東方備忘録   作:電子の妖精になりたい

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モチベ回復のための息抜き回。
時系列は東方虹龍洞の後、元のエピソードは酔蝶華37、38話です。

今回は外伝なので、次話が投稿され次第、上の方の移動させていただきます。


外伝 恋愛マスターVS恋愛モンスター

 私は妖怪の山をえったらほいさと登っていました。

 ではなぜ私が妖怪の山を登っているのか?それには深い深い事情があるのです。

 

 先日、幻想郷に紅い雪が降りました。

 

 それは、博麗の巫女の服のような鮮やかな朱でもなければ、レミリアが好む饗宴の跡のような生々しい赤でもありません。どこか乾いた、錆びた鉄を思わせるようなくすんだ紅……。

 世辞にも美しいとは言い難いその降り積もり方は、風流を解する者なら顔を顰め、信心深い者なら災厄の前触れだと震え上がるような、そんな不気味な光景でした。

 

 だからでしょう。博麗神社で市場が開かれたのは。

 

 天狗の新聞によって、里の人間の不安は半分は消え去りました。そして、もう半分の不安を拭うために博麗神社で市場を開く。これにより、里からは完全に不安が取り除かれるでしょう。

 うんうん、巫女の仕事をやっているようで何より。流石は霊夢。完璧な仕事。偉い!褒めたい!可愛い!最強!いよ、博麗の巫女!

 

 こほん。

 

 そもそも紅雪は珍しいとはいえ、自然現象の一種です。

 特定の藻類が繁殖する「スイカ雪」や、あるいは鉄分を多く含んだ砂や赤土が上空で雪に混ざり、地上を染め上げる……。学術的な理屈を並べれば、それだけの話。

 

 ですが、ここで少し面倒なのがこの紅い雪は人為的なモノであること。

 仕立て人は天狗。天狗たちならば天候を操るなんて容易い事でしょうし、そもそも隠岐奈が「天狗が雪に赤土を混ぜているのを見た」と言っているじゃありませんか。

 

 問題は動機。

 なぜ、天狗たちが紅い雪を降らせたのかについてです。

 その動機も薄々賢者たちは把握しているようですが、念には念のためということもあり、私が調査に出向くことになりました。

 

 そしてその動機について、私は一種の確信を持っています。そう、これは人?の惚れた腫れたが関係することだと。 

 


 

 私は何億、何兆年も生きており、それこそ人類が生まれるよりも長く存在しています。それすなわち、恋愛について一家言…いえ、百家言あると言えます。

 

 私自身、恋したことなんて多分ありませんが、ヒトの恋路はよく見守っていきました。鉾をあげて、ナミとナギをくっつけたのは殆ど私のようなモノですし、大国主とスセリビメの恋愛演出のため、スサノオに助言をしたのも私。これはもう…『神話の恋愛マスター』と言っても過言じゃないはずです!

 

 そして、私は古今東西ありとあらゆる恋愛映画や恋愛小説を読んできました。「オペラ座の怪人」や「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」に続き、ヘミングウェイの『老人と海』など…。そう、私の脳内には今まで触れてきた全ての恋愛作品がアーカイブされているのです。これはもう…『動かない恋愛大図書館』そう称されても誰にも文句が言われないほど。

 

 加えて、生物が『愛』や『恋』といった甘美で、時に狂おしい情動を抱くのは、突き詰めれば種を繋ぎ、自分という存在が消えた後の世界に新たな命を産み落とすため。

 では、なぜ種を繋がなければならないのか?

 答えは至極単純。この地上に生きる者たちには、等しく『寿命』があるからです。さらに言うのならば、その寿命という終わりをもたらす根源こそが、地上に満ちる『穢れ』。そして、その『穢れ』という概念、そのシステムを構築し、定着させたのは……ええ、この私!つまり私は恋愛と言う概念の母なのです。これはもう…『Goddess_of_lover's_world』と誇張無しに自信をもって名乗れるでしょう。

 

 そして、『神話の恋愛マスター』『動かない恋愛大図書館』『Goddess_of_lover's_world』、この三つの異名を持つ私の恋愛センサーが言っているのです。

 

 大天狗こと飯綱丸龍が、天弓千亦に懸想している…と!!!

