東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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原作タイトル名で輝針城が一番好き。本当に天才すぎる。

今回のお供は「リトルドリーマー【LizTriangle公式】」でした。


第128季/夏 永遠亭with太古の太鼓①

(…どうやら遅かったようですね)

 

 人間の里をパトロールをしてすぐに、妖怪が人間の里で現れた!と少し騒ぎが起きていました。里の守護者である慧音さんのおかげで、騒ぎはすぐに収まり、死者も出てないのは不幸中の幸いと言えます。

 

 で、里の人間の話を聞くと、現れた妖怪は三人。そのうち二人は琵琶と琴を持っていたようで、上空を目指して飛んでいったとのこと…おそらくはこころさんが言っていた付喪神のなりかけの楽器でしょう。

 

 もう一人はろくろ首。現れてすぐに霊夢によって退治されたとのこと。仕事が早いですね~

 

 私は「打ち出の小槌」の情報と共に、里に出現した付喪神について報告。同時に隠岐奈陣営から「里の上空に全てが逆様に建築された城を見つけた」と言った旨の報告を受けました。どうやら、件の魔力もそこから拡散されているらしく、付喪神はそれを嗅ぎ取り、その城に向かったのではないかと推測を立てました。

 

(そう言えば、こころさんも魔力に侵されていたんでしょうか。彼女、付喪神ですし、ありえなくはないですが…加えて、魔力に侵された道具は持ち主を襲うと言いますし、元持ち主である隠岐奈の弾幕を易々と避けたのはそれが原因だったり?でも、完全に力を制御しきってましたし、付け焼き刃とは思えず…)

 

 ほんと、なんなんでしょう、彼女。スペルカードルールが制定されて、一番苦戦しましたよ。

 

 はぁー、こころさんのことは置いておいて、もう一つの付喪神になりかけの道具がある場所、永遠亭に向かいますか。

 


 

「たのもー、誰かいますかー」

 

 野兎によって、案内されて着いた永遠亭。道中、狼の「きゃいん!」という鳴き声が時折聞こえてきましたが、あれは何なんでしょう?狂暴な狼たちが縄張り争いしてるんですかね?それにしては、鳴き声の声が一つだったような気がしますが…弱いモノいじめ?

 

「おや、誰だい。こんな時に来客だなんて…って、夕雲様か」

「おや、てゐ…普段と口調が違いますね」

「今回の異変の影響だよ…どうやら、私たち弱い妖怪は少し気性が荒ぶるらしい」

「知っています」

「夕雲様が知っていたのを知ってたさ。それで、何の用だい?」

「どうやら、今回の異変で、大人しい妖怪が暴れる以外にも、道具が付喪神となる現象がありまして、その確認ですね」

 

 てゐは納得したかのように頷き、私に着いてこいと言わんばかりの目配せをします。

 

「とりあえずはお師匠様のいる部屋に案内するよ」

「助かります…そう言えば、竹林の野兎たちは大人しかったように思えますが、異変の影響を受けていないないんです?」

「受けたやつは全員とっちめた」

 

 てゐは満足、野兎は大人しくなる。うん、合理的です。

 

 そうして、てゐに促されるまま、永遠亭の長い回廊を歩き続け、しばらく。

 

「お師匠様、夕雲様を連れてきた。今回の異変についてだってさ」

「ご苦労様です、てゐ。……少しばかり気性が尖っているようですが、夕雲様に対して粗相はしてないでしょうね」

 

 永琳がその視線をてゐに向けると、悪戯好きの兎も少しばかり耳を震わせました。多分、私にはしてないけど、他の知り合いや別件で悪戯はした…そんなところでしょう。

 

「してないしてない。それじゃ私は行くねー」

 

 追求を逃れるように、てゐは脱兎のごとく部屋を去っていきました。

 ぱたぱたと遠ざかる足音。その後には、私と永琳だけが取り残されます。

 

「ほんとあの子は…」

 

 ため息を吐きながら、僅かに眉をひそめる永琳。ふむ、フォローぐらいしてあげますか。

 

「まぁまぁてゐの事ですし。それに、粗相なんてありませんでしたよ」

「それならいいのだけど…とりあえず、座ってちょうだい」

 

 永琳は困ったように、けれどどこか慈しむような溜息を吐きながら、私に座るよう促しました。差し出された茶碗からは、ほんのりと薬草の香りが漂います。彼女の淹れる茶は、一口飲むだけで思考の回転が滑らかになるような、不思議な冴えを孕んでいました。

 

「それで、要件というのは『道具』について?」

「流石は永琳。話が早くて助かります。それで条件に当てはまる道具ってあります?情報提供者(こころさん)によると、永遠亭に一つはあると聞いたんですけど」

 

