東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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少し独自設定入るかもしれません。
姉妹のZUN帽子についてる装飾を解釈するの難しい。弾幕の色や天空璋の季節でなんとか解釈したいのですが、何とも難しい。


幕間『徊』騒霊を造り出すだろう能力。

 私がこの不思議な土地、「幻想郷」に迷い込んでから、もう何年も経った。

 

 最初はただ怖くて、寒くて、白黒の世界で震えているだけだった私。でも、姉さまたちとユウグモがいた。お姉さまたちは勿論、ユウグモもよく私たちを助けてくれた。彼女の時に厳しく、時に(本人は否定するけれど)過保護な指導のおかげで、私は今、この屋敷の主として、そして一人の魔法使いとして、どうにか立っている。

 

 ……けれど、最近。

 私の心の中に、どうしても拭いきれない不安があった。

 

「ねぇ、ルナサお姉さま。その曲、なんて名前だったかしら……」

 

 背後でバイオリンを奏でる長女の影に問いかける。昔、お姉さまが私に引いてくれた曲だという事は憶えている。

 

(確か…あの時は教えてくれたのだけど)

 

 返ってくるのは静かな旋律とルナサお姉さまの困ったような顔だった。最近、こういうことが増えている。かつてはもっと、お父様の話や、あちらの世界での思い出を語り合えた気がするのに。

 

 今のお姉さまたちは、ユウグモが改造してくれた「打ち出の小槌」を依り代にしている。小槌が私の魔力を吸い上げ、お姉さまたちの形を維持してくれている。……でも、それは結局、道具が作り出した私の記憶を基にした「再生された記録」に過ぎない。

 

 私の記憶が薄れるにつれて、小槌が映し出すお姉さまたちの輪郭も、少しずつ、けれど確実にぼやけていた。加えて、小槌の魔力が限界に近付いているのを感じる。

 

 私は焦っていた。

 

 この数か月、私は自室に籠り、ユウグモから渡された何冊もの分厚い魔法書や妖魔本を参考に実験を続けた。本から得た知識から魔法の法則、使用する素材、成功させるための他の条件…それらを一つずつ紐解いては、羊皮紙の上に新しい魔法の理論構図として幾度も描き直した。そして、一の成功と十の失敗を繰り返す。

 

 夜になれば、お姉さまたちの寝息(実際には、小槌が奏でる微かな音の残響だけど)に耳を澄ませながら、枕元で魔導書を開き続けた。

 蝋燭の火が爆ぜる音だけが響く静寂の中、隣で眠る彼女たちの輪郭を盗み見るように確認する。昨日よりも少しだけ透けているのではないか、明日の朝には消えてしまうのではないか。そんな恐怖に背中を焼かれながら、どうすれば彼女たちを「過去の投影」から「今を生きる存在」に変えられるのか、そればかりを呪文のように繰り返していた。

 

 ユウグモは、そんな私の必死さを黙って見ていた。

 

 ある日、彼女は「行き詰まっているようですね」とだけ言い、私の手を引いた。

 連れて行かれたのは、外の世界でも幻想郷のどこでもない異界――『地獄』。

 

 そこで出会ったのは、およそ神様には見えない、変な英字が書かれたちょっと個性的な服を着た、偉くフレンドリーな女神様。

 

『自身を基に記憶から騒霊を造り出し、依り代を与えて、自律的に行動させたい…なるほどね。それ、相当難しいわよ。私でもうまくいくかどうか、まさに”大魔法”ね。パッと見て、アドバイスするのならば…』

 

 地獄から戻ってきて、私は三日三晩、ただお姉さまたちの揺らめく影を見つめ続けた。

 

 本当にそれでいいのか。

 私は何をするべきなのか。

 私に、覚悟があるのか。

 

「……ユウグモ。私、決めたわ」

 

 いつものように、私の部屋でお茶をしていたユウグモが瞳をこちらに向けた。彼女は、私の声のトーンが以前とは違うことに、即座に気づいたようだった。

 

「ほう。……どうやら決心がついたらしいですね」

「そうね、迷いは消えたわ。……小槌に頼るのは、もうやめる。私はね、お姉さまたちを私の記憶だけに留めたくない、お姉さまたちは今を生きて欲しい」

 

 私がそう宣言すると、ユウグモは手に持っていた団子を置き、わざとらしく溜息をついた。

 

