転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第66話 いざ、ミレーニア大陸へ

 

 神歴1012年5月1日――海上。

 

 午前10時37分――レイ・フレーム号、甲板。

 

「……で、なんでおまえたちまでついて来たんだ?」

 

 ブレナは両目を細めて、隣に立つジャックに言った。

 

 ジャック。

 

 ジャック・ヴェノンである。

 

 この『ミレーニア大陸』へと向かう船の上に彼の姿があるのは、ブレナにとっては想定外の展開だった。

 

 否、彼だけではない――。

 

「心配せずとも、貴様らと行動を共にするのはミレーニアに着くまでだ。この船を降りたら、我らは我らの任務を果たすために行動する。貴様らと会うことも二度とはないだろうさ」

 

「おまえらの任務って?」

 

「なぜそれを貴様に言う必要がある? セブンズリード()()による極秘任務だ。部外者の貴様に教えられるわけがなかろう」

 

「極秘任務、ねえ……」

 

 あれから一月も経たないうちに、もういざこざを始めようというのか。

 

 ブレナはあきれた。

 

「まあ、俺たちの邪魔をしないってんなら、おまえらの行動についてあれこれ言うつもりはないが……けど、トッドまで連れて来たってのは解せねえな。相当な足かせになるだろ。誰の判断だ?」

 

「ギルバード様だ。リアと引き離そうとしたら大泣きされたと言っていたが、まあそれが理由ではないだろう。ギルバード様のお考えは正直、私には良く分からん。何かしら理由があるのは間違いないのだろうが……」

 

(なかったら、さすがに頭を疑うよ……)

 

 と、それは声には出さずに胸中で。

 

 ブレナは、視線を船内のほうへと向けた。

 

 心なしか、若い少女たちの楽しそうな話し声が聞こえたような気がした。

 

 

      ◇ ◆ ◇

 

 

 同日、午前10時38分――レイ・フレーム号、一等客室。

 

 嘘ついちゃいけないゲーム。

 

 アリスの繰り出す質問に、嘘をつかず正直に答えないといけないゲームである。

 

 ルナとリアとセーナの三人(レプは途中で飽きて、トッドを引き連れ船内の探検に向かった)は、この超絶くだらない、何がおもしろいのかもサッパリ分からない謎のゲームを半強制的にプレイさせられていた。

 

「それでは次の質問です。今までで一番恥ずかしいと思った瞬間はなんですか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ルナはリアと顔を見合わせ、互いに深く嘆息した。

 

 と。

 

「うーん、恥ずかしいと思った瞬間、ねえ……」

 

 隣のセーナが、あごの下に右手を潜らせ、黙考する。

 

 この中で、この超絶くだらないゲームに最も真剣に取り組んでいるのが彼女である。ノリがいいのか、真面目なのか、よく分からないが、彼女がまともな反応を返すものだから、アリスのやる気もなかなか失われない。困った状況だった。

 

 とりあえず、ルナはさっさと自分の番を終わらせようと、くだんの質問に対する答えをたんたんと放った。

 

「わたしは、隣に住んでた男のコに裸を見られたことですかね」

 

「あんた、男のコに裸見られたの!?」

 

 セーナが「なぬ!?」と言った表情でこちらを向く。

 

 ルナはこくりと頷いた。

 

「はい、お風呂覗かれました。二年前に。めちゃ恥ずかしかったです」

 

「……全然恥ずかしそうに喋ってないけど?」

 

 ジト目で、アリスに言われる。ルナは、凪の心で応じた。

 

「まあ、二年前の話ですから。当時の感情はもうだいぶ薄れてます」

 

 それに相手は七歳のコだったし、見られたのもほんの一瞬――とはいえ、恥ずかしかったという記憶は残っている。嘘は言ってないと、ルナに後ろめたさはまるでなかった。

 

「うぅ……思ってたのとちょっと違うー。じゃあ、リアさんは?」

 

 アリスは「釈然としない」といった表情を浮かべると、その表情のまま、今度はリアにくだんの話をするよう促した。

 

 受けたリアは、ほんの少しだけ黙考したあと、

 

「……ないね。恥ずかしかったことなんて特にない」

 

「いやあるでしょ!? あんた、めちゃくちゃ照れ屋じゃない! 嘘ついちゃいけないゲームなめんなっ!」

 

「べ、別にそんな照れ屋じゃない。セーナ姉はいつも――」

 

「いや照れ屋でしょ!? ディルにケツ叩かれたくらいで、顔真っ赤にして照れてたじゃない! ちょっと涙目にもなってたし!」

 

「あ、あれは小さい頃の話だろ!」

 

「いや、二年前の話だけど……」

 

 けっこう大きい頃の話だった。

 

 ルナは、言った。

 

「リアさん、そのギャップは可愛いです。たまに放り込んでくれると嬉しいです」

 

「ざけんなっ」

 

 バシッ!

 

 けっこうな威力の蹴りが、ルナの背中に炸裂した。痛かった。

 

 と、今度はいくぶん満足そうな表情を浮かべて、アリスが言う。

 

「なんか分かんないけど、ルナが蹴られたからちょっと満足。じゃあ、リアさんの恥ずかしかったことは、今の話ってことにして――最後は、セーナさん」

 

「オーケー、了解。アタシの番ね。アタシが今まで生きてきて、一番恥ずかしかったことは――」

 

 そこで、わざとらしく一拍。

 

 セーナは「満を持して」という感じで、己の恥を鮮烈にその場の空気にさらして流した。

 

「十二歳のときに、友達の家に集まってみんなでお泊り会したんだけど――そのときに、おねしょしちゃったことかな」

 

「いやそれマジで恥ずかしい話じゃないですか!? 十二歳でおねしょってだけでもそこそこパンチがある話なのに、それをお泊り会でやるってどんなミラクルなんですか!?」

 

