転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第3章
第40話 久しぶりの小悪党退治


 

 神歴1012年3月6日――ギルティス大陸南東、ヴィレムの町。

 

 午後9時03分――宿屋一階、食堂。

 

 先の村とは正反対の、人込みと喧騒にまみれた宿屋の一階。ブレナたちはこのやかましい空間で、少し遅めの夕食を取っていた。

 

「ほら、トッド。服にスープついてる。ちゃんとこぼさないで飲みなよ」

 

「ほら、アリスさん。お肉が太ももに落っこちてます。ちゃんと落とさないで食べてください」

 

 リアとルナ、二人がそれぞれ、隣の席に座っている子供の世話を焼く(いや一人は子供じゃなかった)。

 

 ブレナはその様子を横目で見やると、すぐに視線を正面に戻して、

 

「んで、おまえはなんでついてくる気になったんだ?」

 

「なんでって……どっかのアイアンヘッドが『信用できない』って言うから」

 

「どっかのアイアンヘッドって誰のことだ!? まさか私のことじゃないだろうな!」

 

 いや間違いなくおまえのことだ――ブレナは思ったが、面倒臭くなるので口には出さなかった。

 

 代わりに、リベカのほうを見やって、

 

「まあ、野グソが本当ならたいした罪にはならんだろうが。でも、十万ゴーロくらいの罰金は取られるかもしれないぞ?」

 

「そのくらいなら別にいいわよ。こんな恥ずかしい罪をカミングアウトしたのに、それさえ信じないっていうどっかの正義馬鹿の鼻を明かせるなら」

 

「馬鹿!? 馬鹿だと!? 貴様ッ、さっきから聞いていれば――」

 

 がしゃん!

 

「――――っ!?」

 

 突然と。

 

 背後で瓶か何かを叩き割るような音が響き、ブレナは反射的に振り向いた。

 

 数メートル後方に、割れたビール瓶を持った荒くれ者が三匹立っていた。

 

 ブレナは深く嘆息した。

 

 立ち上がり、言う。

 

「三人揃ってどうしたよ? 誰が一番芸術的にビール瓶を割れるか、この町ではそんなクレイジーな遊びでも流行ってんのか?」

 

「愉快なことを言うじゃねぇか、兄ちゃんよぉ! 女連れてるからって粋がってんじゃねぇぞ、ゴラァ!! よそ者が、デケェ声でやかましいんだよ!!」

 

「あんたのほうが、よっぽどやかましいんだけど。子供が怖がってんだろ、大きな声で喚くな」

 

 食事の手を止め、不安げな表情でしがみついてくるトッドの身体を優しく抱き寄せ、リアが言う。

 

 あとに続いたのは、アリスだった。

 

 彼女は「ここぞとばかり」に両手をバッと振り上げ、

 

「そうだそうだー! トッドくんが怖がってるだろー! 急に大きな声出すなーっ! あたしも怖いーっ!」

 

「すみませんが、あまりうちのアリスさんを怖がらせないでください。トッドくんより、たぶん内心ドキドキしてると思います」

 

 そうかもしれない。

 

 ブレナは、ルナの言葉に心の内で頷くと、

 

「うるさかったんなら謝るよ。()()()()()()()()()()。が、今のおまえらの行動は看過できねえ。子供の前で喚き散らしやがって。ビール瓶まで割って――俺たちとおまえら、ほかの客により迷惑かけてんのはどっちよ?」

 

「はぁ? ンなもん、知るかよ! ほかの客なんざどうでもいいんだよ! 俺らがムカついてんだ! 調子くれてねえで、土下座して金置いてさっさと去れや!!」

 

「……やれやれ。結局、それが目的か。回りくどいことしやがって。そうならそうと最初から言えや。面倒くせえ」

 

「あぁ!? てめっ、誰に向かって上等くれてっか分かってんのか!?」

 

「知らねえよ。おまえらが誰かなんざ知らねえし、興味もねえ。たぶん一週間後には忘れてる。んなことより、さっさと表に出ろ。おまえらこそ、誰に上等くれたのかってのをたっぷりと思い知らせてやるからよ」

 

「――――っ!?」

 

 荒くれ者三匹が、示し合わせたかのようなタイミングで両目をむく。全員漏れなく沸点が低い。ジャックよりもさらに低いんじゃないかと、ブレナは呆れたまなこでそう思った。

 

 と、そのジャックが釘を刺すように言ってくる。

 

「殺すなよ。あとの処理がいろいろと面倒になる。半殺しまでにとどめておけ」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 短く応じて。

 