「地獄の女神にも言われたでしょう?それは彼女でも為すのが難しい、真の大魔法だと。それでもやるんです?」

「当然よ」

「やれやれ。……教え子がこれほどまでに無謀で、分からず屋だとは。私の教育方針のどこに間違いがあったのでしょうね」

 

 そう言いながらも、彼女の口元は少しだけ、誇らしげに弧を描いている。

 

「良いでしょう。私も手伝ってあげます。それで?どんな策を考えているのですか?」

「ええ、勿論。小槌の魔力は―――」

 

 なんやかんや言って、彼女は優しい。私には彼女のそんな性格がお見通しなのだ。

 


 

「なるほど。お姉さん方は『打ち出の小槌』から現出しているもの。レイラはお姉さん方をあくまでも騒霊の形をした幻影だと考えているわけですね」

「ええ、どう説明すればいいんでしょうね…この間、ユウグモが見せてくれた『幻燈機』に近いかしら」

「うーむ、光源が打ち出の小槌の魔力、フィルムがレイラの記憶って言いたいんです?」

「そう!流石はユウグモ。理解が早くて助かるわ」

 

 私が弾んだ声で言うと、ユウグモは表情を変えず、ただ手元の資料を整理する手を止めた。彼女の横顔はいつもと同じように見える…けど、どこか遠い場所を見ているような、不思議な静けさを湛えていた。

 

「だいたいわかりました。レイラは自身の記憶が薄れてしまい、お姉さん方の存在がぼやけてしまうのを懸念しているのですね」

 

 ユウグモが視線だけをこちらに向けた。その声音は凪いだ海のように平坦で、私の次の言葉を正確に量ろうとしているようだった。思わず、ぼんやりと彼女の横顔を見つめていたけれど、私は意を決して、胸の奥で温めていた秘策を口にした。

 

「その通りよ。そのためにお姉さまたちを私の記憶に依存しない、独立した存在にしたいの。そこで、地獄に行った時にアドバイスされた『鬼の呪法』を応用しようと思う」

 

 ユウグモの眉が、ほんのわずかに動いた。

 鬼の呪法。使用者の魔力か、魂を空っぽの器に移し、特異な能力を宿す道具を作る方法。

 

 本当はユウグモに手伝ってもらうつもりはなかった。たくさん迷惑をかけているのだし、自分で解決したかったけど、今回ばかりは難しい。

 

「容れ物は何にするんです?」

 

 静かな問い。感情を読み取らせないその声が、逆に私の背筋をぴんと伸ばさせた。

 

「お姉さまたちを表す、魔力を持つレリーフを核にするつもり」

 

 赤い三日月、青い太陽、そして緑の星。

 それは三精――すなわち「月・日・星」の象徴。タロットの大アルカナにおいても重要な位階を占めるこれらは、陽を司る太陽、陰を司る月として二極をなし、その陰陽を調和させる星の光によって、ひとつの宇宙を形作る。

 

 幻想郷の自然には、全く干渉を受けない属性が三系統ある。その三系統全ての組み合わせで、この地の自然は全て説明がつく。その一系統こそが、お日様とお月様、そしてお星様を併せた『三精』と呼ばれるものであり、それが自然の気質を表す根源の属性にあたる。

 

 お日様には人を惹きつける絶対的な魅力と、お月様もお星様も消してしまうという傲慢さがある。

 お月様は満ち欠けで自らの姿を変えるところに、豊かな協調性と、どこか優柔不断な危うさを持つ。

 お星様は、動かない北極星から動きに惑いを見せる惑星、そして一瞬だけ顔を見せる流星と、多様性と非協調性を併せ持っている。

 

 私は、この三つの器にお姉さまたちを当てはめた。

 生真面目で思慮深く、その名に「(ルナ)」を冠する長女のルナサお姉さまには、満ち欠けを繰り返す静かなる月を。

 天真爛漫で余裕たっぷり、周囲を惹きつけ照らし出す次女のメルランお姉さまには、絶対的な太陽を。

 世渡り上手で誰とでも仲良く接し、多様な場を繋ぎ合わせる三女のリリカお姉さまには、一瞬の輝きを放つ流れ星を。

 

 けれど、これだけでは足りない。このままだと、お姉さまたちの意識が三精という強大な自然の気質に飲み込まれて消えてしまう。

 