 

 事の発端はこうです。アビリティカードなるモノが幻想郷を席巻した先の異変。それはどこぞの最強にカッコよくて最高に可愛い巫女によって解決されました。裏で糸を引いていたのは飯綱丸龍と天弓千亦。この二人が結託し、伊弉諾物質から作られるアビリティカードによって飯綱丸龍は利益を貪るため、天弓千亦は市場の神としての信仰の回復のため…とのこと。

 

 と言うか、そもそも伊弉諾物質を掘り起こすのは危険なので辞めて欲しいのですが。あれ、なんにでもなれる万能物質なので、放射能を放つ死の物質に変化させたり、金銀などの価値が高い物質に変化させて貨幣価値を暴落させ、市場を破壊する…なんてこともできるので、幾らでも悪用できちゃうんですよね。うーむ、取り扱い講座を開いて、ライセンス制にしましょうか。

 

 話を戻しまして、千亦さんは市場の神。市場を定期的に開かなければ信仰を失い、再び落ちぶれてしまいます。そのためには定期的に市場を開かなければなりません。

 

 問題なのは市場を開く条件。ただ『お店を並べれば良い』というわけではなく、重要なのが『境界』に接すること。何百年か前の日本では虹の出た場や墓場、辻の道などで市場を開く習俗がありました。虹は現世と神世の境界、墓場は現世と冥土、辻の道も現世と異界の境界として扱われていました。

 特に虹は天と地、雨と晴れ、人と神、本来は適切に分離されているべきカテゴリー同士が、過剰に近接してしまう「どっちつかず」の異常な事象なのです。

 この境界現象が発生すると、世界の分類秩序が攪乱され、ある種の不気味さや「穢れ」が生じます。その混乱を中和し、秩序を回復するために必要だったのが市場という場でした。市場交換という行為は、その場で債務関係を即座に清算し、モノと人との呪術的な繋がりさえも断ち切ってしまう強力な「浄め」の論理を持っているからです。

 

 つまり、二つの異なる世界の密接な接近による混乱を、関係を清算し断ち切る「市場」という手段を以て、治める…それが”市場を開く”という習俗なのです。

 

 逆説的に言えば、そのような特殊な場や現象が無ければ市場は開けません。

 

 そこで、飯綱丸龍の計略が光ります。

 

 彼女が降らせた紅い雪は、天の雪と地の土が混じった気象。加えて、市場を開いた場は外の世界と幻想郷を繋ぐ博麗神社…市場を開くのに十分なシチュエーションと言えるでしょう。

 

 そうです!つまり、飯綱丸龍は千亦さんのアプローチの一環として、市場をプレゼントしたのです!

 

 これに気づいたときは飯綱丸龍の恐ろしさとそれに気づいた自分の慧眼に震えました。

 

 確かに、相手の欲しがっているモノをプレゼントする…恋愛のイロハにして基本と言えるでしょう。ですが、普通ならば花や宝飾品を贈るところを、飯綱丸龍は大天狗と言う権力を私的に乱用して、市場を…千亦さんにとって、自らの信仰と存在意義を確認できる唯一の居場所を提供した。

 

 それはまるで、意中の相手とのデートのために遊園地を丸ごと貸し切ったり、プレゼントのために老舗のデパートを一棟丸ごと買い取ったりするような暴挙。……いえ、あの大天狗がしでかした

ことは、もはやそんな甘い比喩表現すら生ぬるく感じるほどにバケモノじみた所業。

 

 しかも、関係を清算し断ち切る「市場」を開くことで、千亦さんに恩義と言う関係を結ばせた。

 

 強い。強すぎる。あまりにも強すぎる。流石に戦慄するしかありません。誇れ、飯綱丸龍、お前は強い。すげぇよ飯綱丸龍、お前がナンバーワンだ。

 

 そして、私は戦わなければならないのです、この恋愛モンスター飯綱丸龍を相手に。千亦さんの貞操を守るために!

 


 

 事態は絡み合った糸のように、今回の事態は複雑怪奇です。

 

 それをほどく為にも、まずは千亦さんの正体について語らなければなりません。彼女はおそらくいくつもの神格が混じり合って生まれた、新しい神格と言えるでしょう。そして、その神格の中には”神大市比売”が混ざっています。

 

 この神大市比売ですが、私の知り合いです。彼女は大山津見神の娘であり、お稲荷さんで有名な宇迦之御魂神や大国主の手助けをしたことで有名な大年神と言った神たちの母神でもあります。いわば、地上の豊穣と繁栄を支える『母なる柱』の一人と言っても過言ではないでしょう。

 

 そして、何より重要なのが、彼女がスサノオの妻であるという事実です。

 

 ……さて、ここで私の親族相関図を広げてみましょうか。

 スサノオ様といえば、私がかつて見守ったナギの子であり、ナミの事を母と呼ぶ神です。いわば私にとっては可愛らしい『妹の息子』のようなポジションに相当します。

 そうなれば、その伴侶である神大市比売……そして、その神徳を色濃く受け継ぐ千亦さんは、私にとっては『妹の息子ポジの嫁さん』と言うわけです。つまり、身内ですね。

 