 ルナは思わずツッコンだ。

 

 そんなレベルの爆弾が投下されるとは、予想だにしていなかったのである。

 

 が、当のセーナは「なんでよ!?」といったふうに両目を見開き、

 

「だってこれ、そういうゲームでしょ! 嘘つかずに話したら、これが一番になったの! あのときは死ぬほど恥ずかしかったんだから! 次の日から一週間、あだ名が『おねしょ』になっちゃったし!」

 

「あまりに痛々しくて、なんて反応していいか分かんないんだけど……」

 

「痛々しい言うな!」

 

 がばっ、とリアのほうを向き、セーナ。

 

 と、そんな二人のやり取りをしりめに――。

 

「じゃあ、次っ! 次の質問ね! 次は――」

 

 アリスが口早に、第五の(すでに第五である。何も言わなかったら第十くらいまで普通に続きそうで、ルナは怖かった)質問(それ)を続けて放つ。

 

「今までに付き合ったことがあるヒトの数っ!」

 

「はぁ? なにそれ、くだらない」

 

 リアが、あきれ度百パーセントで吐き落とす。

 

 アリスは、そんなことないとばかりにグーにした両手をバッと上げて、

 

「くだらなくないーっ、こういうときは恋バナマストなのーっ、ぜったい盛り上がるんだからーっ!」

 

「……ハァ」

 

 リアが、露骨にため息を落とす。ルナも、彼女とまったく同じ心境だった。

 

 ルナは速やかに答えた。

 

「ゼロですね」

 

「ゼロ」

 

 時間差なく、リアが高速でそれに続く。

 

 ルナは、残るセーナに回答を迫った。

 

「セーナさんは?」

 

「あーうん、これはちょっと答えづらい質問だなぁ……。アタシくらいお姉さんになると、あんたたちと違って、そういうことも――」

 

「ゼロでしょ。セーナ姉、休日、百パーセント部屋にいるし。誘って断られたこと一度もない」

 

「一度くらいはあるわ! おなか痛かったときだけど……」

 

 つまりは『ゼロ』。

 

 全員、同じ回答だった。

 

 なんとも言えない沈黙が、気まずく室内を席巻する。

 

 ルナは、ぼそりと言った。

 

「全然まったく盛り上がらなかったですね」

 

「おかしいーっ、ホントはもっと盛り上がるのーっ! リアさんは一人くらいいるでしょ?」

 

「いないよ。恋愛なんて興味ない。なに話していいか、よく分かんないし……」

 

「わたしもです。興味ないです。恋バナより、バトバナのほうが楽しいです」

 

「バトバナってなに!? バトルの話ってこと!? そんな物騒な話、ルナ以外は盛り上がらないーっ! 女のコが集まって話すようなことじゃないじゃん!」

 

「バトバナ、けっこう楽しそうだけど……」

 

「なあーっ、リアさん乗り気にならないでよー! ぜったいおもしろくないー!」

 

 どうしても、アリスはバトバナをしたくはないらしかった。

 

 ルナはがっかりと肩を落とした。バトバナ、ぜったいおもしろいのに……。

 

 ともあれ、アリスは切り替えるように咳ばらいを落とすと、今までの数あるくだらない質問の中でも文句なしに一番くだらなくて、一番意味不明なそれを満面の笑みで放って落とした。

 

「じゃあ、これが最後の質問ね! 最後の質問は、おっぱいの大きさ! 何センチで、何カップか!」

 

「……え?」

 

 瞬間、セーナの表情がピタリと固まる。

 

 が、アリスは委細かまわず、

 

「あ、ルナは答えなくていいよ。92のFなんてパワーワード、もう二度と聞きたくないから」

 

「言われなくても答えません。もうっ、胸の話は嫌いです」

 

 言って、ルナはぷいっとアリスから視線をそらした。

 

「92のF……??」

 

 直後、「幽霊は実は存在します!」といったたぐいの衝撃の事実を突然知らされたかのような、セーナのそんなつぶやきが聞こえたような気がしたが、それはすぐさま別の声によって押し流された。

 

「なんなの、その超絶どうしようもない質問。ていうか、同性なのにそれ知って何が楽しいの? まあ、これが最後ってんなら答えるけど。83のC」

 

「うん、リアさんのもわりとどうでもいい。セーナさんは?」

 

 リアの言葉をサラリと流し、アリスが『最後の一人』へと視線を移す。

 

 受けたセーナは、言いづらそうに両目を細めて、

 

「……あんたよりは、たぶんおっきい」

 

「えーっ、ホントかなぁー? ちなみにあたしは、75のAだけど――」

 

 75のA。

 

 聞いたセーナの両目に、星が宿る。

 

 彼女はバッとその場を立ち上がると、

 

「えっ、マジ!? あんた、75のAなの? ホントにホント??」

 

「えっ、うん……そだけど……」

 

「アタシ76! 76のA! よっしゃ! 勝った! アタシのがおっきい!!」

 

「ぐなあーっ! セーナさん、そんなおっきかったのーっ!? ぜったいあたしのほうがおっきいと思ったのに―!」

 

 アリスが、想定外の事実を知ったかのような顔で叫ぶ。

 

 と、まさにその次の瞬間だった。

 

 コンコン!

 

 突然と、強めのノック音がワチャワチャした室内に鳴り響く。

 

 真を置かず、続けて放たれたブレナの言葉が、ルナたちを現実の世界へと引き戻した。

 

「そろそろ、ミレーニア大陸に着くぞ。降りる準備をしとけ」

 

 楽しかった、夢のような船旅が終わり――。

 

 激動のミレーニアで、悪党退治の旅が再び始まる。

 

 

 

             ――第3章 完

 

 

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