 だから私は、相反する属性の色をぶつけることで、その気質を抑制することにした。

 

 冷静沈着な月の輝きがごとき、ルナサお姉さまには、情熱の赤を。

 協調性を重んじる月が自己を失わぬよう、内側に消えない激情の火を灯す。

 

 明朗快活な太陽のようなメルランお姉さまには、静謐の青を。

 全てを消し去る太陽の傲慢さを、全てを無に還す水で抑え込む。

 

 そして、移ろう流れ星のようなリリカお姉さまには、調和の緑を。

 非協調的で気まぐれな星の光を、力強く優しい木で繋ぎ、二人の姉を仲裁する楔とする。

 

 赤、青、緑。

 三精を属性の色で縛る。これこそが、彼女たちを新しい存在として幻想郷に繋ぎ止めるための、私だけの調律式。

 

「…良いと思います。ですが、このままだと意識の構成に途方もない時間がかかるのでは?それにこのままでは付喪神になりそうですが…よろしいので?」

 

 ユウグモの懸念は、もっともなものだった。

 お姉さまたちの複雑な意識を一から再構築しようとすれば、私の寿命が先に尽きてしまうだろう。それに、使用者の魔力で変質する「付喪神」として定着させてしまえば、それはお姉さまたち自身ではなく、私の写し鏡のような存在が生まれてしまう…かもしれない。

 

「そうなのよね…でも、それらは全部解決したわ」

 

 そう、最初から在ったのだ。最後のピースというべき道具はずっと私の手に握られていた。

 

「なるほど、打ち出の小槌ですか」

「ええ、打ち出の小槌を振るい、お姉さまたちの意識の作成を願う。とは言え、それだけだといづれ小槌の魔力が尽きると同時に、お姉さまたちの意識は消えてしまうわ」

「そこで、鬼の呪法というわけですね」

 

 ユウグモは私の意図を読み解き、瞳を細める。

 

「正確に言えば、それの応用。本来ならば、魔力や魂を籠めるところに気質を籠めようと思う」

「……確かに、自然の気質を元に動かすことが出来れば、レイラの魔力を殆ど使わずに動くことが出来るでしょう。良い手です。ですが……出来るんです?」

 

 ユウグモが私の瞳を覗き込んできた。その声音は凪いだ海のように平坦に聞こえたが、どこか心配げに私を案じている気がした。

 

 そして、勿論、私の覚悟は決まっている。

 

「出来る、出来ないじゃないわ。やるのよ」

 

 前代未聞、前例無し。魔術の神でさえ『出来るかどうかわからない』というほどの大魔法。

 だけど、迷っている暇なんて…ない。

 

 私は、お姉さまたちと一緒にこの美しい楽園で生きていきたい。

 ならば。ならば。私は全力で私のやりたいことをやる。私が願うのは、独りきりの楽園じゃない。私とお姉さまたちが、この空の下で、同じ季節を、同じ熱量で笑い合える場所。それが私の求める願い。

 

「はぁー、わかりましたよ。最悪、私たち…いや、私が手を打ちます。その時は恨まないでくださいね?」

 

 ユウグモは深いため息をつき、わざとらしく肩をすくめて見せた。

 

「恨むわけないじゃない。手伝ってくれるだけ嬉しいわ」

 

 私は小さく笑ってみせる。

 

「さあ、始めましょう。私の生涯一度の大魔法を」

 

 そう言い、私は柔らかな小槌を振り上げた。




この辺、もう少しうまく説明出来たらなぁ…
霊と騒霊は厳密に言えば違う存在だと原作にも書いてあるので、そこを調理した話です。
今作では、幽霊は動植物の気質の具現化、騒霊は気質がモノに宿った姿、ついでに説明すると付喪神は道具に宿る八百万の神が使用者の魔力で変質した妖怪と考えています。どれも微妙に違いますね。

レイラは夕雲(というより、ヨモツ)がやりたがった事の一つを、ちょっと違う形ですが叶えています。プリズムリバー姉妹を喩えとして使いますが、
ヨモツは現実の姉妹を家に戻ってきて欲しかった。
レイラは幻想でもいいから姉妹と共に生きたかった。
…みたいな感じですかね。まぁ、加えて、ヨモツは家まで壊れているわけですが。
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