 私はお茶をのんびり飲みながら、そう言うと、永琳が「ちょうどここにある…というより、いるわ」そう言いました。

 

「私も夕雲様に見て貰おうと思っててね…入ってきて」

「ええっと…初めまして。堀川雷鼓って言います」

 

 障子を開けて入ってきたのは、袖無しの法被を粋に着こなした、活発そうな女性でした。背後には彼女の本体であろう、重厚な装飾が施された和太鼓が浮かんでいます。

 

「……初めまして、雷鼓さん。羅万館の夕雲と申します。以後、お見知りおきを」

「あ、丁寧にどうも。永琳さんから聞いていますよ、頼りになる方だって」

 

 雷鼓さんは屈託なく笑いながら、私の向かい側にドカッと座りました。

 

(うーむ。今回も一足遅かったようですね。ただ、例の城…隠岐奈曰く、逆さ城でしたっけ?あれを目指さずに話を聞けるほどの理性的な付喪神。…むしろ、運がいいかもしれません)

 

「それで雷鼓さん。私を頼るような事態があるんですよね?やはり、物の状態に戻りたいとかです?」

 

「いやいやいや、むしろその反対です!確かに私は人に叩かれることに喜びを感じ、生きていましたが…流石に飽きました!永遠の中でずっと打たれるのを待つなんて、もう真っ平御免です。私は私の意志で、私のビートを刻みたいんですよ!」

 

 雷鼓さんはそう言って、膝を叩いて快活に笑いました。

 

「実はですね……ごにょごにょごにょごにょ」

 

 ふむふむ、なるほどなるほど。

 

 どうやら雷鼓さん。本来ならば既に付喪神として産声を上げ、自律的に活動をしていたはずでした。ですが、彼女を所有していたのは永遠亭。永夜異変まで輝夜の『永遠の魔法』により、変化を止められていた屋敷です。

 

 そして、永夜異変を経て、ようやく魔法が解かれたため、付喪神としての力を蓄え始めてしばらく、あの不気味な魔力が彼女の内へと流れ込み、付喪神として覚醒した…そういうわけですね。

 

 今回の異変によって無理やり目覚めさせられた付喪神は、使用者に牙を剥くはずですが、彼女は数百年分の思索と観察を積んでいたおかげで、理性的でした。そのため、自分の中に流れ込んできた魔力が危ういモノだという事に即座に気づき…

 

(自ら永遠亭の住民に助けを求めた……。怪しげな魔力に踊らされるのではなく、自らの意思を勝ち取るために、我々の知恵を借りるという選択をした。実に見事な判断力です)

 

「なるほど…つまり、雷鼓さんは外部の『魔力』に頼ることなく、付喪神化したいと」

「はい!その通りです!」

「確かに、この異変が解決されたら、今回の魔力は無くなるでしょうし、雷鼓さんの判断は間違ってないかと?…雷鼓さんの所有者代表として聞きますが、永琳はどう思います?」

 

 暗に雷鼓さん、もとい貴重な品を手放してもいいのか?と聞きます。

 

「別に良いわよ。そもそも元と言えば、私たちのモノじゃないし」

「はい?」

「夕雲様のモノでしょ?忘れたの?」

 

 …頭をフル『回転』させて、思い出します。ええーと、和太鼓に永遠亭…いや、この場合は永琳、違う、輝夜との関連は……

 

「もしかして輝夜が私に出した三つの難題の時の?」

「正解。本当に忘れてたのね」

 

 人間として、初めて永遠亭に訪れた時の事です。輝夜に「空に鳴る雷」「優曇華の花」「打たずとも鳴る鼓」を持ってきたら、通してあげる!と我儘(難題)を言われ、用意したんでしたっけ。

 

 「空に鳴る雷」には鳴雷を呼び、「優曇華の花」は黄泉の国で摘んできたのを渡し、「打たずともなる鼓」は伊弉諾物質で造り出しました。

 

「へーーーーー、あんたが私の持ち主だったのね。しかも今の今まで忘れていて、私を放置していたと」

 

 あっ、口が悪くなってる。それにさっきまであった敬意が無くなってる気がします。なんか、私、もしかすると付喪神との相性が悪いのかもしれません。

 

(そう言えば、隠岐奈が『付喪神の所有者は危機感が薄まる』みたいなことを言ってましたね。雷鼓さんの事でしたか)

 

「違う、違うんですよ、雷鼓さん。私は永遠亭に差し上げたと思ってまして…」

「ちなみに輝夜様は『持ってきて』と言っただけ。渡してとは言ってないわね。つまり、全部夕雲様の勘違い」

 

 空気がビリビリと張り詰めていきます。というより、物理的にビリビリ言ってる!

