転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた 作:如月隼
「世界を作れって言われてもなぁ……。こんな感じのを、広めてけばいいの?」
新しく作った家の、真新しいソファに寝そべりながら、俺は目の前に浮かぶ巻グソ精霊――『チロ』に言った(名無しの精霊だったため、便宜上、チロという昔飼っていた犬の名前をつけたのだが、予想に反してめっちゃ喜んでくれた)。
「うん、そんな感じでいいと思うよ。でも、普通家から作る? まずは大陸とか、海とか、そういう大きなモノから作ってかない?」
「いやそんなモンも作れんのか!?」
「うん、作れるよ。じゃなきゃ世界創造できないじゃん。トーマのエネル残量がゼロになるまではなんでも作れる。まあ、普通は半分くらいは残すと思うけどね」
「エネル? エネルってなんだ?」
俺は片眉を上げた。
すぐさま、チロが得意げになって説明を始める。
「転生と同時に与えられた、トーマの力の総量みたいなモノだね。トーマ、気づいてないと思うけど、今、めちゃくちゃ強いよ。富士山だって一撃で壊しちゃうくらい強い」
「マジか!? 富士山壊せんの!?」
「……ごめん、富士山は言い過ぎた。十階建てのビルくらいだった」
「……けっこうショボくなったな」
いやまあ、それでもじゅうぶんすごいのだが。
「一応、訊くけどさ。これってほかの世界に転生した奴らも同じくらいの力もらえてんの?」
「同じではないよ。不幸度合いが強かったヒトほど、強大な力をもらえてる。トーマは真ん中よりやや低めな感じかな。それでもけっこうな総量だと思うけど。気に入らない?」
「いやまあ、それに関しては全然文句はないんだけど……。けど、俺の場合は世界を創造するのにこっから自分の力減らしてかないといけないんだろ?」
「うん、そうだね。でも、トーマが思ってるほど力減らないと思うよ。大陸とか、海とか、世界の土台を作るだけなら一割くらいのエネルで事足りる。壮大さとはあんまり比例しないから。バンバン作っていっても問題ないと思うよ」
「そうか……なら、まずはワールドマップを作成するか。なんかRPGの世界を作るみたいでワクワクすんな。あ、ちなみに生き物とかも作れんのか?」
「作れるけど、一匹一匹作っていくと、相当時間かかっちゃうと思うよ。面倒くさくない?」
「……まあ確かに、面倒くさいかも。けど、生き物がいないってのは世界としてどうなのよ? やっぱここは、面倒くさくない範囲で――」
「あっ、じゃあこうしたら? 生き物を生み出す能力を持った生物を最初に作る。それでそのあと、その生き物に勝手にほかの生物をバンバン作ってもらう。千年くらい経てば、たぶんヴェサーニアは生き物であふれかえってると思うよ」
「……なるほど。そんなことができるなら、それをやったほうが手っ取り早いな。んじゃ、土台を作ったあとにその生物を作るか」
「エネルの量はどれくらい与える? 多ければ多いほど、多種多様な生物を短い時間で作れると思うよ。自分の力を与えて、ほかの生物を作るわけだから」
「ああ……そうだな。半分くらい与えるか。それなら、けっこうにぎやかな世界になるだろ? なんない?」
「いやむしろ与えすぎのレベルだけど。そんなに与えちゃったら、もしその生物が反旗を翻した場合、トーマ負けちゃうじゃん」
「えっ、謀反なんて起こす可能性あるの?」
「生き物だからね。そのリスクはあるよ。そのリスクをなくそうとすれば、莫大なエネルを与えないといけなくなる。加えるよりも削ぐほうがエネルかかるんだよ」
「そう、なのか……」
それは困った。
エネルが半分減って、十階建てビル破壊パンチから五階建てビル破壊パンチになってしまうのは別に問題ない。
が、謀反を起こされるかも、というリスクは考えてなかった。
そうなったときに、それを沈められないのは『創造主』として情けないことこの上ない。
神としての威厳ゼロだ。
