転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第20話 クライマックスの鐘

 

 神歴1012年2月18日――レベランシア帝国、ブレナ邸。

 

「いや俺誘われてないんだけど?」

 

「誘われてないの!?」

 

 アリスは衝撃に両目を震わせた。

 

 時刻は午後一時三十七分。

 

 ブレナと二人で少し遅めの昼食を取っていた彼女は、想定していなかった返事の内容にこれ以上はないほど驚愕した。

 

「絶対ブレナさんもパーティに誘われてると思ってた。てゆーか、一番最初に声かけられてると思ったのに……なんか、ごめん」

 

「いや謝るな。よけい惨めになるわ。つーか、あの野郎……俺に内緒で俺の部下を勝手に引き抜こうとしやがって……。そんでなんで俺には声かけねえんだよ。少しは俺に対して、申し訳なさそうな感じ見せてたか?」

 

「ううん、ぜんぜん。断ったら、すんごいガッカリした顔してたけど。でも、しつこくは誘ってこなかった。じゃあ、しょうがないな、みたいな感じ。ブレナさんに対して申し訳なさそうとかは、全然まったくなかった。トレドさんらしいけど」

 

「らしすぎて腹立つわ……。まっ、どのみちあと少しで奴とも『お別れ』だ。名残惜しくもなんともないが、今までの功績にはちゃんと感謝はしないとな」

 

「すごい功績だったねー。何年もかかると思ってたことが、トレドさんのおかげで一か月もかからず達成できちゃったんだもん。感謝感激雨あられだよー。神様みたいにすごかった」

 

「いや俺でも後先考えず奴みたいに振舞えば、一か月もかからず達成できたんだよ。奴のやり方が功を奏したのは、とてつもなく幸運だったからにほかならない。俺のやり方だったら時間はかかったかもしれないが、おまえの両親がゲヘナ盗賊団に拉致られるようなこともなかった。なかったからな!」

 

「まだ言ってる……」

 

 やっぱり、トレドの誘いを断って正解だったとアリスは改めてそう思った。一人になったら、なんかもういろんな意味で寂しい状態になること請け合いである。

 

 アリスは深く嘆息した。

 

 と。

 

「そういや、ルナは?」

 

 訊かれて、アリスは即答した。

 

「買い物。トレドさんと一緒に。そろそろ、トレドさんの『お別れ会』に必要な物買い揃えないといけないから。二、三時間で帰ってくると思うよ」

 

「お別れ会!? お別れ会なんてやんの!?」

 

「やんないつもりだったの!?」

 

 アリスは再度、驚愕した。

 

 短い期間とはいえ、一緒に行動した仲間の――しかも、あれだけの功績を残した仲間の『お別れ会』を開かないつもりだったなんて、アリスには衝撃を通り越して驚愕だった。

 

 彼女はグーに握った両手をバッと頭上に上げて、

 

「ブレナさんは冷たいーっ! 薄情だーっ! ボス失格だーっ! 人間失格だーっ!」

 

「いや人間失格(そこ)まで言うか……? つーか、本人の送別会に必要な物を本人と買いに行くってのもどうなんだ?」

 

「だって、プレゼントとか自分で選んでもらったほうが間違いがなくていい、ってルナが言うから……。あたしはサプライズで渡したかったんだけど……」

 

「……ああ、まあそこは意見が分かれるところだな。味気ない感じもするが、その方法なら相手が欲しいと望む物を確実に買ってやれる。ルナらしい考え方だ」

 

「でも、味気ないよーっ、あたしはサプライズで渡したかったぁーっ」 

 

「ちなみに、どんなの買って渡そうと思ってたんだ?」

 

「鬼の子クータン人形っ!」

 

「ルナのやり方で正解だったな」

 

「なんでー!? クータン人形だよ!? 一個三万ゴーロもするんだよ!?」

 

「たけぇな!? クソみたいな人形なのに、そんな値段すんのか!?」

 

「ぐなぁーっ、クソみたいじゃないーっ、可愛いーっ、男の子にだって大人気なんだからーっ!」

 

()、にだろ……。プリティーキャット人形よりも、さらにもらって嬉しくないシロモンだぞ? まあ、どうでもいいが。それよか、俺もこれから出かける予定があるんだけど……おまえはどうする? ここにいるか?」

