ルーミアとミスティアを連れ、帰路に着きます。
屋台は既に能力で修復し、奪われた物も取り返す算段があるため、残るは彼女たちにご馳走を振る舞うことです。
私の家は米や酒、旬の野菜、果物などはたくさんあるのですが、辛いものや匂いの強い具材はさほどありません。
「さて、この材料で何を作りましょうか」
そう言えば、友人が届けてくれた海の魚が何個かあるので、それで料理を作りましょう。幻想郷には海がなく、赤身魚は滅多に食べれません。きっとルーミアとミスティアは楽しんでくれる筈です。
そう言えば、冥界の三途の川では赤身魚が取れるのだとか。ただし、絶滅した魚なので、私は美味しく食べれる料理を知らないんですよね。
一応、小町に何匹か融通してもらいましょうか。
まぁ、それはともかく…本日、私たちがいただくのは
カツオの叩きに、マグロ漬け丼、ブリの照り焼き、サバの味噌煮です。お魚パーティですね。
「この魚、身が赤いけど大丈夫なのかー?」
「ふふ、それは赤身魚って言ってね。幻想郷の魚よりも脂が乗ってるんですよ。代わりに肉質は硬いんですけどね」
幻想郷の魚は淡水魚なため、基本全て白身魚です。今、ルーミアが食べているカツオの叩きは表面を炙り、玉ねぎや生姜、大葉、青ネギをたっぷり乗せてる一品です。やはり、この料理はカツオが見えなくなるほどの薬味を乗せてこそですね。飾り付けが難しいのが気になる点ですが、それを踏まえても作るに値する美味しい料理です。
私がそう答えると同時にルーミアがパクりとカツオの叩きを口の中に入れます。すると、目の色を変え、次々と口の中に運んでいます。
私も一口、いただきます。
炙ることにより、引き締まった旨味、とろける様な肉が堪りません。そして、そこにレモン汁をかけることにより、アクセントが加えられ、やみつきになるほどの一品に。
ですが、彼女たちのために作った料理なので、私は少量にしておきましょう。
「夕雲、これは?」とミスティアが指すのはブリの照り焼きです。
「ブリと言う魚に小麦粉を塗し、タレと共に焼いたものです」と簡潔に答え、ミスティアと同時にいざ実食。
味見の段階から気づいておりましたが、照り焼きは身がパサついておらず、ふっくらとした仕上がりになっています。
そして、香ってくる強烈な匂いが嗅覚に「うまいぞ!」とばかりに訴えてきます。食べると同時に、パリッとした皮が音を立て、甘辛い醤油の味とブリの食感が舌を幸せにします。
ミスティアは一品、一品、味を楽しむ様に食べており、美味しそうに食べる様子が微笑ましいです。
最後にサバの味噌煮です。サバを味の濃い味噌と砂糖や酒、味醂で煮込んだ料理ですね。箸で一口の大きさに切り分ける時に、肉質が柔らかすぎず、硬すぎもしない丁度良い肉質になっていることには気づいていました。
そして見るだけで、切り身に味が染み込んでいるのがわかります。お米と一緒にサバの味噌煮を口の中に放り入れると、口の中に入れると同時にほどけるサバと味噌のコクが味覚を刺激するのを感じますね。濃い味付けなので、お米が進むこと、進むこと。
マグロ漬け丼はルーミアとミスティアの分しか作っていないので、残念ながら私の分はありません。
そうして。魚料理に舌鼓を打っていると、何者かがこちらを覗いているのを感じます。その視線に目を向けると、スキマから出てくる二つの手が箸で皿に移していますね。
…私の友人です。彼女、何をしてるのでしょうか。
ふと、窓を見ると偽物の月は消え、本物の満月がこちらを覗いています。どうやら、異変は解決したようです。それで、彼女が宴に出す一品として私の料理を出してるのかもしれません。
彼女のご褒美として今回は一つ、借りにしといてあげましょう。
そうして、魚料理がなくなり、私たちの小さな宴は終わりました。
「ところで、この後二人はどうします?」と聞くと、
ミスティアは
「さっき屋台が修復されるのは見たけど、細かいところがどうなってるかわからないから、確認に一度戻る」とのこと。
ルーミアは少し考えていましたが、
「今日はここで泊まるのだー」とにんまりと笑顔を浮かべました。
ミスティアと別れ、ルーミアと共に寝る準備をし、ルーミアを抱き枕にして私は暖かな闇に包まれる様に微睡みに落ちていきました。
夕雲の家を出て、夜道を歩きながら今晩のあった事に思いを馳せる。
妖怪は月と密接な関係があるのが多く、私もその中に漏れずその内の一人だ。今晩の月はいつもと違い、不安からか少し攻撃的になってしまった。
その結果が四つのペアに弾幕ごっこで敗北。負けた事に意気消沈し、屋台に戻ってみると、屋台は完膚なきまでに破壊されていた。おそらくは弾幕ごっこの余波だろう、鉄球でぶつかったような破壊痕やビームで一部消し炭になった机など、屋台は再起不能状態だった。
そこに通りかかったのが夕雲とルーミア。
私は八つ当たりで彼女たちに弾幕ごっこを仕掛け、またもや敗北。幻想郷において、一晩で5回も負けたのは私が初だろう。
幾度の敗北、屋台の破壊、食材の盗難で心が折れかけていたが、夕雲が助けてくれたおかげでなんとか持ち直した。心が折れるのは妖怪にとって死を意味するので私は相当危なかったのかもしれない。
それにしても、夕雲は指を一つ鳴らすだけで、私の屋台を新品同然まで直すのだから彼女の力は底知れない。
それから、私は夕雲の家でルーミアと共にご馳走を食べ、彼女たちとは別れたと言うわけだ。
夕雲。私の屋台の常連客の一人。
確か、私が夕雲と初めて会ったのは風が冷たい夜だった。
いつも通り、里の人間が小道にやって来たと思い、一人歩く夕雲を襲い見事返り討ち。私は夕雲を夜目にすることすら出来なかった。いや、夜目には出来ていたが、夜目にした瞬間解除されるというのが正しいか。
返り討ちにされた際の彼女の言葉を思い出すだけでも、私は背中に氷を入れられたかのような寒気が走る。
「今夜は焼き鳥がいいですね」
彼女は本当に晩御飯で焼き鳥を食べたかっただけのようだが、その言葉で獲物と狩人の立ち位置が変わったと私は感じた。私がただの鳥だった頃の「狩られ、喰われる」という本能的恐怖が蘇り、その恐怖を久しく忘れていた私は逃げることも出来ずに私は気絶してしまった。
そんな私を夕雲は介抱し、自身の家まで運んでくれた。私は家に連れ帰られ、焼き鳥にされると思い、顔面蒼白でおろおろしていたが、それが功を成したのだろう。夕雲は私のことを困窮の果て、食べる物を用意することが出来ずに夜道に倒れたと考えたらしい。私を布団に寝させ、粥を食べさせたり、身体中の冷や汗を拭いてくれたりなどの世話をしてくれた。
だが、私に幻想郷で見たことのない鮭と言う魚をほぐしたお粥を差し出し、ボリボリと焼き鳥を食べながら酒を飲み、私を見つめる夕雲の事は今でもたまに夢に見る。
それから私は焼き鳥産業を撲滅するための八目鰻の屋台を始めた。
夕雲はここしばらくは忙しかったらしく、なかなか屋台には来なかったが、最近また来店する事が多くなった。
そんなこんなで彼女は私の恩人であることには間違いないが、少しばかり苦手だ。勿論、いいやつなのはわかっているのだが…
夕雲は本当に焼き鳥が食べたかっただけです。