転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第15話 ゲヘナ盗賊団殲滅(中編)

 

 

 神歴1012年2月12日――レベランシア帝国、ゲヘナ盗賊団の根城。

 

 ザック・ルイスは、ゲヘナ盗賊団の頭領である。

 

 今年で齢四十になるザックは、悪逆を喰らい、非道を抱いて生きてきた。

 

 先代のゲヘナは、資産家などにターゲットを絞って、リスクもリターンも大きい盗みを繰り返してきたが――ザックはその方向性を、彼の代で一気に真逆の向きへと切り替えた。

 

 ローリスク、ローリターン。

 

 ターゲットは、主に一般人。つまりは弱者から、ローリスクで奪い取る方式へと変えたのである。一度に奪い取れる量は格段に減ったが、その数を増やすことでマイナス面を少なくした。プラス面は、彼が想定していた以上に大きかった。『薄利多売』に切り替えたことで、失う部下の数が劇的に減ったのだ。

 

 ゆえに、ゲヘナ盗賊団はこの数年で大きく成長した。ガルバン商会やリッツファミリーと肩を並べるまでに、彼らの組織は巨大な悪へと急成長したのである。

 

 巨大な、悪へと――。

 

「よぅ、兄弟。調子はどうだい? オレが作った腐った握り飯は、口に合ったかよ?」

 

「…………」

 

 返事はない。

 

 正面に並べられた椅子に、四十がらみの男女が一人ずつ。二人とも、荒縄できつく縛りつけてはいるが、口もとは完全にオープン状態だ。喋れないということはない。喋りたくないだけだ。

 

 ザックはやれやれと頭の後ろをかくと、

 

「ご機嫌ななめだな。気に入らないことがあるなら聞くぜ? 話してみろよ」

 

「……こんなことをしても無駄です。娘は止められない。いずれあなたがたは、ブレナ自警団の手によって滅ぼされるでしょう。ガルバン商会やリッツファミリーのように……」

 

「いいね! ゴージャスだ! 気の強い女は嫌いじゃないぜ! それに比べて旦那のほうは情けねえなぁ。二、三発小突いたくれぇで、もうグッタリしてんのか?」

 

「……グッタリなんて……して、ないさ……。キミが持ってきた料理があまりにも美味だったんでね……。余韻に、浸って……たんだ……」

 

「……ほぅ、言うじゃねぇか。優男だと思ってたが、このオレを煽るとはなぁ。どれ、その勇敢が本物かどうか、ちょいと試してみようかねぇ」

 

 下卑た笑みを浮かべてそう言うと、ザックは男の腕をガッとつかんだ。

 

 と、すぐさま隣の女が過敏に反応する。

 

「何をするつもりです!?」

 

「何を? そいつはかんたんだ。俺はいつだってシンプルをやる。このマッチ棒みたいな腕をつかんじまったからには、折らないわけにはいくまいさ」

 

「――――っ!?」

 

 女の表情が、見る間に変わる。

 

 彼女は興奮気味に両目を見開くと、縄が食い込むほど強く身体を揺らしながら、

 

「やめてください! 傷つけるなら、次は私の番でしょう! 夫ばかり痛めつけるのはフェアじゃありません! 折るなら、代わりに私の腕を折ってください!」

 

「代わりに折ってください? 言うねえ! ワイルドだ! ポーズでも、なかなかそのセリフは出てこねえ!」

 

「ポーズなどではありません!」

 

「……よせ、メアリィ。この男は()()()、だ。やると決めたら……やる。そういう()()()()をしているよ。僕には……分かる」

 

「いやいや兄弟、その煽りはいくらなんでもレベルが低い。そんな低レベルをかまされたら、オレの気持ちが悪いほうへと変わっちまうぜ? どちらか一人と思ってたのが、()()()()、って残酷がオレの頭に浮かんでは消える。なあ、デレク。どうするべきだと思う?」

 

 近くにいた、手下のデレクに問いかける。

 

 だが、彼からの答えを待つまでもなく、ザックの腹は決まっていた。

 

 そうして、腹に決めたそれと寸分違わぬ返答を、手下のデレクが放って寄越す。

 

「兄貴、両方やっちまいましょうよ。腕をへし折ったぐらいじゃ、人間死にはしやせんぜ。生きてさえいりゃ、人質の効果は色あせねえ」

 

「オーケー、デレク。そいつはつまり、カーニヴァルってわけだ。最初の夜にふさわしい催しだな。よし、ほかの奴らも呼んでこい。酒の肴に、野郎どもにショータイムをプレゼントだ」

 

 ザックは両腕を広げて、芝居がかった口調でそう宣言した。

 

 彼は続けて、

 

「入り口見張ってるターニャとセレナにも声かけてやれよ? 帰らずの森を抜けてくる人間なんざいやしねえからな。形だけの見張りを、こんなときにまで強いるのは愉快じゃねえ」

 

「了解しやした! それじゃあさっそく、祭りの報せを――」

 

 どごぉぉぉんっ!!

 

「――――っ!?」

 

「――――っ!?」

 

 それは、あまりに唐突だった。

 

 なんの前触れもなく、なんの脈絡もない。ただ、突然とそれは起こった。

 

 耳をつんざくような破壊音と共に舞い上がった粉塵が、わずか数瞬で彼らの視界をゼロに変える。

 

 ザックはすぐさまデレクに視線を投げたが、無論のこと「何が起こった!?」とは訊けない。そんなこと、デレクにだって分かるはずはないからだ。彼のほうに視線をやったのは、彼の無事を確認したかったからにほかならない。それをしたあとは、もうザックにできることは何もなかった。

 

 彼は茫然としたまま、塵のカーテンが解けるのを待った。

 

 そして――。

 

 やがてそれが解けると、ザックは両目をひんむいて叫んだ。

 

「ブレナ・ブレイク!?」

 

 現れたのは、金髪碧眼の青年。

 

 混乱が、ザックの頭を席巻する。

 

 ()()()()()

 

 この男が、この場所に現れることなど()()()()()()()()()

 

 そんなことは、百パーセント不可能だ。

 

 百パーセント、不可能なはずだ……。

 

 不可能な……。

 

 だが、現れた。

 

 現れ、そうして彼は言った。

 

「よぅ、ザック・ルイス。サヨナラを言いに来たぜ。おまえはやってはならない最悪をやった。地獄の釜が、大口開けて待ってるよ」

 

 ザック・ルイスは、生まれて初めて恐怖した。

 

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