絶対に高等部は何か隠してる。
私だけでなく、ウタハ先輩も中等部セミナーを経由で面会申請を何度も出しているのに何故か却下されている。
中等部セミナーにとっても来春入学予定の生徒だから何度も申請してるのに却下され続け不審感を持っているとウタハ先輩から聞いた。
絶対に何か隠し事をしている。
先週マキナちゃんが意識を取り戻したと連絡があって、ウタハ先輩や中等部エンジニア部の先輩達とお見舞いに行こうという相談をその日の夕方にしていたのに。
その翌日になって急変したから面会謝絶だと言われた。
例え意識が無くても一目でも見たいと何度も面会させて欲しいとお願いしたけど、高等部からは却下された。
怪しい、絶対に何か隠し事をしているんだ。
初等部と中等部のセミナーからも何度も言っても、「予断を許さない状態なので」と却下されている。
面識のある高等部の先輩に聞いても、「なんかセミナーと医学部が凄いピリピリしてる」以外は分からなかった。
私達には問い質す権利が有ると思う。でも誰も何も教えてくれない。
「で、この一連の騒ぎの責任者は誰なのかしら。」
高等部のとある会議室。
並ぶ顔ぶれは高等部セミナー、医学部、エンジニア部、医療機器開発部、病院関係者。
「黙ってちゃ分からないわ。」
指で机をトントンとしながらイライラを隠さない会長。
「私の元に届いている報告では……。」
医療機器開発部とエンジニア部が共同で医療機器と思しきオーパーツを解析していた所、外傷の治癒効果を持つナノマシンを発見した。
当然安全性が確保されていない為、動物実験を経て志願した被験者による臨床試験を医学部と病院の協力の元行っていた。
何度も試験を行い、効果が確認された為セミナーに医療機器としての承認申請を出していた。
セミナーからは、メカニズムの解明が不十分であり安全性が担保出来ていないとして却下されていた。
更なるデータ収集の為、ミレニアム以外からも志願を募り一部ブラックマーケットや不良等の学籍が停止された生徒に対し高額報酬で試験協力を依頼し試験を続けていた。
ナノマシン研究をしていた部員とは別でヴァルキューレから特殊装備開発を依頼されていたエンジニア部部員により、治安維持用の非殺傷兵器の開発進んでいた。
開発は大詰めで試運転の実施日に、来春入学の初等部児童の見学が重なった。日程が重なったのは偶然で特に意図はしていなかった。
来春入学予定の児童の中に、外部からの入学生が居りその1人がエンジニア部部員の妹だった。その部員も外部受験生で内部進学生に対しコンプレックスがあり実績を積んでマウントを取ろうとしていた。
試運転のマニュアルを作成し最終チェック状態だった試作機を他の部員に無断で改造し、事故が起こった。
設計段階で強度不足を指摘され、デチューンしていた部分を当初の出力に勝手に改変した事が原因でありチェックリストからも洩れていた。
当該部分のデチューンに合わせ再設計されていた事により、破裂し外殻が飛散。その中で大きな破片により初等部児童を壁との間に挟み込み心肺停止。その他多数の負傷者をだした。
心肺停止状態の児童に対し救命の為、研究中のナノマシンを注入しその数分後に脈拍が回復。人工呼吸器を装着し救急搬送し、病院にて緊急手術。以降、入院。
「ここまでは、連邦生徒会と合同で調査した結果として聞いていた部分ね。言いたい事は色々有るけど、とりあえず置いて置くわ。問題はここからよ。」
「被害にあった児童を研究材料にしようとしたですって?」
怒りのボルテージは最高潮に高まっている。
「医学部副部長の妄言は、よく聞く話ね。でもね、いくら何でも倫理観が無さ過ぎではないかしら。意識を取り戻した時に直ぐに謝罪に行かず、コソコソと担当医にデータ提供を無心しに行ったですって?」
「恥を知りなさい。貴女達の掲げる理念は何だったかしら?小さな子供を、しかも私達の後輩を犠牲にして得る様な物など私は認めない。」
「一度犠牲を容認したら、タガが外れる。次も次もと何か理由を付けて自分を正当化し、必要だからと見て見ぬ振りをする。」
「エンジニア部の件はもう連邦生徒会が動いている以上私の手から離れているわ、機器開発部は正当な手順で開発を続けていた以上、非は無い。病院側も正規の手順での研究協力をしていた以上こちらから言える事は無いわ。」
会長は医学部を睨みつける。
