転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第42話 神都アスカラーム

 

 神歴1012年3月7日――ギルティス大陸南東、ヴィレムの町。

 

 午前0時3分――宿屋三階、客室(リアの部屋)。

 

「リアさん、ひとつ訊いてもいいですか……?」

 

 ルナは暗い天井を見つめながら、ポツリとつぶやくように隣のリアに言った。

 

 ルナとアリスは、思わぬ不可抗力でリアの部屋に泊まることになった。

 

 リアに伸されたアリスが、いつまで待っても全然全く復活する気配を見せなかったからである。さすがに悪いと思ったのか、リアはアリスをベッドに寝かせて、自分は床に敷いた布団(布団もあったのは僥倖だった)の中に入った。そして、そのまま「あんたはどうする?」とこちらに訊いてきたのである。

 

 ルナは「わたしも泊まりたいです」と答えて、リアの隣にもう一枚の布団を敷いた(ちょうど二枚分あったのでこれも僥倖だった)。アリスだけを残していくのは可哀想だと思ったのが一番の理由だが、それだけではない。この特殊な環境下の中で、()()()()()が彼女の心のうちに芽生えたのである。

 

 訊きたい。

 

 二人だけの今、どうしても彼女からそれを訊いておきたい。()()()()を持って生まれてきた者同士、どうやったら『その強さ』を手に入れられるのか、それをどうしても訊いておきたかった。

 

 リアの顔が無言のまま、こちらに向いたことを了承の意と取り――ルナは、思いきってそのことを口にした。

 

「……リアさんも、ゼロエネルで生まれてきたって聞きました。本当ですか?」

 

「……ああ、あんたもそうなんだってね。ブレナから聞いたよ。同類にあったのは初めてかも。ゼロエネル、珍しいし」

 

「わたしもです。最初の一人がリアさんで、でもちょっとモチベ上がりました。ゼロエネルでも、リアさんみたいに強くなれるって分かったから……」

 

「あんたもじゅうぶん強いと思うけど。あたしが十五のときと、そんな強さ変わらないと思う。ガゼル相手にそこそこやれてたみたいだし、じゅうぶんすごいよ」

 

 嬉しかった。

 

 半分お世辞だと分かっていても、やはり嬉しい。相手がリアだからこそ、それは嬉しくてたまらない褒め言葉だった。

 

 でも――。

 

「……すごくなんて、ないです……。わたしは、弱いです。最近になって、弱いと思い知らされました。魔法が使えないわたしは、フィジカルで圧倒しなくちゃいけないのに、圧倒できません。魔法を使える相手にさえ、フィジカルで勝てないのは悔しいです。なんとかしたいです。アドバイス、ほしいです……」

 

「その魔法を使えない相手ってのがブレナのことを言ってんだとしたら、気にする必要ないと思うけど。あたしも勝てないし。アイツはいろいろとおかしい。まあでも……」

 

 と、そこでことさら一拍置いて、リアが声のトーンを一転させる。

 

 彼女はシリアスな語調で再度口をひらくと、

 

「あんたが『十二眷属』をフィジカルで圧倒したいと思ってるなら、今のままじゃたぶんそれは叶わない。二年前のあたしのままじゃ、いつまでたってもアイツらには及ばない。ただやみくもにトレーニングしても、今のあんたの強さくらいまでが限界だと思う」

 

「…………」

 

 ここまでが、限界。

 

 薄々分かってはいたものの、改めてそう口に出されると『来る』ものがあった。

 

 自分はもう、これ以上強くはなれない。強くはなれないのかもしれないと、その思いが槍となって胸を刺す。

 

 ルナは唇を噛んで、両目を伏した。

 

 と、そのタイミングで、リアの口から思いも寄らぬ言葉が落ちる。

 

 それは本当に、思ってもみなかった出し抜けの『提案』だった。

 

()()()()()()()()()()()()()? アスカラームに着いたら。残してきた仕事を片づけたら、しばらくやることないし。何かをつかむきっかけにはなると思う」