「うーん、どうするかな……。二割くらいに減らすか……? いやでも、そうすると……」
俺の望む、多種多様な生き物が生息するにぎやかな世界になるかどうか……。
それをチロに聞こうとしたところで、ふと俺の脳裏に妙案が駆けた。
「最初の生命体を二体作って、そいつらに二割づつ分け与えるってのはどうよ? そうすれば、一体に謀反を起こされても、もう一体は俺の味方だろ。リスクは減るんじゃないか?」
「二体が結託して謀反起こしたら?」
「まさか。そんな可能性は低いだろ。まあでも、一応犬猿の仲って設定で作るか。この設定を加えるだけならそんなエネルは必要ないだろ? 削ぐんじゃなくて加えるんだから」
「まあ、そうだね。それなら追加エネルはほとんど必要ないと思う。それでいく?」
「ああ、それでいこう。が、まずは土台作りだな。ワールドマップの作成から始める」
こうして、世界創造の最初の一歩がスタートした。
◇ ◆ ◇
あれから、一年が過ぎた(時間の感覚をつかむため、最初に時計を作った)。
ワールドマップどおりに土台が完成し、それに加えてこの世界の『ルール』も作成した。
まず、大陸は西と東にひとつずつ。
それ以外はいい感じに小さな島をバラけさせ、RPGの世界っぽくした。
中央に浮かぶ空飛ぶ島は、俺とチロの居城だ。
まあ、下界の人間たちはよほど文明が進まないかぎり、この島にはたどり着けないだろう。だが、まったく到達不可というわけでもない。そのくらい、絶妙な高度に設計した。
そして、次に取りかかったのは、この世界の大まかなルール作りである。これにはかなり頭を悩ませた。個人的には、前の世界の物理法則とは大きく違ったものにしたかった。
したかったのだが、残念ながら俺の頭では無理だった。
無から一を創造し、矛盾がないようにそれらを設定するのはかなりの知能レベルが必要だということを俺はこの数か月で情けなくも思い知った。
ゆえに、だいたいは前の世界のものをそのまま引き継ぎ、その他のファンタジー要素もゲームで得た知識をそのまま流用した。
唯一、オリジナリティーを出した部分と言えば――。
「ダブルメソッド? なにそれ?」
チロに訊かれ、俺は得意げに肩を鳴らして説明した。
「ダブルメソッド――通称、ダブル。刀身による斬撃とマジックボールによる魔法攻撃をそれ一本に内包した特殊武器だ。コイツを、ヴェサーニアにおける最もポピュラーな武器として設定する。唯一と言っていいオリジナリティーだ」
「うわ、すごいカッコ悪いことをめちゃくちゃ男前な顔して言ってのけた。想像力とか発想力がないって恥ずかしげもなく暴露してるようなモノなんだけど……」
「ああ、ないよ。悪いか? あったら前の世界でもっとまともな生活送ってたわ」
「ああ……うん、そうだったね。オイラ、デリカシーがないこと言っちゃったよ……ごめん。それで、ダブル……だっけ? それ関連の設定って、もう少し細かくあったりするの?」
「当然。俺がこれ考えるのにどんだけ時間かけたと思ってる? 三か月だぞ。それに暇さえあれば――って、まあいいや。とりあえず、まず最重要ポイントとして、ダブルにはランクを設ける。最高をS、最低をDとした五段階だな」
「ランクは何によって決まるの? 希少性? 刀身の切れ味? 魔法の威力? てゆーか、そもそもマジックボールってなに?」
「マジックボールってのは、魔法を収納する玉だ。例えば分かりやすく、ファイヤーって魔法があったとする。そのファイヤーの力をマジックボールに注入すると、マジックボールを介して、ダブルからファイヤーの魔法を発射することができる。個々人の魔力を消費してね。ああ、そうだ。魔力のことをエネルと名づけるか。エネルって言葉、どっかに使っときたいもんな。俺が作ったモノなんだから、証みたいなモンを入れときたい」
「じゃあ、魔力のことはエネルって名づけよう。そのマジックボールっていうのに魔法の力を注ぎ込むのは、トーマってことだよね? エネル使って」
