転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第5話 アリス・ルージュとルーナリア・ゼイン

 

 この世界、ヴェサーニアは二つの大陸から成っている。

 

 すなわち、男神ナギが支配する東の大陸『ギルティス』と、女神ナミが支配する西の大陸『ミレーニア』の二大陸である。

 

 物語はそのギルティスを統べるレベランス帝国の首都――帝都レベランシアに屹立する、とある屋敷のとある一室から始まる。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 神歴1012年、1月7日――帝都レベランシア、ブレナ邸。

 

「……ホントか? アイツらの中の一人が、この帝都に来てるのか?」

 

 ブレナ・ブレイクは、自身の鼓動が高鳴るのを知覚した。

 

 電話越しにもたらされた待望の情報(それ)が、興奮の母となる。

 

「……分かった。おまえは引き続き、奴らの動きを探ってくれ。こっちは俺一人で対処する。――あん? 大丈夫、心配ないよ。上手くやる。『グロリアス』がなくても、奴らごときに遅れは取らないさ。アリスやルナもいるしな。遠慮せずにおまえが使え。それと……しないとは思うが、くれぐれも無茶はするなよ」

 

 最後に強調するようにそう言って、ブレナは通話を切った。

 

 数秒――いや、もしかしたら数十秒はあったかもしれない。

 

 それだけの時間、彼は両目をつぶって天を仰いだ。

 

 ああ、来た。

 

 ついにこのときが来た。

 

 十二分の一の確率だが、運よく最初で引き当てる可能性もなくはない。

 

 ブレナは興奮を抑えるように大きく一度、深呼吸をすると――視線を正面に下ろして、それから静かにゆっくりと覚悟の言葉をつぶやき落とした。

 

「……待ってろよ。仮に小細工こいてたとしても、必ず見分けて、何があろうと絶対仕留めてやるからな」

 

 待ちに待った瞬間が、雲の切れ間からゆらりゆらりと舞い降りる。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日、同時刻――レベランシア帝国、とある宿屋の一室。

 

「ルナーっ、ポニーテールやってーっ」

 

「すみません。今、手離せないです。三分待ってもらっていいですか?」

 

 ルーナリア・ゼイン――ルナは、振り返らずに声だけを後方に届けた。

 

「りょーかーい。三分待つー」

 

 間を置かず、了承の言葉が返る。

 

 受けたルナは再び、意識をシャープに切り替えた。

 

 短く息を吐き、視線をまっすぐに前方へと向ける。彼女はそのまま、鋭い眼差しで『握ったダブル』を袈裟切りに振り下ろした。

 

 ビュッ!

 

 響いたのは、文字どおり空気を切り裂く効果音。

 

 ルナは満足げに息を吐いた。

 

 この音が出るまでは、朝の素振りはやめられない。

 

(今日も一日、これで元気にがんばれます!)

 

 胸の前で右の拳をギュッと握って、胸中に自信の言葉を吐き落とす。ルナはそこでようやくと背後を向いた。

 

 と、木製のベッドに腰かけながら、こちらの様子を流し見ていた少女と視線が合う。

 

 アリス・ルージュ。十六歳。桃色の髪と瞳をした、あどけなさをたぶんに残した少女である。

 

 まだ出会って半年足らずだが――ルナにとって、彼女はかけがえのない一番の親友だった。

 

 ルナはアリスの隣に腰を下ろすと、

 

「アリスさん、おまたせしました。すぐにポニーテール結びますね」

 

「うん、おねがいー」

 

「はい、できました」

 

 ルナは五秒でアリスのポニーテールを完成させた。

 

「うなあー、もうできたーっ。ルナ、ありがとーっ」

 

「どういたしまして」

 

 ニッコリ笑って、アリスに返す。ルナはその流れのまま、ゆっくりとベッドを立ち上がった。

 

 視線を出入り口付近の扉に向け、そうして一日の始まりを相棒(アリス)に告げる。

 

 昨日と同じ、元気いっぱいの声で。

 

「アリスさん、今日も二人でがんばりましょうね」

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 アリス・ルージュは、隣を歩く親友の姿をマジマジと見つめた。

 

 腰のあたりまでまっすぐに伸びたディープブルーの頭髪。形の良い二重まぶたの下で揺れるクリッとした大きな瞳は、鮮やかなクリムゾンレッドに彩られている。年齢はアリスよりひとつ年下の十五歳だが、とても年下とは思えないほどの抜群のスタイルが少しどころではないほどに羨ましかった。