「問題は医学部よ。違法スレスレで被験者を募り、未認可医療機器の無断使用と隠蔽工作。被害者への迅速な謝罪と説明もせず、そして今も意識は戻っていない。初等部と中等部からの再三の被害者への面会申請を留めて置くのも限界よ。」
「納得の行く申開きが無いなら、連邦生徒会に報告するわ。ミレニアムにも相応の処罰は下されるでしょう。でも私達は背負っているのよ、ミレニアムの看板を。己の利の為に不正を隠蔽したら、私達の研究開発もそういう目で見られるのよ。科学の光の元に全てを公平に照らし出すのよ。」
「この件が終わったら、監督不行き届きとして私も退任するわ。」
「自身の研究が理念に反して無いと思うのならば、反論してみなさい。」
結論から言うと、この件の責任者の副部長はしどろもどろに言い訳を続け業を煮やした部長が発言を打ち切った。
全面的に非は医学部に有ると断言し謝罪した。
部員に対して出していた課題や途中経過の審査が甘かったと非を認め。再発防止の為、現在進行中の研究を全てセミナーに開示すると共に立ち入り調査を受け入れると。
また自身の卒業まで被害児童のフォローの為に行動をすると約束した。
具体的には、被害児童自身の研究開発の為の助言及び協力先へのアポ取り。後遺症が残るようで有ればその補助をすると、残りの学生生活全てを彼女の為に使うと。他の部員も各自で出来る範囲で補助に入る。
この件にはノータッチだった部長の必死の説得により、会長からは条件付きで猶予が設けられた。
「意識を取り戻したらまず謝罪と事情説明をしなさい。被害者と仲の良かった生徒に対しても医学部にて事情説明をすること。そのうえで両者から許しが得られ無ければ、連邦生徒会に報告し然るべき処罰を受ける。」
「それと初等部と中等部セミナーに対してはこちらから回答する。関係者のみ面会の許可を出す。現在、初等部も中等部も高等部に対し不審感を募らせているわ。」
議題の1つは対応が決まったが、一番の問題はまだ残っている。
「次の議題です。現在の彼女の状況を説明して下さい。」
進行役のセミナー生徒が促す。
「ではこちらから説明させていただきます。」
病院関係者側からの説明が始まった。
急変した当初は全身の発作的な痙攣と内臓の炎症が……
現在の状態は小康状態ですが、時折筋肉の痙攣がみられる他……
内臓及び皮下組織に変質がみられ……
「あの、申し訳ないのですが要約していただけませんか?こちらはそういった医療面は疎いものでして。」
エンジニア部とセミナーの生徒が話についていけず、セミナーから申し入れされた。
「おほん、失礼。私見ですが、身体が最適化されていると見ています。彼女の神秘は平均よりも低く、疾病や外傷に対しても抵抗力が低く治癒速度がゆっくりでしたがナノマシン投与により急激な治癒と内臓及び皮下組織が作り替えられている。」
「作り替えられている、ですか?」
「ええそうです。急激な治癒速度に耐えられず身体が炎症を起こしていましたが、その急激な治癒速度に対応出来る様に身体が作り替えられているのです。」
「それはナノマシンが彼女の身体を改造していると受け取って良いのですか?」
「間違ってはいませんが、正しくもない。発達に遅れがあり未完成だった身体がナノマシンによって完成されていく過程と見てもらった方が良いでしょう。ナノマシンによってまるで再構成されているかの様に理想的な構成に置き換わっています。」
提宇子マキナの身体は健康診断結果からすると同年代の児童に比べ小柄で華奢であり、皮下組織や内臓機能にも未発達の部分があった。神秘は低めであるが、それ以上に身体能力が低く虚弱だった。
「計測機器によると、身体機能の発達に伴い神秘の数値が上昇しています。未だ神秘は未解明のエネルギーであり故に神秘と呼称されるのですが、神秘と身体能力には相関関係があるのはご存知ですね?」
神秘が強い生徒は強い。
だがそれは、神秘が強いから強いのか、強いから神秘も強いのか解明されていない。神秘の研究により傾向としては掴んでいても神秘の強弱が起る原理は解明出来ていない。
神秘の科学的な解明は未だ進んでいない。
「神秘と身体能力が同時に向上しています。元が低過ぎた為、まだ平均を大きく逸脱はしていませんが、このまま向上が続くなら大幅な身体強化となるでしょう。」
「継続して経過観察が必要です。彼女が目覚めその後退院しても、どの様な影響が出ているか定期的に検査が必要でしょう。」
