不幸にも虚飾の魔女に懐かれてしまった男 作:OZ
誤字報告も大変助かっております。
前回までのあらすじ。
ひょんなことから、知り合った魔女がヤンデレ彼女みたいなことを言い出した。
愛が重い女の子ってアニメや漫画の中だと魅力的に見えるんだが、いざこうして現物を目の前にすると、中々受け入れがたいものがある。
それに、愛を抱かれるきっかけになった出来事も俺としてはどうにも納得ができない。
しつこく宗教勧誘してくるメスガキの尻を叩いたことが、ここまでの事態に繋がるとは誰が想像できようか。
謎の幼女があらわれた!
▶しりをたたく
▶にげる
ここで『にげる』を選択しなかったことは、俺の18年の人生の中で一番の失態だろう。
でもさ、仕方ないだろ?
あの時の俺は声をかけてきた幼女が、まさか『虚飾の魔女』だなんて想像だにしなかったのだから。
知っていれば、間違いなく全速力で逃げていたに決まっている。
それなのに、クソ!
転移直後で冷静さを失っていた俺がまんまと挑発に乗ってしまったが為に、取り返しのつかないことになってしまった。
も、もう終わりだ......。
原作知識をいい具合に活かして、王選候補者に上手く取り入り、原作キャラとのイチャイチャ異世界ライフを送るという理想的なプランは浅はかだった自分自身の行動によって、砕け散ったのだ。
『私、あなたのこと、すごーく好きみたい』
『存外、面白い男のようじゃな。貴様、妾の道化──否、夫となるがよい』
『夢の果てに至るまでの間、卿には私の傍に居てほしい』
『ウチは欲深やからなんでも欲しい。もちろん......君の心もや』
『はぁ!?アタシが兄ちゃんのことを好き!?ん、んなわけねーだろ!この馬鹿!』
頑張れば、こうなる可能性だってあったはずなのに......。
......冷静に考えると、めちゃくちゃ気持ち悪いな、この妄想。
はぁ、死にたい......。
そんな俺の心情を読み取ったのか、パンドラが心配そうに眉根を下げた。
「気分が優れないようですね。私にできることがあれば、何でも言ってください」
「そうだな......しばらくベッドで休ませてくれ」
俺と出会ってからの全ての記憶を消去して、ついでに俺の身体から発せられる魔女の匂いとやらを取り払ってくれって頼んでも、無理な話だよな。
虚飾の権能がどの程度の事象まで改変できるかは知らないが、仮に出来たとしても、パンドラがそれを実行することはないだろう。
今のパンドラの危うげな瞳と語り口からして、かなり俺にご執心のようだしな。
本人の言葉どおり、本当に四六時中俺の傍を離れる気はないのだろう。
思い切ってここから逃げるって選択肢もあるが、全国に展開された魔女教ネットワークを使えば、一人の人間を補足することなど容易なはずだ。
つまりだ。
現状、俺にできることは何もない。
変に行動を起こして、面倒な事態になるよりは、高級宿のふかふかなベッドの上で心を無にして、まずはゆっくり体を休めるのが最適だと判断したのだ。
まあ──残念なことに、全くもって心を無になんてできそうにないんだけどな。
仰向けに寝る俺に覆いかぶさるように、パンドラがぴったりと小さな体を密着させてきているからだ。
心臓に悪いったらありゃしない。
一応言っておくが、俺は決してロリコンなどではないからな。
巨乳のお姉さん好きを自負しているし、パンドラに対し、そういった感情は一切持っていないし、これからも持つことはないだろう。
大事なことなので、もう一度。
俺は決して、ロリコンなどではない。
ただ、透け透けな布一枚を通して伝わってくる柔肌と、パンドラの妙に甘ったるい匂いが著しく俺の睡眠を邪魔してくるのが不快なだけだ。
......もしかして、これが毎日続くのだろうか。
もし、そうなら堪ったものじゃない。
起きたら、元の世界の自室のベッドの上で目覚めたい。
そう願いつつ、ゆっくりと俺は眠りに落ちていった。
*****
「おはようございます。気持ちの良い朝ですね」
「だよなー」
夢オチ、なんて都合の良いことは起きなかった。
一足先にベッドから起き上がっていたパンドラが寝惚け眼を擦っていた。
