転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第21話 トーマとチロの冒険 ④(この話以降、重大なネタバレが生じます。途中から読むタイプの方はご注意ください)

 

 神歴1010年、7月16日――ミレーニア大陸中央、ヘンフリックの町跡地。

 

「……なん、だ……これ?」

 

「……ひど。トーマ、町が死んじゃってるよ……」

 

 ()()()()()()()

 

 チロの言うとおり、この町はすでに死んでいる。

 

 文字どおり、()()()()()()()()()()()()()

 

「小規模な町だったみたいだけど――でも、それでも死体の数は百や二百じゃきかないよ。何百人も……もしかしたら何千人もかも」

 

「腐敗はそんなに進んでないから、まだ死んで間もないな。いや、()()()()間もない」

 

「……うん」

 

 チロが、神妙な顔で頷く。

 

 そう、この町の住民は病気や事故で死んだのではない。()()()()()()()。何者かの手によって。それは死体の様子を見れば一目瞭然だった。

 

「ほとんど全員、斬撃でやられてるね。魔法で殺されてるヒトは少ない。いないわけじゃないけど」

 

「刀身で斬りつければ、殺す感覚が手に残るからな。快楽殺人主義者だな。おそらくは殺すことが目的でヒトを殺してる」

 

「でも、これだけの数の人間を殺せるかな……? 滅茶苦茶強い快楽殺人主義者だったのかな……。まあ、一人とはかぎらないけど」

 

「イカれた野郎が徒党を組んでるってのか? それはそれでぞっとしない話だな」

 

「……まだ、分からないことだらけだね。とにかく、あの子を探そう。町の中にまだ、これをやった人間が残ってるかもしれないし」

 

「……ああ、そうだな」

 

 俺とチロは手分けして、緑髪の少女を探すことにした。

 

 ドゥーラ山脈のふもとで彼女に追いついてから、俺たちはこの町の入口までずっと彼女を護衛してきた。

 

 もっとも護衛と言っても、気づかれないような距離感を保って、ただ彼女の後ろをついて歩いてきただけだが。三度も無言で逃げられては、そうするよりほかなかった。

 

 だが、町の入口に着いたところで、四度(よたび)の逃走に遭う。

 

 この町の惨状に言葉を失っていたところ、間抜けにも気づかれ、スタタと逃げられてしまったのである。

 

 逃げ足の速さだけは超一級。というより、単純に足が滅茶苦茶速かった。とても十歳そこそこの少女とは思えないほど。俊足極まるランナーだった。

 

「けど、早く見つけてとっ捕まえないと。チロの言うとおり、これをやったイカレ野郎がまだ町の中にいるかも――」

 

「トーマ、こっち来てー! あのコ見つけたーっ!」

 

「……いや早いな、アイツ。もう見つけたのかよ。まあ、空飛べるんだから当然と言えば当然かもだけど……」

 

 いずれにしろ、これで一安心だ。

 

 俺は急ぎ、チロのもとへと向かった。

 

 大変だったのはでも、ここから先の数時間だった。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

「……いやなんか喋れって。何時間、黙ってるつもりだ?」

 

 石畳の地面に腰を下ろした状態で、俺は目の前に座る少女に言った。

 

 時刻は、午後八時三十分。

 

 辺りは完全に暗闇に包まれ、たき火を囲んでいなければ二メートル先も見えない状況だった。

 

「……心、閉ざしちゃってるのかな。まあ、無理もないよね。こんな地獄でひとり生き残っちゃったんだもん。ひとりかどうか、まだ分かんないけど」

 

 チロが、テキトーなことを言う。

 

 俺はもう一度、少女に向かって語りかけた。

 

「なあ、この町で何があったんだよ? これをやった人間は、もうこの町にはいないのか? 大丈夫なのか?」

 

「…………」

 

 返事はない。

 

 少女を保護してから、ちょうど五時間が経つ。この問いかけも、もうこれで十七回目だ。一声聞くだけで(まだ聞けてないが)、まさかこんなにも時間が必要だとは思わなかった。

 

