東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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「進捗どうですか?【IOSYS】」今回のお供でした。

今回は、人気≈信仰≈希望で書いてます。今回は正直、あんまり区別していません。


第128季/夏 人間の里with人間味豊かな大狸③

 やれやれ、困ったものですね。

 

 目の前で糸の切れた人形のように崩れ落ちた秦こころさんを見て、私は小さく溜息をつきました。先ほどまでの猛攻が嘘のように、今の彼女からは妖力が感じられません。さて、これからどうしたものか

 

「おっと、こりゃあ酷い。完全に妖力がすっからかんじゃな」

 

 背後から漂ってきたのは、煙草の匂い。振り返るまでもなく、誰かわかります。絶対、マミゾウさんです。

 

「お主、何かあったら風を吹かせと伝えただろうに。爆発音とかして驚いたぞ」

 

「……これは失礼。つい、忘れていました」

 

 私は苦笑い混じりに、肩をすくめて見せました。 確かに彼女からは、何かあれば「回す能力」で風でも吹かせて合図を送れと言われていたのですが、咄嗟の事態にそこまで頭が回りませんでした。

 

「まぁ、それよりも今はこれからどうするかですよ、マミゾウさん、何かいい案あります?」

 

 私はこころさんの寝顔を一瞥し、隣で煙草をふかす大狸に問いかけました。ついでに、こころさんには、私の外套を掛けてやります。そのまんまで地べたに寝させるのは、流石に可哀想ですし…どこかで布団でも借りて、寝させましょうか。とりあえず、話が終わるまで膝で寝させましょう、

 

「ふむ、その妖怪…面の付喪神、なるほど、面霊気か」

 

 マミゾウさんは煙管の先をトントンと叩き、紫煙の向こう側で目を細めました。

 

「ええ、おそらくは着けている仮面に呼応した感情を操る妖怪です。どうやら、『希望の面』とやらが無くなり、暴走したようです」

 

「なるほど…それで、里の人間が希望を失ったというわけじゃな。となると、やはり希望の仮面とやらを見つけるのが手っ取り早いが…そう、上手くはいかないじゃろうな」

 

「どうやら、こころさん…あっ、この子の事です。彼女、私の中に眠る『希望』とやらを抜き取ろうと、私に戦いを挑んどきました」

 

 それにしても、私に眠る『希望』ですか…正直、全く見覚えはないのですが、何のことでしょうか?

 

「希望…お主は気づいておらんのか」

 

 マミゾウさんは呆れたように溜息をつき、空になった煙管を懐へ仕舞い込みました。

 

「? 何のことです?」

 

「おそらく、その『希望』の感情とやらは――『信仰』の事じゃろう。儂も外の世界で多少かじったことがある*1。お主には、なかなかの量の信仰が集まっておる。まぁ、この際、お主が何者であるかは聞かないでおいてやろう。…応急措置として、その信仰をこやつに渡せればよいのだが」

 

「あぁ、道理でいつもより体が火照ってると思えば、信仰でしたか。…なるほど、ここまで私に向けた人間の純粋な信仰を…それもこれほど量は初めてなので、わかりませんでしたよ。それにしても、一体何故…あぁ」

 

 なんとなく信仰がどこから来ているのかを探ったところ、人間の里全体からではなく、博麗神社の方面からだという事に気づきました。そう言えば、紫が『異変に乗じて、宗教家として神子、白蓮、そして霊夢が動き出している』と言っていました。宗教家は信仰を集めるのが仕事…おそらくは、霊夢が集めた信仰のうちの幾つかが、私の方に流れてきたのでしょう。なんか、嬉しいです。

 

「この信仰の源流は把握しました。問題は、どうやってこころさんに信仰を渡すかですよね」

 

 私がそう独りごちると、マミゾウさんはニヤリと口角を上げ、煙管から一際大きな煙の輪を吐き出しました。

 

「儂が思うに、信仰と疑心は切っても切り離せぬものじゃ。本当にその神は存在するのか、本当に自分たちは救われるのか、基本的に神は姿を見せないから当然じゃの。そして、その疑心を晴らすための手段の一つに、御神体がある。つまりな、御神体にはな、信仰を集め、定着する力があるといえるじゃろう」

 

「ふむ、御神体ですか。…良い案ですね」

 

「じゃから、儂がこれから御神体の偽物を…おや」

 

「いえ、いいものがあります」

 

 何かを作ろうと袖を捲りかけたマミゾウさんの動きを制するように、私は懐から一つの小石を取り出しました。

 

 それは、淡い燐光を放つ石。表面には桃や筍、そして葡萄の意匠が細やかにあしらわれています。これは、形や在り方を定義すれば、万象を写し取る神秘の器となり得るもの。そして、かつてはどこにでもあり、今は殆ど存在しない世界の材料。

 

 石は、私の意思に呼応するかのように虹色に輝き、重力から解き放たれました。それはまるで水面に浮いた脂のように揺らめき、クラゲのように形を失って夜の闇を漂い始めます。