 

「うん、ここでみんなの帰り待ってるー。ブレナさんはなんか用事あるの?」

 

「ああ、ちょっと友達が帝都まで来ててな。会う約束してんだ。そんな遅くはならないと思う。二、三時間で戻るよ」

 

「ブレナさん、友達いたの!?」

 

「いるわ! 俺をなんだと思ってんだ!?」

 

「…………」

 

 アリスは三度(みたび)、驚愕した。三度目のこの驚きが、中でも一番の衝撃であったのは言うまでもない。彼女はしばらくのあいだ、開いた口を閉じられずにいた。

 

 数分後――。

 

 ようやくと我に返ったアリスが室内を見まわすと、すでにブレナの姿はそこにはなかった。つまりは退屈と戦う数時間が、彼女の元を訪れたということである。

 

 アリスは、バッグの中からプリティーキャットの人形とプリティードッグの人形を取り出した。

 

 いつも大事に部屋に――ガラス戸の中に飾っていたため、買ったときとほとんど変わらぬ綺麗な状態である。

 

(……ベルくんのプリティーキャット、傷だらけだったなぁ……。でも、それはそれでなんか味があって良かった)

 

 そのさまを脳裏に浮かべると――必然、その持ち主であるベルの姿も同様に脳裏の端にくっきりと浮かんだ。

 

(ベルくん、元気かなぁ……。どこに住んでるか訊かなかったから、会いにいけないよ……。失敗したなぁ……。せっかく友達になれたのに……)

 

 慌てていたとはいえ、とんだ失態である。

 

 ――今度、ルナに手伝ってもらって、彼の家を探してみよう。

 

 アリスがそう心に決めたのと、午後二時を知らせる柱時計の音が鳴ったのは奇しくも同じタイミングだった。

 

 最長で、あと三時間。

 

 夕方の五時過ぎまで何をして時間をつぶそうか。

 

 アリスは真剣に頭を悩ませたが――だが、このとき彼女はまだ知らない。

 

 最長で三時間というその見立てが、そもそも大きく間違っていたということを。

 

 波乱の数時間が、そうして静かに幕を開ける。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日――レベランシア帝国、中央メインストリート。

 

「リッツファミリーの残党ですね。最近、けっこう見かけます。組織を解体させても、なかなかすぐにはいなくなりませんね」

 

 周囲を見まわしながら、ルナは鋭い語調で言った。

 

 ガラの悪い若者たちが、そこかしこにたむろしている。目につくだけでも、二十人近くはいるだろう。元を叩いたというのに、どこから湧いてくるのか不思議でならなかった。

 

「どうする? 片づけとくか?」

 

 隣を歩くトレドが、腰もとのダブルに右手をかけつつ訊く。

 

 ルナは短く息を吐き出すと、首を左右に振って、

 

「いえ、今日はやめておきましょう。時間がもったいないです」

 

「目についたときに処理しといたほうがよくないか? てゆーか、俺のお別れ会とか正直どうでもいいし」

 

「どうでもいいんですか!?」

 

「……ごめん、やっぱどうでも良くない。めっちゃ嬉しい。いやマジで」

 

 左のこめかみから冷や汗を一滴たらして、トレド。

 

 ルナは満足げに頷いた。

 

「わたしたちの好意、ちゃんと受け取ってくださいね。感謝の気持ちと親愛の情がたっぷり入った会なんですから」

 

「ルナが手作りの料理でも作ってくれんの?」

 

「作りますよ。ご馳走作ります。腕によりをかけて、食べきれないくらい」

 

 ルナは、にっこり笑って言った。

 

 受けたトレドは、まんざらでもなさそうな顔で、

 

「そいつは楽しみだね。半分冗談のつもりだったんだけど。それ聞いて、気持ちがちょっと上がってきたよ。やっぱり、さっきの奴ら――」

 

「ダメです。そんな時間はありません。今日はいろんなお店に行かなくちゃいけないんですよ。のんびりしてると夜になっちゃいます」

 

「……了解。んじゃ、今日はこいつも一日休養日とするか」

 

 そう言って、トレドが腰もとのダブルの柄頭をポンと叩く。

 

 ルナは、気になっていたことを訊いた。

 

