転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第1章
第1話 嘘みたいな死因で死んだら、嘘みたいな異世界に転生させられた男


 

 あれ、続きが……ある?

 

 目覚めて最初に頭を駆けたのは、そんな子供じみた感想だった。

 

 無だと思っていたものに続きがある。

 

 その驚きが強すぎて、それ以外の驚きに対する反応がどうしてもワンテンポ遅れてしまう。

 

 それ以外の驚きに対する反応が――。

 

「ようやく目が覚めたようだね」

 

「…………」

 

「どうしたの? 目が点になってるけど。もしかして自分が死んだことに、まだ理解が追いついてない感じ?」

 

「…………」

 

「まーけっこういるんだよね、そーゆう――」

 

「いやおまえに驚いてんだよ! なんなんだおまえ!? 見た目が完全に巻グソじゃねーか!?」

 

「巻グソってなに!? ウンコってこと!? ふざけるなーっ、オイラはウンコじゃないーっ! れっきとした精霊だーっ!」

 

「精霊? 精霊って……山とか川とかに宿ったりする感じのあれ? わ、悪い。知らなかったんだ、おたくがそんな神秘的な存在だったなんて。いやマジでホント一ミリも。ちなみに……なんの精霊なの?」

 

「ウンコの精霊って言わせたいんだろ! 目見れば分かるぞ! オイラはナビの精霊だ! この世界、ヴェサーニアの案内役だぞ!!」

 

「ヴェサーニア?」

 

 その段になって、俺はようやく今のこの状況に意識を向けた。

 

 ここは、どこだ?

 

 ものすごく広い空間なのは分かる。

 

 背景は真っ黒で、なのに自分の身体も目の前の謎の生命体の身体も見て取れる。

 

 どういう理屈なのかは分からないが、だがまあ大事なのはそこではないのは明らかである。

 

 重要なのは――。

 

「俺、死んだはずだよな……?」

 

 間違いなく死んだ。

 

 意識が消える数秒前、「ご臨終です」という医者の薄情な言葉を聞いた記憶が確かに残っている。

 

 三十七年の短い生涯を、その瞬間に終えたはずだった。

 

 なのに――。

 

「うん、死んだのは間違いないよ。神代(かみしろ)斗真(とうま)、享年三十七歳。ホント、ロクなことがない人生だったね。ただでさえ、悲惨な人生だったのに――最期がバナナの皮に足を滑らせて、ってそんなミラクルある?」

 

「…………っ!?」

 

 思い出した。

 

 この巻グソみたいな頭をした(身体は手のひらサイズである)、謎の精霊が言ったとおりに俺はバナナの皮に足を滑らせ、それで頭を強打して死んだのだ。

 

 思い返しただけでも、頭が爆発するくらい恥ずかしい最期だった。

 

「まあでも、そのおかげでキミは第二の人生を生きる権利を得た。これはあまりに不幸な人生を送ったヒトに与えられる特別な権利だよ。だいたい十万人に一人くらいの低確率」

 

「え、俺の人生ってそんなに不幸だったの……? 日本人だったのに?」

 

「うん、日本人で転生の権利を得るのはかなり珍しい事例だよ。貧しい国や戦時下にあるような国のヒトがほとんどだから。キミと同年代に生きた日本人で転生の権利を得たのはキミで七人目だね。残りの六人のうち五人は、先天性の重い病を持っていた可哀想な子供たち。健康体だったのはキミで二人目だよ」

 

「いや逆にそこまでいくと残りの一人と会ってみてぇんだけど!?」

 

 いや、やっぱり会ってみたくないかも。二人して、ものすごくみじめな気持ちになりそうだ。鏡を前にしているようなものなのだから。

 

 とまれ。

 

「異世界転生か……。考えてもみなかったな。そんなのあったらいいなってのは、四六時中思ってたけど……。けど、まさかホントにあるなんて一ミリも期待してなかった。あんなのは物語の中だけだと思ってたよ。神様も、粋なことしてくれるね」

 

 うれしいという感情はもちろんあった。

 

 もう一度人生をやり直せるなら、そこが異世界だろうとなんだろうと今度は成功して幸せになってみせる。

 

 無論、二度目だからといって大成功を収められるほど甘くないのは理解しているが、まあさすがに前の人生よりはマシにできるだろう。

 

 ああでも、この巻グ――精霊、転生するのが異世界だとはまだ一言も言ってないか。

 

 気になり、俺は訊いた。

 

「転生するのって異世界? それともまた地球?」

 

「異世界だよ。ヴェサーニアって言ったじゃないか。転生にはルールがあってね。同じ世界には転生できないんだ。転生する世界は、死因によって強制的に決まる」

 

「……ああ、そうなんだ。でも、異世界のほうがむしろいいかも。未知の怖さってのはそりゃ多少はあるけど、異世界なら元の世界の嫌な部分ってのがだいぶ薄れるもんな」

 

 ロクでもない人生だった。

 

 楽しかったのは小学生まで。それ以降はゴミだ。

 

 あのゴミの景色には二度と戻りたくない、という思いも少なからずあった。

 

 異世界ならまっさらだ。

 

「ヴェサーニアってのはどんな世界なの? やっぱ事前知識はナシな感じで転生させられるのか? できれば、ちょっとでいいから知っときたいんだけど……無理?」

 

「ん、無理じゃないけど……見たまんまだよ。ここがヴェサーニアだから」

 

 ん、なに言ってんだ、この巻グソ?

 

「ここがって……どういう意味?」

 

「言葉のまんまの意味だよ。この何もない空間がヴェサーニア。キミが生まれた地球の半分くらいの大きさはあるけどね。死因が初めてのケースだったから、既存の世界に当てはめられなかったって上が。だから急遽作ったんだ、この世界。だからまだ名前しか決まってない」

 

「いやいやいや、嘘だろ!? バナナの皮に足滑らせて死んだ人間、今までに俺一人だけだったの!? 確かに珍しい死に方ではあるけど、いくらなんでも何人かいるだろ!?」

 

「ううん、キミひとり。正真正銘、キミひとりだけ。超珍しい死因」

 

「…………」

 

 俺は唖然と固まった。

 

 理解が追いつかない。バナナの皮で――まあ、それはもうどうでもいい。納得はできないが、一人しかいないと言われたのだから一人しかいないのだろう。

 

 問題は、そのあとだ。

 

「……いや待って。おまえの言ってる意味がまったく理解できないんだけど。俺、この何もない世界に転生したってこと?」

 

「うん、そうだね」

 

「そうだね、じゃねーだろ!? どうすりゃいいんだよ!? 水は? 食い物は? 家は? 転生して一週間後に餓死しろってのか!? こんな嫌がらせある!?」

 

「ああ大丈夫、それは心配ないよ。水とか食料なんてすぐに作れるから。家とかも望めば作れる。てゆーか、キミがこの世界を作りあげるんだよ? オイラもサポートはするけど」

 

「…………は?」

 

 わけがわからず、頓狂な声で訊き返す。

 

 と、眼前の巻グソ精霊は、当たり前のことを言うかのような口調でかんたんに言った。

 

「キミはこれから世界を作る。このヴェサーニアの『創造主』になるのさ」

 

 創造と奪還の物語が、そうして静かに幕を開ける。

 

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