転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第47話 分からせる戦い

 

 神歴1012年3月8日――ヴェサーニア大陸南東、キュラゲの森。

 

 午前4時07分。

 

 長かった。

 

 ブレナは安堵と虚脱が入り混じった、混沌の息を吐いた。

 

 この森を訪れてから、ちょうど十時間。

 

 まさかここまで時間が掛かろうとは――。

 

 

 

 始まりは、十時間前にさかのぼる。

 

 ナギとの話し合いを終え、ブレナが宿に戻ろうとラーム神殿を出ると、そこにはギルバードの姿が。

 

 腕を組みながら、いつもと変わらぬ生真面目な表情を浮かべていた彼は、ブレナの姿を確認するなり、

 

「さっそくだが、十二眷属を一人退治してもらおうか」

 

「……は?」

 

 ブレナは当然、目を丸くした。

 

 が、その意味を彼が訊き返すよりも早く、ギルバードはたんたんと、まるでそれが周知の事実であるかの如く、

 

「ここから北西三十キロの位置に、キュラゲという森がある。その森にバルクという十二眷属が一人潜んでいる。そいつを退治してもらいたい。森までは私が運ぶ」

 

「いや待て待て待て。いくらなんでも言葉が足りなすぎるぞ? それで納得すると思ってんのか?」

 

「納得しないのか? なぜだ? 私は嘘をついてはいないぞ? 今の説明に不足があったとも思えん」

 

 心の底から理解ができない、といった表情でギルバードが問い返す。

 

 ブレナは、あきれたまなこで答えた。

 

「納得できないことは多々あるが――まず、そんな近くにいたならなぜ今まで放置してた?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()だ。生き物は移動する、ということを貴様は知らんのか? 奴は各地を転々としている。二日と同じ場所にいたことはない。聖堂騎士団を派遣しても、彼らがそこに到着した頃にはもう別の場所に移動しているのだ。神出鬼没。厄介な奴だが――だが、今回は『次元の(ディメンション)旅路(トリップ)』の範囲内に入った。これ以上はない好機だ」

 

「…………」

 

 そういうことか。

 

 確かにそれは好機だ。が、ブレナにはまだ納得できない部分があった。

 

 改めて、それを訊く。

 

「……で、そのバルクってのは森のどこら辺にいるんだ?」

 

「それは分からない。私のサーチで分かるのは、おおよその場所だ。森のどの辺りにいるかまでは分からない」

 

「……分からない、ねえ。ちなみに、おまえは一緒には来ないんだよな?」

 

「当然だ。ラーム神殿を空けるわけにはいかない。それに次元の(ディメンション)旅路(トリップ)は一人用で、私のエネル総量でも一日二度の使用が限界。私とおまえの二人で出向けば、片道切符になってしまう」

 

「……それだと、どのみち俺は帰りは歩きじゃねーか」

 

 徒歩確だ。

 

 ブレナは鉛の息を落とした。

 

 そのまま、細めた両目でさらに訊く。

 

「……まあ、それはいいとしてもだ。おまえ、あの森がどんだけ広いか、ちゃんと理解して言ってんか?」

 

「それほどの広さでもなかろう? 半日も歩けば、西から東に抜けられる」

 

「広いじゃねーか!? この世界は一次元じゃねーんだぞ!? 道はあらゆる方向に伸びてんだ! その広さの森の中を、俺一人で探して回れってのか!?」

 

「いや、探して回る必要はそれほどないだろう。デカい声で歌でも歌いながら歩いていれば、すぐに向こうのほうから見つけてくれるさ」

 

 見つけてくれる。

 

 ギルバードは気軽に言って、キュラゲの森へとブレナを運んだ。

 

 それが、三月七日の午後六時七分の出来事である。

 

 

 

 で、今は三月八日の午前四時七分。

 

 確かに見つけてはくれた。

 

 十時間近く(定期的にロックな歌をシャウトしながら)彷徨い歩いた末、ようやくと――。

 

「恐ろしくご機嫌だね。お兄さん、道にでも迷ったのかい?」

 

「…………」

 

「おっと、そんな怖い目で睨まないでくれ。ボクは決して怪しい者じゃないんだ」

 

 怪しい者じゃない。

 

 男がそう言って、軽く両肩をすくめてみせる。

 

 何の変哲もない、どこにでもいそうな普通の青年だった。

 

 黒髪、黒目という特徴を除いては。

 

 否――。

 

 ブレナは、笑った。

 

 笑うしか、なかった。

 

「おや、何か可笑しいかい? ひょっとして、この『黒髪黒目』を怪しんでいるのかな? だったら、安心してくれ。これは染めたんだよ。ボクは黒という色が大好きでね。十二眷属だからじゃあ断じてない。人間――ボクは至って真面目な、普通の青年さ」

 

「いや、おまえは()()()()()()よ。普通じゃない。なかなかのレベルの異常者だ。気づいてなさそうだから一応教えといてやるけど――おまえが左手に持ってんの、それ()()()()だから」

 

「ん……?」

 

 男が、文字どおり「ん?」とした表情で自らの左手を見やる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、その残虐極まる左手を――。

 

「ハハ、これは一本取られたね。ああ、まさに一本取られたってヤツだ」

 

 空いた右手で自身のひたいをポンと叩いて、男が笑う。

 

 反面、ブレナは表情から一切の笑みをかき消して、

 

「十二眷属、バルクだな」

 

「うん、そのとおり。ボクは十二眷属の、バルク・バル。いやあ、けれどもこれはうっかりだ。お兄さんに言われるまで、まったくもって気づかなかったよ。二日も前から握ったままだったなんて、ボクにしては珍しいケアレスミスだ。興奮してたのかな?」

 

 とぼけた口調で言って、また笑う。

 

 男――バルク・バルは、そうして腰もとの『ダブル』を抜いた。

 

「いやね、この子の首をこの短剣式(ダガータイプ)のダブルで――ああ、これはボク専用のAランクダブル『フロベール』なんだけど、コイツでね、この子の首を掻き切ってから、どうにも興奮がやまなくて――」

 

「おまえ専用のダブルなんて、この世界には存在しねえよ」

 

「…………え?」

 

 一瞬。

 

 それは本当に、一度のまばたきのあいだに始まり終わった。

 

 ピュッ、という風を切る音を鳴らし、ブレナの身体が一瞬間でバルクの真横を突き抜ける。

 

 真っ二つに切断された、自身の上半身がドサリと土の地面に落ちるまで――バルクはおそらく、何が起こったのか理解できなかったのだろう。彼の最後の表情は、滑稽なまでに間が抜けていた。

 

 ブレナは、言った。

 

「おまえは知らなかっただろうから、冥途の土産に教えてといてやるよ。おまえらはもう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一年前からな」

 

 食物連鎖の頂点に立つのは、彼らではない。

 

 それを分からせる戦いが、これから本格的に始まる。

 

 ブレナは『グロリアス』を地面に突き立て、決意の息を吐いた。

 

 

 

 胸もとのペンダントは、いまだ輝く『青』には至らない。

 

 

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