 

「雷鼓さん、落ち着いてください。貴女は魔力に侵されているのです。そう、黒幕によって所有者に反逆を企むように……」

「問答無用!!!」

 

 雷鼓さんの叫びと共に、視界が真っ白な閃光に包まれました。

 ドォォォン!! と腹に響くような轟音。

 空気が一瞬でオゾン臭く焦くなり、床が焦げ付きます。

 

「待って、待ってください。忘れてたのは認めますが、わざとじゃないんです!」

「そういう問題じゃない!私は一発あんたに雷を落とさないと気が済まない!それがわからない!?」

 

 ふん、こんな付喪神がいるところにいられるか!私は部屋に戻らせてもらう!

 

 私は後ろの扉を開け、廊下を疾走します。

 それを追うように雷鼓さんは雷を纏いながら、背後の和太鼓を一心不乱に打ち鳴らしながら私を追いかけてきました。

 

 ドンドコ、ドンドコ!!

 

 それは心臓の鼓動を上書きするかのような、暴力的なまでのリズム。制作者である私への憤り、そして自由への渇望。それらが混ざり合い、永遠亭の廊下を激しく震わせます。

 

「こっちはずっと持ち主(あんた)を待ってたんだ!というのに、持ち主がそれを忘れてたなんて、文句の一つも言いたくなるだろ!」

 

 くっ、気持ちは痛いほどわかります。私もスケールは違いますが、待ち人をずっと待っていましたし。

 

 ええい!覚悟を決めろ、私!私が悪いんだ、一撃ぐらい甘んじて受けとめろ!

 

 私は、全力で疾走していた足を止め、廊下の真ん中で急旋回して立ちふさがりました。

 背後からは、激しい放電と共に迫りくる雷鼓さん。

 

 私は覚悟を決め、能力を一切封印して、両腕を大きく広げました。

 

「さあ、来なさい雷鼓さん! 貴女を忘れていたことへの罰、甘んじて受け入れます!」

「――その意気やよし!! 喰らいな、八鼓『雷神の怒り』!!!」

 

 鼓膜を直接叩き割るような轟音。

 全身の細胞を数億個の針が貫くような衝撃と、目の前を走る火花。

 私の体は、一撃の重みに耐えきれず、永遠亭の廊下を数メートルほど滑りながら、派手な音を立てて仰向けに倒れ込みました。

 

 ……静寂。

 

 焦げた木の匂いと、私の体から立ち上る白い煙。

 荒い息を吐きながら立ち止まった雷鼓さんが、ゆっくりと私の方へ歩み寄ってきます。

 

「……ふん、ざっとこんなもん……えっ?」

 

 倒れていた私が、ゆっくりと、けれどどこか「丸みを帯びたシルエット」で起き上がるのを見て、雷鼓さんの言葉が止まりました。

 

 もともとの美しい黒髪は見る影もなく、静電気と熱によって全方位に爆発し、まるで巨大な綿菓子のよう。顔は煤でうっすらと黒くなったその姿は、幻想郷の賢者というよりは、爆発実験に失敗したどこかのマッドサイエンティストのよう。

 

 つまりは、そう、アフロです。

 

「…………ぷっ」

 

 雷鼓さんの肩が、小刻みに震え始めました。

 

「あはははは! なにその頭! あんた、さっきまであんなに偉そうにしてたのに、ただのアフロじゃないか!」

 

 彼女は和太鼓の上に崩れ落ち、腹を抱えて笑い転げました。

 先ほどまでのビリビリとした殺気は、このシュールな光景の前に、跡形もなく霧散してしまったようです。良かった。良かった。計算通り…計算通りなんですから。ですので、廊下で呆れた目をしている永琳は私を助けて…ガクリ。




一応は永遠亭の住民に時折演奏はしてもらっていた雷鼓さん。それはそれとして、持ち主に恨みが積もる。

『今昔物語集』巻三十一第三十三話の竹取翁見付女児養語から着想を得た話ですね。内容は殆ど従来のかぐや姫と変わりませんが、五つの難題の代わりに「空に鳴る雷」「優曇華の花」「打たずとも鳴る鼓」の三つの難題に変化しています。どうせなら何かしらに使いたいなと前々から考えており、今回使ったというわけですね。伏線貼れば良かったな。

それにしても「打たずとも鳴る鼓」…プリズムリバー楽団の「手足を使わずに楽器を演奏する程度の能力」を思い出しますね。プリズムリバーウィズHはそこまで考えてたんだろうか…流石だ。

ちなみに、似たような道具に阿修羅()や玄象という()()があります。前者はともかく、後者はだいぶ無理矢理な理論(琵琶を引いていたのを羅生門の鬼ではなく、琴自身と見立てる)ですけどね。
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