俺が昨日、どういうわけかリゼロ世界に転移し、不幸にも『虚飾の魔女』と出会い、この高級宿の一室で彼女と一夜を共にしたのは、残念なことに現実らしい。
一夜を共にしたと、ついエロい響きの言葉を使ってしまったが、昨夜は特に何もなかった。
何かあったとすれば、今、俺はこうして平静を保てていないだろう。
つか、随分寝ちまったな。
少し一休みするつもりが、日を跨いで、ぐっすりと眠りこけてしまったらしい。
部屋の中に朝日が差し込んでおり、窓の外からは賑やかな人々の声と、鳥のさえずりが聞こえてきていた。
「本日はどうされるのですか?」
「......もう少し寝転がってから、飯食った後に、散歩でもするかな」
「私もお供します」
「ああ、好きにしてくれ」
パンドラにそう生返事を返してから、枕に顔を突っ伏す。
やはり高級宿に備え付けの枕とあって、材質はかなりグレードが高そうだ。
マットレスも俺好みの高反発で寝心地は悪くない。
思いのほか気にいってしまったベッドの上で時間を過ごしてから、俺達は宿に内設されたレストランでモーニングを楽しんだ。
つっても、パンドラは食事を楽しんでいるというよりかは、高級食材で構成された豪勢な食事にがっつく俺を見て楽しんでいたように思えた。
ちなみに何度か「あーん」と俺の口元にスプーンを近づけてきたが、断固として拒否した。
パンドラに対して忌避感があるのも理由の一つだが、一番の理由としては、この宿では俺は彼女の付き人として認知されているからだ。
「お嬢様、お戯れが過ぎますよ」と注意すると、パンドラは少し口を尖らせて、渋々ながらスプーンを引っ込めていた。
それにしても、俺の胃袋は存外ストレスに強いらしい。
パンドラに目をつけられてしまった事実に嫌気がさしつつも、しっかりと食欲は機能しており、用意された食事はみるみる内に胃袋に吸い込まれていった。
そんなこんなでモーニングを終わらせた後、俺達は王都に繰り出すことにした。
宿でのんびりと過ごすという手段もあったが、それは流石に暇すぎる。
それに、外の空気を吸ってみたかった。
亜人の存在や日本とは違う西洋風の街並みなど、見慣れない景色に緊張もするだろうが、それ故に新鮮で心地の良い空気が感じられると思ったのだ。
「やっぱ、結構視線を感じるな」
「カガリさんのように、黒髪黒目は珍しいですからね。それに服装も変わっていますし」
「確かに皆、髪も瞳も色とりどりだな。あと、服装に関してはお前も人のこと言えないからなっ」
まじで目のやり場に困るんだよ。
風が少し悪戯気を出すだけで、簡単にパンドラの秘部が衆目に晒されることになる。
でも、何故か俺以外の周りの人間は一切パンドラの服装に疑問を──ああ、そういうことか。
宿の時と同様、『虚飾の権能』を使用して、どこぞの貴族に扮しているのだろう。
ちなみに『虚飾の権能』についてはモーニングの際に色々と教えてもらった。
そんな重要なことを俺に教えていいのかと聞くと、相互理解が真の愛に繋がるとなんとか言って、本人は満足そうにしていたから、俺は何も言わないことにした。
パンドラの権能を知って、損をすることは無いだろうしな。
「なあ、パンドラ。周りから見た俺の姿を付き人っぽい外見に認識させることはできないのか?さっきから視線が鬱陶しくてかなわん」
「それは無理な相談ですね。カガリさんには......ふふ、私の権能は通じないみたいですし」
「......なんでそこでうっとりとした顔になんだよ」
頬を赤く染めるパンドラにため息をつく。
でもまあ、権能が効かないってのは、それだけ衝撃的なことなんだろうな。
原作でも、『見えざる手』を認識しているスバルにペテルギウスは驚愕していたし、『獅子の心臓』の秘密が看破され、無力と化したレグルスもひどく動揺していた。
それだけこいつらにとって、権能は絶対的なものなのだ。
「では、後ほど、服を何着か差し上げましょう。きっと気に入るはずですよ」
「え?ああ、頼む......あ、やっぱいらない。なんかオチが見えてるし」
「そうですか。とても似合うと思うのですが」
パンドラがしゅんと目を伏せる。
だってさ、それって多分魔女教徒が着てるお揃いの装束のことだよな?
