転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた   作:如月隼

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第5章
第72話 フェリシアの町


 

 神歴1012年、5月5日――ミレーニア大陸東部、フェリシアの町。

 

 午後1時37分――フェリシアの町、商業区画大通り。

 

「なんじゃこりゃあーーー!?」

 

「いえセーナさん、それはただのダイコンです」

 

「ダイコンだね」

 

「ダイコンだよ」

 

「ダイコンだな」

 

「ダイコンで間違いない!」

 

「ダイコンーっ」

 

 ルナから始まり、最終的にはトッドにまでダイコンだと断言され――セーナは、ムキになって反論した。

 

「いやダイコンはダイコンだけど、なんか卑猥な形のダイコンじゃない? 女の人の下半身みたいな! ヤバくない!? めっちゃ珍しくない!? 買っとく!?」

 

「……二分後には後悔してると思うけど? セーナ姉、いいかげん珍しいモノ見るとすぐ買っちゃう癖、直したほうがいいよ。邪悪な魔人ハニワくんシリーズとか、何が気に入って買ったの?」

 

「全てだよ! 何もかも気に入って買ったんだよ! 邪悪なのに兄弟みんなつぶらな瞳の、ハニワくんシリーズ舐めんなっ! ルナちゃんも、アリスちゃんも――たぶんあんた以外はみんな持ってるわ! 持ってるよね!?」

 

「いえ持ってないです。初めて聞きました。なんですか、その気持ち悪そうな人形」

 

「あたしも持ってないーっ、あのコたち全然可愛くないーっ」

 

「レプは持ってる! 去年、兄者に買ってもらった! レプは三男坊のハニオくんが 良い味出してると思う! あのふてぶてしさは将来性豊かと巷では有名……」

 

「でしょ! アタシは長男のハニタロウ推しだけど――ジャリンコ、でもあんた良く分かってるじゃない。それに比べて……リアも、ルナちゃんも、アリスちゃんも、ちょっと女子力足りてないんじゃない?」

 

「逆だーっ! そんなの持ってたら、逆に女子力下がるーっ! キモいーっ!」

 

「いやキモくないわ! 全然まったくキモくないわ! ハニワ九兄弟に謝れっ!」

 

「九人もいるんですね……」

 

「しかも全員、キモいからね。たぶん、セーナ姉しか愛でてない」

 

「レプも愛でてる!」

 

「……ハァ」

 

 ブレナは、嘆息した。

 

 ハーサイドを発ってから、今日で三日。

 

 この商都フェリシアにたどり着くまでの短い旅路で、彼は『ジャック』という存在がいかに貴重だったのかを思い知った。

 

 否、ジャック個人がどうこうという問題ではない。男が一人(トッドは男とくくるには幼すぎる)いるのといないのとではこうも違うものかという話である。

 

 今までも、男は自分一人だけだったが、さすがに女が四人(レプも数に入れたら五人か)も揃うと、男が一人だけだと何かとキツイ。うらやましいと思う人間もいるかもしれないが、おそらくはそう感じている人間も同じシチュエーションに一度でも身を置けば、この気持ちがたちどころに理解できるだろう――まあ四六時中、そういったすわりの悪さを感じているわけではないのだが(あくまでときより。ふとした瞬間思い出したようにそういった心境に陥るのである)。

 

 とまれ。

 

「……おい、宿探すって目的忘れてるわけじゃないだろうな? 寝床の確保がまずは最優先。そのあとは……」

 

「情報集め、でしょ? 分かってる。運が良ければ、この界隈に十二眷属がいるかもしれないし。手を組んだ手前、あんたの方針には従うよ。あたしたちの目的も、ほとんどあんたたちと同じだからね」

 

 つまりは、()()()()()()()

 

 リアの言葉を受けて、ブレナは満足げに頷いた――と、だがすぐさま心中で疑念の思いを口ずさむ。

 

(……その()()()()ってのが引っ掛かんだけどな。十二眷属討伐(それ)以外の任務が、俺らの邪魔になるようなモノじゃないことを祈るぜ)

 

 まあ、わざわざ共闘を持ちかけてきたくらいだ――少なくとも、しばらくのあいだは味方でいると考えていいだろう。ジャックを救出するか、あるいは(彼女たちにとって)それに類するような状況の変化がないかぎりは。

 

(……ま、それまでは遠慮なく『戦力』としてキッチリ利用させてもらうぜ。単純な戦闘力だけなら、特A(クラス)の助っ人だ。旅のリスクが大幅に下がる)

 

 自分だけではなく、ルナやアリス、レプの危険も大幅減となる。デメリットをはるかにしのぐメリットだ。今は細かな疑念は心の奥底に封印しておくとしよう。

 

 ブレナは気持ちを切り替え、

 

「ルナ、宿に着いたらマッサージしてもらえるか? 若干、肩がこってる」

 

「はい、喜んで」

 

「あーっ、あたしもー。ルナー、足と腰揉んで―」

 

「あっ、ルナちゃん。アタシもアタシも。足裏マッサージお願い。ルナちゃんのあれ、めっちゃフニャれる」

 

「フニャれるってなに……? セーナ姉、ちょっとは遠慮しなよ。なに、どさくさにまぎれて他人(ひと)の家の弁当つつこうとしてんの。恥ずかしいんだけど」

 

「んなこたぁない。アタシとルナちゃんの親密度はもう、ただの友達レベルを大きく超えてる。ルナちゃんにとって、アリスちゃんが十の親友だとしたら、アタシはもうすでに八くらいの位置には――」

 

「いえ、五もないです。ただの友達レベルです。八の位置にいるのはリアさんです」

 

「なんでよ!? アスカラームの町を案内してあげたし、一緒にキノコ狩りにも行った仲じゃない!?」

 

「聞けば聞くほどたいした仲じゃないんだけど。ワンセンテンスで終わってるし。一回遊んだらもう親友みたいな考え方、セーナ姉の中でしか――」

 

 突然。

 

 そう、それはあまりに唐突な反応だった。

 

 それまでそっけない様子でたんたんと発していたリアの表情が、瞬間、突如として鬼の形相へと切り替わる。

 

 切り替わった刹那、彼女の身体は弾かれたように視界の外へと消え失せた。

 

「……え、なに? ちょっとリア、あんたなに突然走り……」

 

「おまえたちはここにいろ! リアのあとは俺が追う! レプ、ついてこい!」

 

「合点招致!」

 

 セーナも、ルナも、アリスも、全員の目が点になっていた。

 

 おそらくは『それ』に気づいたのは、自分とリアだけだったのだろう。

 

 否、その自分も明確に『見た』わけではない。

 

 リアの表情の変化にいち早く気づき、とっさにその方向に視線をくれたが、そのときにはすでに『その存在』は雑踏の中へと消えていた。

 

 ゆえに見えたのは『横顔』が一瞬と、あとは後ろ姿だけ。

 

 だから、その人物が『彼女』であると断言することはできない。よく似た別人かもしれない。別人かもしれないが……。

 

(……いや、()()()()()()()()()()()だろ? あの女がここにいるはずはない。()()されたはずだ。ギルバードは滞りなく、刑は実行されたと俺に言った。その件に関して、奴が嘘をつく道理はない)

 

 道理はない。

 

 道理はないはずだが……。

 

 ブレナは、一心不乱に駆けた。

 

 彼がリアに追いついたのは、数百メートル先の入り組んだ細い路地。

 

 ブレナ・ブレイクはこの日、その場所で、ありえない光景の目撃者となった。

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