれ違った人、ちょー変な仮面つけてたー!」
「あァ!?わかってねェな!超かっけェの間違いだろォが!」
──その瞬間、俺は天井を仰いだ。
い、いや。ただ話題に出しただけだろ......俺は振り返らずに足を進める。
けれど──運命はとことん俺に厳しいらしい。
「ねーねー!どして、そんな変な仮面つけてんのー?しゅみー?」
さっきすれ違ったばかりのミミが、素早い動きで俺達の正面に回り込んだのだ。
ぴょこぴょこと猫耳を動かす仕草は可愛らしいものだが、今はそんなところに目を奪われている暇はない。
今、俺がするべきことを考えろ。思考停止に陥りそうなところをギリギリで耐え、脳をフル回転させる。
数多のエロゲを攻略してきた俺は、少ない選択肢から最適解を選ぶことに長けた、未来予知とも言える能力を持っている自負がある......!
「は、はは......面白い子だな。そのとおり、これは趣味だ。では、先を急いでいるからこれで──」
「なんでー?なんでそんなしゅみしてるのー?」
適当に言葉を返して通り抜けようとするが、ミミは逃がしてくれなかった。
小さな身体で進路を塞ぎ、会話を続行しようとする。
こ、好奇心が高すぎる......!
「なァ、おいッ......あんま他の客に絡むなよ。大将に迷惑がかかるッだろうがァッ!」
どうしたものかと頭を悩ませていると、苦い顔をしたガーフィールがミミを叱責した。
よくやった、ガーフィール!そのままミミを連れて、さっさとこの場を去ってくれ。
「えー、でもさー、ガーフもきょうみしんしんー?きょうみしんしんしんー?だったでしょー?」
「まァ、確かにイカす仮面つけてんなァとは思うけどよォ......」
「ならさー、貸してもらえばー?ねー、いいでしょ?おにいさん」
小さい手で浴衣をぐいぐいと引っ張ってくるミミ。
「い、いや......それはだな......おい、パンドラ。お前の方からも何か言ってくれ......って、いねえし!?」
ついさっきまで俺の隣にいたのに、いつの間にか姿を消している。
あんのクソロリ性悪魔女がっ......何がカガリくんのことは守りますだよ!一番ヤバい時に姿を消しやがって......。
「ねーねーねーねー!いいでしょー、すぐにかえすからー。ちょっとだけー」
「おお......近くで見ると、まじでかっけェなァ......ああクソッ、俺様ァ、我慢できねェ。わりィが、ちょっとだけ貸してくんねェか?本当にちょっとでいいからよォ」
年相応に爛々と目を輝かせて、ガーフィールが距離を詰めてくる。
つい先ほど、興奮するミミを制してくれた大人な態度はどこへいったのだろうか。
しかし、俺は絶対に仮面を外すわけにはいかない。
理由はもちろん、この宿内にナツキスバルがいるからだ。
この世界におけるNG行動の1つ、それはスバルに存在を認識されることだ。
もし、仮面を外したタイミングでスバルがこの場にやってきたら、終わりだ。
だから、ここは断固として拒否させてもらう。
「......悪いな、少年。それはできない相談だ」
「あァ!?なんでッだよ。つれねェなァ......いいじゃねェか!なッ!?」
コイツ、押しが強いな......。
今にも力づくで仮面を剥がしてきそうな勢いだ。そして、実際に実行に移してくる危険性がコイツにはある。
「聞いて驚くなよ......この仮面はだな......普通の方法では取り外せない呪いの装備みたいなものなんだ。無理に外せば、お前に呪いが降りかかるぜ......」
「の、呪いの装備!?なんッだよ、それ!ますます気に入ったぜッ!じゃあよォ、どんな方法なら安全に取り外せんだ!?」
「そ、それはだな......教会に行って、神父に呪いを解いてもらうんだよ。あるいは解呪の魔法を扱える凄腕の魔法使いに頼るとかな」
「教会!?神父!?すげェッ、すげェッ!神父ってのは、そんなこともできんのかよッ!!」
クソッ......そういえば、コイツ、中二病だったな......。
呪いの装備とか言っちまったせいでますます食いついちまったじゃねえか......。
なんだよ、呪いの装備って。教会で神父に呪いを解いてもらうなんて、それじゃあまるで──。
「ドラクエかよ!?」
............へ?
「教会に行って、神父に呪いを解いてもらうとか、ドラクエかよ!?」
「また、スバルが変なことを言い出したのかしら」
背後から聞こえてきた2人の男女の声に、俺は思わず振り返った。
そして、その姿を視界に捉え、はっきりと感じ取った。
俺は今、死の淵にいるのだと。
危うくエタりかけました......。
7章が待ち遠しいです。