アメリカのKKKの服装をそのまま真っ黒にしたみたいな奴。
そんなんで街中歩いたら、速攻で騎士に鎮圧されるわ。
「服のことは措いといて、ちょっとあそこで休んでいいか?」
「いいのですか?休憩に適した場所は他にいくらでもあると思いますが」
俺が指さした場所を見て、パンドラが不思議そうに首を傾げる。
──路地裏。
パンドラの提案どおり、確かに休憩に適した場所は他にいくらでもあるのだろう。
ただ、何となく惹かれてしまったのだ。
人の目が集まらず、建物の陰になり、暗く淀んだ空気を放つ路地裏に魅力を感じてしまった。
躊躇うことなく、吸い込まれるようにして俺は路地裏に足を踏み入れた。
転移直後のスバルも今の俺と同じで周囲から向けられる好奇の視線に耐えられず、路地裏に腰を下ろしていたはずだ。
同じ路地ではないのだろうが、なんだか感慨深いな。
腰を下ろすと、すぐ隣にパンドラが座り、さりげなく体を密着させてくる。
「近くないか?」
「少しでもあなたに触れていたいのです」
「......まあ、いいか」
言い返す気力もなかった俺は、早々に今の状況を受け入れる気がした。
閉ざされた薄明りの世界に、女の子と二人きり。
それもとびきりの美少女で、なおかつ自分に対して強い好意を抱いている。
シチュエーション的には最高なんだが、素直に喜べないのは、その女の子が『虚飾の魔女』だからだろう。
「......ほんと、先行きが心配だな」
「大丈夫です。二人で力を合わせれば、どんな困難も乗り越えていけるはずです。私達のペースでゆっくり未来を歩んでいきましょう」
「いや、先行きが心配っていうのは、主にお前が傍に居ることに対してであってだな......」
「わかっています。恋い慕う相手と共にあることに幸福を覚えつつも、同時にその幸福がいつの日か失われてしまうのではないかと不安になってしまいますよね」
「ほ、ほんと会話通じねーな、お前......」
噛み合わない会話に呆れていると、ふいに路地の入口あたりからズカズカとこちらに向かってくる足音が近づいてくるのがわかった。
顔を向けていると、そこには二つの人影。
遠目にぼんやりと映っていたシルエットは距離が近づくにつれて徐々にその姿を鮮明にしていき、壁際に腰を下ろしていた俺達の前でピタリと足を止めた。
面倒そうだな。
見るからに屈強そうなガタイのいい男が二人、ニヤニヤと嘲弄するかのような笑みで俺達を見下ろしていた。
「逃げないとは、随分いい度胸してんじゃねーか」
「ちげえだろ。震えて腰が抜けちまったのさ。なあ、そうなんだろ?」
一人の男がずいっと俺の方に顔を近づけてくる。
それから、次はパンドラの方に顔を向けて、ぺろりと舌なめずり。
「良い女だな。どっかのお嬢さんだろ、お前。隣の男は付き人か?見るからに貧弱そうな奴だ」
「そんな弱そうな奴やめとけよ。腕っぷしが強くなきゃあ、肝心な時にお前のことを守ってくれねえぞ」
「まあ、その肝心な時ってのが、今なんだけどな」
「ギャハハハ!ちげえねー!なあ、お前もそう思うだろ!?」
下品そうに笑う男がバシバシと俺の肩を叩く。
「......ッ!」
その瞬間──ぞわりと大きな恐怖が全身を覆うのを感じた。
嫌な汗が背中を伝い、心臓が握り潰されるような感覚だ。
この野蛮そうな男達に対してではない。
恐る恐る、俺は隣に座るパンドラの方を見た。
──そこにいたのは、柔らかい笑みを浮かべる一人の少女。
どう考えても、この状況にそぐわない表情をしているが、そんなことはさしたる問題ではない。
俺が恐怖を感じたのは、この笑顔の奥底に眠っているであろう、ドス黒い感情。
殺意などと一言で表現することのできない、暗く淀んだ感情の集合体。
色々言葉を並べたが、要するにめっちゃ怒ってるってことだ。
うーむ、これはまずいな。
パンドラはおそらく──いや、間違いなく、こいつらを殺る気だ。
冗談じゃねぇ。
このチンピラ共に大して慈悲の気持ちなんて一ミリたりともないが、こいつらの死が俺の立場を危うくする可能性がある。
路地裏は、大通りとは隔絶された暗く閉ざされた世界だが、王都の一部であることに変わりはない。王都を巡回する騎士が偶然、この現場を目撃する可能性だってあるのだ。
まともな騎士であるならば、当然、現場を見過ごすことなく、チンピラの死体の横に佇む俺達を訝しがるはずだ。
そんな面倒な事態になるのは、ごめんだ。
ここでの生活にパンドラが同行するのは、渋々ながら納得せざるを得なかったが、血生臭いことに巻き込まれることを了承したわけではない。
『上手いこと恩を売りつけて、王選候補者とイチャイチャするルート』から『パンドラという爆弾を抱えつつ、それなりに幸せな異世界生活を送るルート』にシフトチェンジしようと考えていたのに、それすらもお陀仏になるのだけは勘弁だ。
だから、この状況ですべき行動は一つ。
こいつらに自主的に退散してもらうことだ。
俺の口八丁で上手く説得できればいいが......。
「綺麗な薔薇には棘がある、って言葉知ってるか?」
「──あ?」
「まあ、知らないよな。この世界にはそもそも薔薇があるかも定かじゃないし」
「なんだ、てめぇ?ようやく喋ったかと思えば、意味わかんねーこと言いやがって」
片方の男に胸倉を掴み上げられる。
あ、まずい......ちらりと隣を見るが、幸いパンドラはまだ行動を起こすつもりはないようだ。
もしかして、この場を丸く収めようという俺の意図を汲んでくれているのだろうか?
