転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第41話 月夜の晩、お化けの話大会

 

 神歴1012年3月6日――ギルティス大陸南東、ヴィレムの町。

 

 午後11時37分――宿屋三階、客室(リアの部屋)。

 

「それじゃあ、今からお化けの話を――」

 

「あーあーあー!」

 

「お化けの――」

 

「あーあーあー! あーあーあー!!」

 

「おば――」

 

「あーあーあー!! あーあーあー!! あーあーあー!!」

 

「て、聞いてよー! なんで耳押さえてあーあー言ってるのー!?」

 

「お化けの話が聞きたくないからじゃない?」

 

 ぼそりと、リア。

 

 アリスは、理解不能とばかりにバッと両手を振り上げた。

 

「なんでー!? 聞きたくないって……それじゃあ、第一回お化けの話大会が始められないじゃないー!」

 

「始めなくていいです! わたしはそんな大会、かけらも興味ないです!」

 

「ていうか、なんであたしの部屋で当たり前のようにその大会ひらこうとしてんの? 自分たちの部屋でやんなよ。迷惑なんだけど。ウザいんだけど。寝かせてほしいんだけど」

 

 心底、嫌そうな顔をしてリアが言う。

 

 時刻は、午後十一時三十七分。

 

 数分前にリアの部屋を訪れたルナとアリス(レプは一時間以上前に寝てしまったので置いてきた)は、嫌がる彼女を強引に説き伏せ、そのまま無理やり部屋の中へと侵入した。トッドはすでに爆睡していて、リアも寝る寸前のような雰囲気だったが、おかまいなしである。

 

 それほど、アリスにはやりたいことがあった。やりたくてやりたくてたまらないことがあった。お化けの話大会である。

 

 アリスは嫌がるリアに向かって、

 

「えぇー、だってみんなでやったほうが楽しいし。リアさん、少しだけでいいから付き合ってよー。一時間だけでいいから」

 

「だけ、ってレベルの短さじゃないんだけど……」

 

 言って、リアが小さく一度ため息をつく。

 

 やがて、だが彼女はあきらめたように、

 

「一時間たったら、途中でも追い出すからね」

 

「うんうん、了解りょーかい。じゃあ、時間がもったいないから、さっそく話始めるね」

 

「ホントにやるんですか!? お化けの話なんて、めちゃくだらないじゃないですか!」

 

「くだらなくなんてないーっ。定番ーっ。てゆーか、さっきからなんなのー! もしかして、お化けの話が怖いとか?」

 

「もしかしなくても、そうだと思うけど」

 

 興味なさげに両目を細めて、リア。

 

 その言葉に、だがルナがムキになって反論する。

 

「そ、そんなことありません! わたしに苦手なモノなんてないです! いいですよ、じゃあ話してください! どうせ、たいした怪談噺じゃないでしょうし!」

 

「あーっ、ムッカー! もう怒ったぁーっ! 絶対怖がらせてやるんだからー!」

 

「無理ですね。アリスさんにわたしを怖がらせるなんてことできっこありません」

 

 十分後――。

 

「めちゃ怖いじゃないですか!? マジモンのホラー話じゃないですか!? 語り口も思ってたより三倍本格的じゃないですか!? なんなんですかいったい!?」

 

 ルナが、両手で頭を抱えてわめき散らす。

 

 アリスは、会心の笑みを浮かべて言った。

 

「だから言ったじゃない。怖がらせてみせるって。あたし、怪談噺には自信あるんだー」

 

「最悪じゃないですか!? 最悪の特技じゃないですか!?」

 

 最高の特技だ。

 

 思っていた以上の反応に、アリスはしごく満足した。

 

 リアに視線を移し、さらに訊く。

 

「ふっふっふー、リアさんはどうだった? 怖かった?」

 

「……べつに。思ってたより本格的で、ちょっとビックリはしたけど……」

 

「えぇー、ホントにー? 実はけっこうビビってたりしない?」

 

「ないね。怪談噺なんてくだらない。ルナと違って、あたしはそんなにガキじゃない」

 

「わたしも子供じゃありません! お化けの話だって、別に苦手じゃ――」

 

 

 

 プチン。

 

 

 

「……へ?」

 

 ルナの言葉が、中途で間が抜けた単音へと変わる。アリスもでも、無意識のうちに彼女の発したそれと同様の短音を漏らしていた。

 