 ブレナはそのまま、三匹の荒くれ(こぶた)を引き連れ店を出た。

 

 久々の『小悪党退治』に、腕が鳴る。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日、午後9時12分――ヴィレムの町、路地裏。

 

「……ぁ、が……ぅぅぅ……」

 

 月がきれいな夜だ。

 

 ヴェサーニアにも衛星(つき)のようなものがあるのか、とブレナは不思議に思った。

 

 あれは見えるだけで行くことはできない、ただの設定上の代物なのか。あるいは文明が進めば到達することが可能なのか。

 

 その辺りのことを、チロにもっと詳しく訊いておけばよかったと、ブレナは今更ながら後悔した。

 

(……いや、これから訊けばいいか。復活させたあとに、訊けばいい。寝ぼけてなけりゃあ答えられんだろ……)

 

 胸もとのペンダントに視線を落としながら、胸中につぶやく。

 

 と、ブレナはその流れのまま、視線をさらに下方向へと動かした。

 

 足もと。

 

 荒くれ三匹が、それぞれ、瀕死の重傷で地面に横たわっていた。

 

(……ちょっとやりすぎちまったかな。いや、()()()()()()()()()()()()()……)

 

 ブレナは、やりすぎていない。

 

 ちゃんと加減して、三人とも全治一か月以内の()()に抑えた(ムカついたから、全員前歯はへし折ってやったが)。

 

 やりすぎたのは、つまりは自分ではない。()()である。

 

 ブレナはいまだ、荒くれ者の一人にジャンピング踏みつけ攻撃をかましている少女に視線を移すと、

 

「……レプ、もうその辺にしとけ。それ以上やったら、洒落にならんことになる」

 

「悪者退治、もう終わり? レプは全然物足りない。トッドとアリスを怖がらせた悪者をもっと痛めつける。ごめんなさい言うまでボコボコにする」

 

 少女――レプがそう言って、さらに踏みつけ攻撃をかます。

 

 ブレナは鼻でため息を落とすと、レプの身体を抱きかかえるようにして、荒くれ者Cから引き剥がした。

 

 そのまま、言う。

 

「もうすでに、ごめんなさい、を言える状態じゃないんだよ。全員、ほとんど気絶してるじゃねーか」

 

 一人(荒くれ者B)はギリギリ意識を(滅茶苦茶うめきまくってるが)保ってるが、ほか二人は白目をむいて失神。荒くれBを含めて、ごめんなさい、を言える状態ではとてもなかった。

 

「だいだい、おまえなんでついてきたんだよ? 俺に任せて、ほかの奴らと一緒にメシ食ってりゃよかったのに。まだ食い終わってなかっただろ?」

 

「レプと兄者は一心同体。生まれたときは違えど、死ぬときは一緒。劉備と関羽と張飛と一緒。前に約束した。桃園の誓い。チロも含めて三兄弟」

 

「いやそんな理由じゃ絶対ないだろ。俺がこんな奴らごときに手傷を負わせられるわけがないってことくらいおまえは理解してるし――そもそも俺の心配はする必要ないって最初に言ったろ? 第一、半年間、離れて行動してたときだって……」

 

「でも、知らないうちにタンタンはいなくなった。兄者もいなくなったら、レプは悲しい。レプは淋しい……」

 

 ああ、そういうことか……。

 

 タンタンの件で、感傷的になっているのか。

 

(……そういや、()()()()()()()()()()()、しばらくは俺の後ろをついて離れなかったっけ。あのときに比べりゃ、この程度はまだマシか……)

 

 だいぶマシ。

 

 あのときと違って、二、三日もすれば、おそらくは元の彼女に戻るだろう。レプは立ち直りも早い。

 

 ブレナは彼女の身体を頭上にかかげて、そのままスポッと両肩の上に乗せると、

 

「いなくならねえよ。俺はおまえの前から何があってもいなくならねえし、ルナもアリスもいなくならない。だから、安心しろ」

 

「……ハリゼンボンに誓って?」

 

「ハリセンボンに誓って」

 

 言葉の意味はよく分からんが、ブレナはとにかく頷いた。

 

 と、そこでようやくとレプの身体を覆っていた負のオーラが若干と弱まる。弱まったように、ブレナには感じられた。

 

 彼はもう一度、胸もとのペンダントに視線を落とした。

 

(……やっぱコイツのことは、おまえのほうがよく理解してるよ。たく、いつまで寝てるつもりだ? さっさと戻って、次兄の役目を果たしやがれ……)

 

 月夜の晩が、ブレナの心にもセンチメンタルを運んで届ける……。

 

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