「そう言えば、トレドさんのダブルって見たことないヤツですね。タイプはオーソドックスなソードタイプですけど、見たことないです。ブレナさんみたいに、ダブルに詳しいわけじゃないですけど……」

 

「……ああ、まあ見たことなくて当然だと思うよ。このダブル、特別だから。店じゃ絶対買えないし、どんな高難度のダンジョンでも百パー手に入らない。唯一無二。俺専用のダブル」

 

「……馬鹿にしないでください。Aランクは半分以上知らないですし――Sランクなんて一本も見たことないですけど、その嘘はさすがに分かります。からかわれるのはあんまり好きじゃないです」

 

 両頬をほんの少しだけ膨らませて、ルナは不機嫌に言った。

 

 個人専用ダブルなど聞いたことがないし、そんなものがあるはずないというのは理屈で分かる。全てのダブルは、千年以上前の『神文明(しんぶんめい)』時に作られたものだ。こんなことは五歳児でも知っている。トレドが誕生するよりはるか昔に作られたそれらが、つまりはトレド専用にはなりえないことくらい子供にだって分かるかんたんなロジックだった。

 

 ルナは、意地悪く言った。

 

「それとも、トレドさんはやっぱり十二眷属だったんですか?」

 

「いやそれまだ言う? そうじゃないけど……まあ、いいか。そんなことより――」

 

 そんなことより――。

 

 その先に続く言葉は、けれどもいつまで待ってもトレドの口から放たれることはなかった。

 

 不審に思い、ルナはそらしていた視線をトレドのほうへと再度向けた。

 

 彼の顔は、とある方向を向いていた。若干と驚きに目を見開いたような様子で。

 

 ルナは、訊いた。

 

「どうしたんですか?」

 

 トレドは、答えた。

 

「相棒、見つけた」

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

「ったく、あいつ……こんなトコをウロウロしてたのか……?」

 

 隣を走るトレドが、苛立ったような、あきれたような、どちらとも取れるような語調で一人ごちる。

 

 ルナは冷静に、周囲の様子を確認した。

 

 中央メインストリートから、少し外れた細い路地。

 

 迷路のように、とまではいかないが、それなりに入り組んだ道である。

 

 この先を抜けると何があるかは、ルナにはよく分かっていた。

 

 大聖堂。

 

 否、旧大聖堂である。

 

 百年前に起きた大きな地震によってナギの像が崩れ、そのことが理由で切り捨てられた前時代の遺物。

 

 数十年前までは観光目的などで、それなりに訪れる者も多かったと聞くが、今となってはすっかり廃墟のテイである。

 

 そればかりか――。

 

「トレドさん!」

 

 ルナはトレドの注意を惹くように、少しだけ声を大にして呼びかけた。

 

 言わなければならない。

 

 おそらく、トレドは知らないだろう。

 

 今から向かおうとしているその場所が、ならず者たちのたまり場になっているということを。

 

 そして、そのならず者たちが『帝都の巨悪』に隠れた『第四の勢力』であるという事実を。

 

 つまりは、無法の凶悪集団『()()()()()』の存在を――。

 

「聞いてください! この先の旧大聖堂には――」

 

 と、だがそれを伝えようとしたルナの言葉は、中途でトレドのそれによって完全無欠に遮られた。

 

「……ああ、一応先に言っとくわ。たぶん相棒の姿見たら、ちょっとどころではないくらい驚くと思うけど――まあでも、あんま派手には驚かないでやってよ。本人傷つくから。ああ見えて、案外繊細だからね」

 

「?? よくわかりませんが、了解しました。そんなことより――」

 

 そんなことより――。

 

 が、先刻のトレド同様、まったく同じその個所で今度はルナの口が止まる。

 

 到着、してしまったのだ。

 

 旧大聖堂に。

 

 だが、彼女の口が止まったのは、それそのことが原因ではなかった。

 

 たどり着くと同時、トレドがその流れのまま、入り口の扉を躊躇(ちゅうちょ)なくひらく。

 

 その瞬間、ルナの口は驚きと共にその動きを完全に止めたのである。

 

 驚愕。

 

 それは文字どおり、天地がひっくり返るほどの衝撃だった。

 

 クライマックスの鐘の音が、寂れた聖堂内に鳴り響く――。

 

 

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