転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第61話 神の帰還

 

 神歴1012年4月7日――ギルティス大陸南東、神都アスカラーム。

 

 午後7時55分――ラーム神殿前。

 

「リリース」

 

 つぶやき、ミカエルは『バイアリーターク』を刀身モードに切り替えた。

 

 大斧(アックス)(タイプ)のそれが、久方ぶりに日の目を見る。

 

 彼女は薄く笑った。

 

 最近は魔法の力に頼りすぎていた。

 

 自らの四肢を使った肉弾戦こそ自分の領分。

 

 多人数を一度に処理できる魔法は確かに便利(おまけにこのバイアリータークは非常に稀有な『五つ穴』のダブルである)だが――それを忘れ、その便利さにかまけた結果が昨今の体たらくだ。

 

 一度、原点に立ち戻る必要がある。

 

 ミカエルは大きく一度息を吸い、そうして大きく一度息を吐いた。

 

(さあ、決着をつけようか。次の一連で、あんたのその可愛い顔とエロい身体をグチャグチャに壊してやるよ)

 

 生きるか死ぬか。

 

 どストライクの美少女との、命の取り合い。

 

 快感の波が、脳内を光の速度で駆け巡る。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日、午後7時55分――ラーム神殿前。

 

 ルナは一歩を踏み出した。

 

 終わりに向けての、始めの一歩。

 

 受けたミカエルも初動を刻んで――たちどころにそれは、爆裂の攻防へと移行した。

 

 お互いが、これが最後と臨んだ一連。

 

 最初の一分は、両者ノーミスだった。

 

 攻撃は無駄なく、回避は常に紙一重。ひとつの動作は必ず、次の動作につながるように。

 

 攻撃においても、防御においても。重心を崩さず、集中を乱さず、そうして一撃をもらわず。ミスはでも、開始一分を過ぎて訪れた。

 

 犯したのは、ミカエル。

 

 袈裟斬りに振り下ろされたルナの斬撃を、大きくかわしすぎてしまう。刃による鋭い振りに、本能的に身体が反応してしまったのだろう。だが、その無駄な十数センチが次への動作を遅らせる。

 

 反撃の突き(スラスト)

 

 最も予備動作が少なく、選んだコマンドとしては最良――しかし、さきに犯した十数センチのミスが、ここで致命となってミカエルに降り注ぐ。

 

「がはっ!?」

 

 合わされたのは、左のひざ。カウンター気味に、ルナの左ひざがミカエルの腹部に突き刺さる。

 

 脳天をつくような、激烈な痛み。それを感じてなお、でもミカエルはひざをつかなかった。

 

 それが、今度はルナのミスを誘う。

 

 完全に重心を崩していない相手に、彼女が選んだフィニッシュは上段からの振り下ろし。放った次の瞬間にはだが、ルナは後悔していた。

 

 勝ち急ぎ。

 

 明らかに、手数をかけて仕留める場面で痛恨の判断ミス。それは正当な報いとなって、彼女のもとへと返ってきた。

 

 足払い。

 

 軸足を払うように放たれたミカエルのローが、ルナの身体を虚空へいざなう。

 

 が、ルナはクルリと一回転はしなかった。

 

 ダブルの先を床に突き刺し、回転を止める。

 

 そうして次にルナが続けた行動が、勝負を分けるターニングポイントとなった。

 

 ダブルを、捨てる。

 

 床に突き刺したまま、唯一の武器をその場に捨て置く。

 

 ルナは速度を選んだのだ。

 

 三キロ弱の武器(おもり)を脱ぎ捨て、拳闘士となる。

 

 一撃必殺より速度と手数を優先。その思いきりは、最初の一発で花をひらいた。

 

 体勢を立て直したあとの、初撃。

 

 ルナが選んだのは、シンプルな右フック。今までダブルを握っていた右拳による一振り。それは、ミカエルの左のこめかみ(テンプル)を完璧な形で撃ち抜いた。

 

 速度を、見誤ったのだろう。

 

 いささかながらも、突然と変わったスピードに身体が反応しきれなかった。それがでも、ミカエルの運命を決定づける。覆せぬほど確定的に。

 

 ミカエルの身体が、よろめくように前方に崩れる。だが、ルナは倒れることを許さなかった。

 

 そのまま、彼女の身体が地面に崩れ去るまでのあいだに怒涛の連撃を浴びせる。

 

 手、足、ひざ、ひじ――全ての部位を使って、この一月でリアに仕込まれた格闘術の全てをただ一心に叩き込む。

 

 何発撃ち込んだのか、それさえも分からない。ただ、前のめりにドサリと地面に倒れたミカエルの身体は指一本動くことはなかった。

 

 決着。

 

 ルナは地面に突き立てた黒刀ゲルマを再度、握った。

 

 そうして、それをゆっくりと頭上に振り上げる。

 

 彼女は、叫ぶように言った。

 

「シェラさんの仇っ! 地獄に落ちろッ、ミカエル・パトラ!!」

 

 ピュッ!