「ああ、もちろん。エネルの一割くらいは使ってもいいと思ってる。百種類、全部で一万個くらい作っときたいからな。同じ炎系の攻撃魔法でも威力、範囲などによって十種類くらいは作りたい。ああ……となると、百じゃ足りないくらいか。二百だな」
「凝るねー。まあでも、それくらいだったら一割使えばじゅうぶんすぎるほどだと思う。超強力な魔法だけ、一万個作ったとしてもたぶんイケるよ」
「いやそれじゃつまんねえから弱いのも作るよ。弱いのがあるから、強いヤツが目立つんじゃねーか。いろんな魔法が入ったボールをたくさん作る。考えるだけでもワクワクするぜ」
「マジックボールはダブルのどこにはめるの?」
「今のところ、柄の部分を考えてる。ダブル一本につき、四個までマジックボールをはめられるようにする予定だ。最初から何個かはめた状態にしておくってのも、そのダブルの個性が出ていいかもな。ランクの高いダブルには、強力な魔法が入ったマジックボールが埋め込まれてるって感じで。となると、一度はめたら取り出せないって縛りが必要か」
「じゃあランクの高低は、はめ込まれたマジックボールの良し悪しで決まるってこと?」
「いや、総合的にだな。刀身の切れ味も当然考慮に入れる。が、マジックボールの良し悪しが一番の判断材料になることは間違いない。希少性は……まあ、ランクの判断材料からは除外するか。数が少ないモノは放っておいても勝手に希少価値が出るが、希少価値=役立つ武器ではないからな。ランクの高低は使えるかどうかのみで判断する」
「なるほどねー。トーマにしては、けっこう考えられてるね」
「だろ? あと、大まかに
と、そこまで言ったところで、俺はハタと言葉を止めた。
突然どうした? という顔で両目をパチクリさせるチロに、そうして苦笑いで言う。
「いや、どう考えても順序が逆だな。この話よりも、今は『最初の生命体』を生み出す話をしなくちゃな。土台が出来て、ルールも作った。次は最初に言った、『生物を生み出す能力を持った生物』の創造だ。原初の生命体。いよいよこいつの創造に着手する」
「忘れてなかったんだ」
「いや忘れるわけないだろ!? いっちばん大事な肝中の肝じゃねーか!?」
忘れるわけがない。忘れていたら、馬鹿を通り越して阿呆だ(いやどっちがより間抜けなのかは分からないが)。
「分け与えるエネルの量は、二割ずつでいいの?」
訊かれて、俺は問題ないとばかりに頷いた。これで俺のエネル量は当初の半分になるが、想定の範囲内である。
ダブル作成でまた一割使い、その他諸々、なんやかんやで三分の一ほどになってしまうだろうが、それだけ残ればじゅうぶんだ。三階建てのビルをパンチ一発で破壊する機会などそう訪れるものではない。俺専用の最強ダブルも作る予定だし――過ぎたるはなお及ばざるが如しである。
「容姿とかはどうする? 大きさとか」
「ああ……そう、だな……」
容姿、大きさ、肌の色など――。
これはよくよく考える必要があるなと、俺は思った。
ものすごく重要なことである。
その二体の生命体を作るのは俺だが、その後の生物は全てその生命体によって創造される。この先、下界を埋め尽くすだろう新たな人類にとって、彼らは神となるはずだ。
無論のこと、一定の威厳は必要である。が、だからといって、度を超えた神々しさというのは与えたくない。あまり神々しさがすぎると、それより上の存在の俺が相対的にショボく見えてしまうからだ。それだけは避けねばならない。
あごの下に右手を潜らせ、俺は黙考した。
「身長十メートルくらいの巨人にする?」
「却下」
「悪魔みたいな強そうな見た目にする?」
「却下」
チロの提案を二連続で即座に却下。両方とも問題外である。
俺はさらに黙考した。
そして――。
数時間後、悩みに悩んだ俺が最終的に出した結論は――。
振り返って考えると、自分でもため息が出てしまうくらい平凡なそれだった。
想像力のなさが、こんなときまで顔をのぞかせる。