それなら、好都合。もう少し、我慢していてくれよ。
「一見、美しく見える花でも、実は鋭利な棘を隠し持っていたりするんだ。今、お前らが手を出そうとしてる可愛らしいお嬢さんと弱そうな付き人も、実は凄腕の魔法の使い手かもしれない」
「......へえ、それで?何が言いたいんだ?」
「人は見かけにはよらないって話だ。人の目が届かない路地裏でのんびり休憩してるような人間が弱いはずないだろ」
「なるほどな。確かに弱い奴はわざわざこんな場所に顔を出さねえ。魔女教みたいな危なっかしい連中がそこかしらに跋扈している今の時勢を考えれば、お前の意見も一応納得はできる」
「わかってくれたか」
「クックック......んな虚勢が通じるわけねえだろがッ!!」
激昂と共に男が拳を大きく振り上げると、そのまま勢いよく、力任せの拳を繰り出す。
ぐっ......ちょっと行けそうだと思ったのに!
咄嗟に両手を交差させ、顔の前で防御の構えを取る。しかし、衝撃が来ることはなかった。
鈍い音が響く。男の拳は、狙いを違え、隣にいた別の男の顎を真正面から捉えていた。
「がッ、てめっ……なんで…俺をッ……!」
「あっ!?い、いや。違うッ!」
殴られた男は勿論、殴った男の方も自分の行った行為に驚愕していた。
困惑する二人をよそに、俺はすぐさまパンドラの方を振り返る。
こいつ、やりやがったな......。
「おや......これは仲間割れ、ですか」
けろっとした表情のパンドラは、口元に手を添え、目の前の珍妙な状況にまるで他人事のような驚きを見せる。
いや、お前がやったんだろうが......。
殴られた男は顎を押さえながら、いまだに状況を飲み込めずにいる。
殴った男の方も呆然と拳を見つめ、動揺を隠せない。
「おい……どういうことだよ……」
「ち、違う! 俺は本当にコイツを……!」
そうだよな。困惑するよな。
お前は本当に俺を殴ったはずなんだよな。
「では、私達は帰りましょうか。あなた達の喧嘩に巻き込まれたくはありませんし」
「ふざけるな!さっき、凄腕の魔法の使い手だとか言ってたよな......まさか......てめえがッ!」
男が怒声を上げるが、パンドラは肩をすくめるだけだ。
「いえ......あなたが『見間違えた』だけでしょう」
「てめぇ......」
それから、ゆっくりと腰を上げると、「いきましょう」と俺の手を引く。
「ま、待ちやがれ......!」
男がパンドラに向けて勢いよく拳を振るう。しかし、その拳は突然軌道を変え、またしても先ほどの男に直撃した。
「ま、まただ......殴る瞬間、勝手に軌道が変わっちまう......」
「さっきから......なに......言ってんだよ、てめえはッ!」
鈍い音が響く。
今度は殴られた側の男が反撃に打って出たようだ。
パンドラに連れられ、路地を出口に向かう間、何度も鈍い音が背後から聞こえた。
そして、ついにはその音すらも聞こえなくなった。
しばらくして聞こえたのは、絶叫にも似た男の慟哭だった。
本作におけるパンドラの性格(参考程度です。。。)
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あくまでも魔女
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多少の人間味がほしい