 

「――――!?」

 

 ルナは、光の速さで頷いた。

 

 巨大なターニングポイントが、これ以上はない形で彼女の前へとさらされる。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日、午前1時31分――宿屋三階、客室(リアの部屋)

 

「それで、そのときアリスさんが――」

 

 ルナのテンションは、頂点に達していた。

 

 おしゃべりの口が止まらない。

 

 油紙に火をつけたような勢いで、彼女はひたすらに喋り続けた。そのほとんどが取るに足りないどうでもいい話である。ルナは心の赴くまま、そのどうでもいい話を上機嫌に発し――リアはそのどうでもいい会話に、でも嫌がるふうもなく(ほとんど相槌を打っているだけのような状態だったが)、延々、付き合ってくれた。

 

 否。

 

 付き合ってくれていたのだが――。

 

「……ごめん、そろそろ限界かも」

 

 リアがおもむろにそう切り出したのは、午前一時半を回ったあたり。

 

 ルナは、両目をパチクリさせて訊いた。

 

「え、どうしたんですか?」

 

「……眠い」

 

 答えは、シンプルだった。

 

「あたし……夜は弱いんだよね。十時を過ぎると、眠たくなる……」

 

「……子供ですか?」

 

「……子供だもん」

 

「あ、今の言い方めちゃ可愛い。リアさん、眠くなると可愛くなるタイプですか?」

 

「……なにそのタイプ。くだらないこと言ってないで、ホントにもう寝るから。あんたも、いいかげん……」

 

 どうやら、本当に限界は近かったらしい。

 

 最後まで言い終えることができずに、リアの頭が枕に落ちる。可愛らしい寝息が聞こえてきたのは、それから数秒のあとだった。

 

(……リアさん、寝顔幼い。意外な発見……)

 

 クスッと笑って、胸中で一言。

 

 ルナはゆっくりとまぶたを閉じた。

 

 閉じたが――。

 

 結局、この日、彼女は一睡もできなかった。

 

 膨れ上がった興奮が、睡魔を切り裂く(つるぎ)となる。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日、午後3時30分――神都アスカラーム、東門。

 

「ようこそ、アスカラームへ。イメージほど悪くないトコだから、そんな構えなくていいよ」

 

 委縮する面々に向かって、リアが気軽に言う。

 

 だが、それは無理だろうとブレナは思った。

 

 構えるに決まっている。

 

 この光景を見たら、誰だって構える。委縮する。ブレナも初めて訪れたときは、門の内側に入るのを一瞬ためらったほどである。

 

 荘厳。

 

 というよりも、それを通り越してイカつい。

 

 町の中央付近に佇む大神殿――『ラーム神殿』を中心に、それを取り囲むように背の高い七つの塔(七星塔)が立ち並ぶ。帝都よりもさらに広い、広大な面積も相まって、見る者を威圧してやまない大都市。それが、アスカラームだった。

 

「おい、どうした? 何をカエルのように口をパクパクさせている? さっさと中に入れ。貴様以外はみな入ったぞ」

 

 背後で、ジャックが苛立たしげに言う。

 

 言われたのは、リベカである。

 

 彼女は呆気にとられた様子で、眼前に映る神都の街並みを眺めていた。

 

「……なにこれ? あたしの生まれ育ったティグ村の何倍あるの? 野グソしたって絶対バレないくらいの広さじゃない……」

 

「貴様ッ、なにとんでもないことをほざいている!? そんなことをしたら、ナギ様が許そうともこの私が許さん! その瞬間に、この『ゴドルフィン』で串刺しにするぞ!」

 

 ぼそりと落ちたリベカの言葉に、ジャックが両目をひんむいて反応する。ブレナはやれやれと鼻息を落とした。

 

 神都アスカラーム。

 

 それぞれの思惑が入り乱れる、陰謀渦巻くこの町で――物語の第三幕が、静かにゆっくりと切って落とされる。

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