転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第64話 ナギVSナミ ③

 

 神歴1012年、4月7日――ギルティス大陸南東、神都アスカラーム。

 

 午後7時58分――ラーム神殿、礼拝堂。

 

 伸ばしたダブルの先端から、数多(あまた)雷糸(らいし)が発生する。

 

 それらは各々、ヘビのようにくねりながら、獲物を探して冷たい床へと這い伸びた。

 

「――――っ!?」

 

 ナギが、理解の両目を見開く。

 

 彼はすぐさま、回避のために後方へと下がったが、その動きは明らかに普段の彼のそれではなかった(それでも五秒と動きを封じていられなかったのは、誤算と言えば誤算である)。

 

 鈍い。

 

 普通の生き物としては、尋常ならざるスピードだが、彼が本来持っているそれからしたら三分の一にも満たない。それでは、この魔法はかわせない。

 

 ナギもそれを悟ったのだろう――彼は苦しまぎれに、急場しのぎの手段を放った。

 

束の間の飛翔(イカロス・フェザー)!」

 

 ひゅぅ!

 

 落とした言霊と共に、ナギの身体が地上高く舞い上がる。

 

 が、それは誰がどう見ても、焼け石に水の逃亡だった。

 

(無駄だよ。今のおまえの動きでは、雷蛇の群れはかわしきれない)

 

 ナミは、胸中で確信のつぶやきを落とした。

 

 と、彼女のその言葉どおり、ナギの悪あがきはほどなく徒労に終わる。

 

 接触。

 

 数十と伸びる雷糸の中から、最初の一本がナギの足に追いつき触れる。

 

 変化は、その瞬間に起こった。

 

 それまで別々の方向に伸びていたほかの雷糸が、それを合図に、獲物を見つけたハイエナのごとくいっせいに彼の身体へと収束したのである。

 

 全ての糸に宿る雷撃を一身に受け、そうしてナギはいかずちの業火に焼かれた。

 

「――――――――――――――――――ッ!!」

 

 悲鳴が、轟音に溶ける。

 

 衝撃で天井近くにまで跳ね上がったナギの身体は、そのまま、一直線にナミの目の前へと落下した。

 

 自身に甚大なダメージをもたらした、格下と蔑んだナミの目の前へと。

 

 ナミは、言った。

 

「無様だな、ナギ。格下と侮った相手に焼かれた気分はどうだ?」

 

「…………」

 

 ナギの口はひらかない。

 

 当然だろう。

 

 口どころか、指一本動かせはしないはず。

 

 ナミは、構わずに続けた。

 

「昔のよしみだ。せめて刹那のうちに逝かせてやろう。苦しむ時間は長くは与えんよ。発動後硬直が解けたあと、このロッソネロに組み込まれた――」

 

「……氷の豪雨(アイス・スコール)

 

(……え?)

 

 響いたのは。

 

 ナミの言葉を遮るようにして響いたそれは、魔法を生み出す言の霊。

 

 直後、中空に生じた無数の氷塊が、どしゃぶりの雨となって間抜けに惚けたナミの身体に降り注ぐ。

 

 その間、わずか数秒。

 

 気がつくと、彼女の身体はズタボロになって冷たい床に伏していた。

 

(……なに、が……起こった……? 今の、魔法……は……ナギ、が……使った、のか……?)

 

 考えられない。

 

 指一本、動かせる状態ではなかったはず。

 

 それなのに……。

 

 目の錯覚ではない。

 

 全身火傷まみれになりながらも、ナギは確かに立っていた。

 

 立って、そうして自分を見下ろしていた。

 

 シニカルな笑みを浮かべながら。

 

「……今のは、さすがに効いたよ。体力の半分以上を削られた。まさか私の身体の自由を数秒間とはいえ、奪うことができる毒薬を使ってくるとは思わなかったよ。相当優秀な薬師を部下に持っているようだな。危険な人物だ。おまえを殺したあと、そいつのことも始末せねばな」

 

「くっ……」

 

「それにしても、愚かな判断ミスを犯したな。なぜ、直接私の首を落としに来なかった? 上級魔法(ハイ・マジック)など使わず、シンプルに刀身モードに切り替え、まっすぐこちらに向かって来ればよかったものを。それとも、その段になって、急に怖くなったのか? 私を殺した感覚が手に残るのが、恐ろしくなったのか? だとしたら、相変わらずヌルい――」

 

「ふざ……けるなっ。そんなことは……ない。わたしは……」

 

「ふん、ではただの間抜けだったというオチか。ならば、その間抜けにふさわしい滑稽な最期をくれてやろう」

 

 そう言って、ナギが自らのダブルを刀身モードに切り替える。

 

 彼はそのまま、薄気味悪い『白き刃』を頭上高く掲げた。

 

 言う。

 

「首を落とされるのと、心臓を一突きにされるのとでは、どちらが好みだ?」

 

「……どちらも反吐が出るな。おまえに殺されるくらいなら、いっそ――」

 

「いっそ、なんだ? 自害でもするか? 私はそれでもかまわんが。おまえが自ら命を絶つという――――っ!?」

 

 ピッ!

 

 鳴ったのは、そんな音だったと思う。

 

 ナギの言葉の途中、不意に短い笛のような音が響き、目の前に――つまりはナギと自分のあいだに、見知った背中が突然と割って入る。

 

 割って入ると同時、()()は握っていた大鎌式(サイス・タイプ)のダブルをナギ目掛けて躊躇なく振るった。

 

 が。

 

 ぎぃんっ!

 

 乾いた音を鳴らして、ふたつの刃が重なり合う。

 

 大鎌式(サイス・タイプ)の、ふたつの刃が――。

 

「ありり、防がれちった。おじちゃん、どっから現れたの? 一秒前まで視界に入ってなかったのに、どゆこと??」

 

「それはこちらのセリフだ。貴様こそ、どこから現れた? 次元の(ディメンション・)旅路(トリップ)は、アーサーズフェイム専用のマジックボールだと認識していたが」

 

 受けたギルバードが、怪訝に眉をひそめる。

 

 ナミは、目の前の()()に向かって鋭く叫んだ。

 

「退けっ、リリー! 二対一では瞬殺される! それに、ナギは……ぁぐ!?」

 

「ナミ様っ!」

 

 鈍い痛みが、全身を駆ける。

 

 振り向かず、心配そうな声だけをこちらに投げた(さすがに目の前のギルバードから視線を外す愚は犯さなかった)少女に、ナミは問題ないとばかりに、

 

「わたしは平気だ。おまえのおかげで、回復する時間が稼げた。それより――」

 

「立ち上がることさえままならない状態を、回復と呼ぶか。ずいぶんと甘い自己判定だな。何者かは知らないが、小娘一人現れたぐらいで状況は変わらない。おまえも、そいつも、数秒後にはこの世界から消えてなくなる。それが絶対不可避の未来だ」

 

 言い切り、ナギが並び立つようにギルバードの真横へと歩を進める。

 

 ナミは、ギュッと奥歯を噛みしめた。

 

 どうにもならない。

 

 このロッソネロには回復系の魔法は積まれていないし、少女――リリーが回復してくれようとしても、それをナギらが許すはずはない。

 

 万事休す。

 

 どうあっても、ナギの言った未来が絶対不可避に待っている。

 

 と、だがナミがそう覚悟した、次の瞬間だった。

 

「いや、そいつは違うな。なぜなら俺がその未来を変えるからだ。おまえが言ったとおりには()()()()()()()

 

「――――!?」

 

 突として。

 

 割って入ったその声が、複雑怪奇な戦況にさらなる混沌を与える。

 

 

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