もっとも彼女自身が拒否するならば無理強いをしてはいけない、と締めくくり発言を終えた。
セミナー側は内容を飲み込み切ってはいないのか首を傾げながら反芻した。
「再構成され、置き換わる。ですか。俄には信じがたいですが、そもそも私達が解明出来て無い技術を元に作られたナノマシンでしたね。これもまだ私達の技術が追い付いていないのでしょう。」
「オーパーツ……か。廃墟の探索を進めるべきか……。」
キヴォトス中で発掘、発見される古代遺産。解析出来ない光や電波を発する物もある謎の物体。
ミレニアムでも解析が進められているが未だ謎の多い遺物。
メカニズムは分からないが有用だからと利用しているものは少なくない。
危険だからと封鎖し監視に留めている廃墟。使われなくなり放棄された都市、危険な機械が動き回り侵入者に襲い掛かる危険地帯。
研究に行き詰まって侵入し発掘に勤しむ者達が居ることは把握していたが、広大な廃墟の管理は困難で時折どこかの部活が侵入している。
「セミナーとしては本人の回復を待って、本人を交えて関係者での協議を提案します。現状出来る事は、経過観察のみです。」
次の議題へ移り変わる。
「現在流布されている流言飛語についてです。ミレニアム高等部の陰謀論は時折出ては、公式アカウントより否定または情報開示により沈静化させるのが常ですが。今回は色々とバタついていたり連邦生徒会への対応に人手を取られ対応が進んでいません。」
ミレニアムの謎技術や発明による不可解な事故や事件はよくある事であり、それが噂話となりミレニアム陰謀論が度々出てくる。
事実無根や勘違い等が多く、ミレニアムから公式に否定をしたり圧力を掛け沈静化させているが今回はそれが出来ない事情があった。
「今回は連邦生徒会の動きがやけに早いせいで世間の目がこちらに向いています。この様な状況で中途半端な対応をし、後から揚げ足を取られる事を避けなければいけません。」
普段の連邦生徒会は
「っち、連邦生徒会というか防衛室は自分達に火の粉が掛かりそうな時だけ早く動きやがって。」
今回はヴァルキューレが関わっている為、それを統括する防衛室にも火の粉が掛かりそうだった。自分達に都合の悪い時だけは異常に早く動くのが腹立たしい。
「クロノスを筆頭に鬱陶しい報道関係機関やら配信者やらがうじゃうじゃミレニアム自治区を歩き回っており、奴等は初等部児童までしつこく追い掛けて無理矢理記事にしようとしていました。」
「追い払う為にヴァルキューレに協力要請したところ、事態が事態だからか迅速に動いてくれました。初等部と中等部へのインタビュー攻勢は収まったと言って良いです。」
「問題はまだまだあります。陰謀論の中に、被害にあった初等部児童を人体実験に使い何処かに監禁しているという話が出ています。普段なら一蹴にしていますが、今回は
嘘から出た真
「そこに面会申請をしても高等部に却下され続けているという話が加わり、信憑性が出てしまった。」
ネット上ではまことしやかに囁かれ。
ついにやりやがったか、とか。いつかやると思ってたんだ、とか。
否定して来ないという事は多少なりとも当たっている?
面会を許可しないって……、もしかしてもう人の形をしてないとか?
などと、否定出来ない為に流言飛語がエスカレートしていっている。
セミナーの生徒は頭を抱える。
「もう、踏んだり蹴ったりだわ。頑張って問題解決しても、次から次へと……。そしてこの大事件。設備の修繕費や治療費も……それに開発遅延でヴァルキューレに賠償金も払わないと。そしておまけに陰謀論。」
重い重い溜息を吐く。
「もう手詰まりだわ。」
「本人が回復しないことには、もう何を言っても色眼鏡で見られるわ。だから、医学部。死ぬ気で必死で全力で関係者に説明と説得をしなさい。被害児童の関係者に否定して貰うのが、唯一の解決策よ。」
次から次へと起きる事件に、会長を筆頭にセミナーは疲れ切っていた。
会議は終わり、関係者は各々疲れ切った表情で散っていった。
平穏が欲しい。
誰も居なくなった会議室でセミナー会長は心底疲れ切った声音で呟いた。
キヴォトスで陰謀論とか無数にありそう、各学園が怪しい動き多過ぎる。
行政って基本的に取立てとかは直ぐに動くのに、要請とかに対しては緩慢な対応が多いと思う。
パパラッチクロノス