 つまり、身内がとんでもない恋愛モンスターにアプローチを掛けられているのが今の状況。スサノオの遺志(神格)を勝手に継いでいる私にとっては、千亦さんが飯綱丸龍の毒牙に掛けられるは防ぎたいところ。

 

 とはいえ、私の誤解の可能性もあります。

 その確認のために私はえったらほいさと妖怪の山を登っているというわけです。

 

「おや、夕雲様。この時期に妖怪の山に登るなんて珍しいですね。秋姉妹は冬眠中ですよ」

 

 白い犬耳をぴょこんと揺らし、盾を構えたまま律儀に挨拶をしてくれたのは、白狼天狗の犬走椛。彼女とは、私が妖怪の山の散歩や秋狩りで山を訪れる際、何度も顔を合わせている仲です。天狗の中でも特に真面目な彼女は、私の正体を知ってか知らずか、いつもこうして丁寧に対応してくれます

 

「ええ、少し用事がありまして」

 

 私は軽く乱れた前髪を整え、微笑みを返しました。

 本来なら、不審な侵入者を即座に排除するのが彼女の職務。ですが、私と彼女の間柄はそれなりに親しい筈。無碍にされる事は無い筈。飯綱丸龍がどこにいるか聞いてみますか。

 

「職務のため、一応お聞きしたいのですが、何用で?」

「ええ、飯綱丸龍に用事がありまして。椛、飯綱丸龍さんが今どこにいるか、ご存知ありませんか?」

「……大天狗様に何用で?」

「彼女に()()()()()()()()()()がありまして…ね」

 

 そう答えると、椛の耳がぴくりと震えます。どうしたんでしょう?そして、そのまま質問を続ける椛。

 

「一体、何をお聞きなさるつもりで」

「ごめんなさい、椛。貴女にそれを教える事は出来ません」

 

 まぁ、人の恋愛を言いふらすのはよくありませんしね。誤解かもしれないとはいえ、両者に迷惑をかけるのは流石に私も望んでいません。というより、上司のスキャンダルを聞かされても椛の胃が痛くなるだけでしょうし。

 

「……左様ですか。夕雲様がそこまで仰るのでしたら、私のような下級天狗がこれ以上口を挟むのは不敬というもの。大天狗様がおられる場所まで、私がご案内いたしましょう」

 

(むむ、なんだか急に他人行儀ですね。なんででしょう?)

 

 とは言え、案内が助かるのも事実。私はのこのこと椛の後を追います。

 そうして、何分か椛の後を追っていると、急に彼女が足を止めました。

 

「夕雲様。ここから先は私の身分では上に行けません。おそらく、大天狗様はこの先にいるはずです」

「ええ、案内ありがとうございます。椛。この礼はいつか必ず」

 

 私が深々と頭を下げ、顔を上げたその時でした。

 いつもは礼儀正しく、どこか子犬のような愛嬌すら感じさせていた彼女の横顔が、氷のように冷たく、研ぎ澄まされた軍人のそれに変貌していたのです。

 

「……礼をする必要はありませんよ。みなども、かかれぇッ!」

 

 椛の鋭い号令が、静まり返った雪山に木霊しました。

 それと同時に無数の白狼天狗が姿を現しました。

 


 

「……あら?」

 

 間の抜けた声が、自分の口から漏れました。

 直前まで、ただの岩場だと思っていた場所から。

 直前まで、ただの雪に覆われた枯れ木だと思っていた影から。

 まるで風景そのものが剥がれ落ちるように、白銀の甲冑に身を包んだ白狼天狗たちが、次々と姿を現したのです。

 

 その数、十や二十ではありません。

 視界に入るだけで五十、さらに背後の気配を含めれば百は下らないでしょう。彼女たちは一糸乱れぬ動作で私を包囲し、抜き放たれた白刃が、紅い雪を反射して不気味に煌めいています。

 

「椛、これは一体……?私、何かあなたを怒らせるような失礼をいたしましたか?」

 

「夕雲様、恨んでもらって結構です!貴女に個人的な恨みはありません。ですが、不穏な言動をする今の貴女を大天狗様に会わせるわけにはいかない!少々眠っていただく!」

 

 椛の手に握られた盾が重く地を鳴らし、彼女自身の刀もまた、私の喉元を指し示しました。

 なるほど。彼女の案内は、私を「逃げ場のない隘路」へと誘い込むための罠だったようですね。

 