 

 振り下ろされた斬撃は――。

 

 でも、ミカエルの身体に届く手前、十数センチの位置でピタリと止まった。

 

 否、()()()()()()()()()

 

 背後から腕をつかまれ、強制的に。

 

「やめとけ。そんな震えた腕じゃ、狙った箇所に刃は落とせねえよ」

 

 帰ってきたリーダーの、ため息混じりの制止がルナの心に降り注ぐ。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日午後7時57分――ラーム神殿前。

 

「……ブレナ、さん?」

 

 視線の先の少女――ルナが、驚いたように言う。

 

 ブレナは自身の右手を、つかんでいた彼女の腕から放すと、

 

「なんて表情してやがる。鬼気迫るなんてもんじゃねえぞ。子供を泣かす練習でもしてんのか?」

 

「…………ッ」

 

「おまえにはそんな顔は似合わない。ヒト、殺したことないんだろ? モンスターとヒトは違う。さらに言うなら、ヒトとヒト以外にも大きな隔たりがある。ヒトを殺るには、相応の覚悟が必要だよ。おまえにはまだ、その覚悟ができてない」

 

「そ、そんなことありません! さっき、覚悟しました! このヒトはシェラさん殺害に関わってる! シェラさんの仇です! 同じ目に遭わせなきゃいけない!」

 

「それをおまえがやる必要はないよ。ここに来る途中にディルスと会って、おおよその説明は受けたが――おまえの言うように、もしミカエルがシェラの殺害に深く関わってたんだとしたら、おまえがやらなくても、コイツは百パーセント処刑される。死ぬよりもキツい拷問を受け、洗いざらい全てを吐かされたうえでな」

 

 間違いない。

 

 それは確信を持って言えることだった。

 

 だが、そう伝えてもルナの興奮は治まらなかった。

 

「で、でも……! このヒトは……!!」

 

 やれやれ。

 

 ブレナは短く息を吐き落とすと、その興奮を鎮めるように、彼女の頭をふわりと撫でた。

 

「……ぁ」

 

「落ち着け、ルナ。ルーナリア・ゼイン。今のおまえは、昂りに心を支配されている」

 

 穏やかな語調で、そのまま諭すように発する。

 

 と、ルナの表情から目に見えて『トゲ』の部分が薄れていく。

 

 ブレナはさらに十秒間、彼女の頭を撫で続けると、その後、ゆっくりとそこから利き手を引き上げた。

 

 訊く。

 

「落ち着いたか?」

 

「……はい。取り乱して、すみませんでした。もう、大丈夫です……」

 

 伏し目がちに、ルナが答える。

 

 ブレナはさらに訊いた。

 

「ミカエルの件も、納得したか?」

 

「……はい。ブレナさんの判断が、正しいと……思います。このヒトの身柄は聖堂騎士団に引き渡します」

 

「オーケー、良いコだ」

 

 そう言って、もう一度、彼女の頭を軽く撫でる。

 

 我に返ったルナは、その手を恥ずかしそうに振り払うと、何かを思い出したようにバッと顔を上げ、

 

「ほかのみんなは……? アリスさんは? レプは?」

 

「大丈夫。アリスもレプもセーナも、全員無事だ。ここに着くなり、セーナはセブンズリードの仕事に戻った。アリスとレプは宿屋。おとなしく待ってると思うぜ」

 

「そう、ですか……。良かった……」

 

 ルナが、ホッとしたように胸を撫でおろす。

 

 だいぶ疲れているな、とブレナは瞬時に判断した。

 

 彼は気遣うように、彼女の肩にポンと手を置くと、

 

「だいぶバテてるな。ま、ミカエル相手に文字通りの真剣勝負を繰り広げたんだからそれも当然か。おまえももう、リアの部屋に戻れ」

 

「へ、平気です! まだ動けます! それにさっき、ラーム神殿に黒髪黒目の女のヒトが入って――」

 

「ああ、分かってるよ。分かってる。俺には分かるんだ。()()()()()()()()()、感覚で分かる」

 

「……アイツ?」

 

「ああいや、こっちの話だ。とにかく、あとはまるっと俺に任せておまえはリアの部屋に戻って休め。起きた頃には全てが解決してるよ。ブレナ・ブレイクは、一度口にした約束は違えない。おまえらが一番、そいつは理解してるだろ?」

 

 言うと。

 

 ルナはほんの少しだけ、考えるようなそぶりを見せたあと、

 

「……そう、ですね。理解してます。わたしとアリスさんとレプが、誰よりそれは理解してます。ブレナ・ブレイクは、やると言ったら必ずやる男だって。やると言わないときは、ほとんど何もやらないですけど」

 

 そう言って、いたずらっぽく笑った。

 

 ブレナは――。

 

 受けたブレナは、珍しく、彼女の言い方を真似るように『おどけた調子』でそれに応えた。

 

「当然だ。俺は有言実行の男だからな。有言実行のほうが、やった感出るだろ?」

 

 何がなんでもやり遂げなくてはならないミッションが、そうして始まる。

 

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