 俺は奈落の底に巨大なため息を落とすと、数日前に入手した『束の間の飛翔(イカロス・フェザー)』のボールをサブのダブルにはめ込んだ。

 

 と。

 

「あっ、そのボール、レプも持ってる」

 

「いやこのタイミングで喋んのかよ!? なんでだよ!」

 

 喋った。

 

 なんの前触れもなく、突然喋った。俺はワケが分からなかった。

 

「喋ったんだからいいじゃん。マジックボールに、興味あるの?」

 

「マジックボールってなに? さっきのボール?」

 

「ああ、そうだ。今、はめ込んだのは『束の間の飛翔(イカロス・フェザー)』って言って、超絶レアなボールだ。おまえが持ってるのは、どんなボールだ?」

 

 なぜ急に喋りだしたのかはまったく分からないが、千載一遇の好機である。俺は彼女の興味に飛びついた。

 

「レプのボールはこれ。赤くてキレイなボール。レア?」

 

「……小火(スモール・ファイア)だ」

 

 チロが、ぼそりとつぶやく。

 

 俺も思わず、つぶやいてしまった。

 

「……ショボ」

 

「……むぅ」

 

 少女の顔が、ふくれっ面に変わる。

 

 俺は慌てて、話題を変えた。

 

「でも、なんで急に喋る気になったんだ? そんなに、俺のマジックボールが気になったのか?」

 

 訊くと、少女はブンブンと首を左右に振った。

 

 その流れのまま、言う。

 

「レプはずっと警戒してた。お兄ちゃんがアイツの仲間かもってずっと思ってた。でも、違うって分かった。観察の結果。レプは観察超得意」

 

 観察してたのか。とてもそんなふうには見えなかったが。

 

 いずれ。

 

「アイツってのは、この町をこんなふうにしたヤツのことか? まだこの町にいるのか?」

 

「もういない。どっか行った。突然やってきて、みんな殺して、突然いなくなった。レプのおじいちゃんも殺された。レプは悲しい……」

 

 そう言って、少女がうつむく。ほんの少し、目に涙が溜まっていた。

 

 チロが、言う。

 

「……そっか。オイラ、チロって言うんだ。元気出しなよ。これあげるから」

 

「……ボール? チロもボール持ってた?」

 

「うん、それは『火炎波浪(ミドル・ファイア)』って言うんだ。きみが持ってるボールのパワーアップバージョンだよ」

 

「おぉ……パワーアップバージョン……」

 

 受け取った少女の表情が、見る間に晴れる。プレゼント効果は、どうやら抜群だったらしい。

 

 俺は、その波に乗った。

 

「名前、なんて言うんだ? レプってのは愛称だろ? それとも、レプが名前?」

 

「レプはレプ。レプリア・ヴァンセン。でも、みんなレプって呼んでた」

 

「年は?」

 

「レプは昨日、九歳になった」

 

 少し誇らしげに、少女――レプが答える。

 

 最悪の中で迎えた誕生日だな、と俺は素直に思った。

 

 が、その最悪を持続させてはならない。

 

 俺はレプの頭をポンと叩くと、

 

「俺たちと一緒に来るか? このままここにいたって、最悪がずっと続くだけだ」

 

「行く。レプはお兄ちゃんとチロについていく。今、決めた。レプの決断は早い」

 

「そっか。んじゃ、出発しよう。この場所は長くいる場所じゃない」

 

 そう言って、立ち上がる。

 

 と、そこで俺は思い出したように、

 

「そうだ。俺の名前も教えとかないとな」

 

「あっ、ついに決めたんだ。なんて名前にしたの?」

 

 若干と驚いた様子でこちらを見たチロが、興味津々に訊く。

 

 俺はレプに視線を留めたまま、コクリと頷いた。

 

 決めた。

 

 そう、決めたのだ。

 

 新たな世界での、新たな名前が今、決まった。

 

 それは、始まりの号砲。

 

 俺はわざとらしく、そこで一拍溜めると――。

 

 それからゆっくりと、()()()()を乾いた空気に優雅に流した。

 

()()()。ブレナ・ブレイクだ。よろしくな、レプ」

 

 トーマの――ブレナ・ブレイクの、新たな人生が始まる。

 

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