「…排除する、ですか。残念ですよ、椛」

 

 私は軽く溜息をつき、月の髪飾りにそっと触れました。

 白狼天狗たちが、じりじりと間合いを詰めてきます。彼女たちは集団戦闘のプロ。個々の力もさることながら、その連携は文字通り「一塊の暴力」となって私に襲いかからんとしていました。

 

「ですが、私は先ほど『礼をする』と言いました。私の言葉に二言はありません。……ですから、せめて苦しまないように眠らせてあげましょう」

 

 私は一歩も動かず、ただその場で、指先を優雅に「くるり」と回転させました。

 

「――『回りなさい』」

 

 直後、殺到しようとした白狼天狗たちの動きが逸れます。

 

 やったことは簡単。私の周りに風を吹かせただけ。ただそれは竜巻のように勢いが強いものです。

 

「なっ……!? 身体が、勝手に……!」

「体が回って……ッ!」

 

 先頭の数人が、独楽のように鋭く回転しながら弾き飛ばされます。

 ぶつかり合い、崩れる隊列。私はその混乱の渦中を、まるで散歩でもするかのような足取りで、ゆるりと歩き始めました。

 

「渦動【メエルシュトロームの旋渦】」

 

 放つのは弾幕渦巻。弾幕だけではなく、何十もの白狼天狗を巻き込みます。

 

 一人、また一人と、私の「回転」によって意識を刈り取られ、雪の上へと沈んでいきます。

 ですが、天狗の軍勢は恐ろしいほどに執拗でした。

 

「第二班、続け! 距離を取って飛び道具だ!」

 

 椛の冷静な声。

 倒れた仲間を即座に補充し、今度は頭上から無数の礫や風の刃が降り注ぎます。

 まるで、己の魂を山の一部として捧げているかのような、鉄の結束。

 

「……ふむ。やはり、数が多いというのはそれだけで一つの力ですよね。環符【無限相環】」

 

 遠距離からの攻撃を防ぎます。返しの竜巻で複数の白狼天狗が吹き飛ばされました。

 

 それにしても、倒しても、倒しても、霧の向こうから新しい影が湧き上がってきます。

 

 さすがにおかしいでしょう。

 私が大天狗に面会を求めているだけだというのに、これほどの動員。一糸乱れぬ包囲網。そして、対話すら拒絶する頑なな沈黙。

 

 これはもはや警備などではなく、口封じの領域に足を踏み入れています。

 

 私は、倒れてもなお視線で私を射抜こうとする天狗たちの瞳を見つめ、確信を深めました。

 この異常なまでの警戒態勢。これは誰かが、「誰にも知られたくない、致命的な何か」を、この山の頂に隠匿しているという何よりの証拠です。

 

 そして、その「誰か」の正体について、私の恋愛センサーは既に答えを弾き出しています。

 これほどまでに必死に、力ずくで私を遠ざけようとするその動機。それは、知略を誇る大天狗が、一柱の神格に対して抱いてしまった情動を隠し通すため以外に考えられません。

 

 そう、飯綱丸龍は天弓千亦さんにガチ恋をしている。

 

 もうこれは推測などではなく、確信に近しいモノです。

 

「夕雲様! これ以上は無意味です! お引き返しを!」

「いいえ、椛。……引き返したりしませんよ。それに」

 

 私は、空から降ってくる「別の気配」に気づき、口角を上げました。

 

「ようやく、話の分かりそうな引き籠り天狗がやってきたようですから」




頭ピンクの恋愛モンスターはおまえじゃい。そもそもヘミングウェイの作品を恋愛として見ている時点で夕雲さんの恋愛観はズレてる。

千亦について。omake.txtに「市場の神が本来の力を取り戻し、天狗の社会を脅かしかねないところまで来ていた」とあるのですが、短時間でそんなこと可能なんですかね?それも幻想郷と言う、言うなれば限定された土地で。
何かしらの力が作用しているのか、それとも千亦や龍を出し抜き利益を得た存在がいるのか?
流石に前者のような気がしますけど。となれば、伊弉諾物質によって作られたアビリティカードが怪しい気がしますよね。アレ、極小の陰陽玉みたいな感じしますし。うーむ、陰陽玉には力を溜める性質がありますし、溢れだした力を吸収していたとか?
てか、そもそも市場を敬むのではなく、ルールだから従ってる…みたいな感じでしたし、そんなんで信仰を得られるのだろうか?

虹…七色…七色の人形遣い、七曜の魔法…魔力なんかなぁ。
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