 

「形は…仮面がいいですかね。それから――」

 

 ある程度の形が出来た後、私は、自身の中に滞留していた熱、すなわち「信仰」の奔流を、指先へと集中させました。おそらく、問題なく信仰を込めることが出来るでしょう。なにせ、後輩の宇摩志阿斯訶備比古遅(ウマシアシカビヒコヂ)はこれから生まれてますからね。信仰の許容量はピカ一でしょう。

 

「入れ」

 

 私が小さく呟くと、するっと私の中に滞留していた信仰が、仮組みの仮面の中に入り込みました。ドロドロと形を失っていた石が、私の意志と信仰の重みによって再び硬度を持ち、滑らかな曲線を描いて固定されていきます。

 

 完成したのは、なんとも無垢な仮面。我ながら良い出来です。ですが…

 

 出来上がったばかりの面を手の平で転がし、私は小さく息を吐きました。信仰を宿し、神代の物質で象ったこの面は、確かに眩いほどの輝きを放っています。何と言うか信仰の許容量が高すぎて、仮面が希望ではなく、無垢です。おそらくは、信仰を込めればいつかは希望の仮面とやらになるでしょうが、かなりの月日が必要になるでしょう。正直、現実的ではありません。

 

「ほう、見事なもんじゃ。素人目には、これ以上の面はないように見えるがのう」

 

「ええ、見た目だけは。ですがマミゾウさん、これはあくまで応急処置でしょう。根本的な解決とまでは行きませんでした。…とりあえず、着けさせておきますか」

 

 私は、膝の上で眠るこころさんの顔に、その無垢な仮面をそっと被せました。装着した瞬間、彼女から漏れ出ていた不規則な気配がスッと収まり、外套の下で静かな寝息が聞こえ始めました。ひとまずは、希望の吸い尽くしによる最悪の事態は回避できたようです。

 

「さて、ここからが本題です。マミゾウさん、貴女にお願いしたいことがあります」

 

「……なんじゃ、藪から棒に。お主の頼みとなると、ロクなことではなさそうじゃが」

 

 マミゾウさんは警戒するように片目を細めましたが、私はそれを丁寧な微笑みで受け流しました。

 

「彼女には、もっと『希望』…もとい、『信仰』が必要です。……そこで、今まさにこの里で信仰を競い合っている『宗教家』たちと、この子をぶつけてほしいのです」

 

「……ぶつける、とな。神霊廟や命蓮寺、それにあの巫女か。こやつを戦いの渦中に放り込めと言うのかえ?」

 

「ええ。彼女が本当の意味で、自分自身の『希望』を取り戻すには、偽物でのなければ無垢でもなく、他人のものではない正真正銘の希望の仮面が必要となります。今回の私の仮面では時間稼ぎが精々。ですが、里の人間からの支持を競い合っている宗教家たちの『人気』を奪い取り、自らの糧に変えることができれば、その分だけ時間は引き延ばせるはずです。彼女が自分自身の心を見つめ直し、本物の希望を再構築するための猶予を、彼女自身の戦いで勝ち取ってもらうのですよ」

 

 私は、自分の膝の上で仮初の安らぎを得ている少女の、冷たくさらりとした髪をそっと撫でました。

 

「私はその間、裏でこころさんと関係がありそうな知り合いの元に出向き、彼女を救い、異変を解決する手段を探します」

 

 私がそう告げると、マミゾウさんはわざとらしく肩を震わせ、紫煙を夜風に散らしました。

 

「くくっ、全くだ。お主は本当に、人を……いや、狸を使い走りにするのが上手いのう。……よかろう、面白い見世物にしてやろうじゃないか」

 

「ありがとうございます。やはり、マミゾウさんに協力をお願いして、正解でしたね」

 

「ふふ、お主は口も上手いのか。よし! こっちは儂にまかせるがよい! 宗教家どもの鼻を明かしてやるのも一興じゃわい」

 

 マミゾウさんはポンと自分の腹を叩き、自信満々に請け負ってくれました。化かし合いのプロである彼女なら、宗教家たちを上手く導いてくれるでしょう。

 

「お願いしますね、マミゾウさん」

 

 私はこころさんの頭を最後にもう一度だけ撫でてから、ゆっくりと立ち上がりました。 膝に残る微かな重みと、指先に残る信仰の余熱。

 

 さて、私は私の仕事をこなすとしましょう。

 まず、私が会いに行くのは面霊気を作ったともされる神であり、私の友人。摩多羅隠岐奈です。

*1
恐らく独自設定。マミゾウの元ネタであろう団三郎狸は、二ツ岩大明神として崇められることから




この小石ってなんだっけ?って思った人、たくさんいそう。吸血鬼異変②と羅万標をチェックだ!

前話の夕雲が持っていた照明器具を提灯から、行燈に変更しました。
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