転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第14話 ゲヘナ盗賊団殲滅(前編)

 

 神歴1012年、2月12日――レベランシア帝国、ブレナ邸。

 

 一階、居間。

 

 柱時計の針は、午後七時三十分を示している。

 

 ブレナはテーブルの椅子にゆっくりと腰を落とすと、そのまま前かがみになって、はす向かいへと視線を向けた。

 

 その席に座っているのは、黒髪黒目の青年。今現在、この空間にいるのは彼ら二人だけだった。

 

 その唯一の他人――黒髪黒目のトレドが、短く息を吐きつつ訊く。

 

「アリスは?」

 

「ルナに任せてきた。上で休んでる。だいぶショックを受けてたみたいだからな」

 

「家に帰したほうが良かったんじゃない?」

 

「誰もいない家にか? 余計、()()()()意識しちまうだろ」

 

「まあ、確かに……。けど、ルナだけに任せて良かったのか? 俺たちも近くに居てやったほうが……」

 

「ルナが一番気心知れてるし、アリスのことを一番分かってる。ルナに任せておけば大丈夫だ。大勢いれば良いってもんでもない」

 

「そうか……? こういうときは、みんなで不安を取り除いてやったほうがいいと思うけどな。慰めるってのとはちょっと違うが……」

 

「過剰な気遣いだ。それに根本を正せば、不安なんて一瞬で消し飛ぶ。俺たちがやるべきことは、一秒でも早くアリスの両親を奴らの手から救い出すこと。それを置いてほかにない」

 

「ゲヘナ盗賊団の根城は、知ってんのか? この置手紙を見るかぎり、その場所にいそうだけど……」

 

 置手紙。

 

 先刻、慌てた様子で現れた女(恰幅の良い、五十手前の女だ。どうやらアリスの家の隣に住んでいる人物らしい)が、衝撃の報せと共にアリスに手渡したのがそれである。

 

 女の説明は、簡潔で分かりやすかった。

 

 突然鳴った大きな物音に驚いて彼女が家を飛び出ると、そこにはアリスの両親を肩に担いだ大男二人の姿が。

 

 彼らは彼女のほうには一瞥もくれずにあっという間にその場を走り去っていったが、彼らがゲヘナ盗賊団の一員であるということは一目見て分かったらしい。

 

 その後、慌てた彼女が割られた窓からアリスの家に入ると、そこには一枚の置手紙が。

 

 つまりは、この手紙が置いてあったというわけである。

 

 ブレナは、声に出してその手紙を読んだ。

 

「ブレナのクソ野郎に伝えろ。ふざけた暴挙は仕舞いにしろと。おまえらがその約束を守り続けるなら、こいつらにはいっさい手を出さない。生かし続けると約束しよう。俺たちのアジトで、ジジイババアになって自然におっちんじまうそのときまでな」

 

「分かりやす。こんなんで俺たちの行動を制限できると、本気で思ってんのかね。アジトに乗り込んで、アリスの両親に危害を加えられる前に全滅させるなんてたいして難しいことじゃないぜ。まっ、アジトの場所が分かってればの話だけど」

 

「場所は分かってる」

 

「んじゃ問題ないな」

 

「いや問題はある。奴らのアジトに向かうには『帰らずの森』を抜けなきゃならない。一度入ったら、二度と生きては出られないという迷宮だ。地元の人間でも近づかない。だから奴らは強気に出てる。抜けるルートを知ってるのは、自分たちだけだという絶対的な確信があるからな」

 

「……なるほど、ね」

 

 受けたトレドの表情が、かすかに曇る。

 

 が、彼はすぐにそれをいつもの飄々とした色に戻し、

 

「――で、ブレナ。なんか良い考えはあんのか?」

 

「ある」

 

 ブレナは自信の瞳で即答した。

 

 若干の間を置いて、トレドも同様のまなこで言い放つ。

 

「そうか。実は俺にもある。とっておきのプランがな。どっちのそれで行くか、この場で決めるか」

 

「……ああ、そうだな。じゃあ、俺から言わせてもらうよ。もっとも、聞けばおまえはその場で俺のプランを選ぶと思うがな。自分のプランを話す機会はたぶん訪れない」

 

 訪れない。

 

 このプランより良いプランなどあるはずはないと、ブレナは確信していた。

 

 アリスの両親は、必ず無傷で救い出す。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 ルナの両太ももの、柔らかい感触が頬を伝って心に響く。

 

 アリスは、ルナの手をギュッと握った。少しして、同じような力加減でルナも同様に握り返してくる。アリスは少しだけ自身の心が和らいでいくのを知覚した。

 

 アリスは、言った。

 

「ルナのひざまくら、柔らかくて気持ちいいーっ」

 

「そうですか。それは何よりです。このまま、耳の穴でもほじりましょうか?」

 

「うん、ほじってー。これでほじほじしてー」

 

「……えっ、マジですか? てゆーか、なんで耳かき持ってるんですか? 常時持ち歩くようなアイテムじゃ絶対ないですよ?」

 

 でも、アリスは常時持ち歩いている。彼女にとって、ポニーテールを作るヘアゴムと耳かきだけは必須アイテムである。

 

「ルナー、はやくーっ」

 

「……もう、しょうがないですね。じゃあ、痛かったら言ってくださいねー」

 

「はーい」

 

 無邪気に答えて、両目をつむる。

 

 やがて、心地よさがマックスのさらに上を突き破った。

 

「どうですかー? 痛くないですかー?」

 

「ふなあーっ、痛くないーっ、超良い気持ちーっ、ルナの耳かきプロレベルーっ」

 

 お世辞抜きに、それは本当にプロレベルの所業だった。こんなプロがあるのかどうかはまあ置いといて。

 

 ルナの器用さは、もはやうらやましいというレベルを超越していた。

 

 アリスは、ふにゃりとした。

 

 すぐさま、ルナがいたずらっぽく言ってくる。

 

「甘えんぼ」

 

「ぐなあーっ、あたしは甘えんぼじゃないーっ。パパとママとルナにしか、甘えたことないもん」 

 

「立派な甘えんぼじゃないですか……」

 

 ルナが、あきれたように両目を細める。

 

 と、アリスはそこで思い出したように表情を曇らせた。

 

 言葉に出してしまったことで、()()()()が否応なしに彼女の脳内を席巻する。

 

 アリスは、涙をこらえて言った。

 

「……ルナ、あたし……覚悟できてるよ。こういう活動してるから、こういうことになるかもしれない覚悟はいつもしてた。パパもママも、あたしがしてること立派だって、いつも褒めてくれてたんだ。アリスは僕たちの誇りだよ、ってパパいつも言ってくれて……。だから……もしも……」

 

「もしもはありません。そんな覚悟はしなくていいです。アリスさんのお父さんとお母さんは必ず無事に助け出します。助け出したついでに、ゲヘナ盗賊団も殲滅します。これで晴れて帝都は平和になります。良いことずくめです」

 

「……うん、ありがと。ありがと、ルナ……」

 

 アリスはそう言って、もう一度、ルナの手をギュッと握った。

 

 

 

 怖かった。

 

 

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