 

 ルーナリア・ゼイン。

 

 ゼロエネルで生まれてきた、生粋の美少女剣士である。

 

「……視線、ものすごく痛いんですけど。目から光線出るレベルで見ないでください」

 

 こちらの視線に気づいたルーナリア――ルナが、ジトリと両目を細めて言ってくる。

 

 と、アリスも同じように両目を細めて、

 

「うぅ……納得できないー! なんでルナは年下なのに、そんなおっぱいおっきいのー!」

 

「いやまたそれですか!? 昨日もおんなじこと言ってたじゃないですか!?」

 

「ぐなあーっ、だって絶対おかしい! 十五歳でFカップなんて反則だー! 卑猥だー!」

 

「卑猥ってなんですか!? もうっ、さすがに怒りますよ? わたしだって、好きでこのサイズになったわけじゃないです。身体のことをなじるのはひきょうですよ?」

 

「なじってないーっ! 羨ましいって思ってるだけだもん! 悪意なんてないー!」

 

 アリスはわめきながら、ボカボカとルナの背中をデタラメに叩いた。

 

 ルナが、ため息まじりに言う。

 

「悪意あるようにわたしには聞こえます。毎回、棘だらけじゃないですか。それに、アリスさんに悪口のつもりはなくても――て、地味にけっこう痛いんですけど!?」

 

 幼稚な攻撃だが、攻撃力は割と高い。

 

 ルナは渋い顔で間合いの外へと数歩離れると、

 

「とにかく、身体のことを言われるのは嫌なんです。胸については特にです」

 

「じゃあ、Aカップのあたしと交換しろーっ!」

 

「えっ、Aあったんですか!? AAじゃなく?」

 

「あるよーっ! あたしは77のAだ! これでも、去年より二センチおっきくなったんだからーっ! てゆーか、そっちのほうがひどい悪口言ってるじゃないかー!」

 

「さっきのお返しです。これでおあいこ」

 

 そう言って、ルナがいたずらっぽく笑う。

 

 アリスは納得できないとばかりに口を開いたが、彼女のその口から言葉が放たれることはなかった。それを遮る存在が、彼女たちの前に突と立ちはだかったのである。

 

「へへ、お嬢ちゃんたち仲いいねー。でも、ここは若い女のコが仲良くおしゃべりしながら通れるほど平和な通りじゃないって知らなかった?」

 

「…………」

 

 無言のまま、ルナが男の前にスッと歩み出る。

 

 行く手を遮るように現れた男は、モヒカン頭の典型的なゴロツキだった。そして想像どおりに、若干と遅れて背後にも同じヘアーの仲間が二人。

 

 アリスは、あきれた息を深々と落とした。

 

「分かりやすいなー。お兄さんたち、見た目も中身も何もかも分かりやすいゴロツキだね。もしかして、ゴロツキ協会とかに入ってたりするの?」

 

「……あ?」

 

 正面の男の目つきが変わる。どうやら沸点の低さもゴロツキのそれらしい。

 

「違いますよ、アリスさん。きっとこのヒトたちはゴロツキ星から来たゴロツキ星人です」

 

 追い打ちをかけるように、ルナ。

 

 瞬間、プチン、という何かが切れる音がアリスの耳にも聞こえた気がした。

 

「ゴラァ!! 調子くれてんじゃねえぞ、クソガキがッ!!」

 

 がなり声ですごむ。

 

 全てが想像どおりで分かりやすい。その後、モヒカン頭のゴロツキは愉快な顔芸まで見せてくれた。

 

「すごいですね。悪魔みたいな顔になってますよ。どうやったらそんな顔できるんですか? 鏡の前で練習したりとかするんですか?」 

 

「おい、今すぐその口閉じろ。それ以上、ふざけた言葉が落ちたら、金だけじゃなく命まで失うことになるぞ?」

 

「それは怖いですね。その顔も怖いので、もう口は閉じます。口を閉じて――」

 

 ルナの目つきが、鋭く変わる。

 

 彼女はそのまま、腰もとの『ダブル』をスッと抜いた。

 

 アリスは無言で『道』をあけた。

 

 邪魔にならないように、建物の壁際まで身体を退く。

 

 後ろの二人は追ってこなかった。どうやら三人がかりで、ルナを袋叩きにする心づもりらしかった。

 

 たったの、三人で――。

 

「朝食前の、軽い運動くらいにはなってくださいね」

 

 絶対にならないだろうと、アリスは確信した。

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