東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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パパラッチ天狗の心情書こうとしましたが、この子、核心を突くのに便利そうなので、また今度書きます。

他のことでお茶を濁すぜ!


第120季/春 大蝦蟇の池withパパラッチ天狗

 ある春の日の話です。

 長い長い冬がようやく終わり、その後の三日おきに続く酒宴もお開きとなり、偽物の月が昇った永遠の夜が明け、それからしばらく経った頃の話。

 

 穏やかな日差しが部屋を照らし、ウグイスが鳴いている中、私は一人布団から抜け出します。

 冬は布団の拘束が強く、なかなか出られませんが、ようやく素早く抜け出す事が出来るようになりました。

 最近、香霖堂で買ったカップに玉露を注ぎ、一気に飲み干します。玉露を飲むと同時にカフェインが血液に入り、意識が覚醒していくのがわかります。

 本来ならば、目が冴えるのにはもう少し時間がかかったり、効き目も薄かったりしますが…

 私の「回す程度の能力」は私が回る!と思ったものなら、なんでも使う事ができます。今回は身体中に張り巡らせている血液に能力を使い、本来ならカフェインが効いてくるのに幾分かかるところを、飲むと同時に一瞬で目を覚まさせました。眠気覚ましには便利な力ですね。

 

 玉露を飲み終え、一息ついていると、部屋から桜の匂いがする事に気づきました。桜の花はかなり前に全て落ちてしまったはずなのですが…

 不思議に思い、部屋の障子を開けると、桜、向日葵、野菊、桔梗、彩やかな花々が私の庭を埋め尽くしていました。

 

 

 

 

 

 六十年に一度、幻想郷は花で満ち溢れます。

 

 六十年周期で外の世界で起きる災害により、死んだ幽霊が幻想郷に入り込み、その中でも自分が死んでいる事に気づいていない幽霊は肉体を得ようと、花を拠り所にします。

 その結果起こるのが、幻想郷の全ての花が四季という道理を超え、同時に咲き出す現象。

 どうやら、今日はその日のようですね。

 私はこの日がなかなか好きです、普段は見ることができない幻想郷の景色が私を楽しませてくれますからね。

 羅万館に「今日はお休み」と言う看板を一応立てておきます。立てておいても、勝手に入られると思いますが、やらないよりはマシです。

 

 さて、散歩にでも行きますか。

 

 

 

 

 

 彩り豊かな花々を眺めながら気の向くままに歩いていると、突風と共に一人の少女が舞い降りてきます。

 

「あら、お勤めご苦労様です、文」

「なんだか、それって私が罰で牢獄にいたみたいですね…お久しぶりです。夕雲様」

 

 鴉天狗の射命丸文がげんなりとした表情を浮かべながら言いました。

 

「それで、今日はこの山にどんなご用事で?」

 文に言われ、周りを見渡し、自分がどこにいるかを把握します。

 気の赴くままに歩いてたら、どうやら妖怪の山まで歩いてたようですね。場所は大蝦蟇の池。黄色、桃色、純白、様々な蓮の花が咲き誇っています。その花が木漏れ日に当たって輝いています。

 

「うーむ、そうですね。花が綺麗ですし、せっかくならここで花見でもしましょうか…」

「明らかに今決めましたよね、それ」とジト目になる文。

「まぁ、それはいいですけど…良いんです? 博麗の巫女も多分こちらに来ますよ」

「まさかまさか、今回の現象は異変ではなく、ただの自然現象です。神社の本に詳しく書いてありますし、たとえ知らなくても賢者がなにか手を打つはず…」

 その言葉を言い切る前に文に連絡が来たようです。妖術で部下と思われる人物と連絡を取っています。

 それから数秒もしないうちに報告が終わったのか、険しい顔でこちらを見ます。

「白狼天狗から報告が来ました。どうやら、あなた以外にも侵入者が来たみたいですね。それも博麗の巫女が…」

 

 その話を聞き、私は思わず天を仰ぎ見ました。

「賢者たち何をしてるのでしょう…」

「寝てるんじゃないですか?」

 ヒューと春のくせに冷たい風が強く吹きました。

 

 

 文は「巫女を追い返したら、今回の現象に関する特ダネを探しに行きたいので、また今度!」と言い、風に乗ってこの場から離れて行きました。

 

 博麗の巫女とは会うと不都合なので、妖怪の山から早急に離れなければなりません。ですが、この風景を少しでも目に焼き付けたいと言う気持ちもあります。まぁ、巫女がここを通るとも限りませんし、あと少し、あと少しだけ…

 近くにあった祠に寄りかかりながら、私はこの景色を眺めます。天狗酒を飲みながら、この景色を眺めるだけでも楽しいでしょうに、非常に残念です。

 大蝦蟇の池は幻想郷と少し似ています。

 池そのものは外界から隔絶された幻想郷、万彩の色を持つ蓮の花は幻想郷の住人たち、私が寄りかかってる祠は博麗神社でしょうか?あとは蓮の花が咲くための泥は幻想郷の歴史、飛んでいる蝶は妖精…この辺りはこじ付けですかね。

 

 さて、次はどこに行きましょうか。適当に花見酒できるところに行きたいのですが…

「どうしたものでしょう?」

 そう思いながら、池から上がっていた蛙と戯れていると、次の瞬間には知らない屋敷が目の前にありました。

   

 

 

 

 新聞記者を名乗る天狗を弾幕ごっこで倒した後、私は小さな池に着いた。

 どうやら、ここも異変の影響を強く受けている様子。蓮の花が満開になるのは夏頃のはずなのに、池ではそこらかしこに咲いている。

 

「それにしても、綺麗な景色ね」

 池の水面を淡いピンクや純白などの色とりどりの蓮の花が埋め尽くし、蓮の葉の表面には丸い水滴が日光でキラキラと輝いている。

 時折、涼やかな風が吹き抜け、蓮の葉や花を優しく揺らし、その度に花びらから水滴がこぼれ落ちて、水面に小さな波紋を生んでいる。

 異変を解決するために幻想郷中を駆け回ってるけど、これほどの絶景は初めて目にした。

 …昔、この景色を見たことがあるような気がするけど、博麗の巫女である私が妖怪の山に入ることは少ない。きっと気のせいだろう。

 

 一休みして、気力が回復した私は無縁塚に向かう。勘だが、そこに行けば今回の異変の原因がわかる気がする。

「さて、さっさと異変を解決してお茶でも飲みますか」

 そう呟き、私はこの小さくも美しい池から離れた。

 

 何故だか、少しだけ胸が痛んだ。

 

 

 

 

 大蝦蟇の池にある小さな祠。

 いつ建てられたのか、誰が建てたのか、何のために建てられたのか。

 既に忘れ去られた小さな祠。

 だが、ここに来た人間は必ずこの祠にお供え物をする。

 池に棲む大蝦蟇から加護を授かって、山から安全に帰るためか?

 それとも、何となく「しなければならない」と思ったからか?

 

 大蝦蟇が、大蝦蟇だけが覚えている。

 何千年も前に小さな蛙だった自分を助けてくれた彼女のことを

 この景色を美しいと詠った彼女のことを

 幻想郷を愛した彼女のことを

 

 だから、大蝦蟇は人間を助ける。

 彼女が美しいと言った景色を広めるために。

 

 

 それが命を救ってくれた恩人に対する大蝦蟇なりの恩返し。




今回短いので、次の回は少し長いですわー
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