 電気が、消えた。

 

 突然、プチンという音と共に明かりが消え、突如として冷たい暗闇が室内を包み込んだのである。それはあまりに唐突で、まるで予期せぬ不測の暗黒だった。

 

「て、停電!? こんなときに停電なんて最悪じゃないですか!? タイミング悪すぎですよ! だ、誰か懐中電灯つけてください! 後生ですから!!」

 

「わ、分かったから、落ち着いてよルナ! てゆーか、今、誰か『キャッ』て言わなかった? ものすごく可愛い声で『キャッ』て言わなかった?」

 

「わ、わたしは言ってないですよ? た、たぶんですけど! アリスさんじゃないんですか?」

 

「あ、あたしは言ってないよ。たぶんだけど。リアさんは?」

 

「……覚えてない」

 

「じゃ、じゃあリアさんですよ! リアさん、いつもぶっきらぼうに話すから分かりづらいですけど、よく聞くと実は可愛い系の声じゃないですか!? キュートな癒し声じゃないですか!? 今の、ぜったいリアさんですよ!」

 

「…………ッ!? だから、覚えてないって!」

 

「み、認めてくださいよ! じゃないと、第四の声ってことになっちゃうじゃないですか!? トッドくんは寝てるし――ここには今、わたしたちしかいないんですよ! そんなのめちゃ怖いじゃないですか!?」

 

「ざけんなッ! あたしはそんな声出してない!」

 

「だ、出してないって……それじゃあ、だから別の誰かになっちゃ――」

 

「あ、懐中電灯あった」

 

 懐中電灯発見。

 

 アリスは戸棚の中からそれを取り出すと、手にした成果を持って二人のあいだに割って入った。

 

 言う。

 

「懐中電灯、見つけてきたんだけど……」

 

「じゃあ、さっさとつけてくださいよ! なんでもったいつけてるんですか!?」

 

「いや、このまま下からライトで自分の顔照らして、お化けの話したらもっと盛り上がるかなぁって。良いシチュエーションだと思わない? もっかいやる?」

 

「ぜったいやりません!!」

 

 強烈に拒否された。

 

 アリスはしかたなく、ターゲットをリアに切り替えた。

 

「あっ、リアさん! 後ろッ! リアさんの後ろに誰かいる!!」

 

「だあーっ! もうなんなんですか!? いるわけないじゃないですか!? わたしは見ないですよ! ぜったい見ないですからね!」

 

「うん、ルナは見なくていい……」

 

 もうルナはどうでもいい。今のターゲットはリアである。

 

 が、当のリアはルナと違って、取り乱す様子など微塵もみせなかった。

 

「あんたさぁ……馬鹿なの? それでビビると思ってんの?」

 

「ホ、ホントなんだからー! 懐中電灯渡すから、リアさん確認してみてよ!」

 

 言って、無理やりリアに懐中電灯を手渡す。

 

 それを受け取ると、リアはやれやれとため息をついて、

 

「この三文芝居に付き合ったら、あんたたち、もう自分の部屋に戻ってよ……」

 

「も、戻るから、確認してよーっ! ホントにホントに後ろにいるんだからーっ! 蒼白い顔した女のヒトがッ!」

 

「くだらない。演技下手すぎ。さっきのそこそこ本格的な語り口はなんだったの?」

 

 心底、面倒そうな顔をして、そうしてリアがゆっくりと背後を向く。

 

 アリスは、その一瞬を見逃さなかった。

 

 すぅぅ。

 

「ひゃあ!?」

 

 ビクッ、と背中を震わせ、リアが短い悲鳴を上げる。普段の彼女からは、およそ想像できないような可愛らしいトーン。アリスの人差し指に不意に背中をなぞられたリアは、アリスの目論見どおりの反応を無様にさらした。アリスは満足の笑みを浮かべた。

 

「な、なんですか、今の超可愛い声! ホ、ホントにリアさんの後ろに誰かいたんですか!? そのヒトの声なんですか!?」

 

「安心して、ルナ。今のはリアさんの――――がぶッ!」

 

 アリスの脳天を、音速のげんこが突き抜けた。

 

「ざけんなッ! 調子乗ってんじゃねえ! もうぜったい許さねえ!!」

 

 リアの口調が、荒くれモードに切り替わる。

 

 アリスは、やり過ぎてしまったことを深い悪夢の中で後悔した。

 

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