不幸にも虚飾の魔女に懐かれてしまった男 作:OZ
「ロマネコンティ司教がご逝去されるとは、本当に残念です」
「なら、もっと残念そうな顔したらどうだ?」
魔女教大罪司教『怠惰』の訃報を聞いたパンドラが、ペテルギウスの死を悼む言葉を口にするが、その表情からは悲壮感などは全く感じ取れない。
煌々と輝く涙が真っ白い頬を伝っているものの、表情は明るく──言ってみれば、嬉し泣きしているようにすら感じられた。
そんな矛盾したパンドラの様相を俺は冷静に指摘するが、パンドラは涼しい顔で言葉を返してくる。
「ロマネコンティ司教は、彼自身が常日頃から掲げていた信念に従い、死ぬ間際まで勤勉に立ち振る舞ったはずです。つまりは大往生ですね。彼の信望する魔女の意思に応えられなかったという後悔は残ったでしょうが、それでも立派な最期には違いありません。冥土へと旅立つ彼のことは悲しい顔より、むしろ笑顔で見送るべきだと私は思います」
「物は言いようだな」
長々としたパンドラの言葉にそう吐き捨てる。
尤もらしい理屈ではあるが、パンドラが言うとどうも薄っぺらく感じてしまう。
「そういうカガリ君は随分と落ち着かれていますね。親しい間柄であるロマネコンティ司教がご逝去なされたというのに顔色一つ変えていません」
対面の椅子に腰かけるパンドラが興味深そうにこちらを見る。
どこか品定めするような感情が視線に含まれている気がして、少し気味が悪い。
「......現実を受け入れられてないだけだ。見知った人間の死を知らされて、はいそうですか、ってすぐに納得できるかよ」
「ふふ、そういうことにしておきましょうか」
それ以上追及するつもりはないらしいパンドラが綺麗な所作で紅茶を呷る。
──パンドラの言葉を否定しつつも、実のところ、俺は落ち着いていた。
訃報を耳にした直後は動揺したものの、今は不自然なほどに心中は静かだ。
それに動揺したというのも、正確に言えばペテルギウスの死に対してではない。
ペテルギウスの死を以て明らかになる事実。
それは──ナツキスバルの実在。
そして、この世界線がナツキスバルが最終的に選んだ、いわばリゼロ世界の正史であること。
普通に考えれば、ナツキスバルが失敗した世界にも俺は存在したのだろうが、現時点での俺はこうしてペテルギウスの死を観測している。
失敗した世界は、セーブポイントに戻ることでデリートされるのか、はたまたナツキスバルがいない状態で一つの世界線として時を進めるのか。
それは定かではないし、考えても仕方のないことだ。
確実なのは、この世界にはナツキスバルが既に転移しており、原作通りにペテルギウス・ロマネコンティが王選候補者三陣営の共闘によって斃されたこと。
さっき、パンドラはペテルギウスは立派な最期を遂げただろうと言った。
──冗談じゃない。俺は知っている。
立派な最期とは程遠い、救いなんて何もない凄惨な死。
虹の光で焼け爛れ、岩石に圧し潰されて四肢を失い、それでも仇敵に食らいつこうと抗うも、最期は車輪に全身を引き裂かれて死亡。
ペテルギウスが今までこの世界にもたらしてきた悪行を考えれば、相応の死と言えるかもしれないが。
俺は、ペテルギウス・ロマネコンティという男について、改めて考えてみることにした。
魔法を教わる為、5日間を共に過ごした魔女教大罪司教『怠惰』担当。
時間にしてみれば短いものだが、あれほど濃密な5日間を、俺は転移前の世界では経験したことがなかった。
最初はこんなヤバい奴からモノを教わるとか冗談だろとか思っていたが、意外に丁寧で、それでいてひょうきんなおっさんって感じで......。
小説の悪役キャラとしてしか認識していなかったペテルギウスのことを、俺は1人の人間として受け入れていた。
別れ際には、あまつさえ「油断するなよ」などとペテルギウスの身を案じる言葉をかけもした。
おかしな話だ。
この世界の──否、この物語の主人公はナツキスバルで、ペテルギウスは敵。
その関係性が覆ることはありえない。
幾度も死を繰り返し、一つの正解に辿り着いた主人公が、この世界の巨悪たる大罪司教の一人を討伐する。
それが正しい筋道。
身を案じるのではなく、俺はペテルギウスの死を願うべきだったはずだ。
けれど、あの時口をついて出た言葉は真逆の言葉。
──死んでほしくなかったのだろうか。
......まさかな。
「──大丈夫ですか?」
「おわっ!?」
「随分考え込まれていましたね」
「......言ったろ。現実を受け入れられてないって」
がしがしと頭をかきながら、パンドラを睨みつける。
なのに、パンドラは頬を赤く染めて嬉しそうに見つめ返してきて。
思えば、こいつもこの世界では忌むべき存在の一人のはずだよな。
レグルスを帯同し、エミリアの故郷であるエリオール大森林に踏み入り、ペテルギウスの闇堕ちを含めた残虐な行いを重ねた巨悪。
そんな危険極まりない人物であることを知りながら、こうして宿の一室を共有している。
冷静に考えれば、俺はテロリストと共同生活を送っているってことだ。
王都の路地裏で絡んできたチンピラにはビビり散らかしたのに、テロリストには一切の恐怖を感じない。
あのチンピラ達はパンドラと比べてしまえば、石ころ程度のはずなのに。
矛盾だらけのぐちゃぐちゃな情緒に笑いがこみ上げてくる。
──やめだ。
「気分転換にちょっと散歩でもしてくるか」
「今日は天気が良いですからね。楽しい散歩になりそうです」
当然のように隣に並ぶパンドラに苦い顔をしつつ、俺は部屋の扉を開けた。
行間について(どのくらいが読みやすいかなど意見欲しいです)
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最初みたいな詰め詰め
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今回みたいな適度なスペース